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 選定の儀が終わった後、一週間ほど純粋に観光やらを楽しんで、ゆっくりと骨休みもしてレイザラムを離れる事になった。

 因みに、選定の儀で生み出された神刀は問題なく俺が使って良いそうなのでホッとした。

 その代わり、俺が死んだ後は誰かに譲る事は出来ず、レイザラムの国有となる決まりだそうだ。

 これは儀式の決まりで、選定の儀によって生み出された者は、生み出した本人が死んだ後は全て国に納められる事になっている。

 それらの多くは国宝として厳重に管理されているそうだ。

 まあ、正直俺が死ぬのなんてそれこそ数千年後になるので、別に構わないのだけども・・・。

 

 そう、気が付けばレジェンドクラスになった事で寿命が当然の様に二・三千年は確実になっている。

 そんな気が遠くなりそうなほどの年月を生きてどうするのだと思わなくもない。

 不老不死は人類の永遠の、叶う事なき夢だと言うけれども、実際にそれに等しい状況になると拷問以外の何ものでもないんじゃないかと思う。


 まあ、長すぎる寿命と時間に苦痛を感じるとしても、それは遠い未来の話だ。今の俺はこのネーゼリアに転生してからまだ十三年しかたっていない。

 今は、有り余る時間を使って世界中を楽しみ尽す事を考えていればいいだろう。

 長すぎる時間に悩むのなんて、それこそ楽しむ事を全て終えて、本当にやる事がなくなって暇でどうしようもなくなってしまってから考えればいい話だ。

 そもそも、本当にそんな時が来るのかも判らないし、今からどうなるかも判らない先の事を悩んだ所でどうしようもない。


 とりあえず今は、母国であるベルゼリアに向けてヒュペリオンで進んでいる。

 流石のヒュペリオンでも大陸間の航行にはそれなりの時間がかかる。まあ、最大速度で飛び続ける訳にもいかないのだし、ネーゼリア自体が地球とは比べ物にならない程に巨大な惑星なのだから、仮に一周しようとすれば最大速度でもそれなりにかかる。

 と、ここまで考えて今更な疑問にぶち当たる。

 今まで気にも留めてこなかったけれども、ネーゼリアは、この世界は本当に惑星なのだろうか?

 今更ながら、全く異なるこの世界がどんな形をしていてもおかしくないのではないかと思えて来る。

 それに、地球とは比べ物にならない程に広大であるのに、重力が同じ一Gに感じられるのにも疑問がある。

 それを考えれば、やはり地球と同じ惑星型の世界ではない可能性が高いのではないだろうか?

 調べればすぐに判る事なんだけどね・・・。

 魔物の脅威で危険なので行かないだけで、普通に宇宙開発できる技術がある世界だし。無人の人工衛星が数え切れないほど打ち上げられているのだから、そのデータからネーゼリアがどんな世界なのか調べればすぐに判るし、まあ、単なる戯言だと思ってほしい。


 それよりも、今は空いた時間を使ってやりたい事がある。

 何をするかと言えば料理だ。

 ユグドラシルで高ランクのマグロの魔物を手に入れたし、それ以外にも海鮮素材は山ほどある。それらを使って和食と言うか、日本食系のご馳走三昧をつくり倒すつもりだ。

 ちなみに、前世では料理なんてしたことも無かったのだけど、ネーゼリアに生まれてからはかなり鍛えている。と言うのもこれ以上ない程の極上の食材が手に入るのだから、それらを使って日本食の料理を食べたいと思ったからだ。

 因みに、ネーゼリアの料理は基本的に前世の地球の料理の数々に近い。それぞれの国ごとに地球のどこの料理に近い料理が駄弁られているか判れていて、貴族の国が日本と同じ文化で食事も同じなのは以前にも話したと思うけれども、鬼族の国の料理は空くので純和食で、例えば日本風のカレーとかコロッケの様な食べ物がないのだ。

 カレーが食べたければ、インドカレーが確かにこの世界にもあるのだけども、やはり日本のカレーとは違う。確かに美味しいのだけども、たまにどうしても日本風のカレーが食べたくなってきたりもする。

 そんな訳で、自分の食べたい物をつくるために料理を覚えたのだけども、結果、プロの料理人並みとはいかないけれどもかなりの腕前になった。

 それで、これからつくるのは、当然海鮮尽くし。

 単に刺身にしても良いけれども、ひと手間加えた美味しい極上の料理もある。

 例えばマグロの魔物のカマトロの部分を五センチほどのサイコロ状に切り分けて、串に刺して、軽く塩を振って炭火で炙る。これだけで極上の一品の感性だ。

 食べる時はそのままでも良いし、串から外してワサビ醤油で食べても良い。

 更に他の部位でも同じ物をつくっていく。赤身のシッカリした旨みもまたいいものだし、中トロの油と肉の旨みが絶妙な味わいも良い。こうしたシンプルな料理法だとより一層、素材の持つ味わいが際立つものだ。

 だけけど、その分この料理は火加減が、焼き加減が重要で、極上の味を求めるなら、外はカリッとするほどに香ばしく焼けながらも仲は生のままでありながら、シッカリと温かい。そんな絶妙な焼き方を追求する必要がある。

 更に、薄切りにした様々な魚を出汁に軽く通して海鮮しゃぶしゃぶにするのも良い。特にフグ系統の魔物のしゃぶしゃぶは絶品だ。

 まあ、毒を取り除くのに特殊な技術が必要なので本来なら、手軽に食べられるモノでもないのだけど、その辺りも魔法でちょちょいと片付けられたりする。

 それと、しゃぶしゃぶする鍋は沸騰させては絶対にいけない。出汁が不味くなるし、火が通り過ぎたり味が抜けてしまったりする。だから、鍋の出汁の温度は精々七十から八十度くらいをキープするのがベスト。

 赤鯛の魔物は、開いて一夜干しにしてから、鱗が立たない様に慎重に焼く。こうして焼くと鱗まで美味しく食べる事が出来て非常に美味。まあ、一メートルを超えるから丸焼きじゃなくて切り身にして焼くけど。

 蒲焼きにして美味しい十メートルを超えるウミヘビの魔物は、当然適当な大きさと薄さに切って蒲焼きにする。この際、蒸してから焼く関東風と、そのまま焼く関西風の両方を揃えるのを忘れてはいけない。

 もう一つ、白焼きも用意するけれども、これは別でつくる。

 それと普通の刺身に合わせて、昆布締めも各種揃えていく。この食べ比べもまた良い。 

 エビやカニはさっと湯通しした後に氷水で締める。

 そして、アワビやトコブシで炊き込みご飯と、弟子を効かせた白いご飯も炊いておく。

 汁ものは、様々なすり身の団子を浮かべた澄まし汁。

 他にも色々な料理をつくっていく。

 普通なら、こんなにたくさんの料理をつくっていったら、始めの方に作った料理から冷めてしまったりするのだけども、この制では魔法を上手く使えば作り立てのままをキープできる。

 料理がおいしい最高の状態を保てるのは何よりだ。何には余熱を使ったりして更に美味しくさせるものもあるので、それは別に分けてあるけど。

 どれもこれも美味しそうにできている。

 ベルゼリアについたら面倒な事が待ち構えているのは判りきっているのだから、今の内に存分に英気を養っておくに限る。


「準備が出来たぞ」


 そんな訳で出来上がった料理をテーブルに並べながら、みんなを呼んで食事にする。


「わあっ、おいしそう」

「本当にアベルは料理が上手ですね」

「スゴイ。楽しみです」


 口々に褒めてくれたり喜んでくれたりするのが嬉しい。

 つくった甲斐がるというものだ。


「それじゃあ早速食べようか。いただきます」

「いただきます」


 揃って合掌して食べ始める。

 さて、まずは何を食べるか?

 ここはマグロの串焼きから行こう。いきなりトロからではなくて、まずは赤身から。

 赤身の肉は何もつけずにそのままが良いだろう。一口口にすれば、豊かなマグロの旨みが一杯に広がる。塩味だけだからこそ、余計にその旨みが際立つ。続いて中トロ、トロと口にしていく。うん。我ながら焼き加減も完璧だ。

 そして、口の中をマグロの旨みが支配した所で、純米大吟醸を一口。 


「はあ、至福だな」


 鬼族の国から取り寄せた最高の純米酒。

 ビールも良いのだけども、やはりここはこれが一番合うだろう。ミランダが持ち込んだとっておきの逸品は、確かにこの上なく至福の時間を与えてくれる。


「本当に最高よね」


 他の酒は一切なしで、自分の持ち込んだとっておきに統一したミランダは実にご機嫌そうだ。

 だけどその気持ちも良く判る。他のみんなも料理と酒の絶妙な組み合わせにウットリしている。

 ノインも恐る恐るチビチビと飲んでいるけど、その美味しさに驚いているのは明らかだ。


「お酒も美味しいですけど、アベルさんの料理も本当に美味しいです」 

「確かにね。この大吟醸に見合う料理をつくれるなんて相当なものよ」


 アレッサが出話に俺の料理を褒めてくれるのがこそばゆいのだけども、ミランダも当然の様に同意してくる。

 俺としては、二人の料理の方が余程おいしいと思うのだけども、とりあえず、昆布締めのヒラメをしゃぶしゃぶにして、ワサビ醤油ではなくあえてユズ故障でいただいて、大吟醸を一口飲んで誤魔化す。

 うん。確かに我ながら良い出来だと思う。

 前世では、まだ二十歳だったので高級和食の名店の本物の味を知る機会なんてなかったけれども、素材の良さを考えれはそれに勝るとも劣らない美味さのはずだ。


 それはともかく、何時の間にか酒を飲むのが当たり前になっている。

 まあ、ネーゼリアには飲酒の年齢制限がないし。アルコールの毒素などの体や成長に悪い部分も魔法で無効化できるから、単に程よく酔えるだけで何の問題も無いから別に良いのだけども、こうなると、結構頑固に酒を飲むのを拒否していたのがなんだったんだろうと思う。

 まあ、この世界では、と言うか俺は、確実に急性アルコール中毒で死ぬ事はないのは確実だ。ついでにアル中になる心配も無い。


「本当に美味しいです~~~~」


 ただし、アリアの様に本当にお酒に弱い体質の人も当然いるから気をつけないと・・・。

 いや、彼女の場合、すぐに酔ってしまうだけで潰れたりする事はないのだけど、酔い方が問題だったりするから、さり気なくアルコールを抜いて酔いを醒ませてあげておいた方が良いだろう。


「それにしても、アベルは鬼族の料理が得意なのね」

「まあね、なんと言うかシックリ来るんだよ」

 

 元日本人としての業だとは言えない。

 因みに、俺以外にもかつてネーゼリアに転生した者の中には、日本食を再現した人も結構いたらしいけれども、長い時間の中で消え去ってしまったらしい。

 考えてみればそれも当然だ。ネーゼリアの歴史は地球とは比べ物にならない程に長い。

 地球でも、西暦の初めごろに食べられていた料理と今の料理では同じ地域、国であっても全く別物であったりするのだから、同じ様にネーゼリアでも時代が進むにつれて食事も変わっていくのは当たり前。

 むしろ、例えば十万年前と同じ食事をしていたなら、それこそ驚きである。

 ハッキリ言って、今のネーゼリアの食事が地球の、二十一世紀の食事とほとんど変わらない者の方が奇跡なのだ。

 実際、これまでに調べたところでは、五万年前の食事は今とは相当違うものだったようだし、逆に時代が進み過ぎたような料理が主流の時代もあったようなので、その意味では運が良かったと思う。


「どこで鬼族の料理の調理法を覚えたのか疑問ではあるんだけどね」


 まあ、結構特殊な調理法の料理もあるから、それをマスターしているのは確かに謎だろう。単に本を読んで覚えられるような代物でもないし。


「不思議だけど、美味しいから良い」


 ノインに言わせると、美味しい物をつくれること自体が重要なのであって、どうして造れるのかは重要ではないらしい。

 まあ、普段感情の乏しい彼女が、幸せそうに食べてくれているので満足だ。

 

「それもそうね」

「まあ、美味しいのはこうしてみんなで楽しく食べているからでもあるよ」


 納得してくれたようなので俺としては本心でそう思っている事で話を変える。

 こうして、みんな大満足で英気を養う事が出来た。

 そして、ベルゼリアについてからは本気の決戦だ。



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