ある男の話 ~病院での生活2~
今日で入院生活一ヶ月がたった
「あと半分もあるのか」
二ヶ月の入院生活を余儀なくされた俺は病院のベッドに横たわっていた、楽しみにしていた高校生活は今や遠い存在となってしまっている
「暇だなぁ...」
丘の上に立つこの病院からは街の景色が良く見える
―――この景気は嫌いじゃないんだよなぁ...
だからと言ってずっとここに居たいわけでは無い、
出来ることなら一刻も早く退院したい
「昼食の時間ですよ〜」
窓の外を眺めながら物思いにふけていた俺は急な来訪者に驚いた
「今日の昼食は焼き鮭とワカメのお味噌汁その他諸々(もろもろ)よ〜!」
「その他諸々の部分が気になりますね」
「えーと、白米と...なんだろこれ?分かる?」
―――俺聞いてくるのか、貴方は看護師だろ?献立ぐらい覚えているものじゃないのか?
「何なんでしょうねこの黒いの、俺にも分かりません」
「まぁ、身体に害はないから安心して食べていいよ!」
「そりゃそうですよ...」
―――身体に害のあるものを食べさせる病院なんて最悪じゃないか...
「それじゃあまた後で来るからね〜よく噛んで食べるんだぞ!」
「分かりました、早く自分の仕事に戻っていいですよ」
「全く''秀也君''ったら、昔はもっと可愛げがあったぞ〜」
ドアを開ける手前で、看護師は振り返って子供のように笑った、実はこの看護師は子供の頃よく近所で遊んでくれたお姉さんだったのだ、名前は''舞沢彩夏''、お姉さんと言っても歳はあまり離れていない
―――俺が今16歳だから21歳前後だろうか
「俺も高校生になったんですよ、''彩夏''さん」
「まだ高校には一回も行けてないけどねー」
「そ、それは────」
「だから早く治そ?沢山食べて、沢山寝る!秀也君はまだまだ若いんだから、骨折なんてすぐ治っちゃうよ!」
太陽のような笑顔を向けてくる、また後でねと言って彩夏さんは自分の仕事に戻った
―――そういえば入院してから初めて彩夏さんに会ったのはこの病室だったな
最初に髪の長い''大人''な雰囲気の看護師が俺の病室に入ってきたときは不覚にもドキドキしてしまった。ところが
「やぁ!秀也君ひっさしぶり〜」
「...は?」
思わず素が出てしまった、そりゃそうだこの美人がいきなり俺の事を下の名前で呼ぶのだから
「もしかして覚えてない?昔よく遊んだんだけどなぁ〜」
「昔...?」
看護師をよく見てみるが、やはり見覚えはない
「え?分からない...? 神社だよ、神社!」
「神社...」
そこで俺はある人物を思い出した
「もしかして...彩夏さんですか?」
「あったり〜よく思い出しました〜」
まさか昔よく神社で遊んでいた年上の女の子と、こうして再開するハメになるなんて
―――それにしても黙っていれば物凄く美人なんだけどな
「俺が小学生高学年ぐらいから全く遊ばなくなりましたけどね」
「ま、まぁそれは、私も忙しかったんだよ!高校生デビューとか!」
「高校生デビュー...」
「い、いや!悪気があって言ったわけじゃないんだよ?」
今の俺の状況を察してか彩夏さんは謝罪してくる
「いや、いいんですよ、浮かれていた自分のせいですから」
「木にぶつかって骨折ね〜どうしたらそうなるのかわからない」
「そうですよね...''馬鹿も急げば木にあたる''ってことわざでも作っていいですよ...」
「あっ、ごめん、本当に、本当に!悪気があったわけじゃないんだよ〜...」
この人は天然なのかドSなのかよく分からない───
「....也君〜?」
「......」
「秀也君!」
「な、なんでしょうか!?」
いきなり名前を呼ばれるものだから口調が少しおかしくなってしまった
「もう、一口も食べてないじゃない!」
いつの間にか昼食時間が終わってしまったようだ
「すいません、ついぼーっとしてました」
「はぁ〜全く...早く食べちゃいな〜」
そういって彩夏さんは椅子に座ってポケットから取り出した本を読み始めた
「あの〜勤務中に本を読んでも平気なのですか?」
「あー大丈夫だよ〜一時までは休憩時間だからね〜」
「そ、そうですか」
「そんなことよりも早く食べな〜!」
今は十二時をすぎたところだ、俺は冷たくなってしまった昼飯を食べ始めた
―――病院飯は美味しくないと言う人がいるが俺はそうは思わないどちらかというと俺は好きだ
最後に残っていた黒い物体を食べる、残念ながらこれが何なのか分からなかったが不味くはなかった
「食べ終わりましたよ」
俺が食べ終わるのを待っていた彩夏さんに話しかけるが
「zzz」
そこには 読んでいたページを開きっぱなしのまま、うたた寝をしている彩夏さんの姿があった
「起こすのも悪いかな...?」
俺は一時になるギリギリまで彩夏さんを起こさなかった―――きっと疲れていたんだろうな
普段から笑顔のため俺はこの人の考えていることがよく分からなくなる時がある
「彩夏さん、一時になりますよ、起きてください」
「ふにゃあ、あと一時間...」
「一時間も寝ていたら院長さんに怒られますよ、起きてください」
「はっ!たこ焼きは!」
「寝ぼけないでください」
「ごめんごめん〜大きいたこ焼きに襲われる夢を見ていました〜」
―――どんな夢だよ
「とにかく、一時になりますよ、もう飯も食べ終わったので彩夏さんもお仕事頑張ってください」
「くぅーっ!頑張っちゃうね!」
また夜飯の時ね〜と言って病室から出ていく彩夏さん
―――あの人といると色々大変だな
だがあの人と触れ合っている時間が入院生活をしている俺の唯一と言っていいほどの楽しみになっていた────
入院生活したことがないので分かりませんが
病院食と言うものを一回食べてみたいとか思ったり...
なかなか高校に行けない秀也、いつ行けるようになるんでしょう(笑)
それにしても彩夏さんの様な人はいいですよねぇ、一緒にいるだけで元気を分けてもらえるような気がします(笑)