表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/398

75

 こうして無事に世界樹の葉や枝を手に入れられた訳だけども、ぶっちゃけ世界樹の蜜の前にかすんでしまっている。

 実際、メリアス王たちに花の事を報告したらこれ以上ない程に喜んでいた。

 さっさく蜜の採取を始めるらしい。

 世界樹の花が咲いている期間は一週間ほどらしいが、その間に数千トンの蜜が採取できるだろうとの事。

 量の桁がおかしすぎるだろと突っ込むだけ無駄なのだろう。

 それだけの量が取れても、世界中の欲しがる事人の比べれば圧倒的に少なすぎるので、とんでもないプレミアがつく事になるのは確定だそうだ。

 因みに、ユリィとケイの二人は当然、ユグドラシルとレイザラムの両王家の分の蜜を相当量確保している。それはシャクティ、ヒルデ、クリスの三人も同じだ。

 またとない機会なのだから、逃す方がおかしい。 


 なお、世界樹に花が咲いているのを見つけ、蜜を手に入れられたのは実に二百年ぶりらしい。

 世界樹は年に一度花を咲かせるのは判っているが、咲かせる花は何と唯一つだけ、つまり、俺たちが見つけたあの花しか咲かせないのだ。また、どこに咲くかもまちまちで、今回の様に世界時の葉に覆い隠されて、外からは全く見えない事の方がほとんどだそうだ。

 そんな訳で、一メートルを超える巨大な花とは言え、世界樹の大きさを思えばたった一輪を一週間の内に見つけ出すなど不可能に近い。

 今回、二百年ぶりに、しかも光臨期に入る前に蜜を手に入れたのは本当に奇跡だそうだ。

 光臨期に入れば、世界樹のもとを訪れられない。そうなれば向こう百年は絶対に蜜を手に入れる事は出来なくなる。

 その前に何としても手に入れたかったユグドラシル王家としては、まさに渡りに船だったのだ。


 因みに、俺たちは来年もこの地を訪れる事が確定している。

 王自らに確約させられた。

 目的は当然、世界樹の花の捜索。

 世界樹の花が咲く日が解ったので、その日から一斉に世界樹内を探索して何としても花を見つけ出す事が決定したそうだ。

 その探索に俺たちも当然参加する事が義務づけられた。

 二百年ぶりに花を見付け出した俺たちの幸運に期待されているらしい。

 光臨期に入るまであと数年はあるとされているので、その間に出来るだけ蜜を集めるのだそうだ。

 数千トンの蜜を採取してもまだ足りないと判断されているらしいが、それについては俺も完全に同意見だ。

 世界樹の蜜は同じ重さの金をも超える値段で取引されるが、それでも買い手は後を断たない。

 正直、俺も十分な量を確保してはいるが、世界樹の蜜が売られているのを見れば間違いなく買う。買い占める。

 ・・・俺が確保した蜜は一トンを超える量だけども、それだけの量があっても心許なく感じてしまう。

 俺は別に甘党ではないのだけども、この味を知ってしまっては我慢できない。

 この世界に転生した事、それにいくら食べても糖尿や肥満の心配がないのに心から感謝しないといけない。

 とりあえず、この蜜は実家にも送っておこう。

 母と姉が狂喜乱舞する姿が目に浮かぶが、まあ、これはしょうがないだろう。

 無限に催促してきそうな気もするが、手持ちには限りがあるのだからいくらでも融通できる訳じゃない事をシッカリと釘を刺しておかないと危険だろうけど・・・。


 それにしても、何故、光臨期を迎える前に蜜が採取できたのが幸いだったのかと聞いたところ、思わず納得せざぬおえない答えが返ってきた。

 光臨期中の世界樹は、一面に無数の花を咲き誇っているらしい。

 その姿は普段とは全く違う神々しい美しさを誇るらしいが、問題はそこではなく、数え切れない程の花が咲き誇る様子を見ながら、世界樹へ辿り着く事が叶わない事だそうだ。

 光臨期の世界樹には巫女や使徒ですら立ち入る事は敵わない。かつてレジェンドクラスの巫女ですら叶わなかったと記憶が残されているのだからどうやっても無理なのだろう。

 だけど、目の前に咲き誇る世界樹の花がありながら、どうする事も出来ない無念さはどうだろう。

 蜜をいくらでも取れるハズでありながらおあずけ状態が百年も続くのだ。

 その至上の甘露を知る者にとってこれ以上の苦痛はない。

 だからこそ、なんとしても光臨期が始まる前に蜜を手に入れたかったそうだ。

 と言うか、手に入れられないと色々と危険だったそうだ。

 何が危険なのかは、あまり深く追及しない方が良いだろう・・・。

 まあ、危険は回避されたのだし問題ない。

 俺たちも駆り出される事が確定している来年の花探しで、無事に花を見付ける事が出来れば、一万トン以上の蜜が確保できる。

 それだけの量があれば、慎重に管理すればが付くけれども百年は十分に持つだろう。

 まあ、その辺はメリアス王や、新たに王位に就くシュトラ王子の手腕次第だろう。俺たちには関係ない事なので、是非とも頑張ってもらいたいとしか言えない。



 とりあえず、これでユグドラシルでやるべき事は全て終わった。

 そうなると、次の目的地であるケイの母国。ドワーフの国レイザラムに向かうべきだろう。


「そろそろレイザラムへ行こうかと思うんだけど、どうかな?」

「良いんじゃない。この国も十分に楽しんだし」

「そうですね。ちょうどいいと思います」

「うん。シュトラ王子が来る前に行こうよ」


 みんな賛成のようだけども、ケイはまだ彼の事が本気で苦手のようだ。


「まあ、流石にメリアス王たちに挨拶して行かないといけないから、出発は早くても数日後かな」


 流石の俺も何の挨拶も無にいきなり居なくなるほど非常識じゃない。

 これまでだってキチンと挨拶をして、次の国に発つことを伝えてから出発している。

 特に今回はユリィの母国なのだから、挨拶はしっかりとしておかないといけない。


「そんな訳で、俺たちはしばらく挨拶回りで忙しくなるから、メリアたちはゆっくりしてて良いよ」 


 俺とミランダ、それにユリィたちは色々と挨拶に出向かないといけないところが多いけれども、メリアたちはメリアス王へのあいさつを済ませれば問題ない。

 色々と気疲れする事も多かっただろうし、少しはゆっくりと休んでもらいたい。


 それにしても、なんで挨拶回りなんてしないといけないんだと思わなくもない。

 本当は、ただの自由な冒険者として気ままに生きたかったのに、あっと言う間に信じられないくらいの柵が出来て雁字搦めになってる気がする。

 本当に今更だけども、どうしてこうなったと本気で思う・・・。


「なにか、すっごく今更な事を考えていない?」


 微妙に黄昏テイルとミランダに見透かされてしまった。


「いや、俺としては自由気ままに生きたいだけなんだけど、何か柵が増えたなあとね・・・」

「あのね。キミほど好き勝手に生きてる奴なんていないわよ。これ以上自由に? はっ、無理に決まっているでしょうが、それ以前に、キミは自分の力の事を本当に理解しているのかな? どこの世界に、人類すべてを敵に回して余裕で勝てるような危険人物を野放しにするバカがいるのよ?」


 酷い言われようだと思うのだけども、全く反論できない。

 ヒュペリオンを手に入れた時点で俺の平穏などあってないようなものなのだ。


「また何かおかしなこと考えてるでしょ? 言っておくけど、キミの場合は発掘したグングニールとかヒュペリオンとかは関係ないわよ。野放しに出来ないのは、キミ自身がとんでもない危険人物だからよ」


 何とミランダから危険人物指定されてしまった。

 俺的には彼女の方がよっぽど危険人物だと思うのだけども・・・。


「まさか、自覚が無いとか言わないでしょうね? キミ自身、これまでどれだけの事をやらかしてきたか少しは思い返してみたら?」


 俺がこれまでにやらかしてきた事と・・・。

 うん。思い返せば相当ヤバい事を数知れずやらかしているね。

 特に魔域の活性化中の非常時に禁呪の試し打ちをしていたのがシャレにならない程ヤバイ。

 万が一にも制御に失敗していたらどれだけの被害が出たか・・・。

 それどころか、下手をすればエリアマスターを刺激して想像を絶する大惨事を引き起こしていたかも知れないと・・・。

 ヤバイ、お前は世界を亡ぼすつもりかと責められても何の言い訳もできない事をやらかしまくってしまっていたのは自覚して反省していたつもりだけど、これまでにやらかした事で周辺が俺をどう思うかをまるで自覚してなかった。

 うん。そりゃあ当然、危険人物指定してきっちりと暴走しないように監視しますよね。


「どうやらようやく自覚してくれたようでなにより。キミはまだ若すぎるし、あまりにも大きすぎる自分の力に振り回されてやり過ぎてしまうのも仕方ないとも思うけど、ちゃんと自分の意思でコントロールしないと」


 返す言葉もございません。


「それに、キミはメリアたちの師匠なんだから、彼女たちまでおかしな事をしてしまわない様に、キミがシッカリしないといけないのよ」


 うん。その通りだ。万が一にも彼女たちが俺みたいになったら?

 考えただけでも恐ろしい。

 俺は彼女たちに対して責任を負っているのだから、シッカリしないといけない。


「まあ、十三歳じゃあ重い荷物かも知れないけど、シッカリと頑張る事ね。私も手伝うから」


 ポンポンと肩をたたいて楽しそうにミランダは行ってしまた。

 まあ、彼女の言う通り頑張るしかない。

 正直、既にどれだけの悪影響をメリアたちに与えているかと思うと怖いのだけど・・・。

 彼女たちは笑ってそんな事ないと言ってくれるかも知れないけど、やっぱり俺にし師匠なんて荷が重すぎる。

 それでも途中で放り出す訳にはいかない。

 何とか彼女たちを無事に育て上げたいのだけども、どうなる事か、これからの事を考えると不安が尽きない。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ