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日曜日 1

2017.08.27 本文の一部を変更。また読みやすくなるように適宜空白行を挿入しました。

2011.11.17 本文、台詞の一部を変更。

「確かに南町ちゃんを早く楽にしてやる。っつー部分に関して文句がある訳はねーな」


 日曜日朝九時のリビング。

 超早起きになるはずのランちゃんまで含めて、全員が自分の椅子に座ってコーヒーを啜っている。

 結局、全員一致。

 4対0でクレアボヤンスの能力者に対して能力封印は今晩実行する。となった。


「なぁ、ところで陽太。コントローラで私のトランスミッタを使って私と、それからランちゃんとにーちゃんにも“視線”の実況中継。出来る?」

「自分が出来ないのに俺が出来る前提なのがそもそもおかしい。しかも普通の視界じゃ無くて、見えた“視線”の実況中継、ってんだろ!?」


 朝一番での無茶ぶり。脈絡の無いにも程がある。

 だいたいが。――レシーバである俺以外への送信は能力者本人であるおまえ自身、上手くいった例しがないじゃないか。

「先月、アンタ以外も私の声を聞いてるだろ? それに私、陽太に自分で見た善道さんの過去見を実況したじゃんか。……私はレシーバは、使えないんだよ? だったら相手が私で無くてにーちゃんとかランちゃんになっても話は同じだろ?」


「あれは場所が覆花山おうはなやまだから、力の上乗せがあったんだろう?」

 近所のハイキングコース、覆花山は俺達兄妹にとってのパワースポットである。

 効果は体感的には二,三十倍上乗せされる感じ。

 アンプリファイヤが通常二~五倍前後だろうから、それだけでもかなり能力値の底上げはされている。


 その上、過去見の実況中継の時はその状態で一回ではあるが自己増幅暴走プリメインスタンピードで更に持ち上げている。

 普通出来ない事が可能になったとして、そこは何も不思議を感じない。


 スタンピード発動中なら、月乃の能力を俺が一部ジャック、と言うかシェアしている状態なんだから、そう言う意味の相性は良いにだろうけれど。

 実況中継自体は到達距離は短いが、月乃から俺。だったら元々出来るんだし。

 ならばここまで状況が揃うのであれば。そこは送受信が逆になってもなんとなく納得出来るものはある。


 ――ただ。お前が平素の状況で出来てないのに俺がやるってのは無理だぞ、多分。

「練習はしてる、普段でもランちゃんやにーちゃんだったら合図くらい出来ると思うんだ。……今んとこ上手くいった例しがないけどさ」


 出来る出来ないはなんとなく、では無いしぼんやりと、とも違うが。とにかくわかる。

 上手く表現出来ないが、能力が使えるかどうかはいつだってそういう感じ。

 この辺は理屈じゃ無いんだよな。

 だから月乃がそう言うのなら、コツさえ掴めば出来るんだろう。



 誰にも言っていないが、俺もにーちゃんやランちゃんが飲み込んで話さなかった声。

 それが聞こえた事がある。

 送受信の矢印は逆になるけど、だから月乃が出来ない道理は無いんだろうと言うのはわかる。



「パワーアップすればそれこそわけないと思う。思うんだけどさぁ。……自分で自分を持ち上げるのは結構しんどいし、上手く行かないことの方が多いんだよ」


『視線の実況中継も、こないだみたく増幅一回(レベル1)まで持ち上げればそれで楽勝と思うんだ。もちろん陽太がやるんだとしてもね』

 なるほど。自己増幅暴走プリメインスタンピードで俺を持ち上げるのが前提の話ね。


 まぁこの手の話は状況が揃わないと練習さえ出来ないし、持ち上げるのが前提の話ならパワーの消耗は普段とは段違い。そのせいでガス欠になったら夜は動けないから、ちょっとやってみようか。と言う話にはならない。

 要するにその場になってみないと何が必要な要素なのかさえわからない、と言う事だ。

 必要な要素に自己増幅暴走プリメインスタンピードが含まれると言うなら、それは出来ればやりたくない。


 だから、必要ならやってみる。とだけ返事をした。


 ――しかし、なんでそんな事を要求するんだ? 何を企んでいる……。

「企んでは居ないよ。ただみんなが現場を目撃出来れば、その後の処置も違うと思うんだ」

「そりゃそうだろうけどさ……」


 変に理路整然としてるところが全くもって怪しい、とは言え腹の中を覗くわけにも行かないし。

 ……小説やマンガのテレパスなら、何企んでるか見えるのにな。 


「二人とも。何でも良いげんと無理はすんなよ? 持ち上げた状態でおかしな真似をすると、こないだみでーに半端じゃねー副作用が来んぞ? 自己増幅暴走プリメインスタンピードなんて尚更だ。いくら若いからったって、循環器系に必要以上の過負荷がかかると怖ぇんだかんな。こないだは何でも無かったから良がったものの……」



 ……聞こえてる、訳じゃ無いよな。

 自己増幅暴走プリメインスタンピードなんて一言も口に出してない。

 ま、言霊使いからみれば、中坊の腹の中なんかお見通し。と言う訳だ。

 だからこれには素直に思った通り答える。



「もちろんだよ、スタンピードなんて俺がイヤだ!」

 心臓バクバク。凄まじい頭痛、体中だるく重くなって目眩に吐き気、目の痛みに加えて視界全てに光が飛び、視線の焦点は合わず、口の中がひりつくように渇く。

自己増幅暴走プリメインスタンピードは本気で命にかかわるとおもってる、わりとマジで……」


「うむ、よろしい。体感した人間はゆー事に重みがあるよなー」

 前回パワースポット+スタンピード一回で持ち上がった状態で、さらに能力をフルパワー複合発動した直後の記憶が蘇る。


 出来ればアレは勘弁して欲しい。


 その自己増幅暴走プリメインスタンピードについてはランちゃんは使うことに否定的なんだけれど。

 俺と月乃に限って言えば状況が揃ったら使うのもやむなし。

 として話し合いは済んでいる。



 但し使うのは増幅二回、レベル2まで。

 ランちゃんが数字に直した限りではレベル1でも通常の十五倍、レベル2なら実に六十倍近くの数値になるらしい。

 単純なかけ算では無いと良いながら、十五倍が六十倍になるのならレベル3ならそれこそ単純計算でも二百四十倍。

 いくらサッカー部とは言え。月乃でさえ副作用では済まなくて直接命にかかわる可能性が出てくる。



 もっともお互い口に出さないけれど増幅三回、レベル3に設定してあったプリメインアンプの発動で父さんが帰らぬ人になった。と言うのも理由の一つではある。

 空中を舞う埃を動かすのがせいぜいだったテレキネシスが、大地を割り本人を飲み込んだ。


 何しろ相手は機械、気力も体力も関係ない。その上パワースポット効果も乗ったらしく、

 ――発動時のパワーは、もはや数字に直せねーよ。まぁ千倍は軽く超えてんじゃねーか?

 とランちゃんは言った。

 この辺、単純計算じゃねーんだよ。とは何度も言われているが、それでも二百四十倍では無くて千倍。


 ならば地割れに落ちなくとも、父さんが生還できたどうかは微妙。と言う事になる。

 前回はレベル1だったが二人ともパワースポット効果込みで五十倍前後にはなっただろう。

 体感的に多分ここを超えたらヤバいんじゃ無いかという事で上限は二回に設定したのだ。


 レベル2が六十倍で止まってくれるものかどうか。

 これについては練習もしないから、はっきりとは判らないのだけれど。



 それに“持ち上がった”状態で物理的に影響力がある能力が暴走すれば大惨事になる可能性がある。

 月乃はサイコキネス、俺はテレキネシスを持っている。

 更に高レベルで制御不能となった場合テレパシーだって、物理的に何かを破壊しないとは言い切れない。

 フルパワーで送受信した場合、相手の脳内回路を焼き切る。位はあってもおかしくは無い。


 能力については父さんとランちゃん以外、誰も系統だてて研究した人はいないのだ。

 何が起こるのかなんて、実際に能力を発動する俺達でさえわかりゃしない。

 ランちゃんが、自己増幅暴走プリメインスタンピードの使用に対して否定的なのはこの部分。


 パワースポットと無差別アンプリファイヤ、せいぜい増幅率三〇倍前後の環境下。

 少なくとも俺は当たった相手がのけぞる勢いで五百円玉を飛ばしたし、月乃に至っては生きている人間のすねを、骨ごとあっさり二つに折って見せた。


 普段は無いに等しいささやかな能力を、そんな破壊力を持つ領域にまで人為的に増幅するのが自己増幅暴走プリメインスタンピード

 何も言われなくたって単純に危険だというのはわかる。


 体にかかる負担がとんでもない。

 と言うのは体感で理解出来たし、そんな能力がバレたりしたら。

 ――きっと普通の生活はもう出来ない。


 それにスタートが人為的だろうが仮にも能力の暴走スタンピードに分類される事柄。

 個人的にはあり得ないような気もするが、何かの拍子に制御不能になるかも。というのもわかる。

 何をきっかけに始まって、その後どうなるのか。そんなの、誰も知らないんだから。




「……ツキはどーだった、ん?」

「私だって親友は助けたいけどまだ死にたくないもん。あたりまえでしょ?」


 鋼鉄の心臓と耐圧ホースの血管で作られた循環器を持つ月乃でも。

 こないだの一件に関しては、命に係わるものとして捉えていたらしい。

 それはそれで多少は安心できる。


 何しろ自己増幅暴走プリメインスタンピードに限って言えば俺と月乃、二人ともやる。

 と決めない限り始めることが出来ないが、逆に二人揃っていれば何気ない理由で始まってしまう事だってあるかも知れない。

 と、そう思えるからだ。


 だから月乃が表面上だけでもそう思っていてくれるなら、それだけで心理的に能力発動にブレーキがかかる。

 意図しないところで能力が暴発しないようにお互い表面上だけでもそう思っておくことが重要だ。



「軽々に使って良いものではないとわかっていれば、今はそれで良いさ。取りあえず夜7時にここに集合。……でいいかな?」

「んだな。じゃ、あたしは一寝入りすっか。書斎で寝てるからお昼んなったら起こして」

「私は電話したらちょっと一回り走ってくるよ。……あぁ、なんかもやもやする!」

 


――俺は夜まで特にすること、無いんだよなぁ。

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