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平和な世界の最強勇者  作者: 白楽
第一章・最強勇者と錬金術師
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1話

 世界は平和だった。


 半年ほど前。

 異世界から人の王が治めるルーテリア王国の王家にのみ伝わる魔法によって召喚された少年、鏡颯斗(かがみはやと)は一部を除き城の中を自由に出歩く事を許可されたので、ここぞとばかりに王城で一番景色の良い王城のバルコニーから外を眺める。

 眼下に広がるのはルーテリア王国の王都の街並みだが、今はちらほらと明かりが見えるだけで王都を一望出来るバルコニーでも、街の様観を探ることは出来ない。

 最も、颯斗がその気になれば『探知(ソナー)』の魔法や、研ぎ澄ました五感で街どころか遠く離れた小さな村の様子すらも手に取る様に把握出来る。

 それだけの能力を颯斗は持ち合わせながら、颯斗は退屈にため息をこぼす。


 世界から魔王という脅威が消えたのは百年も昔のこと。

 今は人も魔族も獣人も手を取り合う時代だ。

 些細な小競り合いや、魔物や魔獣の被害もあるが、それを踏まえても概ね世界は平和と呼べた。

 そんな世にあって、岩盤を砕くほどの腕力も、神羅万象を統べる魔法も必要ない。

 精神も知識も半端な、力だけは世界を破壊しうる存在など、誰が求めるというのだろうか。

 自分の力の危険性を理解しているからこそ、颯斗はため息をこぼす。

 

 ここに、自分の居場所はない。

 突然常識も言葉も通じない世界に呼び出され、降って湧いたような化け物のような力に、颯斗自身が怯える始末だ。

 望めば得られる全てが、今の颯斗には不必要に感じた。

 つくづく、自分が馬鹿らしくなる。


 挙句に、颯斗を呼び出した王は颯斗の機嫌を損ねないようにとご機嫌取りをしているのだから始末におけない。

 王が毎夜のごとくあてがう美女も、颯斗からすれば初対面の女性などとてもではないが、抱ける度胸は颯斗にはなかった。

 その態度が悪かったのか、最近では王様の娘、つまり王女直々に颯斗の相手をしようと迫ってくるようになった。

 神羅万象を統べる颯斗の力は、人の心すらも容易く読み取る。

 王女には他に好きな人がいるが、国の為と王の命に従って嫌々颯斗に抱かれようと心を殺し、張り付けたような笑みで颯斗に迫るのだ。

 そんな笑みでも、見た目は美しい王女は見惚れるほどで、王女の心が読めなければコロッと騙される事は想像に難くなく、女性不信に陥りそうだった。


「どうしたものかな……」


 王都は見えなくとも、空を見上げれば満天の星空が輝いている。

 今も颯斗に与えられた豪華な部屋で、王女が心を殺して颯斗の帰りを待っていることだろう。

 王は愚かにも、平和となった世界で颯斗のような怪物を呼び出し、今は必死になってその怪物のご機嫌取りをしているのだ。

 颯斗からすれば、今すぐにでも元の世界に戻してくれれば言う事もないのだが、召喚の魔法はあっても、送還の魔法はないのだという。

 神羅万象を統べる魔法であっても、颯斗は元の世界に戻れなかった。

 そもそもが、永続的に召喚し続ける魔法というのは、精霊や悪魔といった別世界の住人を呼び出す召喚魔法とはまた違う、奇跡的な偶然によって誕生した魔法だ。

 

「はぁ」


 星空を見上げる。

 満天の星空を見ていると、颯斗は古い記憶にある故郷の事を思い出した。

 今はもう帰れない、故郷の事だ。

 

「光よ、混ざれ、照らせ」


 思いついたように手のひらを空にかざし、魔力を集中させる。

 颯斗の手のひらに集まった魔力は颯斗のイメージに従い、手のひらから離れ星空に向かって勢い良く浮かび上がった。

 

 ――――バーンっ!


 爆発音にも似た音とともに、颯斗が飛ばした魔力は空中で破裂し、鮮やかな華を咲かせる。

 その様はまるで花火のようで、颯斗は思い通りになって一人満足するように微笑んだ。

 だが、ドタドタとした足音にその笑みは消える。


「ぬぉぉぉおお! ハヤト殿ぉぉぉぉ!! お願いだっ! もう城を壊さんでくれええええ!!」


 扉が壊れるのではないかと思うほどの勢いで入ってきたのは、寝間着姿の老人だった。

 その老人の後ろからはガチャガチャと煩い音を立てて何人もの騎士甲冑の者たちが現れる。

 土下座しそうな勢いで慌てるこの老人こそ、ルーテリア王国の王であり、その後ろに控えるのは王族を護衛する近衛騎士達だ。

 

「な、何なんじゃ?! 何が不満じゃったんじゃ?! はっ! まさかルナリアが何かしたのじゃな?! あのバカ娘め!」


 一度城の一部を吹き飛ばしたことのある颯斗に、王はまた颯斗が気に食わないことがあって城を破壊しようとしたのだと勘違いする。

 実際は無害な音と光の魔法なのだが、音だけを聞けば確かにそう思えるかもしれなかった。

 王の狼狽っぷりに若干の苛立ちを覚えながら、颯斗は口を開く。


「大丈夫です。ルナリア様は何もしていませんよ。驚かせてすいませんでした。こんな時間に不謹慎でした」


 この世界の夜は早い。

 日が沈む頃には皆仕事を切り上げており、夜も明かりが絶えない颯斗の世界とは全く違う。

 颯斗は頭を下げて謝罪する。

 

 (ふんっ、ここをどこだと思っておるのだ! 全く常識を知らぬ化け物め! ルナリアは何をしておるのだ! さっさとこのガキ一人ぐらい篭絡でもなんでもせんか!)


 頭を下げていようが、王の心の内が颯斗に伝わってくる。

 最初は自分で望んだことだったが、他人の心が読めたところで良い事はあまりない。

 

 王が化け物扱いする颯斗を、暗殺なり国外追放しないのには理由がある。

 颯斗の能力が、他の国に移る事を王は危惧しているのだ。

 確かに平和な世となったが、各国の王がその意思を示せば途端にその平和は崩れ去る。

 何とも薄っぺらい紙の上に乗った平和が、今のこの世界の現状だ。

 もし颯斗の力が他所の国に移れば、颯斗を御する術があれば、颯斗の力は凄まじい脅威となる。

 敵となった場合の事を考え、どんな手を尽くしても、どれだけ表面上は下手に出ても王は惜しいとは思わなかった。


 しかし颯斗には、その意図が見えている。

 だからこそ、颯斗の意思はこの国から離れつつあった。

 その事に、王様は気づいてもいないだろう。


「では国王様、お騒がせしてすいません」


 これ以上王の内心を読む事は颯斗にとっても苦痛になる。

 颯斗は王の隣を過ぎ、騎士甲冑の奥で鋭い視線と殺気を向ける近衛騎士の間を抜け、部屋を出た。

 だが向かう先は、颯斗の部屋ではない。

 そこは今も王女が颯斗の帰りを待っているからだ。

 そんな時に、颯斗が向かう先は決まっている。


 向かうのは、王城のとある一室。

 目的の場所にたどり着いた颯斗は、数回扉をノックして、返事を待たずに部屋を開けた。

 鍵は掛かっていない。

 それはいつもの事だ。


 その扉には、王国魔導士・ティナという名札が貼ってあった。

11/11一部表現、脱字の修正を致しました。

11/20 一部表現、会話の修正をいたしました。

11/21タイトルを変更しました。

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