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FIGHT CLASS  作者: 元馳 安
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勧誘



 新垣の戸森に対する対応の変化に周囲は驚いた。


 掛ける声に棘はなく、親近感さえ伺える様子に初めは戸惑った。


 新垣だけではなく、伊藤や杉田さえもいつもの様子はなかった。


 戸森はそんなどうでもいいことなど気がつかなかった。


 そして、その日の放課後に神崎に呼ばれた戸森は早速、次のファイトを期待していた。

 放課後、誰もいない教室で待っていると、神崎が現れた。


「待たせたな」

 神崎は傷の具合を見るようにじっくり戸森の顔を見た。昼間は意識して見ないようにしていた。


「大丈夫です。先生、話って次のファイトのことですか?」

「次は来週の土曜日だ」

 前のファイトから二週間後だ。


「その前に勧誘だ」

「えっ?! 人数増やすんですか?」

「そうだ」


 色んな奴と殴り合いができることもそうだが、あの興奮をみんなで味わえるのは確かに魅力だった。人数が多くなれば、興奮も大きくなるかもしれない。しかし……。


「お前、声掛けろよ」


「えっ?! 無理ですよ。誰にですか? クラスメイトですか?」


「最初はクラスメイトでいいかもな。俺が名前言う奴に声掛けろよ」


「無理ですよ。僕、クラスで無視されてますから、誰も相手にしてくれませんよ」


「相手にされるように頑張れよ。とりあえず、ウチのクラスの勝田、野球部のな。あと、テニス部の本木。声掛けるのはいつでもいいよ。やるのは来週の土曜日の夜だぞ。泊まりだから、親に言い訳考えることも伝えろよ。場所はこの前と一緒だ。頼んだぞ」


「無理です。二人ともやらないですよ。断られて、変な噂がたちますよ」


「やるよ」


「勝田は練習で疲れて来ないですよ」


「ウチの野球部は弱いから大丈夫だよ。テニス部も弱いけど」


「本木も来るかどうか……」


「二人とも来るよ」


「分かりました。声だけ掛けてみます。神崎先生に言われた通り、『泊まりで殴り合いするから、来週の土曜日予定空けてくれ』って言いますよ」


「そんな感じ」

 神崎は無邪気に笑った。


「面子聞かれたら、俺と新垣と伊藤と杉田って言えよ」


「……分かりました。どうなっても知りませんよ」


「おぉ、頼んだ。あと、勝田にも本木にも、聞かれたことは正直に答えろよ」


「……はい」





 戸森が勝田を誘ったのは放課後、部活に向かう途中の一人で廊下を歩いているときだった。


 廊下には生徒がまだ何人かいたが、幸い勝田は一人だった。しかし、声を掛けるのにも戸森には勇気がいた。


「勝田君」

 振り向いた勝田は声を掛けたのが戸森だと一瞬驚いた表情をした。そして、無視するか躊躇する様子を見せるが戸森が言葉を継いだ。


「僕から一方的に話すけど、来週の土曜日の夜、予定を空けてくれない?」


 返事を聞くよりも勝田に近付き、周りに聞こえないように小さい声で戸森は呟いた。


「この話は絶対に他の人に話さないでほしい」


「何?」


「土曜日の夜にある集まりがあって、そこに勝田君に来てほしいんだ」


「だから何だよ?」

 勝田のぶっきらぼうな物言いにも怖じ気付くことなく、戸森は話した。


「タイマンで殴り合いをするんだよ」


「はっ?」


「グローブ付けて、殴り合って、スッキリするまで殴り合う。そういう集まりなんだよ」


 戸森は投げ遣りになったが、その時を思い出すように語った。あの日は最高に楽しかった。


「面白そうじゃん」


「へ?!」

 思わぬ勝田の言葉に戸森は間の抜けた声を出した。


「他に誰が来んの?」


「新垣君と伊藤君と杉田君。あと本木君もこれから誘う」


「本木? 俺ら幼なじみだよ。これから誘うの?」


「うん」


「俺も行くわ」


「えっ?! 今から?」


「おぅ、行こうぜ」


 半ば強引に勝田に連れられて本木の所に向かった。


 テニス部に所属する本木は既に部活に向かっていた。テニス部の更衣室はテニスコートの脇にあり、外にある。


 着替えを終えた本木がテニスコートにいた。


「本木」


 勝田の声に振り返る本木 邦彦の顔が訝るのが分かる。戸森がいるからだ。


「勝田……と戸森」


「本木、ちょっといいか?」


「どうした?」


 本木とすんなり話ができるのを見ると、勝田がいてよかったと思う戸森がいた。


「凄ぇ、面白い話があんだけど」


「何?」


「新垣と伊藤と杉田と戸森と俺らで殴り合いしようって、一緒にやらね?」


「はっ?」


 いまいち要領を得ない勝田の説明に木本が納得するはずもなかった。


「だから」


 勝田は通じないこともさることながら、自分の拙い説明に苛立つ。


「その中から二人ずつタイマンで殴り合うんだよ」


 勝田の説明のいい加減さに戸森は辟易した戸森が渋々継いだ。


「その中なら、誰とやってもいいの?」


 前回は神崎が指名していたファイトであったが、やりたい奴とやってもいいはずである。


「うん」


「なっ、面白そうだろ? 新垣たちとできるぞ」


「えっ?」


 勝田の言葉に戸森が驚いた。


「面白そう」


「勝田君も本木君も新垣君たちとやりたいの?」


 戸森の言葉に勝田と本木が頷く。


 戸森は勝田と本木に神崎に言われたことを伝え、その場を後にした。口外しないことは念を押すように話した。


 次のファイトの日を聞いてから一週間は長かった。それほど土曜日が待ち遠しかったのだ。

 勝田も本木も他言することはなく、むしろ、本当にそんな集まりがあるのかさえ半信半疑な感じだった。


 戸森は何故、勝田と本木が新垣達と殴り合いをしたがっているのか不思議だったが、とりあえず、参加してくれたことに安堵していた。


 翌日、放課後に勝田と本木がファイトに参加することを戸森が神崎に伝えると、神崎は素っ気なく、「分かった」とだけ答えた。


 戸森は新垣たちが気になった。人数を増やすと言っていた


 新垣たちが来ないことはないだろうと思っていた戸森。誰かが減ることであの空気が味わえないことも、誰かがいることであの空気が味わえないのも嫌だった。



 放課後のことだった。戸森が緊張しながら勧誘している頃、新垣は塚田などの先輩たちとつるんでいた。


 いつもの溜まり場にはいつものメンバーが(たむろ)しており、くだらない話に花を咲かせてくだらない時間を過ごしていた。


 新垣は初めてこの場にいることに苦痛を感じていた。


「お前、顔どうした?」

 塚田が新垣の顔を覗き込む。


「なんでもないっスよ」


「三中のやつらがやってきたら俺に言えよ。あいつら調子に乗ってやがるからよ」


「はい」


 新垣は思った。もしここで塚田に喧嘩を売ったら自分は勝てるのだろうか。喧嘩じゃなくていい、地下室で行った殴り合いを塚田としたらどうなるだろうか。


「三中の奴ら五人に囲まれて全員返討ちしてやった」


 塚田が何度も口にする話である。

 一対一の殴り合いを経験した新垣にとって一対五は

現実味が無さ過ぎて冗談以外には聞こえなかった。


「ナイフ出してきたから掴んでボコボコにしてやったよ」


 ナイフの威力は分からないが、拳の脅威は知っていた。


「今まで人生で一度も喧嘩に負けたことねぇから」


 つい先日まで新垣も負けたことがなかった。というよりも喧嘩をしたことがなかった。先日のファイトを喧嘩に含めての話である。

 目の前の鶏ガラのような体をした男の強さに疑問を感じる新垣だった。


 武勇伝をいくつも聞いた。初めは信じていた。しかし、新垣はたった一晩で塚田の言葉が偽りであることを知った。


 隙だらけの鶏ガラのようなガリガリの体で何ができるのだろうか。こいつこらは何も感じられない。新垣はそう感じてしまった。





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