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平和な世界の最強勇者  作者: 白楽
第一章・最強勇者と錬金術師
10/36

エラノア・ハースと白王

本日一話目です。

2話目12時に更新します。

「ぬううううっ!」


 振りかぶられる拳を、巨大な剣でヴォルドは受け止める。

 だがヴォルドの振るう巨大な剣よりも、より大きな大猿の拳は、長い手から生み出される遠心力も相まって、百キロを超すヴォルドの体躯が浮かび上がる程に凄まじい。

 

「今だっ!」

「「「我は望む、光の刃、対なる光、重ねて下れ! 降り注ぐ光の加護!!」」」


 全身が砕けそうな衝撃に耐え、ヴォルドは部下に合図を出す。

 その合図に従い、三人の騎士が剣を重ねて、魔法を発動させた。


 降り注ぐ光の加護。

 数人規模の魔法使いが集まって発動される、光の剣が標的の頭上に降り注ぐ。

 その一撃一撃が地面を穿つ威力を持ちながら、ニ十発にも及ぶ光の剣が大猿を貫き、その息の根を止めた。

 

「ヴォルド第一騎士団長! ご無事ですか?!」


 大猿を仕留め、一息をつくヴォルドの元に、女性騎士が近寄ってきた。

 

「ふむ、儂は無事だが、あの大猿の奇襲で二人もやられてしまったのは痛いのう」

「えぇ。しかし、弔っている時間もないようですよ」

「ふむ。これで三体目じゃな。一体どうなっておるのだ?」


 肉塊となった大猿にヴォルドは近づき、観察する。

 白い毛並みに、異様に長く太い手足。

 見た目だけを言えば、白王に違いなかった。

 だが、この大猿はヴォルド達を都合三度も襲ってきている。

 

「白王が二体いるという、レベルではないの」

「二十年前とは状況が大きく違いますね。それに、一体妙なのもいましたし」


 女性騎士は、先ほど倒した個体とは別の、白王を指さす。

 その白王は、背中がばっくりと開き、生きていた頃はそこから気持ちの悪い触手を生やしていた。

 第三騎士団を野営地で襲った狼と同じだ。


「ロイ、どう思う?」

「どうもこうもねぇよ団長。白王ってのはどんな力を持ってんだ? いきなり、一体だけだったはずの反応が一気に増えやがった。分裂とか分身とかじゃねぇ、全部モノホンだよ」


 感知能力に優れたロイが下した判断に、ヴォルドは考える。

 二十年前の討伐隊の報告では、白王が二体いる可能性を示唆していた記述がある。

 彼の師である、英雄レックス・カリバーンが残した記述だ。

 だが、ヴォルド達が相手している白王は、既に三体にも及んでいる。

 一体毎に遭遇しているお陰で何とかなっているが、それでもその度に足を止められている。


「奴の仕業だと思うか?」

「……例の錬金術師ですか? 奴が魔獣に取り入ったのか、それとも従えているのかは分かりませんが、十中八九間違いないでしょうね。問題は、どこまで白王に手を加えたか、ですが……」

「もう白王が、おらん。というのは願望が過ぎるじゃろうな」

「ですね。それに、複数の小さな反応と、大きな反応が重なっています。何度か反応が消えている事から、別の隊が白王と戦闘しているようだ。それも、あんまり芳しくないようだ」

「では、急ぐとしよう。負傷者は先に森を出るのだ。この先、もっと激しい戦闘も考えられるからの」


 ヴォルドの言葉に、だが残ろうとする騎士はいなかった。

 ヴォルドは彼らを見て、僅かに頬を緩める。


「では、行くぞっ!」


 再び動きを始める騎士達。

 休憩を挟む暇は、なかった。






 ***


 白王に吹き飛ばされたエラノアだが、生きていた。

 白王に吹き飛ばされる直前、エラノアが発動させた金剛は、ハース家に伝わる秘儀だ。

 彼女の胸に刻んだ魔法陣は、短い呪文で発動し、術者の肉体を一時的に急激に頑丈にする。

 そのおかげで、エラノアは生き残る事が出来た。


「とはいえ、右腕は使い物にならんな」


 ぶらりと下がった右腕は、骨が粉々に砕けてピクリともしない。

 脳に熱した鉄くぎが打たれるような痛みが襲うが、我慢は出来た。

 痛みに耐える術は、既に学んでいるのだ。


「しかし、何故白王が二体もいる……?」


 左手に剣を持ち、走り出しながらエラノアは思考する。

 白王が複数体いる可能性は、エラノアも知っていた。

 だがあの、突然ふっと沸いたような出現だけは不可解だった。


 皆が生きている事を願い、エラノアは走る速度を増す。

 森の中腹が近づき、エラノアが目にしたのは二体の白王に囲まれる部下の姿だった。

 

「はぁぁ!」


 エレノアは剣に魔力を通し、走り出して左腕だけで剣を振るう。

 力は二本の腕で振るよりかは弱いが、込めた魔力はさっきまでとは比にならない。

 瞬間的にエラノアは白王の一体に近づき、その胴を剣で切り裂く。


「ガァッ?!」


 十分な時間を費やして込めた魔力による一撃は、白王の強靭で巨大な胴体を分断した。

 

「ふむ、まずは一体だな」

「団長?! ご無事だったんですね!」

「感動の再会は後だ。まだ一体残っている」


 一体殺された事に気づいた白王は、咆哮を上げる。

 大地が震動するほどの咆哮だが、油断のないエラノアの精神を惑わすには十分ではない。


「聴く者を恐慌状態に陥らせる咆哮だな。落ち着いていれば、何の事はない。母様の怒った時の方が怖い程だよ」

「皆、団長に続け!!」


 残った騎士は、もう三人しかいなかった。

 それでも、絶望に染まっていた彼らの顔に、今は生気が戻っている。

 

「グォォォンッ!」

「はぁぁあああ!」


 再度咆哮を上げる白王に、エラノアの声が重なる。

 魔力を込めた剣が、その魔力に反応して輝き出す。


「五秒で良い、時間を稼いでくれ!」

「もちろんです!」


 ある意味で、人よりも巨大な怪物に迎えという非情な命令。

 だが彼ら、彼女は誇りあるルーテリア王国の騎士という誉れがある。

 例え自分達よりも年下で、女であるエラノアが団長の地位についていようとも、その実力は信用に値する。

 命を託すに、十分だと思っている。

 

 剣を掲げ、魔法を唱え、巧みな技術で白王に立ち向かう。

 一人、白王に掴み、砕かれ殺された。

 一人、白王に殴り飛ばされた。


 だが、時間は稼げた。


「済まない。覚悟しろ白王! 栄光(エターナル・)(セイバー)!!」


 エラノアの剣に集まる魔力が最大となり、極大の光の刃が空気を震わせて放たれた。

 その一撃は白王の上半身を蒸発させ、後ろの巨木を切り倒して尚余りある威力のまま直線状に木々を切り倒していく。

 エラノアの持つ、最大威力の一撃。

 若くして騎士団長に就いた、天才騎士の本気の姿だ。


「はぁ、はぁ……」

「え、エラノア殿……」


 最終的に、残ったのはエラノアと男性騎士一人だった。

 それでも、目的の白王は倒す事が出来た。

 

「え、エラノア殿……、エラノア殿?!!」


 短時間に魔力を使いすぎた事による、眩暈と息切れに襲われるエラノアを呼びかける声は、白王を倒したというのに焦りを見せていた。

 何とか後ろを振り返ったエラノアが見たのは、


「これは……どういう冗談だ?」


 木々にぶら下がり、大地に足を付ける、十体以上に及ぶ無傷の白王の姿だった。


 戦いは、まだ終わっていない。

 

11/12一部表現を変更しました。

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