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 目覚めると共に、自分の異変を理解する。

 同時に自分が世界樹の巫女ないし使徒に選ばれたのだと知る。

 自分の中に溢れる力に思わず息を飲む。


 間違いなく、俺の力はレジェンドクラスにまで膨れ上がっている。

 漠然と予感はしていたが、実際に体験すると驚き過ぎて言葉も無い。

 これがレジェンドクラスの世界・・・。

 今迄のは比較にすらならない力が自分の中に渦巻いている。


「ようやく起きたみたいね」


 声をかけられて、ようやくすぐ傍にミランダが居た事に気が付いた。

 ミランダだけじゃない。もう一人、見知らぬ女性が一緒に居る。

 見知らぬ女性、だけど誰だかはすぐに判る。見た瞬間に気が付けないとしたら相当なマヌケだ。

 エルフにただ一人だけのレジェンドクラス。ミミール・セイズ・ユグドラシル。

 

「何故、貴方がここに?」

「判っている事を聞くものじゃないわよ」


 確かに、彼女がここに居る理由なんて判りきっている。判っていても聞いてしまったのだ。

 それにしても、ついにこの時が来たか・・・。


 ユグドラシルへの訪問が決まった時から、彼女と対面する事は決まっていた。

 ただ、想定外の国の内部粛清に遭遇して何時になるか全く判らなくなっていたのだけども、そうか、確かに洗礼が終わった後が一番あり得た。


「それにしても、私も貴方と負うのを楽しみにしていたのだけど、色々と想定外よね。いえ、全て想定内かも知れないけど」

「俺もまさか、洗礼でレジェンドクラスになるとは思いもしませんでしたよ」

「あらそうなの? 私はひょっとしたらと思っていたけど。何せ、私がレジェンドクラスに成ったのも洗礼を受けてだったし」

「はあ?」


 その告白は想定外だった。思わずミランダと二人、間の抜けた声を出して言葉に詰まる。

 彼女も世界樹の洗礼によってレジェンドクラスに成った?

 完全に初耳だ。イヤ、重要情報なのだからそう簡単に流出させるはずもないのだけど、それに、彼女がレジェンドクラスに成ったのは今から三千年以上も前だ。

 その後に洗礼を受けた者は数え切れない程に居るのに、同じ様にレジェンドクラスに成ったのは俺だけ、あくまで喪世界樹の洗礼はレジェンドクラスを生み出す可能性の一つに過ぎない。


「まあ、可能性としては考えていても、実際にそうなってみると本当に驚きよね。まあ、貴方が世界樹の使徒に選ばれるのは確定だったのだから、当然かもしれないけど」

「俺が使徒になるのが確定していたというのは?」


 そんな話は聞いていないのだが?


「あら、ユリィに聞いていなかったの? 新たな巫女や使徒が選択される時には、既に巫女や使徒である者に世界樹から神託があるのよ。だから、貴方が洗礼を受けて使徒になるのはあらかじめ判っていたの」


 そう言う事は初めから伝えておいて欲しい・・・。

 ユリィから何も聞いていないのだけど?

 ミランダの方も驚いているので、どうやら俺だけ伝えられていなかった訳じゃないらしい。


「その様子だと聞いていないようね。あえて話さなかったのかしら? まあ、私たちにとっては常識過ぎて説明するのを忘れていた可能性もあるけど」


 なんと、エルフだけでなくドワーフや獣人など、ヒューマン以外では当然の常識で、そもそも知らないとは思いもしなかったのではないかとの事。

 うん。自分たちが世界ではマイノリティだと改めて思い知るよ。

 て言うか、ヒューマンて種族自体が世界の常識を一切知らない除け者だな。


「そんな常識も得られないヒューマンの状況が本気でヤバイんだけど」

「これは本当になんとかしないといけないわね・・・」


 世界情勢から完全に置いてきぼりを喰らっているに等しいのに理解すらしていない。そう考えるとヒューマンが哀れでならないんだけど。自分たちもその哀れなヒューマンなのだ。これは本気でどうにかしないといけない。


「まあ頑張ってね。貴方たちならヒューマンの社会を変える事も、正確には元に戻す事も可能でしょう」

「何とかしないと話にならないのはここにきて思い知りましたから頑張りますよ」


 世界中の共通認識であるはずの事すらも知らないとか、話にならない所の騒ぎじゃない。

 本当に知れば知るほどにシャレにならない状況なのを理解させられる。

 こんな状況のままよく今迄放置して来たなと思うが、そもそも、ヒューマンの国々の王たちは自分たちの置かれた状況すら正確に把握できていなかったんだから仕方ない。とりあえず、早急に現実を伝えて危機感を持って対策に乗り出してもらわないといけない。

 まあ、ぶっちゃけこの状況を、自分たちの置かれた現状を理解すれば、どんな無能な政治家でも必死になって改善に努めるだろう。

 その意味では、ある程度丸投げできるので俺たちとしても気が楽だ。


「さてと、それじゃあその事も含めて、改めて話をしましょうか」


 一瞬で変わったミミールの雰囲気に思わず息を飲む。

 これがレジェンドクラスの威圧。

 瞬時に悟らされる。俺では絶対に彼女には勝てない。

 世界樹の洗礼で俺の魔力と闘気は飛躍的に増大している。俺自身もレジェンドクラスにまで力を増大させているけれども、それも彼女から見ればまだ取るに足らないレベルでしかない。

 ハッキリと解る。彼女の力は俺とは比べ物にならない程に上だ。

 初めて相対する自分よりも格上の存在。


「貴方たちも理解したように、今のヒューマンを取り巻く状況は極めて悪い。むしろ未だに存続しているのが奇跡に近い状況よ」


 それは本気で思い知った。むしろこの状況でよく今迄持ったなと不思議に思うくらいだ。


「だけど、同時に貴方の存在によってその状況が大きく変わっているの。これはこれから変わるのではなく、既に貴方がいるだけで状況が変わっているという事」

「どういうことですか?」

「単純に貴方という存在がいるだけで、ヒューマンの情勢は大きく変化したのよ」


 レジェンドクラス候補と呼ばれる俺が現れた事で、この一年の間にヒューマンの情勢根大きく変わっていたのだと言う。

 特にグングニールの発掘によるパワーバランスの変動による影響が俺たちの想像以上にあったようだ。


「グングニールが配備された事で魔物の脅威は抑制された。これによって大きく世界情勢が変わるのは当然だけど、その一方で世界最大の戦力を有する集団が突然現れもした訳よ」


 つまり、俺たちのことだ。

 それは判っていた。グングニールも相当数を確保しているし、なによりもヒュペリオンがし、未だに死蔵状態の他の空中戦艦もある。世界中の全てを敵に回しても余裕で勝てるだけの過剰戦力が俺のもとに集中しているのだ。


「ヒュペリオンだったわね。話には聞いているはよ。とんでもない物が残されていたものよね」


 それは俺も同意するしかない。

 どうやらユリィたちはヒュペリオンの事もある程度報告していたようだ。まあ、当然だろう。むしろ報告しない訳にはいかないだろう。こちらの戦力を理解しないまま下手に手出しでもされたらそれこそ取り返しのつかない事になりかねないとでも思ったのだろう。


「実際、貴方たちの行動次第では、排除した方が良いのではないかとの意見もあったんだけど、ユリィからの情報で即刻取り止めになったわ」


 ああ、やっぱり危険視されていたんだな。

 思い当たる節があり過ぎて何も言えない。正直、自分がこの世界で一番の危険人物だなのは判っている。

 これまで散々やらかしてきたのだ、流石にそれくらいの自覚はある。


「だけど、貴方たちはヒューマンだ。それ故にどんな事態を引く起こすか判らない」

「バカ共の暴走を引き起こす可能性と、それによって大きな混乱を招く可能性ですか」


 ユリィたちから俺がヒューマン至上主義のバカ共に乗っかる事はないと聞いていても、実際に事態が動き出せばどうなるか判らないという不安は拭えない。

 実の所、ユリィとケイの二人以降、シャクティたちが来るのが遅れたのにも、その辺りが一部関係していたらしい。


「まあ、それも今回の事で何事も無く無事に終わりそうだし、問題ないわね。それよりも重要なのは貴方たちの使命」

「使命ですか?」

「そう。何から説明するべきかしら? そうね。まずは世界樹について話しましょう」


 どういう事だろう?

 俺の使命と世界樹に何の関係があると?


「そもそも世界樹とはこの世界そのものの意思の欠片。遍く全てを内包するアカシックレコードの端末とも呼べる存在よ」


 世界の意思。或いは神。どのように表されるのが正しいのか判らないが、この世界そのものが情報を伝える端末として形作ったものの一つが世界樹なのだという。

 全ては存続するために。異世界からの、異なる世界からの侵攻を受けているこの世界は、自らを守るために様々な手段を講じてきた。


「貴方もそのひとつ。貴方がその若さでレジェンドクラスにまでなったのは、世界が必要だと判断したから、貴方はそうなるべき運命を授けられていたの」


 俺が転生したのも、偶然十万年前の転生種者の遺産を見付けたのも、過酷すぎるこの世界で生き抜くために力を求めたのも、全て世界にとって必要だからと定められていたと・・・。

 そう考えると、十万年前の転生者たちも同じだったのではないだろうか?

 カグヤを造るまでの全てが世界に定められた宿命。運命として刻み込まれてこの世界に転生した。

 そんな気がする。

 これまでとは比較にならない寒気が全身を襲う。

 俺もまた、この世界が自らを守るための駒の一つとして動かされているのだろうか?


「不条理に感じられるかもしれないわね。でも、生きとし生きる者は全て何らかの使命を持って生まれて来る。それは私も同じであり、貴方たちの仲間も同じ、指名を背負っているからこそ貴方たちは出会ったとも言える。運命とはそういうものよ」


 平然とした口調だけども、ハッキリと解る。彼女は運命を受け入れていても、決してそれに流されてはいない。そして、そう言われると・・・。


「返す言葉がありませんね・・・」


 当然だ。俺と彼女では人生の厚みが違う。

 彼女の言葉は俺なんかとは比べ物にならない程に、厚く重い。


「それはどうも、それと、これは確定事項として、貴方は遠からずレジェンドクラスの魔物を討伐して、自身がそのレベルに到達した事を全世界に知らしめることになるわ。これも避けられない運命だから諦めてね」


 随分と嫌な予言をされてしまった。

 できればしばらくは隠し通して、穏便に事をませたいのだけども・・・。


「言った通り、貴方が生まれたのには意味が理由があるわ。貴方のその力は世界が必要だと判断したもの。貴方が発掘したヒュペリオンもグングニールも同じ。今、この世界はそれだけの力が必要なだけの危機に迫られているのよ」


 それは話を聞いてすぐに理解した。俺を転生させたのがこの世界ならば、転生者が必要な状況に陥っているという事だ。

 出来ればグングニールにヒュペリオンなんて超兵器が執拗な程の危機なんかではなくて、今のこの社会の、ヒューマンの危機を救う為だったらよかったのだけど・・・。

 これから先、これまでとは比べ物にならない激戦の連続とか勘弁して欲しい・・・。



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