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さて、グングニールの詳細なデータ収集も終わったところでこれからどうするか?
別にすぐに専用機の開発に取り掛かるつもりは無い。と言うか根本的なコンセプトの変更を余儀なくされたので、しばらくは新たな設計にかかりっきりで開発にまで辿り着けやしない。
とりあえず、このまま何事も無く平和が続いてくれるのなら、これまでと同じように気ままな旅を続けるのだけれども、そろそろヒューマン以外の国を、ユリィたちの国を訪れてもいいんじゃないかなと思っている。
エルフの国ユグドラシル。
ドワーフの国レイザラム。
ユリィとケイの祖国。まずはこの二つの国に行ってみようと思う。
ファンタジーの定番だと、エルフの国は深い森の中、繊維呪を守護するようにあり、ドワーフの国は鉱山のただ中で、火の神を祀る最高の鍛冶師が集う国だけども、実際の所はどんな風になっているのか、行く前から楽しみだ。
て言うか、王族を弟子に取っていたりするのだからそろそろ正式にキチンと挨拶に出向かないと色々な意味で不味いだろう。
とは言っても、別にすぐにと言う訳ではない。まずは二人にこれから行く事を連絡してもらって、渡航許可がおりてからの事だ。
初めて行くヒューマン以外の国、国交が断絶して等しいかの国に訪れた事があるヒューマンは皆無だ。ミランダですら行った事はないのだから、今から楽しみで仕方ない。
因みに、今俺たちが都後に居るかと言えば実家だったりする。
俺の実家、つまりベルゼリアのレイベスト家の屋敷だ。
なんでまた実家に戻っているんだというと、面倒事から逃げる為である。
グングニールの実戦テストを行ってからというもの、装機竜や装機人の技術者や研究者たちが大挙して押し寄せてきて手に負えない有様になってしまったのだ。
正直、何が彼らをそこまで駆り立てるのか理解できない。
そもそも、技術者や研究者と言っても彼らには実際に装機竜や装機人、装機竜人を開発出来る訳ではない。それらの魔工学と錬金術の粋を集めた集大成を造り出せるのはSクラス以上の限られた者だけだ。
だからこそ、彼ら技術者や研究者は要するに整備士ではあっても、開発者では決してない。それなのに、自分たちには不必要な技術を必死に求めてどうするのだろう?
彼らの仕事は、戦闘で傷付いた機体の修理やメンテナンス、それに運用データの収集などで、それらの情報は開発者であるSクラスのもとに送られて、新たな機体製作の糧とされる。
そんな訳で、どれだけ求めたところで彼ら自身には意味がないはずなのに、狂気すら感じさせる情熱を暴走させているのは一体どういうことなのだろう?
いやまあ・・・、実際の所、彼らの気持ちが解らない訳でもないのだけど、それでも無駄だろと思ってしまう。
まあ、要するにそんな暴走した技術者や研究者たちに付き合っていられないと実家に逃げ込んだ訳だ。
・・・お前はそもそも祖国に取り込まれるのが煩わしくて家を出たんじゃないのか? と突っ込まれそうだけども、現状既にベルゼリアに仕える事は絶対に無くなっている。
ただのSクラスであったのならばともかく、今の俺はレジェンドクラス候補で、しかも色々とやらかしている。そんな俺を取り込むのは既に害悪でしかないのだ。
だが、その一方で俺の力と影響力は俺自身が想像していたよりも更に信じられない勢いで増大している。
要するに、どの国にしても取り入れるのは危険でも何らかのつながりを持っておかなければならない程に重要な人物になってしまっていたらしい・・・。
その上で、ベルゼリアは俺の母国として既に十分過ぎる繋がりを持っている。
要するにこの国が現状一番安全なのだ。面倒がないとも言う。
まあ、実家に戻れば戻ったで、グングニールに心を完全に奪われているメリルがいるのだけど、実の姉にチョットくらいサービスするくらい問題ない。
と言うか、実際にグングニールを使って俺の専用機開発プランは完全に方向性を変更しているので、設計プランなどを見られても何の問題も無かったりする。
因みに、俺の新しい開発プランを知ったメリルは「これ本気なの?」と呆れたように訪ねてきたが、本気も本気、大真面目である。
そもそも、自分用の専用機なんて趣味全開のある意味ネタ機体なのだから、どんな機体を造ろうと俺の自由だ。
まあ、流石に普通に呆れられるのも当然だなとも思うから反論はしなかったけど・・・。
とりあえず、今はうるさい外野から逃げつつもエルフとドワーフの国に行く準備中と言う訳だ。
「まさかエルフの国に行く事になるなんて、アベルと一緒だと本当に常識が通用しないよ」
「確かにね。私たちの国がヒューマンを迎えるのは二万年ぶりだよ」
何か酷い事を言われた気がしたが、ユリィがこちらを楽しそうに伺いながら返した返答に反論できなくなる。
実際、ヒューマンとそれ以外の種族は国レベルだけでなく個人でも完全に関係を断絶していて、この二万年は一人として訪れたことの無い国になっている。
実際に密入国しようとした者も全て捉えられて送り返されるか処分されているので、確実にこの二万年は一人として訪れた者の無い国がこれから行く先となる。
「その辺りは、俺がどうこうじゃなくて、それぞれの国の王族が自ら来ているからだと思うけど」
確かにこれまでありえなかったことが現実のモノになろうとしているのに興奮するのも判るし、ワクワクして当然なのだけども、何故にそこで俺の所為で常識が崩れるような話になる?
むしろ、今回の件については俺はほとんど関係ないはずだけど・・・。
確かに行き先としてエルフとドワーフの国を挙げて、ユリィとケイに許可をもらっていくのを決定したのは俺だけど、今回の件について常識がどうのと文句を言うのなら、その責任はあくまで王族でありながら関係が断絶しているヒューマンの国に平然と来て、俺の弟子になった二人にあるハズだ。
「それはキミが王族自らが来るほどの重要人物だからでしょ」
「イヤ、それは絶対に違うから。単なる彼女らの気紛れだから」
と言うか、彼女ら自身が王族の窮屈な生活から逃れるために、修行を言い訳に世界中を旅して周って、自由を謳歌しているとぶっちゃけていただろうに、
「まあ、私たちの方がキミを利用しているのは確かね。でも、それだけでユグドラシルに行けるかと言えばそんな訳が無いのも事実なんだよ?」
何やら非常に楽しそうなユリィの様子に嫌な予感がする。
止めようとしたのだけどこっちの事などお構いなしに大変楽しそうにつらつらと事情を説明していく。
曰く、別に彼女たちの行動は珍しいモノでは無いらしい。王族に生まれたからと言って、別に一生を国に縛られて過ごす必要はない。国の要職に就く前に見聞を広めるために各国を旅して周るのも珍しくはないので、特に自分たちが特殊なのではないとの事。
まあ、彼女たちの場合は、途中で俺と言う想定外の怪物が現れたので、その確認の為にヒューマンの国にまで足を延ばす事になりはしたけれども、それ以外は特におかしな事も無いとの事。
・・・ていうか、誰が想定外の怪物だ。
まあともかく、そうしてエルフやドワーフとしても一万年ぶりにヒューマンの国を訪れた二人は、早速俺と接触して、予想を上回る無茶苦茶ぶりに振り回される事になったとの事。
挙句の果てに古代の遺跡からとんでもない発掘品を見つけ出して世界情勢を滅茶苦茶にしてしまいかねない事態を引き起こす始末。
・・・いや、うん。それについては流石に否定できないよ。
そんな訳で、普通ならいくらユリィたちがいるからといっても、ヒューマンを国に迎えるなんて事には絶対にならないハズが、エルフやドワーフとしても、実際に俺の人となりを会って確かめる必要があると判断されて今回、俺が行きたいと言ったのに特別に許可が下りたのだとか・・・。
ていうか、俺自身色々とやらかしている自覚はあるけれども、そこまで大事になっているとは思いもしなかったんだけど・・・。
後ついでに、ヒューマンの国と他種族の国は完全に関係が断絶しているけれども、ほんのわずかにだけどそれぞれの国の品物の輸出入が行われていたのは俺にとってこれ以上ない幸運だった。
ミランダの伝手で鬼人の国の最高の米や醤油などを手に入れられるようになっただ。
これらのモノはヒューマンの国でも造られているのだけども、正直言って元日本人としては、ついでにこの世界の最高の食材と組み合わせるには役不足の代物だった。
鬼人の国から米や醤油などを手に入れられるようになって、なつかしき日本の味を最高の美味として再現できるようになったのは本当に嬉しかった。
思いっきり関係の無い話だけど・・・。
「そんな訳で、ユグドラシルに着いたら楽しい観光の前に、色々と面倒な聞き取りとかが待っているからその辺りは覚悟しておいてね」
どうしてそんなににこやかに言ってくれるかね?
いやまあ、むしろ当然だろうけど、行く前からテンションを下げないで欲しい。
別に俺は、エルフとヒューマンの友好の懸け橋になるつもりは無いから、これを機に断絶した関係をどうにかしようなんて思わないけど、周りからはそう見られてもおかしくない訳で、気楽に観光を楽しみたいだけなのに色々と面倒どころじゃない事になりそうな気がする。
「レイザラムでもそれは同じだから、ガンバってね」
そこで止めを刺すのは止めて欲しいんだけど、ケイはそれはそれは楽しそうな笑顔をしている。
まあいいか、二万年も関係が断絶している所に気楽に観光を楽しみに行けるとは流石に思っていないし、エルフやドワーフのお国柄を知るのにも、色々と役立ちそうだし、これも経験と割り切ってやってみますかね。
まあ、波乱に満ちた旅になるのも確定の様だし、今の内に覚悟が決められて良かったとしておこう。




