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結局、メリアス王がどうこう以前に、俺たちは深刻な事案を抱え込んでるのを今更理解した俺だが、結局はどうにもならないのでとりあえずは棚上げする事にした。
て言うか、俺やミランダだけで抱え込むには重過ぎる問題だ。
ヒューマン全体の問題なのだから、立ち向かうのもヒューマン全体でするべきだし。個人でどうこう出来るレベルの問題じゃない。
それに、俺たちがユグドラシルを訪れた事で既に事態は動き出しているだろうから、各国の王に連絡しておけば、俺たちが戻るまでにある程度の準備も整えられているだろう。
うん。それが良い。二万年ぶりのヒューマンのユグドラシルへの来訪で、確実にヒューマン至上主義のバカ共も何らかの動きを始めているのは確実なのだから、それを利用して一気に殲滅する方向で行こう。
発想が過激になっている気がするか、バカは放置しておくと碌な事にならないので一気に殲滅しておいた方が良いと思い知った。
そんな訳で、レイル王子ら知り合いに連絡してバカ共の対応を任さたら、この件は一端終わり。
俺たちはユグドラシル訪問での最大のイベントとなる世界樹の洗礼に集中する。
エルフにとって最も神聖な儀式ではあるけれども、これといって特別な事をする訳ではない。
メリアス王に世界樹の洗礼を受ける事が告げられた後、洗礼の言霊を唱え、洗礼の祭壇となる世界樹の根の上で儀式用の短剣で指先を切り、その血を世界樹に捧げる。その上で世界樹から溢れる神水を口にする事で洗礼の儀は終わる。
基本的にはそれだけだ。
ただし、万が一にも世界樹に真に認められ、洗礼によって世界樹の加護を本当に受ける事となった場合にはその限りじゃあない。
これも良く判らないのだけども、世界樹は洗礼を受けた者の中から自らの巫女や使徒を選定するらしい。
ただし、その選定基準は全くの謎。
実はユリィもまた巫女に選ばれているらしいが、むしろ王族から選定されるのは珍しいらしい。
実際にエルフ以外の洗礼を受けた者から巫女や使徒が選ばれた事も幾度となくあるらしい。それどころか実はケイがまさにその一人だそうだ。
世界樹が何をもって選定しているのか、その基準が完全に理解不能なのが、ある意味でこの国で最大の問題でもあるらしい。
・・・さもあらん。
国の象徴とも言える世界樹の巫女や使徒たる者が選ばれる基準が解らないのだ。
その上で、当然ながら世界樹によって巫女、或いは使途に選ばれた者はユグドラシルにとって重要人物となる。
国教のトップの様な立ち位置だと考えて良い。
実際にはこの世界にはそもそも宗教自体が存在しまいので、ニュアンスとしては合っていても違うのだけど、とりあえず巫女や使徒はそんな立場になる。
ケイなど他国の王族だ。それが国の重要な地位に就くのだからどうしろと?
本当にこの洗礼による選定は波乱を巻き起こす。
でだ、問題なのは本当に、万が一にも俺やミランダが巫女や使徒に選ばれた場合だそうだ。
可能性としては限りなく低くてもゼロではない。
それがまた面倒くさいところなのだけども、だったらそもそも、洗礼事態をやらなければ良いだろとはいかないし。
俺たちとしても間違いなく厄介事にしかならない称号はいらないので、何事も無く終わってくれる事を願うばかりである。
「どう考えても何事も無く、無事になんて夢のまた夢だと思うけど」
「そうそう。無駄よねー」
ユリィやケイなどは俺たちは洗礼を受けて巫女や使徒に選ばれるのは当然とみているらしい。
いやホントに、そんなフラグ要らないからね。
タイタスでもいきなりレジェンドクラスの魔物が侵攻して来るなんて事も無かったし、そうそうフラグが立ってしまうなんて事はもうないと信じよう。
「世界樹の巫女に使徒ですか、素敵ですね」
それなのに、どうもユリィたちだけでなく、メリアたちも全員が俺たちが巫女や使徒に選ばれると確信しているらしい。
何故にそうなる?
「いや素敵って、どう考えても厄介な事にしかならないでしょ?」
「それは今更ですよ。むしろ、これからの事を考えれば必要な称号だと思いますよ」
そうなのか? そうなのだろうか?
クリスの指摘を受けて、巫女や使徒に選ばれた場合の利点について冷静に分析してみる。
うん。確かに巫女や使徒の称号があった方がこれから動きやすいかもしれない。
面倒事が確実に山のように増えるのは、むしろもう今更だろう。
「本当に、我ながら面倒な立場になったものね」
それもこれも、全て俺の所為だとばかりの視線は止めて欲しいのだけど、ミランダさん。
確かにそうかも知れないけどね。
俺だって自業自得とか言われそうだけど、面倒事ばかりに直面して四苦八苦してるのだから、自分で興味本位で俺のもとに来たのが運の尽きと思って諦めてください。
「むしろ、これで選ばれない方が大変な気がする・・・」
これはむしろ逆フラグか?
選ばれて当然の雰囲気の中で選ばれない地獄。
うん。普通にありそうだな。
まあ、今ここで考えても仕方がない。実際に洗礼を受けてみないと判らないのだから、もうこれはどうなっても仕方がないと諦めて洗礼を受けるしかないだろう。
そんな訳でやって来た世界樹の洗礼の当日。
目の前には圧巻の世界樹の威容。
近付けば近付くほどに、その圧倒的な霊力が理解できる。
それでなくても、視界の全てを支配する世界樹の荘厳で神秘的な姿に圧倒させられる。
「これより。アベル・ユーリア・レイベスト並びに、ミランダ・アルマークの洗礼の儀を執り行う」
メリアス王の宣言と共に、俺たちは世界樹ユグドラシルの領域へと足を踏み入れる。
「これが世界樹の霊気・・・」
領域の内部に入った瞬間。俺たちを圧倒的な霊気が包み込む。
全てを見透かす様な、全てを包み込むような絶対的な何か・・・。
その包み込むような優しさと、圧倒的なまでの圧力に息を飲む。
ES+ランクの魔物と相対した時よりもはるかに凄まじい圧力。
それでいながら包み込むような優しさが全身を覆う。
これまでに経験したことの無い感覚。
これは確かに、不用意にその領域の中に立ち入れないのも理解できる。
こんなにも圧倒的な霊力が常に渦巻いているのでは、容易に世界樹に近付く事は出来ない。
或いは、世界樹の領域に入った瞬間に気を失ってしまってもおかしくないだろう。
世界樹の領域の中をただ歩いて行く。
それだけでも、相当な労力だ。
領域は世界樹の周辺百キロに及ぶ。
この霊圧の中を百キロもの距離を歩くのはそれだけで過酷な修行といえる。
て言うか、メリアたちには無理だ。
百キロもの距離を歩くとなれば、洗礼は数日を要する儀式となる。それ程の長期間、この霊気の中に居られるか俺ですら自信がない。
だけど、そんな心配はすぐに杞憂に終わる。
一瞬、何が起きたのか判らなかった。だけどすぐに転移したのだと理解する。
「今のは・・・?」
「ユグドラシルの招き、世界樹の力です」
転移したのは判る。だけど明らかに今のは転移魔法とは違う力。
気が付けば既に世界樹の根元。洗礼の儀式の祭壇へとたどり着いているけれども、何がどうなっているのか、自分たちがどうしてここに居るのかすら判らない。
「無理に理解しようとしない方が良いですよ。単にそういうものだと思っておく位がちょうど良いと思います」
多分、エルフが十万年以上も究に研究を重ね、それでも原理の欠片すらも解明できなかったのだろう。
確かに、気にするだけ無駄か・・・。
それよりも洗礼だ。
「なんて綺麗なの・・・」
「こんな光景が存在するなんて・・・」
「信じられない・・・」
口々に漏れる言葉はその心情をそのまま表している。
俺自身同じ思いだ。
世界樹の祭壇。目の前に広がる光景に飲み込まれてしまう。
それは何処までも美しい自然の造形美の結晶。
ここは遥か昔、十万年以上前から変わらず今の姿を残しているという。
それは人の手は一切入らない。自然が造り出した最高の芸術。
荘厳で神秘的な全てが計算された完璧な美の集大成たる裁断。
どれだけの時間と労力を費やしたとしても、人の手でこれに迫る芸術は決して造り出せぬと断言できる。完成された極地の造形。
それが目の前の祭壇だった。
「アベル殿」
メリアス王が洗礼の為の短剣を差し出してくる。
ここから本当の意味で洗礼が始まる。
ここに来た瞬間に、フラグとかそんなものは一切関係なく、明確に何かが起きると感じた。ここで、俺がこの世界に生まれた理由、その答えが示される。漠然とそんな感じがする。
ようやく答えが出る。
気付かない内に力が入って固くなっている体を、大きく息を吐いてほぐして、差し出された短剣を受け取る。
手にした瞬間。この短剣が世界樹の欠片で出来ている事が解る。
まるで世界樹そのものを手にしているかのような錯覚すら覚える、絶対的な力と存在感を感じる。
「あまねく世界の柱よ。全ての命を束ねし母よ。全ての始まりと終わりを見守りし太極の一欠けよ。我その深淵なる叡智と久遠の魂の示す先を望む者なり」
言霊は決まったものではなく、洗礼を受ける者がそれぞれ世界樹から授けられる言葉。
その意味は一体何を指すのだろう?
だけど、今はまず洗礼だ。
短剣で指先を切り、血の雫を世界樹に捧げる。
これによって、洗礼を受ける者は世界樹の中に記憶される。
そして、世界樹から湧き出す神水を口にする。
これによって、世界樹の一部となる。
そうして洗礼は終わる。
その瞬間。洗礼が終わった瞬間。圧倒的な霊力が全身を駆け抜け、俺は意識を失った。




