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日曜日 4

2017.08.27 本文の一部を変更。また読みやすくなるように適宜空白行を挿入しました。

2018.11.17 本文、台詞の一部を変更。


「みっけた。……けどなんかぼんやりしてるぞ。陽太は?」

「データと位置もあってるし、それが本体だと思うんだよ。俺も見付けたし画も拾った。昨日見たときも画質は悪かったし」



 椅子に座り、後ろを向いて震える南町の姿が見える。

 昼に会ったときと同じ服装、間違いなく“実況放送”だ。

 但しその姿は電波の弱い感じの、雨の日のBSみたいな。ざらざらした映像でしか無い。



「全般に持ち上げるぞ!」

 一気に画質が良くなると、椅子の背もたれに制服が掛けてあるのがはっきり見て取れる。

 確かにこれなら不自然に厚着をしないでもバリケードが増える。


 俺の“おまじない”を応用したのか、自ら視線を“視て”その上でそうすることにしたのか。

 そこまではわからないけれど、やはりアイツは要領も頭も良い。

 映像の中の南町は携帯を弄っているが、相変わらず背中は不安げに震えている。

 南町が携帯から顔を上げると同時に俺と月乃、両方の携帯がメーセージ着信を知らせて鳴る。



【はぢまった! つっきー、ようた。しんじてるよ】

 すぐに楽にしてやる、あともう少しだけ待ってくれ!



 クレアボヤンサは、しかしやたらに影が薄い。

 月乃以外の能力者とすれば善道さんと南町くらいしか知らないが二人共こんな感じでは無い。

 能力が発動してる場所が違うから、なんだろうか。



『始める。……行くぞ、レベル1!』

 イエス。

 を返す。

 自己増幅暴走プリメインスタンピードに関して言えばバレバレだろうがランちゃんとにーちゃんの前では口には出せない。レベル1の状態を作って、月乃のトランスミッタを一部借り受ける。


『中継、いけそうか?』

 これも、

 イエス。

 口頭でも文章でも説明出来ないが普段月乃の言う“チャンネル”がわかった。


 月乃とランちゃん、にーちゃんの三人分。

 見えた画像を投げつける。

 あいつのよく使う表現に嘘の無い事はわかった。

 投げる、以外形容のしようが無い。



「ヨウ。こういう事、なのか……!」

「くっそ、ひでー事を。……ちくしょう! 中学生に毎晩こんなことをっ!」

「……チカ、可哀想に」


 映像の中の南町は背もたれの形にパーカーがきっちり残って、それ以外の上半身は裸。

 おかしな服を着てるような状態になっている。

 既に肩の辺りはブラジャーの紐以外何も無い。

 脇腹も背もたれの支柱の部分を残して裸の状態。

  


 そして、器用に透かし具合を調節できるのだろう。

 椅子の背もたれ部分も徐々に視線に浸食されていく。

 パーカーが無かった事にされ、Tシャツも薄くなり。

 ついに半透明のTシャツにブラジャーのみの背中、それが車内の全員に実況中継されることになった。


 クレアボヤンサの力が向上してる?

 ならばブラジャーだっていつまで残るかわからない。

 それを取り去って見えるのは現状背中のみではあるが、前も後ろもこの際関係ない。

 こんな事をする行為自体、人として明らかに間違ってる!



「こんな非道い事を毎晩……。あ、み、みちゃダメだ! もう、だいちゃんのえっち! 変態!」

「いや、あの、急にそんな事言われても、映像の消し方がわからないよ!」



 一生懸命言い訳するにーちゃんの言は、はやりというか無視される。

 相も変わらず扱いが悪い。

 ランちゃんはにーちゃんを投げっぱなしのまま真顔でこちらを振り返る。



「ヨウ、ツキ。封印シールはまだ出来ねーのか!?」

 ランちゃんの声が少し遠くに聞こえる。持ち上がった能力で少し酔っ払ってる感じ?


『距離があるからかな、力がもう一つ足りない気がする。レベル2! いけるか!?』

 イエス。

 を返す。


 月乃と二人、いけると確信できなければ能力封印アビリティシーリングは出来ない。

 だからその問いに対しては初めから否は無い。


「おいお前ら、大丈夫なんだろうな?」

「……大丈夫。問題、ないよ?」

 にーちゃんへの返事は少し遅れただろうか。

 今は少し目の裏が痛いくらい、まだ大丈夫だ。


 と、月乃のトランスミッタが増大する気配を感じる。

 現状俺も使っているので月乃がトランスミッタで何かしようとするとこっちもわかる。

 変な感覚ではある。



『おい、てめー』


 ……? 月乃は誰に話しかけたんだ、チャンネルは何処に会わせた?

 俺に聞こえたのは力を借りているから、か?


 レベル2まで持ち上がっている以上、レシーバ能力の有無を問わず誰にでも送信は可能じゃないかと思うけど。

 既に南町のレシーバの気配を、わずかだけど感じるくらいに力は持ち上がっている。


 けれど今の声は。にーちゃんとランちゃんには聞こえてないだろう。

 きっと俺が送っている映像しか見えていないはずだ。

 前の席に座る二人からリアクションはない。



『年頃の女の子を裸に剥いて、ただで済むなんて思って無いねーだろうな?』


 月乃の声と同時に映像の中、クレアボヤンスで透かされた南町のパーカーが元に戻る。

 ……クレアボヤンサに直接送ったのか、今の声!

 じゃあ、月乃が刺すつもりの釘って言うのは……。


 しまった! だからレベル2が必要だったんだ!

 俺はレベル1でもシーリングはいける感触はあったんだ。

 ……つまりは、まんまと月乃に乗せられたと言う事だ!



『おい、ロリコン野郎! 聞いてんのかよ、覚悟しろよなっ!』


 一気にアンプリファイアの気配が増大する。

 ――止めろ月乃っ!! 声が出ない、トランスミッタも飛ばない。 



『陽太、映像送信カット!!』

 通常の六十倍。レベル2を単純計算すればそうなったはず。

 但し能力者の感情や体調に応じてその値はかなり変動する。

 月乃は多分今、憤怒以外の感情は無い。

 倍率約五十倍は経験したことがあるが、今のレベルはそんなものはとうに超えている。


 自己増幅暴走プリメインスタンピードはあくまで暴走の一種。

 意図的に能力を膨らましているとは言え、感情的に爆発したら。

 その後どうなるかなんて誰も知らない。


 目は開いているはずだが、俺には既に車内の景色は見えない。

 憎悪と怒り、それに合わせてパワーもどんどん増大していく。

 感覚的に先月の倍、百倍前後まで力がふくれあがっているだろう。


 クレアボヤンサに対して、月乃が自由に出来るアンプリファイヤの力を全面的に振り向けたのがわかる。

 怒りにまかせて、百倍を超える倍率はそのまま、強引に持ち上げる。



『どこに居る? 誰だ! ロリコンって何のことだ!』

『うっさい、黙れっ!!』


 力全般が持ち上がれば、当然使えない能力だって使えるようになる。

 クレアボヤンサは潜在的トランスミッタでもあったらしい。

 これでもまだフルに持ち上がっていない。




 月乃の考えは読めた。

 過負荷オーバーロードで罰ゲーム的にクレアボヤンスの能力を潰す気なんだ。

 

 ただ、負荷がかかるのは能力だけでは無い。当然肉体にも一緒に負荷がかかる。

 なんの前触れも無しにいきなり一気呵成で百倍を超えて持ち上げられたら……。

 それが何を意味するのか、本当にわかってないのか、わからないふりをしてるのか。


 ――止めろ、月乃。いくら覗き魔とは言え、……殺すのは間違ってる! 

 

 ――クレアボヤンサの心臓がパンクして脳みそが吹っ飛ぶんだぞ!


 ――お前はその結果に気付いてるのか! どう責任を取るつもりだ!!


 とにかく何をする気なのかはわかった以上。のんきに映像を送っている暇も、余分な力もない。



『覗き魔野郎、手伝ってやるから好きなだけ覗けよ!』



「ランちゃん、映像切るよ! 始める!!」

 何とか声が出た。

 南町の着衣が一気に無くなったところで映像はカット。

 そして間に合うかどうか、テレキネシスに全てのパワーを集中する。


 映像は南町の背骨や内臓を一瞬捉え、次の瞬間にはその南町さえ居なくなる。

 ドアをすかし壁を突き抜け、そのまま更に公園上を素通りして向かいの家の壁を通り抜ける……。



 クレアボヤンス能力の“コントローラー”を、――見付けた。

 ランちゃんのタブレットみたいな形してる。

 まさか脳内とは言え、録画的な事が出来ていたのではないのか……。


 それが本当だったらタチが悪いなんてモンじゃない。

 ぼんやり妄想するのでは無く完全に画像がリピートできるなら。

 脳内限定だろうが本当に盗撮じゃ無いか!!


 しかし。

 いずれその辺の真実がどうであるかは俺にはもうわからないだろう。

 これでお終いだからだ。



『少しは反省しろよ? そして助けてやるんだから感謝しろ、この覗き魔野郎!!』


 テレキネシス全開で、そのタブのようなイメージを表面のパネルごと二つに叩き割る。

 能力者の気配も映像も。一瞬にして頭の中から消え去る。

 抵抗されなくて良かった。今更のようにそう思う。

 わざわざこちらの所在を知らせているんだから、その心配も当然と言えば当然なんだけど。



 ついでに脳みそが爆発したりもしていなさそうで、これも良かった。

 罰は当然あってしかるべきだろうけど、裁判も無しにその場で死刑。

 はいくら何でも非道すぎだ。


 ただスタンピードはまだ止まっていない。

 いわばお互いの能力をシェアしてる状態。

 ならばトランスミッタ、というよりは月乃との“脳内通話”がまだ使える。




『月乃、このバカ! 人殺しになるつもりかっ!!』


 今度は言葉が飛んだ。俺が何を考えているのかまで伝わったのがわかった。

 裏トランスミッタ、飛ばす本人はこんな感じなんだ。


『陽太、……え?』

 そして月乃が相手を殺す気など更々なかったと言うのも返事に乗ってきた。だから。

『封印の方が過負荷(オーバーロード)で潰れるより早かったから、殺さないで済んだ。……終りだ』

 と、それだけ伝えた。

『……ごめん』




 車内の風景がぼんやりと網膜に帰ってくる。

 ナビの画面、ズームされた窓。


 望遠鏡がゆっくりと斜め上を向き、無音のままガラスを割りつつ家の中へと倒れた。

 頭が割れるような頭痛、目の裏もまるで神経をわしづかみにされているかのような痛み。

 体中の筋肉もまるで動かない。両手足は自分の物では無いように重さしか感じない。

 こちらを振り向くシルエットに対してようやく言葉が出る。



「……終わった、よ?」

 目玉を動かせないので、強引に首を動かし横を見ると。

 気を失ったのか、寝ているのか。ややおかしな姿勢でシートに深く沈む月乃。

 見た限り意識が無いようだ。


「何しようとしたのかわかったぞ! 無茶苦茶しやがって、バカだべ!? 二人とも!!」

 そう言いながらランちゃんは後席に上半身を滑り込ませると、先ずは月乃の首に手をやりつつ、顔に耳を近づける。

 ――ほっ、とため息を一つ。


「だいちゃん、大丈夫だ。ツキ、少ねくても息はしてっから」

 そう言うと今度はジャージの懐からハンカチを出して俺の顔に押しつける。

 白くてなんかふわふわした女の子っぽいハンカチ。

 ……つーかなんでジャージに内ポケットなんかあるんだよ。



 あれ?

 ……鼻血が出てたんだ、気が付かなかった。

 綺麗で柔らかそうなハンカチ、勿体ない。



「――アンひゃん。ファンカチ、おごえう……」

 テッシュで良いのに、鼻血なんか。

「汚れる? こういう時の為のハンカチだっつーの。洗えば治るんだから気にすんな。――あえて聞くぞ? ヨウ。シールとデストロイ、やったのは。……どっちだ?」


「間に、合ったよ。……封印の方が早かった。くれあぼやんさ、も。多分、生きてる」

 超能力で人を殺しても、それは罪にはならないから罰も受けることは無い、

 何より証拠がゼロだから警察も逮捕のしようが無い。

 それでも人を殺したことに変わりは無い。月乃が人殺しになるのは防げた。



「スタンピード、やるなってあれほど言ったのに……。このザマは過負荷オーバーロードで能力を潰す気だったんだろ。映像の最後、いきなり服が無くなったしな、アレは能力値を強引に底上げしたから、だべ? それを考えつくのも出来んのも。――ツキ、だな?」

「でも月乃も、……悪気が。あった訳じゃ……」


「……ん?」

「殺す、つもりなんか。……無かったんだ。懲らしめたかった、だけで」


 なんと言っても倍率百倍強、普段起こらないことだって起こる。

 さっき月乃の腹の中は見えた。曰く、

 ――私がケジメを付けてやる!

 ……どんだけ単純なんだよ!



「故意ではなくて未必の故意、ってか。あたしゃ法律は専門外だが、それだって相手が死んでも良いって思ってるっつー事にはなんだぞ。現代日本では、いや、日本に限らず近代国家ではあったりめーだが、個人が刑罰を与えるのは禁止だっつーの!」


「まぁツキのこったから、無力化以降の事なんざ考えてねーんだろーげんともな。――但し後先考えない行動についてお説教はすんぞ? 当然、お前もお説教の対象だ」

「そんで、……いい」


 俺と月乃の携帯がメッセージの着信を知らせて同時に鳴る。

 顔にハンカチを当てられたまま、無理矢理肩から右腕ごと動かす。


【今日は終わったみたい。大丈夫? 怪我とか無い? ・・・うまくいったのかな?】

 目のピントが合わない、指も上手く動かない。

 やっとの事で履歴から【OK】の絵文字一つを選んで送信する。すぐに返信が帰ってくる。


【お疲れ様。ありがとう、陽太だけが私の味方!信じてたよ♪後で話を聞かせてね】

 それに返事を返すような余裕はもう無かった。

 携帯を持っていられずに取り落とすが、拾えない。




 ランちゃんは完全に後席に乗り込んでくると。

 俺の顔にハンカチをあてがったまま、月乃を座り直させて、自分はまんなかに座ってからにーちゃんに声をかける。


「だいちゃん、ビデオは止めていーよ。投光器無しでも証拠に使える様な画は押さえた。再発するようなら南署にのし付けて送りつけてやる」


 ――了解。にーちゃんがそう言った直後、屋根から籠もったモーターの音。

 カメラと投光器、適当に付けてるようで前向きの方が安定するのかな。



「あと、車出して。新道のコンビニまで」

「わかったけど、……ウチじゃなくてもいいの?」

 にーちゃんは聞きながら、既にサイドブレーキを解除してウインカーをあげている。


「こいつ等にひとまず栄養ドリンクと、あと牛乳? なんか飲み物とかパンみたいのとか要るんじゃねーかなって。郵便局の前より品揃え良いし、町内のど真ん中より良い!」



 ランちゃんが話している間にも。

 にーちゃんはボルボを走らせ、田んぼの中を抜けて。住宅街の細い道から大きな道路へと向かう。


「ヨウ、菓子パンとサンドイッチ。どっちが良い? ――――わかった。ウチに付いたら起こすから、それまで寝てろ」


 ランちゃんに体を預け、目を閉じると一気に意識が遠のいていく。

 暗い意識の中救急車のサイレンとすれ違った気がした。


 結局。

 お説教も何も、当日はドリンクと牛乳を強引に飲ませられた記憶のみを残してそのまま寝込んでしまった。




 月曜日も当然体調不良。休みたかったのだが、俺も月乃も諸事情あって学校を休むわけには行かなかったので朝はにーちゃん、帰りはランちゃんに送迎されることになった。


 そして帰りの車の中から始まったお説教は。

 にーちゃんにさえ口出しを許さず、晩ご飯を挟んで風呂に入るまで延々と続いた。


 我が家のおとーさんの役割はやはりランちゃん、なのであった。

 だるい体、回らない頭で怒られるのは、もはや拷問。



 ……月乃と組むと、いつも最後はこれだもんな。

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