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クリス視点です。

 アベルによってその真の力を開放され、魔域を自在に駆ける装機竜人に思わずため息が漏れる。

 この半年間、彼と一緒に旅を続けてきて実感したけれども、彼には自制心と言う物が無いのだろうか?

 どれだけの騒動を起こせば気が済むのだろう?


 まず、ハッキリ言わせてもらえば、彼は間違いなく自分で数々のトラブルや騒動を起こしている。

 彼自身は巻き込まれただけだなどと思っているみたいだけども、そもそも彼がいなければ起きなかったような騒動がいくつ起きた事か・・・。

 更に、信じられない事に彼はこの半年の間に起こした騒動を特に気にも留めていない。どころか本人はこの半年間何事も無く平和に旅が出来たと思っている。

 ありえない・・・。

 アレだけの騒動があっちでもこっちでも、それ事彼がいるだけで当たり前の様に起きていたというのに、何をどうやったらアレが特にトラブルもない穏やかな旅の日常になるのだろう・・・?

 感覚の違いに思わず愕然としてしまったし、ユリィとケイの二人までごく自然にそう思っている様子に思わず正気を疑ってしまった・・・。

 その内、彼と一緒に旅をしていくなら、あれくらいの事はそれこそ気にするまでも無い些細な事に過ぎにいのだと強制的に理解させられたけれども・・・。

 この半年で私たちの常識は大きく壊されてしまったというか、彼色に作り変えられてしまった。

 まあ、元々私は少し繊細過ぎると、細かい事を気にし過ぎだと言われていたので、むしろちょうど良いかも知れないとも思う。私ももうSクラスの一人なのだから、一々細かい事を気にしていたら持たないのは判っている。このくらい大雑把なくらいが良いのだろう。


 それに、実際に魔域の活性化の様な最悪の凶事や、国の存亡にすら係わるような凶悪な犯罪が起きた訳じゃあない。

 言ってしまえば暴走したバカが自滅しただけの出来事や、命知らずにもアベルやミランダさんを利用しようと近付いてきた連中が相応の報いを受けただけの事。

 力を持つ者や権力者にしてみればそれこそ日常茶飯事に等しいような取るに足らない騒動ばかりなのだから、本当に一々気にしていても仕方がない。


 だけど、流石にこれから起こるであろう騒動はこれまでとは比較にならない。その事を彼は理解しているのだろうか?

 ・・・まず間違いなく、理解していないと思う。

 グングニール。アベルが発掘した十万年前の装機竜人。これはハッキリ言ってシャレにならない危険物だった。私たちがユリィたちと合流するのが遅くなった理由も大半がこれの所為だった。

 大半がフリーのSクラスの研究材料として配布されたけれども、当然、いくつかの国にも配備され、私たちの国にも回ってきた。未知の技術の塊である装機竜人に、みんな興味津々で早速研究が始められた。 

 その一環として、Sクラス専用機との触れ込みが事実なのかを確かめるために、実際にSクラスによって実戦テストが行われた時の阿鼻叫喚は今でも鮮明に覚えている。 

 操縦者がうっかり魔域に造ってしまったクレーター。直径千キロに及ぶそれは、後チョットで魔域の中心部に届いてしまっていた。

 メイン・ウェポンたる魔竜砲。ドラゴニック・カノンの試射に失敗した結果の惨事だけども、一歩間違えれば本当に取り返しのつかない大惨事になっていた。

 まあ、それは流石に彼の責任ではなくて、こちらの不注意が起こした阿鼻叫喚に騒ぎだったけれども、それにしたってそもそもの原因はあの機体の性能が余りにも常軌を逸し過ぎているから。

 私はレジェンドクラスの方を知っているから良く判る。確かにグングニールの力はある意味であの方たちに匹敵する。少なくてもSクラスで収まるような戦闘力ではなかった。

 でまあ、いうまでも無いと思うけれども、そんな危険物の取扱と、物騒な品物を大量に持っている世界情勢を容易く変えられるのが確定したアベルへの対応がもう一度、今度はこれ以上ない程に真剣に議論される事になって、結果、結論が出るまで私たちが行くのは延期になってしまった。

 これが、私たちがアベルのもとを訪れるのが遅くなった理由。本当ならエクズシスに行った直後にでも合流できていたハズだから、実際に二ヶ月近く遅れた事になる。


 まあ、今はそんな事は問題じゃない。今はとにかくアベルの実戦データの事。 

 別に今日、今から実戦データの収集をやるなんて公表してはいないけれども、そんに事をしなくても勝手に突き止めて衛星映像とかで監視しているに決まっている。

 で・・・、実際に映像からその常識外れの性能の一端を垣間見た技術者たちが我慢できるとでも?

 出来るハズがない。間違い肉詳細なデータを求めてこれまでとは比べ物にならない勢いで暴走する。

 これからどうなるか考えるだけで頭が痛いのだけど・・・。


 と言うか、自分のした事なのだから彼にはシッカリと責任を取って欲しい。

 アベルの発掘した装機竜人の数は凡そ四百機。その大半はさっきも言った様にフリーのSクラスの研究材料となって、国に配備された数はほんの僅かだし、入手できた国も限られている。

 そんな中で、発掘した本人であるアベルは相当数をまだ保有しているのは誰もが知っている。

 正直、入手できなかった国の研究者たちにとっては羨望の的どころの騒ぎじゃない。そんな訳でこれまでも何とかアベルから装機竜人を手に入れられないかと暴走した研究者や技術者たちが騒動を起こした北野だけれども、これからは今迄の比ではない騒ぎになるのが目に見えている。

 多分、中には殺してでも手に入れようと躍起になる者も現れるハズ、無理だけど・・・。

 ミランダさんもこの後どうなるか判っているハズなのに、自分の欲求の赴くままに実戦テストをしているし、本当にどうなるのだろう?

 適当に逃げ回っていれば特に問題ない気もするけど・・・。


「て言うか、国のテストの時より酷いわ・・・」

「確かに・・・」

「本当にどうしたものかしらね・・・」


 心の底から疲れたようなシャクティにヒルデと一緒に同意する

 アベルが乗った機体は、間違いなく私たちの国でのテストの時よりも更に凶悪な性能を発揮している。

 と言うか、アベルもまたあの機体のデータを基に自分の専用機の開発をするハズだけど、一体どんな機体を造るつもりなのか非常に不安なんだけど・・・。


 イヤ、アベルだけじゃ無いけどね?

 ミランダさんを含む、この危険物を手に入れたSクラスがそのデータを基に造り上げる期待がどんなモノになるか? 

 考えただけで頭が痛くなるよ。


 まあ、そう簡単にこの非常識な危険物の技術を盗めるはずがないけれども・・・。

 チラッと隣で収集したデータに頭を抱えているミランダさんの様子を窺いながら、これから先の技術者や研究者の苦悩に思わず憐みの念を覚えてしまう。


 私も当然だけど魔工学や錬金術をそれなりに嗜んでいる。勿論、Sランクになったからにはいずれは自分の専用機を自分で造るつもりでいるからこそ、この危険な発掘兵器の技術解析がどれ程何回かと言う事も理解できる。

 正直言って無理難題に等しい。

 この芸術的なまでに優れた無駄のない技術体系に比べれば、今の技術なんて子供のお遊びにすら劣る。それ程までに隔絶した差がある事を痛感せざる負えない。

 私自身、そのあまりに遠い頂に愕然とした程で、本職の研究者や技術者が受けた衝撃がどれ程のモノだったか計り知れない。彼らにしてみれば、今まで自分たちの拠り所となっていたモノを根底から破壊し尽されたのと同じだろう。

 これの出の人生の全てを賭けて培ってきた技術や知識の全てが、子供のお遊びにも劣る幼稚で未熟なモノに過ぎなかったと理解させられたのだから・・・。

 だからこそ、彼らは死に物狂いで、それこそ狂気に取付かれたかのように、他の一切を顧みずに解析と研究に明け暮れている。ほんの少しでも何かを掴もうと、僅かでも目の前の高みに近付けるようにとそれ以外の事は考えられなくなっている。

 どうしてそんなに詳しく知っているかと言えば、私の国の技術者たちがまさにそうだったから・・・。

 私もこの芸術的なまでに優れた技術体系から少しでも多くの事を学べたらいいなとは思うけれども、あそこまで熱狂的にはなれない。

 そして多分、その狂気にすら近い情熱で解析を続けているのはグングニールを手に入れたフリーのSクラスの面々も同じた。いや、むしろ彼らこそが更に酷いだろう。

 実際、解析と研究に没頭して魔域の活性化すら無視する始末だし・・・。 


 何はともあれ、これからひたすらの様にグングニールの解析の研究が繰り返されて、それをもとに新たな技術体系の機体が開発されていくのだけれども、大幅な機体性能の向上が見られるようになるのは当分先なのも確定している。

 簡単な計算しかできない子供に高度な計算式が解るハズもないのと同じで、そもそも技術を身に付ける下地が出来ていないのだからどうしようもない。

 少しずつ追いついて行くしかないのだけども、その中で暴走する輩が確実に出てくる。

 そして、八方塞がりの状況を打開するためにアベルの持つ最大出力での起動データに求めて来るのも見え透いている。

 ・・・そもそも使われている技術の詳細を理解するだけの知識からして足りていないのだから、そんな物を求めても意味はないのだけれども、自分の力不足はなかなか認められないもので・・・。

 しまいにはアベルの研究・解析の詳細まで公表しろと迫ってくるだろう。

 もうこれまでの経験から、これからそうなると確信できる。


 ミランダさんなんて予めソレが解っていて、一向に進まない研究のストレス解消の為にフルボッコにする気満々の気の様に思える・・・。

 アベルの方は・・・。そもそも他の研究者たちの事とか一切気にも留めていない感じかな・・・。

 とりあえず、これから一部の暴走した連中が押し寄せてきてこれまでよりもめんどくさい騒動になるのは確定で、その対応に私たちが終われるのも決まっている。

 本当に、気苦労が絶えないポジションに何時の間にか収まってしまった気がする。

 お願いだから、アベルもミランダさんも自制心とか常識と言う物を少しは身に付けて欲しいと本気で思うんだけど・・・。



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