67
アイギスでの戦いは中々に面白い。
マリーレイラに居た時も、海中での戦闘はしたことがあったが、そう何度もあった訳じゃないし、海中戦が主体になる事も無かった。
だけども、アイギスでの戦いは何処までも海中での戦闘が主体となる。魔域から侵攻してくる魔物の構成が完全に水中戦での迎撃が主体となる魔物ばかりなのもあるし、そもそも、アイギス自体が、海中での魔物の迎撃を想定して造られた防衛都市なのもあるだろう。
いずれにしても、これまでにない戦いが続いている。
もう一つ、これも当然の事なのだけとも、水中戦ではあまり派手な攻撃などをする訳にはいかない。
海の中で激しい爆発などを引き起こそうものなら、大津波を引き起こしてアイギスの街にまで多大な被害をもたらしてしまう。
よって、当然ながらマリージアでの魔域の活性化中のような、大量の海水を諸共消し飛ばす様な問答無用な攻撃魔法は厳禁だ。
て言うか、今になって考えてみれば、当時の俺はいったい何を考えていたのだろう?
防衛都市自体には活性化に伴って都市全体を覆う結界が張り巡らされているのだから被害はないにしても、海岸線で迎撃に当たっていた部隊は堪ったものでは無かっただろう。
一応、言い訳をさせてもらえば、防衛線にも結界が張り巡らされているので強大な津波が押し寄せても大丈夫だと判った上で、荒れ狂う津波でザコの魔物を押し流して一掃できるだろうと思ってやったハズ。
言い訳にもなっとらんわと言われれば、本気で返す言葉も無い。
「アベルも少しは周りの事を考えて戦えるようになって来たみたいね」
だからこそ、そんな風にしみじみと言われても反論すらできない。
とは言え、流石に言われっぱなしのままでいるつもりは無い。俺自身、愚痴の一つや二つ言われても仕方がない様な事ばかりをやらかしてきているのは判っているけれども、それを言うなら、ミランダだって散々やらかしている事くらいは調べがついている。
「いや、流石に昔のミランダ程じゃないと思うよ。街一つ壊滅させた覚えはないし」
「はっ・・・?」
俺の爆弾発言に全員が一斉にミランダを見る。
当のミランダは平然としているように見えるけれども、封印しておいたはずの過去の大失敗を暴露されて内心でどう思っているかな?
「うむう・・・。どこから調べたのよ? 記録は決してあるハズなのに」
「ここまでフルボッコにされちゃあ、少しは反撃したいと思うのも当然だと思うけど? まあ、辿り着いた時には流石に絶句したけどね・・・」
当然ながら、ミランダにとっても黒歴史のようだ。
因みに、当然だけど街一つ壊滅させたと言っても、流石に住人ごとではない。
住人は避難していて人的被害は皆無だったそうだけども、五万人が暮らす街一つを完全に消滅させたのだから大参事どころの騒ぎではない。
しかも、実は一回だけじゃなかったりする。
同じく住人は避難していて人的被害はないけれども、ミランダによって街が完全に破壊されて、跡形も無く消え去ってしまった街は実はいくつもあるらしい。
もう二百年以上も前の話だけども、若い頃のミランダは一体何をやっていたんだと言いたくなるようなエピソードが山の様にある。
流石に記憶に残すのもまずいと公には抹消されている話ばかりだけども、調べれば出て来る暴れっぷりは間違いなく俺の比ではないだろう。
俺が調べたミランダの逸話のいくつかを話すと、みんな最初は唖然としたけれども、やがてまあミランダだしと納得した様子を見せる。
それに対して、逆にミランダの方が不服そうだ。
簡単に納得してもらう方が不満なのだろうけれども、その辺りはやっぱり普段の行いの所為だろう。人の事をどうにか言えた義理ではないだろと突っ込まれそうだけど・・・。
「はあ・・・。最近は常識人に見えていたけど、やっぱりミランダさんもソッチ側なのね・・・」
チョット待とうか?
ソッチ側とは一体何の事かな?
どこまでも聞きただしたい所なのだけども、何もかも諦めきったような表情をされると深く追及できない。
「イヤ、俺やミランダの事を散々に言うのもいいけど、キミたちだってどの道、後から人にボロクソに言われるような常軌を逸した人生を歩む事になるんだよ?」
「そうそう、常識の通用しないSランクに成って大人しく生きて行こうなんて言う方が無理なんだから、貴方たちもいずれは私の事をとやかく言える身の上じゃなくなってるわよ」
何か壮絶な貶し合いになっている気もするが、この辺りの覚悟は今の内に持っておいた方が良い。
ユリィもケイも既にSクラスだし、シャクティたちもそう、そして、メリアたちも数年後には確実にSクラスに成っている。
百億の人口の中でごく限られた者しかなれないSクラスは存在自体が天才であり天災と呼ばれる非常識の塊だ。本人がい来る大人しくしていようとしても、ただそこに居るだけで騒動を巻き起こす。
元々Sクラスに成るのが決まっていたユリィたちはともかく、メリアたちは俺にあったのが運の月と諦めて覚悟を決めてもらわないといけない。
と言うか、早々に覚悟を決めておいてもらわないと本気でどんな惨状を生み出すか判ったものじゃない。
その辺りの事を本人たちは理解しているのだろうか?
キチンと理解してもらっておかないと、死屍累々の惨劇が引き起こされかねないので、判っていませんでしたでは済まないのだけど・・・。
どうも、メリアたちはイマイチその辺の自覚が足りないように思う。ユリィたちもそれに気づいたようで、一転してメリアたちを心配そうに見ている。
「あの、どうして皆してそんなに心配そうというか、憐れんだような見るんですか?」
「自覚が足りないって事だよ。まあ、キミたちはまだ数年は猶予があるから、今の内にシッカリSクラスに成った後の事を理解していけば大丈夫だと思うよ」
多分、その辺りの心得なんかを教えるのも師としての俺の役割なんだろうけれども、俺の場合は反面教師的な立場の方があってる気がする。
ぶっちゃけ、冷静に今までの事を思い起こしてみれば、本気で何をやっているんだと頭を抱えるくらいにやらかしている俺が心得やら何やらを教えるのは正直怖いので、まあその辺りの事は、俺やミランダを反面教師にしつつ、ユリィたちからシッカリと学んでくれると嬉しい。
「まあ、この話はこれまでにしておこう。これ以上続けてもドツボにハマっていくだけの気もするし・・・」
何時までも冒険者ギルドでじゃれ合っていても仕方がないと、さっさと出ようと提案する。
と言うか、今更の様に恥ずかしくなってきた。
結構人のいるギルドの中で今迄の掛け合いを続けていたと思うと、今までの話を聞かれていたかと思うと、顔から火が出る思いがする。それは皆も同じらしく、ようやく我に返ったのかそそくさと退散する事になる。
「うーー。恥ずかしい・・・」
そうは言っても自業自得なので諦めるしかない。
ギルドを出る時にチラッと見まわしたけども、思いっきり好奇の視線を集めまくっていた。我ながら何をやっているのやら、気を抜き過ぎだろうに・・・。
今頃ギルドでは、そそくさと逃げ出した俺たちをネタに大爆笑が起きているのではないだろうかと、ついそんな被害妄想まで出てしまう。
イヤ、本当に被害妄想で済んでくれていると良いのだけど・・・。
宿に戻るために街中を歩いていると、街ゆく人々もみんな俺たちを見ている気がしてくる。
流石にそれは本気で被害妄想だと判っているんだけども、どうしようもなく恥ずかしくって、頭が混乱している所為でそんなどうしようもない事を考えてしまう。
それは俺だけではないようで、ミランダですらどこか落ち着かない様子で歩いている。
本気で何をやっているんだろうなと一つ溜息を付いて、気を取り直す。
エルフの国の防衛拠点アイギスの街並みをゆっくりと楽しみながら、気持ちを落ち着けて行く。
エルフの暮らす街と言うと、森の中の自然と一緒になった街並みを想像するのだけども、そもそもこのアイギスは港町で森の中にはないし。バリバリの近代都市で、自然と中和したのどかな街と言ったイメージとは対極にある。
まあ、数百メートルの高さの高層ビルが立ち並ぶ街並みにのどかも何もあったものじゃないだろう。
その高層ビルも、ヒューマンの国の物とは明らかにデザインが違っていて、街並みにもエルフの文化が感じられる。そういった違いを見て回るだけでも街を歩く楽しみになるけれども、俺たちにとってはなによりも街を歩く人の姿を見るのが楽しみだ。
エルフの国ユグドラシル。この国は当然ながらエルフが統べる国だ。だけど、ヒューマンの国と違ってエルフしかいない訳ではない。
エルフの他にも、ドワーフに獣人。天人に竜人。鬼人に魔人。様々な種族が一緒に暮らしている。
種族の違いによる差別や偏見などといったものは一切なく、誰もが互いを認め合っている。ただ、そこにヒューマンの姿だけが無い。
この街の様々な種族が共に生きている様子は、ヒューマンの国では絶対に見られない光景だ。
二万年前まではごく普通の光景だったはずなのに、どこかの転生バカの所為で他種族との関係が完全に途絶えて以降は完全に失われてしまった光景。
或いは、この光景を取り戻すのが俺がこの世界に転生した理由なのかも知れない。
カグヤの機能が低下して魔物の侵攻が激しさを増して、それな対抗して事態を収拾する為なんかよりも、かつての転生者の不始末によって途絶えたヒューマンと他種族との関係を修繕して、かつての光景を取り戻すためにこの世界に生まれたと言う方がよっぽどいい。
うん。それを目標にしてみようかな。
三万年もの間冷え込んだ関係を元に戻すなんて並大抵の苦労じゃないけど・・・。
出来るかどうかも怪しいどころの話じゃないけど試してみる価値はある。
「いいなあ。この光景は理想だな」
「どうしたのいきなり?」
思わず漏れた感想に不思議そうに尋ねてくる。
まあ、いきなり理想だなんて言い出したのだから、疑問に思わない訳がない。
「様々な種族が分け隔てなく共に暮らしている。俺たちの国では、ヒューマンの国ではありえない光景だから」
「ああ、確かにそうね」
「だから、二万年前に失われたこの光景を取り戻したいと思って」
「成程ね。確かにキミならばできるかも知れないわね」
千年ぶりのレジェンドクラス候補として、エルフやドワーフの王族と繋がりを持った俺だからこそ、他の誰にもできなかったヒューマンの懸け橋に成り得る。
勿論、その為にはまずはヒューマンの中の至上主義者などのバカ共をどうにかする必要があるし、その後で各種族に掛け合って少しづつ関係を改善させていく形で、すさまじいまでの時間と労力が必要なのは判っている。
判っているけれども、せっかくならやってみたい。
「いいんじゃないの。目標を持つのは良い事だし」
建設的で社会の為のためになる目標を持ってくれるのは本当に助かるからと、言葉にしなかった本音が聞こえて来た気がする。
まあ、多大な労力を必要とする難問に挑むとなれば、それだけおかしな事をする心配も無くなると、これからの気苦労も多少は減るかなと思っているのがまる判りだけど、確かに、他の種族との橋渡しになろうと思うのなら、これまでのような無茶な事ばかりする訳にもいかない。
人の目を気にして行動しないといけないし、評価を落とす様な真似も出来ない。
その意味では、俺を縛るなによりの鎖になると思っているのだろう。
まあ、確かにその通りだ。
だけど、やってみたい。
今目の前に広がる光景は確かに理想だけども、その中にヒューマンの姿はない。
この中にヒューマンも当たり前に入っている社会を取り戻す。
うん。心躍る挑戦だ。
魔物相手に闇雲に戦い続けるよりもよっぽど心が躍る。
特に、個人的に獣人との関係を早く改善したい。
重人は獣の耳と尻尾を持つ人の事で、それ以外の外見はヒューマンやエルフなどと何ら変わらない。
だけど、獣人は当然だけど様々な種がいて、犬の耳と尻尾を持つ獣人に、猫の耳と尻尾を持つ獣人。他にも、狐に狸に熊に狼に、様々な獣人がいる。
因みにクリスは天狼の獣人で、素晴らしくフサフサできめ細やかな耳と尻尾を持っている。
その尻尾がふらふらと揺れる度に思わず視線が行ってしまって、モフリたい気持ちになるのだけども、今の所は何とか衝動を抑え込んでいる。
ただ、このままいくと何時、衝動が抑えきれなくなるか判らない気もするけど・・・。
ついでに言うと、この世界には所謂ハーフは存在しない。
前世ではハーフエルフとか、獣人とヒューマンのハーフとか、様々な種族が合わさりあった混血がいたけれども、この世界には存在しない。
と言っても、他種族間の結婚や交わりが無いのではなく。
例えば、エルフとドワーフの夫婦に子供が出来た場合。その子供は夫婦のどちらかの種族の血を受け継いで生まれる。つまりエルフかドワーフのどちらかとして生まれるのであって、両方の特徴を半分筒受け継いだハーフが生まれる事はない。
因みに、それ故にさっきのエルフとドワーフの夫婦だと、姉弟でエルフとドワーフに別れる事も珍しくない。
ついでに言うと、両親ともエルフの片親を持つドワーフが結婚した場合、ドワーフの両親からエルフの子供が生まれる可能性もある。
その辺りが色々とおもしろくて、いきなり先祖返りで別の種族に生まれる事もあるらしいから困ったものだ。
ユリィに聞いた話だと、かつてエルフの王族に生まれたドワーフや竜人も何人もいるらしい。
この話からすると、二万年前までは普通に交流もあったのだし、ヒューマンの中からエルフやドワーフが生まれてもおかしくないはずなんだけども、俺が知る限りはそんな記録はない。
その辺りの事を調べてみるのも良いかも知れない。
何はともかく。
「それじゃあ、目標も決まったし頑張ってみますか」
「うん。まあでも、程々にね」
やる気を出した俺に、全員そろってやり過ぎない様にとストップをかけて来るのは何なんだろう・・・。




