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 さて、ケイに聞いて判明した選定の儀の詳細だが、要するに聖域と魔域の中にある鉱山の最奥からある特殊な鉱物を持ち帰ると言うものらしい。

 聖域と魔域から二つの鉱物を無事に持ち帰り、更にその二つの鉱物から自らの現身となる物を加工する。それが選定の儀らしい。

 何故、それが選定の儀と呼ばれるかと言えば、聖域の魔域の鉱山の最奥でのみ採掘できるその鉱物は、採掘した人物の特性に合わせてその在り方を変えるらしい。

 オリハルコンやアダマンタイトなどになる事もあれば、ただの屑鉄になってしまう事もある。

 そして、加工して出来上がる物もまた、本人の特性を示すものになるそうだ。

 或いは剣であり、鏡であり、鎧であり、装飾品である。

 そして、場合によってはただのガラクタ、ゴミに姿を変える。

 かつて邪呪鋼と呼ばれる物で禍々しい呪いを撒き散らす魔剣を生み出した者もいるらしい。

 聖と邪。光と闇。相反する属性を持つ二つの鉱物を合わせる事で、その者の真の姿を映し出す試金石となるのだそうだ。


 それは、まさしく当人の本質を、性質をそのまま浮き彫りにする儀式。暴き出す儀式と言い換えても良い。選定の儀とは良く言ったものだ。

 つまり、レイザラム側には確実に俺の本質を見極めようとしている意図があるという事だ。

 これはどう解釈すればいいのだろうか?

 それに、説明を聞くと流石に不安になる。

 俺の本質とは一体どんなモノだろうか?

 どんな物が出来るかまるで分らないのもなかなか怖い。 

 この儀式の結果次第では、俺のこれからの人生も百八十度変わってしまいかねない。

 本当に、よくもまあこんな儀式を強要してくれるものだとも思う。


 それに、説明はされなかったがこの儀式を俺にさせるのは、確実に向こう側の思惑の為だ。

 そもそも、儀式までに一ヶ月もの猶予があるのがその証拠に他ならない。

 俺たちがこの国を訪れる前にケイに連絡を入れて許可してもらっているのだから、元々俺にこの儀式をさせるつもりだったのなら、とっくに準備が終わっていて、着くと当時に問答無用でさせられていてもおかしくはない。

 それを、ワザワザ一か月後を指定するのは、レイザラム側がこの儀式を通じて何かしらを成そうとしている証拠だ。

 その辺りの事情も、選定の儀が終わった後に教えてもらえるのだろうが、そもそも、どうなるか未知数の儀式をよういた企みが本当に上手くいく保証なんてないのは判っているのだろうか?

 ついでに、自分たちの勝手な都合で人の人生を勝手に賭けないでもらいたい。

 まあ、今更文句を言っても既に遅いのだけど・・・。


「随分と思い詰めているみたいね?」

「それは流石にね。今回は本気で俺の人生が掛かっているから」


 そう答えると、ミランダはすぐに意図を察してくれたようだ。

 むしろ、彼女にも俺と同じ不安があるのだろう。

 いや、彼女だけじゃない。儀式の内容を聞いて、皆が同じ心配をしてくれているのが解る。

 判るからこそ不安も増す。

 もしも、儀式の結果俺が生み出した物が忌まわしき物だったら?

 俺の本質が邪悪で醜悪なものだという事を暴き出されたら?

 どうしても不安は尽きない。

 因みに、今回選定の儀を行うのは俺だけだ。ミランダもケイも必要ないとの事。

 

「流石に考え過ぎだと思うけどね。これまでキミと一緒に居て、私たちもキミの事を少しは理解しているつもりだよ。その私たちから見て、キミの本質が邪悪で醜悪な忌むべき存在なんて事はあるはずがない」

「そうは言っても、人の本質なんて、それこそ自分自身が一番理解出来ないモノだしね」


 それに、流石に呪いの魔剣のような邪悪なものは生み出さなくても、ガラクタやゴミ屑を生み出す確率はそれなりに高いと思う。

 本当に、実際に何が出来るのか判らないというのは困ったものだ。


「それこそ、今の内に一回試してしまうのもアリかもしれないよな」


 むしろ、それが一番確実だろう。

 魔域の鉱山はともかく、聖域の鉱山は厳重な警備が敷かれているだろうが、俺ならば潜入するのも容易いだろう。

 鉱山の最奥からその特殊な鉱物とやらを取ってきて、実際に何が出来るのか確認してしまうのが一番だ。

 だけど、これはケイに必死に止められてしまった。

 まあ、彼女からしたら当然だろう。魔域の方はともかく、聖域に無断で侵入するのは犯罪だ。王女として流石に犯罪を止めない訳にはいかないだろう。

 それでも、彼女も今回の件が納得できていないのは確かだ。


 そもそも、選定の儀が執り行われること自体が五百年ぶりらしい。

 さもありなんだ。こんなどんな結果が出るかも判らない様な儀式を進んで受けたいと思う様な酔狂な奴もそうそういないだろう。

 結果次第では自分の人生を棒に振ると判った上で、それでも臨むのならば、相応の覚悟以前に、相当な理由があるだろう。

 過去にこの儀式を受けたのも、相当な理由があってやむにやまれずに受けたた人たちばかりなのじゃないかと俺は思う。

 少なくても、自分から進んで受けたいと願い出た人は少ないだろう。

 そうでなければ、儀式自体が五百年ぶりなんて事はないはずだ。


「そんなに心配する事ないですよ。アベルなら絶対に大丈夫ですから。父上もそう確信したからこそ、こんな無茶な事を画策したんですし」


 ケイの中でも父王が何か画策しているのは確定なのだけども、それについて不満はあっても心配はしていないようなのが俺的には謎なのだけど。


「大丈夫だと保証できる根拠がないはずだけど?」

「それは大丈夫ですよ。だってアベルは世界樹の使徒なんですから。選定の儀でおかしな結果になるなんてありえません」


 俺の疑問に自信満々で答えてくれたのはユリィ。

 成程ね?

 つまり世界樹のお墨付きがあるから大丈夫だと・・・。

 うん。確かに理解できるんだけど同時に納得できない。

 それって俺ではなくて世界樹を信じているって事だよな?

 まあ、いくらなんでも俺に世界樹よりも重い信頼と信用があるなんて己惚れるつもりは無いけどね。


 それにしても成程、世界樹の使徒か。

 確かにその称号だけで信頼するに値するかもしれない。

 世界樹が認めた者の内面が邪悪だったり醜悪であったりするはずもないし、取るに足らない者であるはずもない。

 世界そのものに認められるだけの価値がある者だとすでに認められていると言う訳だ。

 もっとも、それならワザワザ選定の儀とやらを改めてやる理由も必要も無いだろと言う話になるのだけど、そこはやっぱり王たちが何か画策しているという事だろう。

 ユグドラシルの時は事前に説明してもらえたのに、今回は何の説明もされないまま一ヶ月もまたされる羽目になったのでモヤモヤするなと言う方が無理だと思う。


「成程ね。世界樹のお墨付きか、そう思うと心配するだけ無駄だよな。でも、何が目的なのか全く判らないのは結構イライラする」

「それは確かに」


 心配する必要は無くても、焦らされたまま過ごす一ヶ月は中々ストレスだと言うと、三人とも即座に頷いた。

 焦らされるのはあまり好きではないのだ。それこそ・・・。


「暇だから何を企んでいるのか探ってみようか?」

「あの、それもどうかと・・・」


 いっそスパイの真似事でもしてみようかなんて気になっってくる。

 ケイとしてはそれは本気で困るだろうからやらないけどね。


「いや、流石に冗談だから」


 スパイ活動なんて専門の特殊な訓練を積んだ専門家でしか出来はしない。

 ズブの素人の俺にそんな真似できるはずがないしと言うと、何故か白い目で見られてしまっった。

 曰く。


「キミの場合は特殊技能なんてなくても出来る所が怖いんだけど」


 だそうだ。

 実際に、冷静に考えてみれば、厳重な警備が成されている聖域に侵入できるのだから、気付かれずに秘密を探るのもある意味簡単かもしれない。

 て言うか出来るわ。

 イヤ。本当に流石にやらないよ?

 それにしても、むしろスパイをするの前提で止められるのは少し寂しいのだけど、一体どんな風に思われているんだ俺?

 答えが判りきってる気もするから聞かないけどね・・・。


「そうなると、儀式までの一ヶ月をどう過ごすか何だけど」


 レギン王辺りが何か画策して暗躍しているのなら、あまり派手に動かない方が良い異能性もあるのだけども、情報が全くないので判断のしようがない。


「何時も通りでいいと思うわよ。魔物の討伐と修行。それにデートをしながら過ごしましょう」

「そうですね。いつも通り過ごすのが一番だと思います。ただ、アベルは少し自重してくださいね」

「確かに、ここで何か騒動を起こしてしまってはと思うし」


 普段通りでいいと言われたけど、改めて言われると殺伐とした日常だよな。

 デートは何時もしている訳じゃないし。

 それと、またしてもヒドイ事を言われているのは気のせいか?

 ユグドラシル同様。レイザラムでも自重しないといけないのは判っているけど・・・。

 て言うか、流石にもう禁呪の試し打ちみたいな暴挙は二度とやらないってちゃんと伝えてあるはずなんだけど、どうも信用がない気がする。

 今迄の行動のどこに信頼できる要素があるんだと言われるとそれまでかも知れないけど・・・。

 とりあえず、一ヶ月は何時も通り過ごしますか。

 何がどうなるか判らない選定の儀の事を何時までも考えていても仕方がないだろう。



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