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魔域の鉱山から無事に鉱物を持ち帰ったので、これで選定の儀の三分の一の過程をこなした事になる。
次に向かうのは聖域の鉱山なのだけども、これが実は魔域の方よりも面倒臭かったりする。
別により強大な魔物が闊歩している訳じゃない。
そもそも、聖域の中なのだから魔物自体が現れたりしない。それこそレジェンドクラス以上の魔物でなければ、聖域に侵入する事は不可能だ。
では何が面倒臭いかと言えば、聖域と言う場所とそれを管理する者たちだ。
聖域の鉱山はドワーフにとってこの上なく神聖な場所。そこにヒューマンを入れる事に反発する者も当然いて、それに便乗して聖域の管理者たちも何やら暗躍しているらしい。
らしいのだけども、一ヶ月もかけで準備を整えていたハズなのに、どうしてこうなる?
それとも、これも実は王たちの企みの一つだったりするのだろうか?
ありそうで困る。
まあとりあえず、選定の儀の為に聖域の鉱山に入るのは王によって認められているのだし、周りは無視して入ってしまう事にしよう。
「止まれ。止まらんかっ! この不届き者が」
聖域の管理者と思われ方々が何やらそんな事を叫びながら、こちらに攻撃魔法を問答無用で撃ちまくって来るけれども、全て防御障壁で無効化しているので何の問題も無い。
勿論、攻撃されているからと言って反撃するつもりは無い。無いのだけども、こちらが反撃しなくても後になって、聖域への立ち入りを阻んでいると俺の方から攻撃して来たので反撃したとか言われそうだし、キチンと詳細は映像として記録しておく。
確実に俺を殺しに来ていると判る、渾身の必殺の魔法が次から次へと飛んでくるのだけども、俺の防御障壁を敗れる程の力はないのは幸いだろう。
これは、本当にレジェンドクラスに成っていて良かった。
もしもなれていなかったなら、流石に無抵抗で全ての攻撃を障壁だけで相殺し続けるのは不可能だっただろう。
「この聖域は、貴様の様な下賤の者が立ち入って良い場所ではないのだ」
「レギン王に許可をいただいているので、如何に管理者であっても止める権限は持っていないはずですが?」
そう、彼らには本来、俺が聖域に入るのを止める権限はない。
無いのにも拘らず俺を殺す気で攻撃してくるのはどうしたのか?
そもそも、こんな愚行を冒して自分たちが無事で済むとでも思っているのだろうか?
仮にそう思っているのならば愚かに過ぎる。多分、自分たちの地位と権力、立場に酔って、何を仕出かしても許されるとでも錯覚しているのだろうけれども、当然ながらそんなはずはない。
後に待っているのは、彼らの身の破滅だ。
多分、この目障りな聖域の管理者たちを一掃してしまう口実を造るのも、俺にこの選定の儀をやらせた理由の一つなのだろう。
「王の許可など関係ない。そもそも、この神聖なる地に貴様の様な下等種の立ち入りを許可するような愚か者に王たる資格などないのだ」
おやおや、まあ本心なんだろうけれども、決定的な一言を言ってしまったな。
これでこいつらの未来は完全に閉ざされた。
しかし、特権階級に胡坐をかいて好き勝手なふるまいをするバカは何処にでもいるものだな。ヒューマンの国を旅して周っている時にはそれこそいくらでもお目にかかったものだけども、ドワーフの国でも相手をする事になるとは思っていなかった。
まあ、どんな種族でも、どんな世界でもこの手のバカは一定数いる証拠だろう。
腐敗の無い社会は存在しえないし、人間もまた腐敗に抗えない。
ただ、それに屈することなく、正しい社会の在り方を維持し続けて行こうとする意志こそが、何よりも正しく貴重である。
今、レギン王によってなされている腐敗の一掃もその一端だろう。
そして、それに俺を巻き込む形で、俺に腐敗を掃討する様子を見せるのも思惑の一つに違いない。
正直、政治的な思惑とか興味がないのだけども、俺の立場上無関係でいられる訳も無いのがもどかしい。
一国の王女を五人も弟子にしていながら、政治的に無関係でいられるハズがない事くらいは判っているのだけどね・・・。
「我らドワーフの誇りにかけて、貴様にこれ以上の好き勝手はさせん」
それにしても、こいつらは随分と俺の事を見下しているな。
イヤ、この場合は俺個人ではなくてヒューマンをか・・・。
まあ、それもある意味で仕方がないのも判っているけれどね。
ぶっちゃけ、二万年も他種族との交流を断たれて孤立した存在。そこまで徹底した処置を断行されるほどの愚行を犯した種族に対して、見下す風潮が生まれない方がおかしいだろう。
なのだけども、これからの事を考えると好ましくない状況だ。
これからヒューマン他種族との関係修復を進めるのに、明らかに大きな障害になるのが目に見えている。
それにしても、誇り云々を口にするのならば、多勢に無勢で一人を攻撃し続けるのは如何なものだろうか?
言ったところで詮無き事だと判っているけどね・・・。
それにしても、と辺りを見回してみる。
聖域に入って感じたのだけども、確かにここは聖域と呼ばれるだけの何かがある。
具体的に言えば、ここには世界樹の領域と同じ感じがする。
勿論、あんな強烈な力を感じる訳じゃない。もしそうだったら、そもそも、ここに管理者が常駐すること自体が不可能なのだから、全く同じではないのだけども、ここにもそれに近い何かを感じるのだ。
つまりは世界樹ユグドラシルと同じ、アカシックレコードの一欠けに近い何かがこの地にもあるのだろうか?
そんな事を考えている内に、鉱山の入り口にまで辿り着いたのだけども、これは困った。行動の入り口を管理者たちが完全に塞いでしまっている。
正直、何が彼らをここまで突き動かすのだろうと思う。
「我らが誇りにかけて、ここから先には一歩も通さん」
誇り。誇りね。果たして彼らを突き動かしているのは本当に誇りと呼べるものなのだろうか?
疑問に思うが今はこの状況をどうするかだ。
本当に困った状況だ。
選定の儀は一人で達成する事が決められているので、目の前に立ち塞がる管理者たちをどうにかしてもらう為に人を呼んでくる事も出来ない。
とは言っても、このまま無視して行動の中に入っていくのも難しいと言うよりもまず無理だろう。
どうにかして排除しないといけないのだけども、彼らから一方的に攻撃を仕掛けられているとは言え、ここで反撃して一掃してしまうのは控えるべきだろう。
そうするとどうしたらいいのか、取るべき有効な手段が思い浮かばないから困ったものだ。
「これ以上、我らが神聖なる聖域を穢させはせん」
「こちらにはこの聖域を穢すつもりは全くありませんよ。そんな事をするほど愚かではありませんし。この聖域の意味が理解できないほど無能でもありません。だからこそ、私は誠意をもって真剣に儀式を執り行うつもりですが」
恐らくだが、この選定の儀は世界樹の洗礼と同じ意味を持っている。
前回、世界樹の使徒に選ばれた事で俺は大幅に力を増し、レジェンドクラスの力を手にした。
では、今回は一体どうなるのか?
全く想像がつかない。
そして、もう一つ大きな疑念もある。
世界樹の洗礼と同じ意味を持つ儀式だとしたならば、この選定の儀を俺が受ける事になったのには、レギン王たちの思惑だけではないもっと大きな何かの意思があるのではないだろうか?
そうでなければ、こうも連続してこの世界の意思そのものと接し、相対する機会が訪れる事に説明が付かない気がする。
俺がこの世界に転生した理由が明らかになろうとしている?
多分違うだろう。
俺自身、自分が何か特別な使命を課せられてこの世界に転生したとは思わない。もしそうなら、そもそも俺自身が何かしらの記憶を持っているハズだ。
だけど、俺には何かしら使命を授けられた記憶も自覚も一切ない。
これ自体が、俺が単にこの世界の気紛れとも言って良い現象によって転生しただけの明確な証拠だろう。
では、どうして世界の根幹に係わる事象と相対するような事になっているのか?
それが大きな疑問であり問題でもある。
俺は一体どこに向かっているのか?
或いはどこに向かわされているのか?
それが全く分からないが故に困惑してしまうし、どうしたらいいのかもまるで分らない。
おっと、今は余計な事を考える時じゃない。
目の前の管理者たちをどうにかするのを考えないと。
それにしても、聖域の管理者か。この世界に宗教はないのだけど、こいつらはある意味で僧侶などに近い立場にある。それも堕落した破戒僧の類だ。
こういう輩とまともに相手が出来るとはそもそも思わっていなかったけれども、ここまで話が通じないのも如何なものだろう?
ドワーフもまた人それぞれで勝たずけるには流石にと思う程に煩わしい。
お宅ら、人の事をとやかく言う前に、まずは自分自身を顧みてみたらどうだと本気で思う。
狂信者とはまた違うだろう。
自分たちが絶対な正しいと盲信している。まるで自分こそが神であるかのように思い上がった狂者の類だ。
「黙るがよい。下劣なるヒューマン風情が、貴様の様な下等なる存在が、我らも前にいること自体が不遜であり許されざる罪なのだ」
本当にどうしたものかね?
本気でここに居る全員をカケラみ残さず消し去ってしまいたくなってきた。
増長するのも大概にしておけよ。
そう声を荒げ掛けた瞬間。一気に状況が変化した。
目の前に立ち塞がっていたドワーフの管理者たちの姿が忽然と消える。
「はっ・・・・・・?」
あまりに唐突な出来事に何の反応も出来ずに立ち尽くすしかない。
一体何が起きたのかもまるで分らない。
判らないけれども、とりあえずこれで邪魔者が居なくなったことは確かだろう。
判らない事を何時までも考えていても無駄たと、気を取り直して坑道に入る事にする。
坑道の内部は、魔域のものとはまるで違って、聖地である事を実感させられる荘厳な造りで、神聖な空気に満ちている。
なんだろう?
一種の聖堂に近雰囲気がある。
真っ直ぐに一本道で続く坑道は、鉱山としてはどうなのだろうと思うけれども、ここがドワーフにとって神聖なる聖地であるからか、むしろ納得してしまうだけの何かがある。
そして、真っ直ぐに進んでいくと魔域の鉱山と同じ。宙に浮く球体が中大に鎮座する広場に出る。
ただし、その球体は魔域のものとは違って、何もかもを映し出して、曝け出してしまうかのような純白。
漆黒よりも生物の根源的に恐怖を煽るかのような、どこまでも曇りのない純粋な透き通った白だった。
思わず後ずさりしそうになってしまうのを何とか堪えて、魔域の時と同じ要領で純白の球体に全力で魔力と闘気を送り込む。
そうすると、また何時の間にか現れる謎の鉱物。
この鉱物が、この世界の根源と繋がる何かなのか?
まったく判らないので今はとりあえず放置。
さっさと王都に戻って最後の、二つの鉱物を合わせて俺の本質を表す何かを精製する儀をしてしまおう。
それに、いきなり居なくなった管理者たちの事も気になる。
彼らがどうなったのかも戻れば判るだろう。
それでは、早く坑道を出て王都に戻ろとしよう。
そうすれば、今まで解らない事ばかりだった今回の一件も、少しはどういう事なのは判るはずだ。
そんな訳でさっさと戻ろう。そうしよう。
何か、更に面倒な事が待ち受けてる気もするけどね・・・。




