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木曜日 1

2017.08.17 本文の一部を変更。また読みやすくなるように適宜空白行を挿入しました。

2018.11.12 本文、台詞の一部を変更。

 ランちゃんにはバスで行け。と言われたが。

 夕方のちょうど良い時間に、は家の前の路線にはバスが無い。


 その上で、駅から塾までは歩くと三十分前後かかる。

 雨でも自転車の方が良い、と言う判断になるのはおおよそこの為だ。

 ただでさえ結構な距離なのに、傘を差して歩くのはツライ。

 何故塾を、駅前とかに作らなかったんだろう。とブツブツ言いたくもなる。


 もっとも塾がメインで狙う“お客さん”。

 彼らの通う百中からは歩いて五分、そういう意味では塾側としては特に何かを間違えたと言うわけでも無いのだろうけれど。


 バスで駅前まで出て、歩きで塾へと向かう。

 いつもより遠回りではあるが、塾に回るなら結局こっちの方が早いのだ。


 駅前のバスプールではバスが二台。

 屋根の下、前後の扉を開けたまま並んで止まり、運転士同士が話をしている。

 需要と供給のバランスが崩れてるよ。ここに二人分需要があるのに……。

 だから走れば走るほど赤字、なんて新聞に書かれるんだよ。町営バス。





「ランちゃん、何する気なんだと思う?」

 ――絶対なんかたくらんでるよ。少し早いので兄妹二人、傘を被ってもたもたと。ほぼ車もこない町道を歩く。


「企んでるって程でも無いだろうけどな。出張行く前にボルボ弄ってたろ? 多分テストをかねてって事なんだと思う」

「だって、アビリティ・ディティクターだっけ。アレ何人居るかわかんないじゃない。チカがもし能力者だとしたって私と陽太も居るし、二人以上は全部マルチプルじゃん」

 


 ランちゃんが普段使わないボルボで迎えに行く、と言った以上は。

 ディティクターを使うつもりなんだろう。とそこまではわかる。

 父さんがボルボに取付、そのまま残した特殊な機械。

 “アビリティ・ディティクター”。

 直訳すれば能力探知装置で、実際の機能も名前通りにそんな感じ。



 但しその機械はボルボとは切り離し不可。

 精度的にも半径二〇〇mが限度で微細な能力発動には無反応。


 更に複数人を検知した場合、月乃の言う通り【Multiple】と表示をだすのみで人数はわからないし、その場所が離れていれば場所の特定も放棄して【Unknown】の表示を出すのみ。


 今回の件には月乃の言う通り、確かにあまりそぐわない気もするのではあるが。



「だからボルボはなんか改造してる。って事で良いんだろ? 昨日の夜に俺達に調整を頼まなかったんだから出張に行く前の時点ではまだ出来上がってなかったんだと思う」


 但しその改造は半日くらいで完了するめどが立っている。昨日のあの言い方はそういう事なんじゃないかな。

 だから今頃はもう出来上がってるとみて良いんだろう。


「ディティクターがもしも三人って出したとして、でもチカが能力者で無い可能性だってあるんじゃ無い?」

「まぁ、人数が出る様に改造してるか知らないけどさ。……何が言いたいんだよ?」

「私たちは良いとして。――覗いてるヤツが能力者って可能性だって、あるじゃん?」



 なるほど、近距離ならば有り得るか。

 その場合は南町がレシーバ、では無くて覗いてるヤツがトランスミッタと言う事になる。


 対象に気づかれる程の劣情を振りまいて覗いているなら。

 その視線はきっと俺にはみえるだろうし、そうなら居場所も俺なら多分特定出来る。



「南町がレシーバなのでは無く、覗いてるヤツがトランスミッタ、……ってことか?」

「そ、覗いてるヤツがトランスミッタだったら。それでもチカの話はあり得るでしょ?」


 周りの人間を無意識に発動したトランスミッタで扇動し。

 結果、意のままに操った人間を俺達は知っている。

「……あとでランちゃんにメッセ投げとけ。なんか考えてくれんだろ」



「私と同じ能力持ちがのぞき魔とか気持ち悪いな……」

 ――月乃の他、もう一人トランスミッタの能力者を知っているがその男は詐欺師だった。


 トランスミッタは人格破綻者に強く発現するのかも知れないな、月乃も含めて。

 なんとなく落ち込んだ様にも見えるから一応フォローはしておくか。

 落ち込んだら落ち込んだで鬱陶うっとおしいし。


 既にこのあと、月乃とツーマンセルでミッションに挑む様ランちゃんから指示が出ている。

 上手くいかないとそこは単純に南町が可哀想だ。

 そのうえ。ミッションをこなす事を前提でもらったおやつ代は、お釣り二十七円を残して既に二人の胃袋に収まってしまっている。


「それにさ、能力者だとしたってテレパスに限った話じゃ無いだろ?」




 一般的に言う超能力、本来それは誰もが持っていてみんなが使えるもの。

 だから俺達は、超は取って単に能力という。


 但し目に見えるほどの大きな力、例えばスプーン曲げ。なんて言うのはほぼ誰も出来なくて。

 がんばっても手にした雑草の葉が揺れる程度。そよ風に負けるようなささやかな力。

 だからみんな自分の能力には気が付かない。


 父さんが失踪直前まで研究し、ある程度の形に纏め、最近それを再発見したランちゃんが引き継いだのだが、それはあくまで秘密。

 心理学者が超能力を真面目に研究していると、頭がおかしい人呼ばわりされる。

 等々、建前上の事情はあるものの。


 どちらかと言えば、能力者が異端児扱いされて社会からつまはじきになる可能性がある。

 として、俺達の身を案じている部分が相当に大きい。



 父さんが地盤を作りランちゃんが分類と名前をまとめた、実在するかも知れない能力は現状でも十種類を超える。


 

 他人の能力を自分の力のように使う、能力アビリティ制御サプレッション

 これは使う人をコントローラと呼ぶ。

 俺は非常に限定的だがこれを使える。


 能力アビリティ増幅ブースターは名前の通りに能力を増幅する。

 これが使える人は、アンプリファイヤ。

 月乃はこれが使える。


 この二つをまとめて能力増幅制御プリメインアンプ

 俺達二人揃うとレコードを聴けるようになる。

 と言う名前なのは、名前を付けた父さんがオーディオマニアだったから。



 発信専門のトランスミッタと、受信専門のレシーバーのテレパシー。

 どれだけ使えない能力なのかは、良く知っている。

 俺と月乃のメインの能力だ。


 更には二つを同時に扱える無線技士ラジオオペレータも居るのでは無いか。

 と、ランちゃんは睨んでいるが。

 まぁ、便利だろうな。両方使えたら。



 そしてテレキネシスは俺が、サイコキネシスは月乃が実際に使える。

 せいぜい。ほこりの行き先を変えて、たんぽぽの茎を揺らす程度の能力なのだけれど。



 先日知り合いになった新興宗教の教祖である光人善道さん、彼が起こす奇跡、“過去見”の力がパストコグニションであることはランちゃんも実際に見て知っている。

 だから未来視であるプレコグニションや、物の来歴を見る力、いわゆるサイコメトリーも実在の可能性が高いはず。

 と言う理論でランちゃんは有り得る能力に分類している。


 更にいわゆる千里眼、透視能力であるクレアボヤンスと遠隔視能力のリモートビューイング。


 そして温度を一部だけ上げ結果的に発火させるファイアリングと、逆に冷やす能力であるアイシング。

 基本同じ温度操作の能力であるので両方使える可能性もあって、そうなると温度管理者テンプマネージヤ

 これらも実在の可能性は大きいのだと言う。



 更には空間を移動するテレポートと、物を引き寄せるアポート。逆に物を送り込むアスポート。

 そして全部が使えるなら自由な旅行者(オムニポーター)

 これは名付けた当人がめんどくさがりで出不精なだけに、ランちゃんが、


 ――自分で使えれば楽で良いよな。


 と言ってるだけの様な気もするが。




「南町を覗いているのが、いわゆる千里眼的な能力者だとすれば……。と言う話か?」

「そ。だったらリモートビューイングくさいよね、能力持ちなら。……とかさ」

「まぁな。あり得なくないんだろうけど。……問題は力がデカすぎる事だ」


 みんなが持っているはずの力。

 として定義される能力ではあるが、あまりに力が小さすぎて発動しようが誰も気付かない。

 例えばテレキネシスで空中の埃が動こうが、テレポートで0.2mmほど瞬間移動しようが誰も、本人さえ気付かない。


 更に“超能力”と言われるような力は基本的にトンデモ論として扱われるし、心理学博士であるランちゃんがそれを公にする事も当然無い。

 これが建前の事情。トンデモを本気で研究する頭のおかしいヤツ、と言われる。と言うわけだ。



 目に見える程のパワーで能力が発現した場合も使える能力には個人差があって。


 俺達兄妹なら俺はレシーバ、テレキネシス、コントローラ。

 月乃がトランスミッタ、サイコキネシス、アンプリファイヤ。


 これが俺達の使える能力になるのだが。

 但し、実用に耐えるかと言えばかなりの問題がある。



 例えばテレパシーの送受信は俺と月乃に限って言えば最大半径は最近は実に1キロを超える。

 とはいえ、これは月乃が発信して俺が受ける条件でのみ有効。


 月乃は未だにランちゃんやにーちゃんに合図を送る事さえ出来ないし、俺もトランスミッタ以外のメッセージを受け取る事は基本的に無い。


 月乃が発信、俺が受信。その条件以外では何も起こらない。

 ちなみに大声を出すのと耳が良いのは別のこと。

 と言う事で、テレパス。とひとまとめにしているが、この二つは別系統の能力であるらしい。



 俺のテレキネシスはコインを飛ばしたりはおろか、通常テッシュさえ動かない。

 月乃のサイコキネシスも、全開でススキの穂を揺らすのが限界で、足の骨を折ったりは当然出来ない。

 プリメインアンプに至っては、自分以外の能力者が居なければなんの役にも立たない。


 要するに通常は能力が発現してもあまりに小さい上に使い道が無い。

 俺達のテレパシーに関して言えば気心の知れた双子間で送受信し、しかも普通の生活の中で練習を繰り返せる。

 と言う、好条件がそろっていたので発動距離が延びたに過ぎない。




「チカラの大きさ……。覗いてる場所ってこと?」

「そう言うこと。南町が犯人の影さえ見てないだろ? アンプリファイヤ+パワースポットなら距離もある程度無視して良いんだろうけどさ。そんなのそうそう無いだろうし」


 証拠の残らない離れた場所から視覚を操り、文字通りの遠隔視覚での覗き(リモートビューイング)をやらかすとなれば何処までのパワーが必要になるか。

 アンプリファイヤの能力を発現出来たのが地球上で月乃だけ。と言う事もあるまいが、自分で自分に対して発動するのは、当人曰くかなり大変であるらしい。


 先月。

 俺達がそれなりに能力を発揮出来たのは、あくまで場所がパワースポットであったのと、能力の自己増幅を繰り返してわざと暴走状態に持ち込む禁じ手。の自己増幅暴走プリメインスタンピードを駆使した結果。

 二人ともテレパス以外の能力はとりたてて強くない。と、言うよりはあからさまに弱い。



「結局何もわからんのか。……親友のピンチだというのに」

「何もわからん子供だから塾に行け、って言われるんだろ」


 知りたいことの直接の答えは無いかも知れないが、勉強というのはそれを知る為の手段を学ぶと言う事である。手塚広大さんのお説教の中のお言葉である。 

「にーちゃんは建前が先行しすぎ! 今わかりたいことは勉強じゃ無いのにぃ!」


「ランちゃんに言わせたって一緒だよ。――せーかつはがっこの勉強の応用だっつーの。理屈は良ーんだ、中坊は黙って勉強すろ。……なんてな」

「変に似てるのがムカつく! ――何よ、自分なんかその応用が全滅じゃないのよ!!」


 いやいや、先月からカレーが作れる様になっただろ?

 ……他は一切作れない上、必ずにーちゃんが付き添う必要があるんだけど。

 勉強の時間が長かったので応用にも時間がかかるんだろう、ランちゃんの場合。


 霧雨の中うだうだと歩くこと約三十分、やっと塾が見えてきた。

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