一章 異質の者たち Ⅱ
「なあアンタ、名前は何てんだ?」
それとなく問いかけてみる。返答はない。余程特異な性格なのか、或いはただ単に俺の事が嫌いか。いや、流石に話した事もないような奴を嫌ったりはしないだろう。何かが気に障ったのかと思い、先ほどの自分の発言を思い出す。浮かんできた心当たりを確認してみる。
「ああ悪い、自分から名乗っておくべきだったな」
男の顔が僅かに動く。ビンゴ。彼は俺が名乗らなかったのが気に食わなかったようだ。他人に名前を言うのは何時振りだろう。
「俺はマイク=ロブソン。ここには色々暴れまくったせいで投獄れられた。幸いまだ処刑はされてないが、まあそう先の事でもないだろう」
可笑しな自己紹介だったが、少なくとも嘘はついていない。第一、コイツにそこまで教える必要は無いのだ。
「で、お前の名前は?」
しばしの沈黙。今度も空振りかと思った、その瞬間だった。
「・・・アビス。アビス=マーサー・・・」
男————アビスは、1mも離れていない俺の耳にもほとんど届かないような声でぼそりと言った。
「そうか。アビス、よろしくな」
案の上、反応は無かった。まあ、想定内ではあったのだが。ここで【才能】の事を聞くかどうか迷う。
役に立つ物であればいいが、これほどの殺気を纏いながらハズレ【才能】だった時の失望の度合いを考えて躊躇われる。さて、どうしたものか・・・。そうこうしているうちに、アビスの顔は暗がりの中に消えて行った。まあ、【才能】についてはこれからゆっくり調べていくとして、先ずは彼の警戒心を解かなければならない。そこまで考えた俺はゆっくりとアビスの後を追った。
第二話。ちょっと短いでしょうか?