81
リリア視点、二回目です。
いったい自分たちはどうなってしまうのだろう?
ここの所そんな不安を感じてしまう事がある。
特にこの前は酷かった。
相手は三千を超えるオーガの大軍。
Sクラスのカオス・オーガやデス・オーガはアベルたちが倒してくれたとは言え、Aランクのオーガ・ロードやB+ランクのレッド・オーガは数え切れない程に残っている。
私たちもA+ランクでも上位の実力を持っている自覚はあるけれども、相手も同格の魔物の上に、数の差は想像を絶する程に隔絶している。
この前のオーガ戦の反省兼リベンジにちょうどいい相手だと放り込まれたけれども、正直、勝てるとはカケラも思わなかった。
危なくなったらすぐに助けてくれるのは疑いもしなかったけれども、それでもここで死んでしまうのだなと言う恐怖は拭えなかった。
それなのに、気が付けば私たちはオーガの大軍を殲滅していた。
気が付かない内に、私たちもアベルのような常軌を逸した非常識の塊にさせられているのではないだろうか?
そんな不安が私たちの中に過ってしまう。
だって、普通に考えたらありえない。同格のオーガを相手に、数百倍もの戦力差を覆して殲滅してしまうなんて・・・。
普通だったら、いくらA+ランクの冒険者でも七人程度じゃあ一度に相手にするのは、精々私たちがこの前倒した百匹から多くても三百匹程度を相手にするので精一杯。
それ以上を相手にしようにも魔力や闘気がもたない。
勿論、私たちだってそれは同じ、だけど戦い切れたのは魔晶石による魔力の補給によって戦線を維持したから。
・・・普通、冒険者は魔晶石を駆っての魔力回復まで必要とする戦いはしない。
何故などというまでも無く、間違いなく激戦、命の危険を伴う危険な戦いになると判っている相手に戦いを挑む事がそもそもないから。
冒険者は魔物を倒して生活の糧を得る職業。だからこそ、冒険者は自分の力量並み合った魔物を狩るのが基本。出来る限り危険は侵さない様に、確実に討伐できると判断した魔物を討伐するのが基本。
間違っても、今回みたいに適性を遥かに超える規模の魔物大軍に戦いを仕掛けるなんて事は、普通ならば絶対にしない。
冒険者は確かに魔物を倒し、その侵攻の脅威から人々を守る役割を担っているけれども、基本的には自分たちの生活の為に戦っている。だからこそ、命懸けの危険な戦いなんて積極的にやるなんてありえない。
そこが、アベルやミランダさん、それに王族としての使命を背負ったユリィさんたちとの明確な違いだと思う。
そして、そんな人たちと共にいる私たちも、当然、後者に、自らの命を賭けた危険な戦いにすら積極的に挑む冒険者になっている。
その違いが、実力の差として明確に現れている。
実質問題として、私たちの実力はあくまでヒューマンのだけども・・・、同ランクの他の冒険者よりも確実に高い。
それは、今までに獲得した報酬としても現れている。
アベルに出会ってからはこれも何時もの事なのだけども、今回の戦いで得た金額もまた信じられない額になっている。
さっき言った様にアベルの弟子になってからこれまででも信じられない程の金額を稼いでいる。
正直、こんな大金を手にしてると思うと怖くて仕方がない。全てにこれからの人生を遊んで暮らしても使い切れない程の金額を私たちは得ている。
こんな大金を手に入れていったいどうしろと?
金銭感覚が狂ってしまうどころか、崩壊してしまいそうで怖い。
それに、身を持ち崩してしまうんじゃないかと心配になってしまう。
それに、ヒューマンの国に戻ったらシッカリと気をつけないといけない。
こんな大金を持っていると知られたら、それを目当てに絡んでくるのが確実に居るから・・・。
「それでも、アベルさんたちと一緒に居る限りは安全ですけどね」
不安を漏らすと、アレッサさんがお金目的で知被いて切るのを相手にする心配はとりあえずはしなくて大丈夫だと指摘してくれる。
それよりも、アベルたちと一緒に居る間に自分たちを強く律しられるようになれないといけないのが問題だとの事。
「お金の事もそうだけど、私たちは短期間に一気に強くなり過ぎているわ。今の自分の力を正確に把握して、出来る事と出来ない事をハッキリと理解して、自分を律しないと力に溺れてしまうか、増長して自分を見失った結果死んでしまう事になるのは確定だと思うわ」
「確かにそうですね。正直、私たちは自分でも怖くなるくらいの勢いで強くなり過ぎていると思います。今の自分を冷静に見つめて、シッカリと自分を保てるようにしないと、取り返しのつかない事になってしまいそうです」
本当に、このままじゃあ自分を見失ってしまいそうで怖くて仕方がない。
それは私たち全員が感じている不安だと思う。
アベルとミランダさんは論外として、ユリィさんたちはは判らない。シャクティさんたちは出会った時にはもうSクラスだったし、ユリィさんとケイさんにしても、アベルに出会ってSクラスに成るのが早まっただけで、元からなるのは確定していたのだから、彼女たちは初めから今の力を持つ事を自覚していたはず。
だけど私たちは違う。アベルに出会うまではそこそこの冒険者に過ぎなくて、まさかAランクにまで上り詰めるなんて夢にも思っっていなかった。
ましていずれSクラスに成るなんて想像した事も無い。
アベルに出会うまではそれこそ夢物語どころか、そんな事を考えているなんて周りに知れたら頭がオカシイと思われるだけの、それこそ別世界の出来事、話でしかなかったのに、何時の間にか私たちの現実になってしまっている・・・。
アベルたちは私たちも間違いなく、数年後にはSランクに成っているという。
だけど、それが何よりの問題。
今のままの私たちじゃあ、Sランクに成ったらどうなってしまうか判らない・・・。
「でも、自覚を持つて言うのが一番難しいよ・・・」
私の言葉にみんな無言で頷く。
そう、何よりも問題なのは、私たちが強者としての自覚を持ち得ていない事。
それは、アベルやミランダさん、ユリィさんたちがごく自然に持つもので、絶対的な強者としての心得のようなもの。
正直、私たちは自分が信じられない程に強くなっている事は自覚していても、だからといって強者として自覚してそれ相応の振る舞いが出来ているかと言えば、全く出来ていない。
それが何よりの問題だと判っているのだけども、それじゃあどうすればいいのかが全然わからない。
力を持つ者は、自分の持つ力に相応しい責任を負う。
それはこの世界における決まり。
私たちも、今持つ力に相応しいだけの責任を負っている事だけは判っている。
だけど、判っていても実践できていない。
それどころか、どうすればいいのかまるで判らない。
アベルやミランダさん、ユリィさんたちに話を聞いたり説明してもらったりしているのだけども、全然どうすればいいのか掴めずにいる。
だからこそ判る。
このままじゃあ私たちは自滅してしまうと・・・。
自分の力に飲み込まれで自滅してしまうか、誰かにいいように使われる道具に成り下がってしまうか・・・。
どちらにしても、このままじゃあ自分を見失ってしまうのは確か。
だからこそ、早々に自分の力に相応しい自覚と覚悟が必要になる。
だけど、どうにかなるのか不安で仕方がない。
アベルが気付いていないはずがないし、その為の対策、その方向での修行も進めているのだろうし、ミランダさんやユリィさんたちも私たちをフォローして、また導いてくれようとしている。
それでも自信がない。私たちは本当にSランクに相応しい自分になれるのか・・・。
正直、もう逃げ出したくなる気持ちもある。
既にこれからの人生を遊んで暮らしていけるだけの金額が私たちの手元にある。
その意味では、既に私たちにはこれ以上冒険者を続ける理由がない。
もう戦いから身を引いて静かに暮らしてしまいたいなという誘惑にかられる事も多い。
だけど、その一方でそんな事は出来ないだろうと判ってもいる。
私たちは既に周りから見ればありえない程の力と富を手に入れている。
もし引退して静かに暮らそうと思っても、今のままじゃあそれらを目当てに私たちのもとを訪れる者が後を断たない事くらいは容易に想像できる。
現実問題として、今の私たちは良いカモ、標的なのだ。
私たちは既にA+ランクの実力を持ち、しかもグングニールを、強力な装機竜人までも個人で所有している。
そう、所有している・・・。
元々、私たちとユリィさんたちはアベルと一緒に十万年前の遺跡を見付けて、グングニールやヒュペリオン等を発見していたので、当然のように私たちにもその所有権があったのだ。
故に、私たちにもグングニールの販売価格の一部が回ってきていて、そのあまりの金額に気を失いそうになったし。私たちが専用機として使っているグングニールも当然ながら自分の所有機になっている。
つまり私たちは現状でSクラスと対等の力を持つ上に、数年後にSクラスに成ったとすればレジェンドクラス級の力を持つ事すらも確定している。
そんな美味し過ぎねカモがアベルのもとを離れてウロウロしていたら?
取り込もうと近付いて来る者も後を断たないだろうけれども、それよりも確実に国が動く。
当然のように国が取り込もうと画策して来るのは目に見えている。
それもなりふり構わず、どんな手を使ってでも手元に置こうとする国が後を断たないだろう。
それもアベル曰く、ヒューマン至上主義のバカ共や、戦争による領地拡大などの絵空事を夢想しているバカ共がこぞって動き出して、それこそ取り返しのつかない大混乱に陥ってしまうのも目に見えている。
それに、そんなバカな国でなくても私たちの戦力は魅力的だろう。
アベルたちと一緒に旅をしていると一層深く実感するけれども、間違いなくここのところ魔物の侵攻が激しさを増している。
そんな脅威が増大している状況で、どの国も戦力の増強に励んでいる。
そんな国々にとって、私たちは喉から手が出るほどに欲しい人材だろう。
単に私たちの力だけでなく、私たちを取り込めればアベルやミランダさんたちとも強い繋がりを持てるのも大きい。むしろ、そちらの方が本命かも知れない。
そして、私たちはそんな動くに抗えないだろう。
もし今、普通の生活がしたいとアベルのもとを離れたらどうなるか、判っているからこそ怖い。
多分、アベルはその時のための対策も既にしているだろうけれども、自分たちの我儘では慣れていくのに最後まで面倒を賭けるなんたどうかしていると思う・・・。
それに、正直に言って今のこの暖かな日常から離れたくもない気持ちもある。
自分の気持ちが良く判らない。本当はどうしたいのかがまるで判らない。
それが今の私たち。
多分、それも私たちに自覚と覚悟が足りないのが原因だと思う。
今の私たちは深い迷いの中にいる。
そこから抜け出せるかも判らない。
それは多分、私たちがアベルに甘えたがっているのが理由。
甘えている自覚はある。その上で、多分もっとアベルに甘えたいと私たちは思っている。
でもその一方で、いずれは彼と対等に、一緒に並んで歩きたいとも思っている。
ミランダさんに様に・・・。
本当に私たちはどうしたいのだろう?
答えが出ないまま悩んでいる。誰かに相談したいけれどもこんなこと相談できない。
「随分悩んでいるみたいね?」
モヤモヤしているとミランダさんが声をかけてくる。
何時の間に来たのだろう?
まるで気が付かなかったというよりも、何時からここに居たのだろう?
何時から私たちの様子を見ていたのか・・・。非常に気になるのだけど・・・。
「ああ、気にしなくていいわよ。今来たばかりだから」
本当に、何時も思うのだけどもこの人は人の心が読めるのじゃあないだろうか?
別に本当に人の心を読めたとしても驚きはしない。そういう人だ。
「何か失礼な事を考えている気がするけどまあいいわ。貴方たちも悩んでいるようだし、アベルではなかなか難しいでしょうから私がアドバイスしてあげる」
やっぱり心を読んでると確信してしまいそう。
「どんな悩みも時間をかけて真剣に向き合えばいいのよ。悩みの無い人生なんてありえないのだから、一つ一つの悩みに真剣に向き合って、自分で答を出していく。それが何よりも大切よ」
「それはそうですが・・・」
ミランダさんのアドバイスにアレッサさんが何か言おうとして言いよどむ。
何を言おうとしたのかをなんとなくだけど判る・・・。
「別に失敗したってかまわないでしょ? 生きている限りやり直していけるのだから。問題なのは立ち止まってしまう事。失敗に負けて止まってしまう事よ。だけど、貴方たちは大丈夫。私たちが全力で支えてあげるし、見守り続けてあげるから」
優しく、それでいて自然に、だから存分に悩んで、自分で答を見付けて、そして失敗から多くの事を学んでいきなさい。と続けられて言葉を失う。
「貴方たちが悩むのも当然なのよ。貴方たちの様な例はこれまでにないし、どうしたらいいのか判らなくなるのも同然だもの。だから、これからも悩みは尽きないだろうけれども、諦めずに前に進んでほしいわ」
そう言い残すと用は済んだばかりに、お礼を言う間もなくミランダさんはいなくなってしまう。
お礼以前に、呆然としてしまって何も言えなかったのだけども・・・。
だけど、彼女の気持ちだけは伝わった。
こんなに嬉しい事はないと思う。
だから、私たちはこれからも悩みながら進んで行こうと思う。
投稿時に誰の視点か入れるのを忘れていました。申し訳ありません。




