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メリア視点、二回目です。

 アべルからレイザラムへ出発するまで中にして良いと言われたけれども、三日間の自由時間に何をすればいいのか思い浮かばなかった。

 彼はごく普通にこの国に順応しているけど、私たちはそうはいかない。

 初めてのエルフの国、それも三万年ぶりのヒューマンの来訪者。それが私たちの立場なのが解っているからこそ、下手な事をする訳にはいかないと委縮してしまいうのは当然だと思う。

 だから、私たちは結局、魔物の討伐をしながら過ごす事にした。

 その事を伝えたら、アベルに呆れられてしまったけども、ミランダさんたちは苦笑しながらも、私たちの想いを理解してくれていたみたいだった。


 アベルもミランダさんもいない。

 教えてくれる人も守ってくれる人もいない戦いだけども、何時までも彼らにエスコートしてもらって守られている訳にもいかない。

 私たちは既にA+ランク。超一流と呼ばれる力を身に付けているのだから。

 何時までも彼らに負んぶに抱っこのままではいけない。

 だから、これは本当にいい機会だったのかも知れない。


 魔物の討伐自体は何の問題も無くこなせている。

 今の私たちの実力なら当然で、むしろ、出来ないようなら困る。


「うん。私たちの上手く戦えるね」

「アベルくんは過保護すぎるからね。ちょうど良かったよ」

「何時までも守られてばかりいる訳にはいきませんからね」


 お互いに自分たちの成長を再確認する事が出来た。

 ううん。本当は自分たちが信じられないくらい強くなっている事くらいは知っている。

 だけど、自分の力をいまだに信じきれずにもいるだけ・・・。

 結局、この力は私たちが努力して手に入れたものじゃなくて、単にアベルから授けられただけの力に過ぎない。その想いがどうしても拭えないから・・・。


 彼に言えば、或いはミランダさんやユリィさんたちに言えば、私たちの不安を笑って否定するのは判っている。

 判っていても、どうしてもその想いを拭えずにいるのは私たちの心の弱さだと思う。

 だけど、それも当然だと思う。

  

 私たちは、私たち五人は元々それなりに才能があると期待されていた冒険者だった。

 私にリリア、シャリアにエイシャ、アリアの五人パーティー。

 孤児院にいるころからずっと一緒のメンバーで、冒険者として活動し始めて一年でDランクまで辿り着き、数年以内にC-にランクアップするのも確実視されていた。マリージアの若手では注目株だった

 でも、所詮はその程度に過ぎない。Aランクにまで成るなんて私たち自身も夢にも思わない。その程度の脆弱な中級冒険者に過ぎなかった。

 ミランダさんは二十年以上冒険者として活動を続け、C-にランクアップできない事から自分の才能の限界を感じて引退したとの事。

 ノインは生まれながらに奴隷としてカ国に環境の中を生き抜き、幼くして戦場に出て生き抜いてきた。確かに優れた才能はあっただろうけれども、どうやっても、自分の置かれている状況をどうする事も出来ない程度でしかないと本人が語っていた。

 もしもアベルが来なかったのなら、自分は一生を奴隷として過ごして死んで行っただろうと・・・。


 私たちは身の程を知っているつもりだ。

 私たちは決してアベルやミランダさん。それにユリィさんたちの様な天才じゃない。

 多少の才能に恵まれただけの凡人。そんな所だろう。

 だからこそ、ほんの誰よりも私たち自身が、今の自分たちの状況を信じられない。

 

 アベルと出会ったと思ったらあっと言う間にC-ランクに上がっていた。

 装備もこれまでのモノとは比べ物にならない程に優れた物に変わったと思ったら、何時の間にか魔域の活性化なんて最悪の凶事に臨みながらも生き抜いていた。

 気が付いた時にはパワードスーツで格上の魔物と戦うのも当たり前になっていたと思ったら、そのパワードスーツすら何時の間にか脱ぎ捨て、今では装機竜人を駆って戦場に居る。


 まるで夢物語みたいで、まったく現実味がない。

 もし、私たちが誰かからこんな事があったんだよと、同じ話をされたとしたら、夢でも見ていたのかと信じすらしないはずだと確信できる。

 だから、私たちはどうしようもなく不安なのだと思う。


 今の自分たちの置かれた状況が信じられない。

 自分たちの余りの幸運が信じられない。

 幸運過ぎて、幸せ過ぎて不安で仕方ない。

 何時かはこの幸せが簡単に崩れてしまうのだろうという恐怖が私たちにはある。

 アベルは気が付いているだろうか?

 もう、私たちは彼から離れられなくなっている。

 それは単に依存なのかも知れない。それは判っている。

 判っていても自分の気持ちをどうにもできない。


 だからこそ、私たちはもっと強くならないといけない。

 単に戦う力だけではない。もっと本当の意味で強くならないといけない。

 彼らと、私たちとは比べ物にならない強さを持つ人たちと共にいられるように、私たちも同じように強くならないといけない。


 だからこそ、今回はちょうどいい機会だった。改めて自分たちのことを見詰め直す事が出来た。

 だからこそ判る。


「戦えてはいるけど、私たちはまだまだね」

「うん。もっと頑張らないと」


 今の私たちの力は、全てあべるからもたらされたもの。それは当然だ。彼は私たちの師匠なのだから、だけど、私たちはそれを使いこなせていない。

 それが何よりも問題にのだとハッキリした。

 自分たちを冷静の見詰め直す事で、今の私たちの課題がハッキリと浮き彫りになった。

 この程度の事は、アベルもミランダさんもとっくに把握しているだろうけど、自分たちで気付けたことは大きいと思う。

 アベルに頼るだけでなく、自分たちの力で少しづつでも強くなっていきたい。

 そうする事で、私たちも人として成長していけると思う。


 正直言って、ミランダさんは比較対象がいとしても、私たちはアベルと比べてすら人として未成熟だと思う。

 私たちの中で人として一人前以上なのはアレッサさんだけ、ノインは年齢的にも育った環境的にも未成熟なのは仕方ないとして、私たち五人はアベルよりも精神的に幼く思えてしまうのはどうにかしたい。

 頼ってばかりだからそう感じるのじゃなくて、実際に私たちはアベルよりも未成熟だと実感させられる事がいくつもあった。

 魔域の活性化に臨むにあたって、中々心の準備が、覚悟が出来なかったのは仕方がないとしても、今の自分たちに相応しい対応が出来ていないのはどう考えても問題だと判っているのにどうも出来ないでいるのだから。

 ・・・そう、今の私たちは超一流と呼ばれるA+ランクの冒険者。

 当然、アベルたちSクラス冒険者ほどではないけれども、実力に見合った人物との、各国のトップとの対談なども増えてくる。

 出来れば私たちを取り込みたいなどの思惑など、様々な思惑が絡み合った政略の渦にどうやっても巻き込まれずにはいられない立場にあるのだけども、私たちはそれに対してなんもしていない。

 全てアベルとミランダさん、それにユリィさんたちのアレッサさんな任せきっている。

 私たちでどうすることも出来ないというのもあるけれども、任せっきりにして良い問題でもない。

 アベルに言わせると、私たちも数年後には確実にSランクに成っているらしい。

 まるで実感がないけれども、間違いなくそうなるのだろう・・・。

 そうなると、今とか比べ物にならない程の政略の渦の中に私たちも巻き込まれる事になる。

 アベルやミランダさんの様にひょうひょうと切り抜けるか完全に無視できるようになるのはまず無理だと判っているから、今から少しでも経験を積んでおかないといけないのは判っているのだけども、元々そんなものとは一切かかわりのない孤児の出身だからか、どうしても気が引けてしまう。

 そんなの言い訳にもならないと判っているのだけども、どうしても、貴族や王族といった人たちを怒らせてしまったらどうしようという考えから抜け出せない。

 まあ、私たちに接触して来ようとする人たちも、基本的にはアベルと繋がりを持とうとする人たちがほとんどで、私たちはオマケみたいなものだと判っているのだけども、

 それでも、このままじゃいけないと判っていながら、何も出来ずにいるのは私たちが甘えているから。

 その辺りも、これから少しは改善していかないといけないのだろう・・・。



 とっ、何時までも考え事をしている暇はない。今は戦いに集中しないといけない。

 相手はオーガの群。Bランクのオーガだけでも百匹以上はいる。それにAランクのレッド・オーガにブラッド・オーガが合わせて十匹ほど。

 Sクラスのカオティック・オーガ等はいないけれども、十分過ぎる脅威なのは間違いない。

 特に、その統率されたスキのない隊列を組んだ行軍は脅威だ。

 人型の魔物であるオーガは当然ながら高い知能を誇る。

 それは武装の面からも明らかで、全員がフルプレートアーマーで身を固め、五メートルを超える巨大な体躯に相応しい大剣や斧や槍、ハルバートなどで武装し、弓による遠距離攻撃もこなす。

 完全武装で整然と行軍するその姿は、まさに騎士の様ですらある。

 それに、弓と言ってもバカには出来ない。オーガの剛腕と体躯に見合った巨大な強弓によって放たれる矢は五百メートル離れてなお、五センチの装甲を貫通する程の、対戦車ライフルやレールガンと変わらない程の破壊力を持つ。

 そして、その身体能力も非常に高く、最大で時速百二十キロを超える速度を誇る上に持久力も信じられない程に高い。

 深い森林地帯の足元の悪さもものともせずに、隊列を崩さずに凄まじい速さで行軍してくる姿には逆に感嘆すらしてしまう。

 イヤ、そんな暇はないから。


 ほかの皆とも確認し合って、まだ距離があるうちに確実に撃ち倒していく。

 相手がこちらに気付く前にどれだけ倒せるか。

 オーガの攻撃の射程に入る前に魔法で出来り限り薙ぎ倒す。

 一斉に魔法を掃射してオーガの群に放つ。

 戦闘、蹂躙が始まり、すぐに何十匹ものオーガを倒せたけれども、すぐにこちらの攻撃に反応して防御陣形を取り始める。

 そうなるとこちらの攻撃もなかなか通らなくなってくる。

 特に、全員が装備しているフルプレートアーマーが厄介で仕方がない。

 アレはたたの鎧じゃない。風の魔法金属で造られた強力なマジックアイテム。

 風の防御膜を展開し、攻撃を逸らせてしまう効力を持つ。

 それにオーガの展開する防御障壁が加わり、一気にその守りの硬さを引く上げている。

 それにこのままいけばすぐにこちらの位置を掴まれて、一気に攻勢に出られるのも目に見えている。だから相手に反撃の機会を与える前に一気に終わらせる。 

 魔法による攻撃をいったん止め、気配を消してインジブルの魔法で姿を消す。

 そして、オーガとの距離を一気に詰めて、攻撃が止んだことで防御体形が崩れた瞬間。至近距離から最大かりょきの魔法を一気に叩き込んで消し去る。

 跡形も無く消し去ってしまっては装備品や魔石を得る事も出来ないけれども、確実に倒す事が先決。

 自分を過信して勝てるハズの魔物を相手に負けてしまってはどうしようもない。

 それに、勝てるにしても危険場出来る限り侵さないに限る。

 ここは魔域に接する場所。このオーガを倒しても周りには他の魔物が溢れかえっている。

 少しでも気を抜いてその瞬間に襲われてしまったら全滅すらあり得る。

 そうでなくても、魔物討伐には常に命の危険が伴う。

 細心の注意を払って、確実に仕留めていくに限る。

 とりあえずは、周りを警戒しながら倒した事を確認。無事に残っているオーガの死体を回収して次の戦闘に備える。

 その後も何度か戦闘を無事にこなして、今日の私たちの実戦訓練も無事に終わった。


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