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土曜日 4

2017.08.23 本文の一部を変更。また読みやすくなるように適宜空白行を挿入しました。

2018.11.16 本文、台詞の一部を変更。

 そんなこんなで、時計の針はいつの間にか6時を指す。


「家に連絡してあんだべ? なら晩飯食いながら帰ろーか、食いたいもの考えておけよ? 忘れ物、無ぇようにな。取りに来んの大変だぞ? ――おいヨウ。ちょっとこぅ」

 外出用に髪をくくってダンガリーシャツとチノパンに着替えたランちゃんに呼ばれる。


「今日は寝坊しちまったから、具体的に何をするつもりなのかだいちゃんから聞ーてねー。ただ、なんか手がかりくれーは掴んで来てくれ。――その先は任せろ。他人のプライバシーに土足で踏み込む様なヤツは、どんな手を使ってでも必ず叩き潰してやる」



 ついさっき鹿又の話を本人から聞いたところだ。

 それにそれが無くたってランちゃんは基本的に覗き魔とかストーカーの類は大嫌いだろうな、と言うのはここまでのリアクションを見ても想像に難くない。



「鹿又ちゃんみたいに、ある程度普通に社会に戻ってこれんのは幸運な例だっつーのを忘れんなよ? 仕事柄、あたしは何件も知ってんだ。……ストーキングがエスカレートした場合、被害者側だって、行為が止んだら元通り。とはたいがい行かねーんだよな」


「鹿又だって無理して県立に通ってるくらいだし、決して元通りってわけじゃ無いんだろ? その辺はわかってるつもり。――それに上手く行けばそれなりに、失敗しても仮説が一つ潰れるだけだし。だからあんまり期待はしないでおいてもらった方が良いかな」



 今日の作戦、内容をバラしたら多分ランちゃんには怒られる。

 渋々ながら了承したにーちゃんは、だから朝早い内から顔を合わせないように。遠くに買い物に出掛けた。例のアイスを買いに行くと言って……。

 ホントに手に入れてくる辺りがにーちゃんだが。


 そして幸運にも午後からは鹿又達が来た。

 俺もにーちゃんも、だからランちゃんに作戦詳細を問いただされることは無かった。



「いずれ帰ってきたら成果のマルペケだけは分かるわけだ、わーったよ。――だいちゃんも居るからだいじょーぶだとは思うが、無茶なことすんなよ?」

「……うん」

 成功失敗の如何にかかわらず先ずは怒られるの確定。明るく返事は出来ないや。


「ま、上手くやれ。――ときにだいちゃん。ホントに車、借りちゃって良いの?」

 ――大事な宝物なのに。ランちゃんの手にはランサーのキーホルダー。


「ボルボはちょっと使いたいからね。トゥデイじゃ四人で長距離はキツいだろ? ――大事ではあるけれどそこまでじゃないさ。前に乗ったときより、少しクラッチ重くなってるから渋滞にかからないことを祈るよ」


「山越えだし、峠。攻めっちゃおーかなー。四駆のあの曲がんない感じがまた、良いんだよなー。アクセルで曲がるってのがちょっとカッコイイ。――ツキ。んじゃ行くぞ」

「ちょっとランさん、アンダー出るスピードで走る気なの!?」


「ランちゃん、あんまりスピード出さないでね。――二人とも忘れ物、無いね?」

「大丈夫です、月乃先輩! ――あの、お世話になります」

「……宜しくお願いします」


 数分後。ガレージから勢いよく軽快にエンジン音が飛び出していくと、それは全く躊躇せずにごく普通にぐんぐん家から遠ざかっていく。



 ……あの車は普通に走らせるだけでも、運転手にそれなりのテクニックを要求するはず。

 事実、外から聞いていても、普通にーちゃん以外の運転ではスムーズに走っている感じの音がしない。

 確かに自分のトゥデイもマニュアル車ではあるけれど、なんでランちゃんは運転、上手いんだろう。

 何事も無くごく自然に遠ざかるエンジン音を聞きながら思う。



 ――実家はど田舎だもんよ、基本近所行くんでも軽トラだかんな。一番近いコンビニに自転車で片道四十五分だぞ。冬なんか運転出来ねがったら何処も行けねんだよ。とは本人の弁だが。

 そのど田舎から出てきたときはまだ免許を持っていなかったはず。


 つまりランちゃんは高校時代、大人しいお嬢さんの見た目でありながら。

 田んぼや畑のなか、しかも超豪雪地域であるにもかかわらず。マニュアルの軽トラを乗り回してた……?

 運転、上手いわけだ。……つーか、田舎に法律は無いのか!



「家の近所だけは優しく走って欲しいとあれ程……」

 にーちゃんの心配も車本体では無い。上手いのは認めてるのだ。

 まぁ、にーちゃんには悪いがランサーのことは一旦忘れよう。

 今はランちゃんよりも心配しなくちゃいけない事が他にある。


「さて、こっちも準備をしよう。――お前に言われて会社から開発用の車載カメラを借りてきた。もう付けてある。モニターと録画装置はランさんみたいなわけには行かなくて別置きだけどな」

 にーちゃんと二人でガレージへと向かう。


 ガレージ定位置には季節外れのスノーボードキャリアを付けられたボルボ。

 そのキャリアに隠れるようにして黒くて半球形の機械がついている。


「今日は霧雨模様だが、それでも月明かり程度あれば50m先の人の顔くらい画像処理無しで判別できるらしいが。……なんだか今度は、こっちが覗き魔みたいな感じだぞ?」

「顔は見えなくても良いんだってば。先ずは場所の特定が出来れば良い話なんだから。雨の日にボルボで双眼鏡片手に箱乗りしてたら目立つだろ? ――それに俺とディティクターが反応出来なきゃそれも無いんだし」



「そりゃそうなんだが。ランさんが知ったら、……怒るだろうなぁ」

「多分、ね。俺のアイディアが空振りだったら報告しなくて良いんだけど」 


「……気が重いな、成功しても褒められないんだもんな。――いずれ手段がある以上は確認はしなくてはな。僕が運転する以上カメラ操作はお前だ。停まれないし、怪しまれないようにするには二往復が限度、きっちり動かせるように練習しておけよ?」

「わかった」


「慌てなくても良い。あと二時間以上ある」

 時計の針は間もなく七時。

 そう、ミッション開始まであと二時間。

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