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 さて、無事に挨拶回りも終えてユグドラシルからレイザラムへの旅路に出る事が出来たのだけども、メリアたちは一体どうしたのだろう?

 まさか、しばらくはゆっくり休んでくれていいと言ったら、自分たちだけで魔物の討伐に向かうなんて言い出すとは思いもしなかった。

 なんだろう? 彼女たちがバトルマニアへの道を転がり落ちてしまっているのだろうか・・・?

 もしそうなら、間違いなく責任は俺にある。

 思えば、年頃の女の子とは思えない殺伐とした青春を送らさせている自覚はある。

 冒険者なのだから仕方がなと言い訳もできるけれども、このままではいけないのではないかと真剣に悩む。

 俺だけでは手に負えないとミランダにも相談したのだけども、


「放っておきなさい。彼女たちも色々と思う事や感じる事があるのよ」


 と完全に放置の構え。

 彼女がそういうのなら大丈夫なのだろうけれども、メリアたちの想いを全く理解できない、察する事の出来ない俺はモヤモヤしてしまう。

 それと、この三日間で何か得る物があったらしく、どこか満足げな様子なのだけども、それについても教えてくれないのもどうかと思う。

 

 結局、俺が聞けたのは遭遇しオーガの群に対して、安全を確保するために過剰な攻撃を仕掛けて一気に殲滅したのだけども、やはり魔石や装備品なども消し飛んでしまっているのをどうにか出来ないかとの事だけだった。

 いやまあ、俺は彼女たちの師匠なんだし、戦いについて教えるのは当然なんだけど・・・。

 もっと別の面でも師匠らしい事をしたいのだけど、

 流石に無理か・・・。

 彼女たちにしてみたら俺はどう見ても年下の男の子でしかない。戦いの術を教わるのはともかく、人生相談をする相手としてはどう考えても不釣り合いだろう。


 とりあえずは相談に対する答えとして、雷属性の広域殲滅魔法が最適だと伝えておく。


「雷属性ですか?」


 まあ、これには首を傾げていたけれども、

 雷属性は使い手の少ない属性でもある。それでも、実はノインが使い手であるし、実の所Sクラスにランクアップすれば使える魔法の属性も確実に増える。

 何がゲームのレベルアップのようだが、Aランクまでとは比べ物にならない程に隔絶した地下にがある証明でもある。

 そんな訳で、数年後には使える属性魔法も増えて戦力も戦術の幅も飛躍的に増大するのは確実なので、今の内にその時に備えてある程度のシュミレートをしておいた方が良い。

 まあ、どの属性の魔法が新たに使えるようになるかは、実際にSクラスへランクアップしてみないと判らないのだけども、ある程度予測はできるので今の内から数年後の自分を仮定してみるのが良いだろう。

 多分だけど、メリアとアリアは確実に雷属性を取得すると思うし。

 

 でだ、雷属性がどのように効果的か言うまでもないだろう。

 広範囲に効果をもたらすサンダー・ストリームなどならば、百匹単位のオーガを一気に殲滅する事も容易いし、装備品の風の防御膜も雷には効果がない。更には金属製の鎧に全身を覆っているような相手には効果倍増だ。防御障壁を突破してそのまま一気に殲滅可能だ。

 

 因みに、俺が良く防御障壁を展開する上位の魔物を相手にするのに、障壁を破るための魔法とその上で魔物本体を倒すための魔法の二段階で戦っているから勘違いされているかも知れないけれども、実際には魔法でも一回の攻撃で障壁諸共魔物を屠る事も可能だ。

 では、何故そうしないかと言えば、そちらの方が無駄に魔力の消費が大きくなって無駄だからだ。まあ、障壁を破壊しても次の攻撃を避けられてしまっては意味がないので、確実性を取るのならば一回の魔法で仕留める方が良いかも知れないけれども、

 それも、広域殲滅魔法の場合は関係ない。広域殲滅魔法の場合は、障壁を破る威力があれば後は確実に仕留められる。 

 過剰火力になってしまう場合が多いのだけども、それも雷属性魔法の場合には問題ない。雷に焼かれてオーガの体はボロボロになるけれども、角や魔石、鎧などの装備品は無事に回収できるので、安全に殲滅できる上に魔物の素材も確実に手に入れられるので利益も高い。

 オーガなどの人型の魔物の殲滅には最適な魔法なのだ。

 まあ、それもやり過ぎてしまっては意味がないけれども、特に、プラズマ・ブレイクなどの、プラズマレベルの雷魔法を使ったりすると完全に相手を消し去ってカケラも残らなかったりするし。

 因みに、アストラル系の魔法は消費する魔力の桁が違うので、Sランク以上の魔物相手でなければ割に合わない。と言うか、今のメリアたちでは倒したはいいが魔力の使い過ぎでぶっ倒れてしまうだろう。

 そんな訳で、適度な威力の雷魔法がオーガ等を相手にするには一番効率がいい訳だ。

 周辺を風魔法で真空にする方法もあるけど、これは実は結構簡単に破られるし、破られると自分の方が危険になるのでお勧めしない。

 まあ、この辺りの事は永遠に研究し続けないといけない定なんだけどね。


 いかに魔物に傷をつけずに討伐するか、その辺りの事を考えないといけないのも冒険者の宿命だ。

 軍人や騎士であればその辺りをいちいち気にする必要はない。

 国から決められた給金が出るので、討伐した魔物の素材の販売分の利益はあくまで副収入に過ぎない。

 だからこそ、軍隊や騎士団はあくまでも魔物の殲滅を最優先にする。

 それに対して、冒険者は討伐して魔物の素材の売り上げが得る収入の大半を占める。

 魔物を討伐すればそれに応じた討伐報酬もおるが、高位の冒険者ほど必要となる装備などにかかる出費も大きくなるので、それだけではやりくりできない。

 結局、魔物の肉や毛皮などの売り上げが収入の大半を占める辺りは、地球のファンタジー物の定番と変わらない。それでまあ、当然ながらそうなると、討伐して魔物の状態が収入に大きく影響してくる訳だ。

 過剰火力で消し炭になった魔物では素材として価値も無いのでSランクであっても売買価格はほぼゼロ。

 ゲームであれば、過剰火力の魔法を連発して跡形も無く魔物を消し去っても何故かアイテムが残っていたりするのだけども、現実ではそうはいかない。

 この辺りも、前世に読んだ小説などで異世界に転生なり転移した時のお決まりだった気もするけれども、実際に出来る限り傷付けないで魔物を倒すのは中々難しい。

 まあ、これも本当に完全な戦闘職である軍隊や騎士団と違って、戦闘職と言っても、狩人や猟師のような一面のある冒険者の宿命だ。

 アイン・ソフ・オウルのようなアストラル魔法を覚えたらその悩みともオサラバなのは内緒で、

 イヤ、消費魔力が膨大過ぎるから結局は同じか・・・。


 それにしても、メリアたちは一体どこに向かっているのだろう?

 まさかとは思うが、俺の悪影響が出ている可能性もある気がする・・・。

 むしろ、結構な確率でそうな気がするのはきのせいだろうか?

 彼女たちが戦闘狂になってしまったとしたら、間違いなく俺の責任だ。

 イヤ、俺自身は別に戦闘機用のつもりは全くないのだけども、周りからどうも得るかは別問題だ。間違いなく、確実に俺は周囲からは戦闘狂の魔法研究狂いと思われているだろう。

 周りから見たら俺は、物心ついた頃から修行に明け暮れて、貪欲に強さを追い求め続ける戦闘狂にしか見えないだろう。

 俺自身にはそんな気はないのだけども、単にこの世界を見て回って楽しむ為にはどうしても力が必要だと判断したから、必要なだけの力を求めただけのつもりだけど、周りは絶対にそうは思わないだろう。

 と言うか、家族も仲間も絶対にそう勘違いしている。

 前に否定した事もあるのだけども、笑ってスルーされた記憶がある。

 そして、魔法研究狂い。これはむしろ否定できないかも知れない。

 俺自身、そんな評価を受けて当然なだけの惨事をやらかしまくっている自覚はある。

 フレイム・ワールドをはじめとする禁呪を使っているのなんて良い例だ。イヤ、悪い例なんだけどね。

 周りからは新しい魔法を試すために戦場を彷徨って実戦を繰り返しているように見えるだろう。

 ぶっちゃけ、俺自身確かに魔法の実験を楽しんでいるので完全に否定できない。

 言い訳させてもらうなら、前世では考えられなかった魔法なんて力を手に入れて浮かれてしまっているのだけども、これも何の言い訳にもならないかも知れない。

 

 とりあえず、俺が今まで自覚していたよりも、周りの俺に対する認識は酷いモノになっているのは確実で、その責任は全て俺自身にある。完全に自業自得なのも判ったのだけども、

 その上でメリアたちは何処を目指しているのだろう?

 まさかとは思うが、俺に感化されて、俺の様になりたいとか思って居たりはしないよね?

 それこそまさか、ありえないと判っているけれども、もしかしてとも考えてしまう・・・。


「難しい顔してなにかくだらない事考えているね?」  


 真剣に悩んでいるのに何やらひどい言われようだ。

 文句を言おうと思ったが、これ以上ないくらいに楽しそうなケイの笑顔に言葉が詰まる。


「くだらない事とは失礼だな。どうしてそう思うのか理由を聞いても?」

「だいたい何を悩んでいるか見当がつくから。どうせまた見当違いな事でも考えているんでしょ?」

「見当違いとは随分だな。それに俺が何を悩んでいるか見当がつくって?」


 そう簡単に人の考えている事が理解できれば苦労はしない。 


「どの道、せっかくの休みなのに魔物の討伐に行っちゃったメリアたちのことを考えていたんでしょ? 彼女たちは何処に行こうとしているのだろうとか、冒険者とは言えあまりにも殺伐とした日々を送らせさてしまったせいで戦闘狂になってしまっているんじゃないかとか、そんなくだらない事を真剣に悩んでいたんでしょ?」


 そのはずなんだけども、完全に読まれている。

 どういう事だ?

 それに、その事について悩んでいると判るなら、結構深刻な悩みなのも判るはずだけど?


「やっぱりね。でも、キミの悩みは的外れよ」

「何が的外れなのか説明して欲しいんだけど・・・」


 それにしてもどうしてこんなに楽しそうなのだろう?

 理由に全く見当がつかないからモヤモヤする。


「彼女たちには彼女たちなりの想いがあって、わざわざ休みにまで魔物の討伐に、自分を鍛えに行った。それはキミが心配するような事じゃないし。それについては干渉するべきでもない」


 そうかも知れないけどハッキリ言われると結構傷付くかもしれない。


「まあ、私は嬉しいけどね。他人に興味を持たない自己完結型のキミが私たちの事を気に留めている証拠だから」


 綴られる言葉にも反論の余地はない。

 前世でもほとんど人と関わらずに自分の好きな様に生きていたし、それは生まれ変わっても全く変わっていない。むしろ、強くなる事にかまけて更に人間関係を疎かにしてきた自覚はある。

 自己完結型なんて言われても反論は出来ないだろう。


「まあ、だけどやっぱりキミは人付き合いが苦手だよね。心配するのは良いけど、それが全く見当違いの方向に行ってしまってるし」


 だからどうしてそんなに楽しそうなのかな?

 それと、どうやら俺の心配はケイにしたら全くの見当違いのようだ。

 それならそれで教えて欲しいのだけども、どうやら教えてくれるつもりは無いらしい。


「それについては自覚があるから、判っているなら教えて欲しいんだけど」

「それはダメね。自分で考えて、悩んで成長しないと。それに今のキミじゃあメリアたちの想いを伝えても理解しきれないと思うしね」


 どうも取り付く島もないようだ。


「まあ、キミも随分と弟子の育成には厳しいようだし、キミ自身の成長にも厳しく望んでも良いと思うよ」


 強さじゃなくて人としての成長をねと言い残してケイは去っていく。

 何か言いたい事を言われっぱなしの気もするが、全部その通りで何の反論も出来ない。

 結局、何がそんなの楽しいのか、嬉しそうにしていた理由もまるで分らなかった。

 

 うん。判っていたけど、俺は人として相当な欠陥品なのかも知れない。

 これまで他人の事なんて全くと言っていいほど気にしたことがなかったから、こうして人と一緒に居ると自分が馴染めていないのが浮き彫りになる。

 特殊かつ過酷な環境で育ったノインをどうこう言えないレベルだ。

 望んでいないのに何時の間にかレジェンドクラスの力を得ているし、いい加減人としてどうにか成長していかないと取り返しのつかない事になりそうな気がプンプンする。 

 とは言っても、どうやれば人として成長して行けるのかがまるで分らない。

 果たして、メリアたちの想いや、どうしてケイがあんなに嬉しそうだったのかを理解できるようになる日は本当に来るのだろうか?

 先は長いどころではない気がする・・・。



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