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FIGHT CLASS  作者: 元馳 安
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心配事 2




 翌日、ファイトクラブのメンバーは二年三組に集まっていた。

 杉田が昨日のことを面白がって話していた。


「いや、マジでビビったよ。寝てて、気配がして、起きたら、布団が動いてさ。何だって思って布団取ったら、母親が俺の寝巻取ろうとしてんの」


「マジで!?」


「怖っ!」

 周りは面白がりながら、杉田の話を聞いていた。


「で、どうしたの?」

 勝田も興味津々だった。


「『何だよ!』って言ったら、部屋から出てった。手には懐中電灯持ってた」


「え、怖っ」


「ビビったよ」


「寝込みを襲われるとはな」


「先生にも言われてたんだよ」


「えっ?!」

 全員が神崎に注目した。


「みんなも気を付けろよ」


「俺も、昨日、母親から色々言われた」

 全員が戸森を見た。


「全然大丈夫だったけど、心配してんだなって思った」


「当たり前だろ」

 新垣が合わせた。


「昔よりも今の方が断然楽しいし、他じゃ絶対に経験できないことを経験してる。別に悪いことしてる訳じゃないし。それに、他に迷惑かけてない」


「そうだよ。悪いことしてる訳じゃねぇもんな」


「そうだ」


「間違いない」

 その場にいる全員が戸森の言葉に賛同した。神崎はその様子をじっと見ている。


「先生、次のファイトはいつですか?」


 伊藤が訊ねた。


「来週の土曜日」


 神崎は思った。何故、これほどまでに少年たちは従順になれるのか。


 戸森たちは生徒であるが、生徒という括りで考えてはいない。教え子ということは当て嵌まるが、学校でのことではなかった。学校だけの付き合いならば、これほどの繋がりは持てない。彼らは従順だ。


 暴力や強さからの恐怖心もあるだろうが、それだげではなく、明らかな尊敬があった。コミュニケーションには畏敬の念が感じられるほどだ。自分が与えて、出来上がった環境に少年たちは依存している。


 神崎は教室を後にする少年たちをただ黙って見つめていた。

 

 それからファイトは続いたが、先生はファイトはおろか、レフリーさえもしなかった。

 ただ、暗がりでファイトを眺めてるだけだった。周りはいつのまにか、二十人ほどまで膨れ上がっていた。

 その都度、誰かがファイトを進行させてその都度、誰かがレフリーをした。


 拱手傍観の神崎に誰もが従った。




「君、二中?」


 駅近くのゲームセンターは瑞江第二中学校の生徒も第三中学校の生徒も足を運んでいる。


 ゲームの喧騒に掻き消されそうになる声を必死で拾うのは中学一年生の男の子だった。


 学ランの第一ボタンを開けてニタニタ笑いながら、話し掛ける三人組は濃紺の学ランを着ていた。

 濃紺の学ランは第三中学校である。


 流行りの格闘ゲームを楽しむ瑞江第二中学校の生徒に話し掛ける。


「はい」


 答えた瞬間に殴られていた。

 いきなり殴られ、声を出そうとしたが恐怖で出せなかった。

 周りに見えないように二人が壁を作っている。


「ちょっとトイレ来いよ」




 二中の一年生は殴られた後にカラオケの一件を訊ねられ、知らないと答えるとまた殴られて喝上げされた。


 そのことは翌日の朝には二中の全学年の不良に知れ渡った。


 調子に乗っているヤツ、粋がっているヤツ、生意気なヤツ、二中にいるそんな奴らは報復を口にするが行動に出る者はいなかった。


 ゲームセンターでの一件は三中に『やられっぱなし』で二中は動かなかった。


 次の日には新垣たちの耳にも入り、新垣の後輩たちは(いき)り立っていた。

 しかし、何も出来ない後輩たちは新垣たちを頼った。


 何故、二中が狙われるのか。

 駅前のカラオケ店によく行くのは塚田であり、最近、出入り禁止になったと新垣は聞いていた。


 新垣は狙われる理由が分かった。

 理由が分かると新垣は我関せずといった態度を取るようになった。

 当然、一年生が三年生に報復の旨を告げるも、三中が相手ということもあり、三年生はまともに取り合わなかった。


 二中の生徒がゲームセンターに近付かなくなると、三中とのいざこざは収まった。


 何も起きない日々が続くといざこざは収束したかに見えたが、それは間違いであった。




 戸森たちは青春を謳歌するように、十三歳、十四歳を普通とは違う形で楽しんでいた。

 六月の期末試験が終わる頃には、メンバーの様子や雰囲気が以前とは比べ物にならないほど、変わり果てていた。


 キリッとした顔つきは今までの幼さを払拭し、目つきは鋭く、何よりも威圧感があった。

 戸森は周りが大人になるよりもずっと大人になっていた。

 親や教師を頼って生きていく自主性に乏しい生徒よりも、戸森はずっと自分を持っていた。


 そして、ファイトは体つきを変えさせた。

 肥満体型だった戸森の身体は引き締まり、腹筋は見事に割れて、腕は逞しく太くなった。


 成長期ということもあるのだろうが、食べる量が倍以上に増えた。すぐに空腹を覚え、食べても全く太らなくなった。

 自分の体が逞しくなるのを感じると、戸森は肉体美も意識するようになった。進んで始めた自主トレーニングは激しさを増し、日夜練習に励むようになった。


 戸森だけではない。みんな何かに憑りつかれた様に自分流の何かに励んだ。


 戸森のようにトレーニングする者、格闘技の知識を貪る者、格闘技の道場に通いだす者まで現れた。


 神崎が与えた環境は全員のストレスの発散場所だった。




「戸森ってさ、最近、痩せて格好良くなったよね」

 新垣たちと仲がいい吉田 美里や秋葉 美香が話し合っていた。

 静かだが、陰気な様子ではなく、むしろミステリアスな雰囲気を持ち、鍛え上げられた肉体はセクシュアルな魅力を持っていた。


「美里もそう思う? 私もなんか良いなって思ってたんだよね」


 会話する二人を木内 恵梨香が見つめていた。




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