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メリル視点です。
ヒュペリオンとか言う明らかに異常な空中戦艦に乗ってエルフの国ユグドラシルに向かう弟を見送って内心で深く溜息を付く。
昔からそうだったけれども、あの子には自制心や躊躇いというモノが無いのだろうか?
自分の好奇心の赴くままに突っ走るだけなのも、いい加減少しは控えた方が良いと思うのだけど・・・。
我が弟ながら、昔からアベルは非常識の塊だった。
貴族家の次男と言えば、本来ならば長男に万が一の事があった時の保険として家に囲われるのが普通なのに、あの子は平然と自由を手に入れて見せた。
誰も解読できなかった古文書を平然と解読して見せて、その中に示されていた常軌を逸した修行法を実践して信じられない速度で、信じられない領域まで強くなっていった。
あの修行は正直言ってついて行けない・・・。
命がいくつあっても足りない所の騒ぎじゃない。本当に、今私たち家族が生きているのが不思議に思える。
私たちはそれでも強くなりたかったから、アベルのモノは比べ物にならないほど易しい、簡単な修行を続けたけれども、それでもついて行くのがやっとだったし、信じられない速度で強くなれた。
私自身、既にA+ランクにあるのが信じられない思いだ。
A+ランクは本当に才能に溢れる天才が、何十年と不断の努力を続けてようやく辿り着けるかどうかの頂で、私の様な凡人がこんなに早く辿り着けるような領域では決してない。
だけど、そんな常識もアベルの前には通用しない。
私たち家族は、アベルによって信じられない勢いで強くさせられていった。
三千年の歴史を持ちながら、一度たりともBクラス以上の強者を、竜騎士を輩出したことの無い凡庸な我が家系から一気に四人のA+ランクと一人のSランクが出たのだ。
それこそ騒ぎににならないハズがない。
もっとも、アベルは国を出るまで一応は自分がSクラスの事を隠していたけれども、実際の所は国の上層部にもろバレだったのをあの子は気付いていないだろう。
何か、良く判らないところで信じられないくらい抜けている子だったから・・・。
とは言っても、流石にレジェンドクラス候補なんて呼ばれるようになるなんて思いもしなかったけど・・・。
元々、あの子は国に縛られるような器じゃないのは判りきっていた。
そなたんきかんの程度の事も判らない程、この国の統治者たちは無能じゃない。全て判った上で泳がせていただけ、それでも、流石にここまでの騒動をこんな短期間で引き起こして、あんなとんでもない人たちと一緒に旅をするようになるなんて想定もしていなかったけど。
特にこの前に帰って来た時、十万年前の遺跡からとんでもない発掘品を見付けて戻って来た時の阿鼻叫喚の地獄絵図はひどかった。国の上層部や竜騎士団だけでなく、私までそれこそ殺意を覚える程に振り回される事になった。
アレでこの子を国に仕えさせようなんてしたら、その瞬間に国が亡ぶと確信したのは私だけじゃないハズだ。ついでに、あの子はこれからもこんな国を揺るがす様な騒動を無自覚に引き起こし続けるのだろうと確信したよ。
ついでに、そんなあの子と一緒に旅を続ける彼女たちを本気で尊敬したよ。
まあ、ミランダさんはあの子と同類だと見た瞬間に確信できたけど。
だけど、それも当然だと思う。
アベルとミランダさんは別格としても、他の子たちも全員が私とは比較にならない程の天才だと思い知らされる。
多分、彼女たちは自覚もしていないだろうけど、あの子の修行について行けるだけでもその溢れる才能の何よりの証拠になる。
それに、あの子と一緒に何年も修行して来た私たち家族が未だにA+ランクに留まっているのに、既にSクラスにランクアップしていたり、数年後には全員Sクラスにランクアップしているのが確定している。
正直に言って私は彼女たちに嫉妬してしまう。その溢れるばかりの才能に、私が切望してやまない頂に辿り着ける彼女たちが羨ましくて仕方がない。
私以外の家族はSクラスになる事に拘ってはいない。成れても成れなくてもどちらでもいいと思っているけれども、私はどうしてもなりたい。
装機竜に装機人、そして装機竜人。魔工学と錬金術の粋を集めて造り出される究極の高み。それを自らの手で造り出すのが私の夢。
その夢を叶える為にはどうしてもSクラスに成らないといけない。
だけど、私はこの先、何年、何十年と死に物狂いで努力を続けても、Sクラスに成れるかは判らない。
その事実が、私を狂わしいくらいに掻き乱す。
どうして私には、彼女たちの様に溢れる様な才能が無いのか?
私が切望してやまない頂にどうして彼女たちはそうも容易く辿り着けてしまうのだろう?
そんな嫉妬と、羨望に塗れた醜い思いが溢れだして止められない。
本当は判っているのに、彼女たちがどれだけの努力を続けているか、私とは比較にならない程の過酷な修行に耐え続けているからこそ、彼女たちは今の頂に辿り着いているのだと判ってくる。
特にノイン。彼女は本当に過酷な修行を乗り越えて来た。その壮絶さは本当によく生き延びられたと称賛を止まない程だ。
本当に、わずか一ヶ月でD-からB-までランクアップさせるなんてどうかしている。
B-へのランクアップはそれまでとは比較にならない程に厳しい。Bランクの圧倒的な魔力と闘気を完全に制御できるようにならなければ、自身の魔力と闘気を抑えきれずに自爆してしまいかねないからなのだけども、逆に言えば、制御さえ完璧に行えるようになれば、すぐにでもランクアップさせる事も可能という事。
あの子が彼女にどれほど過酷な魔力と闘気の操作指導を行ったか、想像しただけで震えてしまう。
確かに理論的には可能だけども、一ヶ月程度で魔力と闘気をB-ランクまで引き上げるのも考えられないような暴挙だと判っているのだろうか?
本当に良く乗り越えた以前に、本当に良く生き延びたと思う。
それ程までに危険で過酷な道程を進んできたからこそ、今、彼女たちはその頂にいる。
本当は判っている。私は才能が無いのではなくて覚悟が足りないのだと・・・。
彼女たちと同じだけの努力を続けられれば、私もいつかはSクラスに成れる。そのくらいの事が解らない程バカではない。
だけど、判っていても踏み出す勇気がない。
夢を叶える為にSクラスに成るのを諦めきれないハズなのに、命を賭けてその頂を目指す覚悟が足りない。全部、私が臆病なだけ。そんな事は判っている。
あの子が残していった修行法の詳細、その中には今まで私が避けて来た、想像を絶する程に過酷なモノもいくつもある。それを実践していく事が出来れば、多分私もSクラスに成れるのは判っているのに、判っていながら手が出ない。今一歩を踏み出せないままでいる。
本当に心の底から切望ているのならば、例えどんな過酷な道でも怯まずに進み続けるハズなのに、それが出来ないでいる。
つまり、私の夢、願いはその程度のモノに過ぎないという事・・・。
本当に、どうしてあの子はあんなにも容易く自分の命までも賭けて前へ進めるのだろう・・・?
中継で見た魔域の活性化の時の戦いでもそうだけども、あの子は目的の為にはどんな危険にも躊躇わずに突き進む。どんな困難でも、どんな過酷な事にでも一切躊躇わない。
正直、その様子には狂気すら感じてしまう。
なにがあの子をそこまで突き動かすのか判らない。だけど、ある意味でそれが何よりも正しい姿なのだという事は否応なく理解させられてしまう。
自分の好きな道を唯突き進み続けるなら、何者にも邪魔されずにただ自分の思うが儘に生きようと思うのならば、一切の躊躇を捨てて目の前の道を迷わずに突き進む覚悟がいる。
あの子はただそれを無自覚に実践しているだけ。
そして、あの子について行けるのだから、彼女たちも、あの子の弟子となった時から無意識にその自覚を持っているからこそ、どこまでも過酷で厳しいアベルの修行について行って行けているのだと理解している。
だから、私に彼女たちを羨む資格なんて本当はない。
単に私に覚悟がないだけなのだから・・・。
だけど、そんな不甲斐ない自分ともようやく決別できそうだ。
結局、あの子に背中を押してもらってだけども、ようやく私は新たに一歩を踏み出す事が出来る。
正確には彼女たちのどこまでも紳士なひたむきさに、ようやく自分を恥じる事が出来たから、私は自分の夢のために迷わずに突き進んでいく覚悟が出来た。
だから私はもう止まらない。
目的の為に、夢を叶えるために全力を尽くす。
今度、あの子が帰ってくる時までにSクラスになってみせる。
それが、今まで不甲斐ない姿ばかりを見せて来た姉としてのケジメ。
次に帰って来た時には見違えるように成長した姿に驚かせてやるんだから、だから、お願いだからあまり非常識な騒ぎばかり起こさないでね?
この一年の間にあなたが起こした騒動のおかけで、私たちがどれだけ苦労したか判っている?
お願いだから私たちにも穏やかな平穏をプリーズ。




