3(改修版)
さて、数ある防衛都市の中で、行先に選んだのはマリーレイラ。
この街を選んだのには特に理由はない。強いてあげれば、数ある防衛都市の中で、唯一国名に連なる都市名を冠しているから。
そのためかは知らないけど、マリーレイラは他の防衛都市よりも大きく、人口100万人を誇る都市だ。
有事の際には、この都市に司令部が置かれて防衛線の要となるらしい。
まあ、いきなり有事なんて起きてもらっても困るんだけど・・・・・・。
「さてと、まずは冒険者ギルドだな」
街に着いたら、まずは冒険者ギルドに寄るか宿を確保するか、これは冒険者の基本だ。
まあ、宿については事前に端末から予約できる訳で、当然だけど行き先をこの街に決めた時点で、一番良いホテルに予約を入れているので問題はない。
そんな訳で、行く先は冒険者ギルド。
さて、ここで少し冒険者ギルドについて説明しておこう。
冒険者ギルドとは、その名の通り冒険者たちが所属しているギルドの事だ。そして、冒険者たちは魔物の討伐をして生計を立てている。
前世、地球のファンタジー系のフィクションでもおなじみのギルドだけども、その在り方は、前世の物語で出てきた者とは大きく違う。
まず、冒険者は依頼を受けて魔物の討伐に行くなんて事はまずない。いや、ない事もないのだけども、基本的には依頼なんてカタチが取られる事はない。
考えてみれば同然の話だ。街に魔物の脅威が迫っている状況下で、一々冒険者ギルドに討伐の依頼を出して、引き受けてくれる冒険者が現れるまで待つなんてそんな余裕があるはずがない。
この世界の村や町は、魔物の脅威に対抗するために、最低でも5000人以上の人口で、戦車数両に、機関銃やロケットランチャーなどで武装した防衛兵にに守られているのだけども、その守りも魔物の脅威に対しては心許ない。
まあ、オーク程度なら数百匹単位の群でもなんとか返り討ちに出来るけれども、もし、オーガが数十匹単位で襲って来るような事があったら、1日どころか数時間と持たずに壊滅する。
そんな訳だから、余程の脅威でなければワザワザ救援を求めたりはしないし、存亡の危機に陥るような魔物の脅威に対して、何時救援が来るかも判らない様な、冒険者への依頼なんて不確定な方法はとらない。
そんな訳で、冒険者はギルドで依頼を受け、それを成功させて報酬を得るなんて事はない。
では、冒険者は何をするのか? 冒険者ギルド役割は? と言えば。
まず、単純に冒険者とは魔物を倒す者の事だ。そして、倒した魔物の素材を売って報酬を得ている。
冒険者ギルドは、冒険者の倒した魔物の素材を買い取る場所であり、同時に、必要な場所に必要に数の冒険者を振り分ける管理機構でもある。
必要な場所に必要な数の冒険者を送り込み、魔物の脅威に対抗できる戦力分布を世界中に構築する。それが冒険者ギルドの最大の役割だと言って良い。
例えば、過酷の王都の様な、騎士団や竜騎士団の本部があり、戦力が元々集中している上に魔物の脅威も少ない場所に、冒険者が多数滞在ていても単なる過剰戦力。或いは無駄な戦力でしかない。
また、防衛の要である防衛都市に冒険者が集中するのは当然として、全ての防衛都市に均等な戦力が配置されなければ、戦力の劣る防衛都市が魔物の集中攻撃を受けて陥落してしまう可能性もある。
そして、どこかの街に急に魔物の大軍が大挙して侵攻して来る事も良くある事、そんな非常時に、必要なだけの戦力を、冒険者を即座に向かわせるのも冒険者ギルドの役割だ。
要するに、魔物の侵攻から人々を護る軍や騎士の様な各国の正規軍とは違う、独立した防衛機構。それが冒険者であり、冒険者ギルドなのだ。
それと、冒険者から買い取った魔物の素材を捌くのもギルドの仕事だ。動力源でありエネルギー資源である魔石を含めて、貴重な資源を管理する組合でもある訳だ。
そんな冒険者ギルドは、各国ごとに王都に本部があり、防衛都市にあるギルドは支部と言う扱いなのだけども、王都にある本部は全体を管理する事務統括の役割を担っていて、主体となるのはむしろ各防衛都市の支部ギルドの方だ。
Sクラスの魔物の、とんでもない金額が付く最高の素材なんかが持ち込まれるのも当然支部ギルドな訳だし。
さて、そんな冒険者ギルドだけども、防衛都市の場合はある場所が基本的に決まっている。
毎期に面した防壁の近く、軍や騎士の施設に隣接した位置に存在する。
それも当然で、冒険者は防衛の要でもある。
通常は魔物の盗伐と素材の回収がメインの冒険者は、同時に、国の存亡に関わるほどの魔物の大群による侵攻などの非常時には、竜騎士や騎士団、軍と共に街を、国を守る重要な戦力なのだから、当然、その拠点は有事における密な連携をしあに入れた、軍事施設と隣接する位置に建てられる訳だ。
さてそんな冒険者ギルドだけども、5階建ての市役所みたいな建物だ。盾の上で県と杖が交差した、独特のエンブレムを掲げているのに、印象としては間違いなく役所。
前世、日本のファンタジーではある意味お約束だった、酒場と一緒になっているなんて事はない。
そもそも、現実にこういう世界に転生してみてからよくよく考えてみたら、あの設定は明らかに理不尽というか矛盾している。戦いを馬鹿にしているといっても良い。
そもそも生と死が隣り合わせの生業にいる者が、仕事の仲介場で酒を飲んで無防備な姿を晒すなんて失態を犯す訳がない。
更に言えば、酒に酔っていたのでは非常時に戦力として機能しないし、その意味でも仕事の仲介、依頼を受ける以外の目的でギルドに立ち寄り、あえてその場で酒を飲むなんてマネをするはずがない。
仕事が終わった後の打ち上げだというなら、それこそむしろ絶対にあり得ない。命を賭けた戦いを終えて帰ってきた後に、金が手に入ったからってそのまま酒を飲みに直行するようなアホが生き延びれるほど戦場は生易しくはない。
酒を飲むなら、十分に体を休めて疲れを癒してからだ。そうしなければ蓄積した疲労が確実に体を蝕んで行き、やがては致命的なまでに動きを鈍らせてしまいかねない。
その程度の事も判らないようなアホウが続けられるほど、戦いを生業にした冒険者と言う職業は生易しくはない。
そんな訳で、冒険者同士の交流や情報交換の場所として、喫茶スペースが設置されているのは判るが、冒険者を害すると判りきっている酒場をわざわざギルドに設置する理由はない。
「ベルゼリアから来たA+ランクのアベルだ。魔物の情報を貰いたい」
そんな事を考えながら、まさに役所の受付そのままの総合カウンターに並んでギルドカードを出す。
始めてきた国、街でまず冒険者ギルドに寄る理由は、1つは到着報告、もう1つは魔物の情報を得るためだ。
冒険者は貴重な戦力である訳だし、特に、俺の様に高ランクの上に転移魔法も使える人間はその戦略価値が非常に高い。だからこそ、所在地確認は必須な訳で、キチンと到着報告をするのは当然の義務となる。
そしてもう1つの魔物の情報の取得は、冒険者として必須の事項だ。
これから自分の戦う場所にどんな魔物が居るかの情報もなしに討伐に出るなんて自殺行為でしかない。油断して何の情報も得ないまま討伐に出たりしたら、格上の魔物に瞬殺されるか、魔物の群に囲まれて全滅するのか関の山だ。そんな訳で、ギルドの管理する何処にどんな魔物が現れるかの情報は、冒険者にとって命綱なのだ。
「はい。A+ランクのアベル・ユーリア・レイベスト様ですね。確認いたしました。こちらのIDをお使いください」
IDを受け取り、早速ギルドのデータバンクにアクセスする。
この国、マリーレイラの魔域は海にある。当然、魔域から現れる魔物の多くは水中生物系。つまりは魚介類などの魔物が多いのだ。
そして、高位の魔物は本当に美味い。
間違いなく、前世のブランド物の魚なんて目じゃない程に美味しいのだ。それに、確認してみたらカニやエビの魔物もいる。刺身に天ぷら、フライにしても良いし焼いても美味い。アレルギーのある人は食べられないけど、日本人の多くが大好物の食材。俺も大好物だ。
それも、日本で食べていたモノとは比べ物にならないくらい美味いのが確定している。もう、本当に心が躍るというものだ。
だけど、そんな俺に少し水を差す連中がいる。ギルドにいた冒険者たちの一部だ。
受付でのやり取りで、俺が高ランクの冒険者だと知って狙っているのだ。
ホント、そんな馬鹿なことを考える理由もわかっているだけに、溜息がでるよ。
俺の外見は年齢よりも下にしか見えないし、初対面だとほぼ100パーセント女の子に間違われる。要するに、俺は10歳ソコソコの女の子にしか見えない訳だ。・・・・・・しかも美少女。
彼らの目には、俺はカモにしか見えないだろう。
優しいく声をかけて油断させて、上手く利用して金蔓にする。そんな下心が見え見えだ。
まあ、気持ちは判らなくはないよ。Aランクの生涯年収は優に数十億リーゼを超える。100億リーゼを超える金額を稼ぎ出す者も珍しくはないといわれる訳だから、彼らからすれば、そのおこぼれに授かるだけで一生勝ち組。
それが判っているだけに、どうしてもよこしまな考えを持つ場画家一定数でてくるのは仕方がないのだけども、この分だとパーティーを組むのもなかなか難しそうだ。
別にソロを気取るつもりはない。と言うか、命がけの魔物との戦いに単独で挑むなんてほとんど命知らずの自殺行為みたいなものだ。
とは言っても、俺の場合は実はハーティーを組むのもなかなか難しい。
実力の劣るメンバーをいくら集めても足手まといにしかならないからだ。
そんな訳で、パーティーを組むなら、俺の本来の実力であるSクラスの力を持つものを探さないといけない訳だけど、ヒューマンの中には500人しかいないし、そもそも全員が重要人物ので探すのはまず無理。
まあ、偽装しているA+ランクの魔物を相手にしている限り、どんな大群に囲まれても問題ないので、しばらくはソロで行くしかないだろう。
だけど、そうすると目立つのは避けられない訳で、そうなると厄介事も避けられない。
本当に、面倒な事になりそうだ。