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ヒルデ視点です。

「ああ幸せだ。やっぱり人生には安らぎと楽しみが無いと」


 心の底からの言葉だと判るだけに、どう返したらいいのか判断に悩む。

 それにしても、活性化中の狂気すら感じられる姿とはずいぶん違う。

 今は年相応の可愛らしい少年にしか見えない。


 異常の一言に尽きた魔域の活性化も無事に終わり、今私たちはローレラントを離れてクレストという国に来ている。

 彼らは元々この国でゆっくりと休養を楽しんでいたらしく、それを邪魔する形で始まって魔域の活性化も無事に終わったのだから、しばらくは再び休養に専念するとの事。

 まあ、気持ちは判る。

 正直、話に聞いただけでも彼らの旅は殺伐とし過ぎている。

 それに、魔域の活性化なんて非常事態に対して最前線で挑み続ける日々を一か月近くも続けて来たのだ、その疲れを癒すためにしばらくは休養に専念したいと言われれば、誰だって文句は付けられない

 むしろ、休養も取らずにそのまま魔物の討伐を続ける方がおかしい。

 あまりにも異常だと恐怖すら覚えてしまう。


 だからこそ、彼らがしばらくは休養するからと宣言した時には、周りの方がむしろ安堵して心の底から喜んで受け入れたという背景が実はある。

 まあ、アベルはともかくミランダさんの方は確実に理解しているハズだけども、特に何も言わずにゆったりと休みを楽しんでいる。

 その様子から、彼女をしても今回の活性化は極限まで追詰められるほどにギリギリだったのだと理解させられる。

 私たち三人は途中参加なのでそこまで追詰められてはいないけれども、実際、既に防衛線は瓦解寸前にまで追詰められていたし、魔物たちは明らかに高度な戦略を駆使してくるなど、もしも活性化の終焉がもう少し遅かったら、レジェンドクラスの増援が来ない限り確実にローレラントの国は失われていたほどにはギリギリの状況だった事くらいは判る。


 そんなギリギリの状況からようやく解放されたのだ、彼らがはしゃぐのは当然だし。むしろ義務ですらある。

 そんな骨休みで訪れたクレスト。彼らのテンションは当然ながら最高潮だ。

 これから先ずっと一緒に居るのだから当然と言えば当然だけど、私たちも付き合う事になったのだけど、実際の所ついて行けない。

 ・・・活性化に対抗する戦線に参加して間もない私たちは、彼らの様に極限状態まで追い詰められた状況からようやく解放された訳ではないので、彼らほどの感動はなく、どうも乗り遅れてしまっている。


 まあ、そのおかげで彼の事をじっくり観察できているし、美味しい料理を存分に堪能できているのだけども、どうもテンションの違いに若干居心地の悪さを感じてしまう。


「貴方は本当に食べる事に関して妥協しないのですね」

「当然だろう? 殺伐とした日常の癒しなんだから」


 この楽しみがなければ魔域の活性化なんて災厄の中で戦い続けられないと続けられた言葉にミランダさんまでも真剣に同意している。


「食べる事くらいしか楽しみが無い訳だからね、一週間や二週間程度ならともかく、あんな長期間死と隣り合わせの戦場に居続けるためにはどうしたって安らぎやストレス発散の手段が必要だよ」


 食事が最も手っ取り早く確実な方法だかと判っているからこそ、高位の実力者程食事に対するこだわりが強い。レジェンドクラスのこだわりなんてこの比ではないしねと続けられて、そう言えばと思い起こして、確かにと深く納得する。

 正直、アレはこだわりとかそんなレベルじゃなかったと思う。

 アベルの食に対するこだわりは彼らに比べればまだまだ常識の範囲だろう。

 それでも有無も言わさないレベルのこだわりだとも思うけど・・・。

 ご飯、米を非常に好み、最高のご飯を求めて鬼人の国から最高の米を財力にモノを言わせて取り寄せて食べているのだから、妥協する気は全くないという思いがアリアリとうかがえる。

 因みに、私たちもそのお相伴にあずかったけれども、拘るのも納得の美味しさだった。

 特に酢飯にしたご飯に生の魚介類をふんだんにあしらった海鮮丼は絶品だった。ワサビや醤油にまでトコトン拘り抜いた一品は至高の美味といっても良いものだった。

 死と隣り合わせの極限状態でここまで拘るかとも思ったけども、逆に、そんな状況だからこそトコトンまで拘るのだと後になって理解した。

 活性化という凶事は、どれ程の強者てあっても否応なく追い込まれてしまう程に過酷なのだ。それに対抗し続けるための精神安定剤の確保はむしろ必然だろう。 

 今更の様にそんな事に思い至るあたり、私たちもまだまだ青いとつくづく思う。


「まあ、ようやくそんな地獄からも解放された訳だし、これからは別の楽しみも存分に満喫するつもりだけどね」


 というか、せっかく発掘した装機竜人のデータを基に自分のオリジナルの専用機を造り上げようと意気込んでいたのに、一向に進められないのにいい加減ウンザリしていたらしい。

 しばらくは休養がてら研究に専念したいモノだとの事。


「ああ、それは私も同感ね。せっかくいいアイデアが浮かんだっていうのに、試す暇すらないんだから」


 ミランダさんも発掘された太古の装機竜人を調べ上げて、その現在のモノとは比べ物にならない程に高度な技術から様々な新たな技術やアイデアを思いつき、早速自分の専用機で試そうと意気込んでいた所に、魔域の活性化が始まってかかりっきりにならざる負えなくなって、研究者としても技術者としてもいい加減ストレスが限界に来ていたらしい。


「特に今回ボイコットしたアイツらに後れを取るのが我慢ならにいわ」


 アイツらとは言うまでも無く、手に入れた装機竜人の解析や研究にハマって魔域の活性化という凶事すらも無視した他のSクラスの面々。

 自分が散々苦労している間、のうのうと研究を続けていたのが我慢ならないらしい。

 その気持ちは良く判る。と言うか極めて正当な怒りだと思う。

 彼女が命懸けで戦っている間、呑気に自分の好きな研究を続けていた他のSクラスに殺意を覚えるのも当然だ。

 正直、やらかしたSクラスに面々には同情すらしてしまう。

 彼女は絶対に敵に回してはいけない人物だ。目先の研究に目を奪われて彼女の怒りに触れた事を後悔する時がそう遠からず来ることになるだろう。

 その時、どんな地獄絵図が繰り広げられるか想像するだけで恐ろしい・・・。

 とは言え、どう考えても完全な自業自得でしかないし、自分の不始末は自分でつけてもらうしかない。


「と言うか、確か専用の工房を手に入れたのを知られて、指名依頼が次から次へと舞い込んでくる事態になるのが嫌だから、純粋に興味の他に、工房を手に入れたのを知られずにするために遺跡に行ったって話だったけど、間違いなく余計にメンドクサイ事態になってるよね」


 何やらメリアが寝耳の爆弾発言をする。


「それについては言わないでくれよ。本気で頭を抱えているんだから・・・」


 それは嫌そうに応じるアベルの様子に逆に興味が湧く。


「おや、それは初耳だね。どういうことか話してもらうよ」


 ミランダさんがソレは楽しそうにしている様子から、黙っているのは無理だと判断したのだろう。諦めた様に話し出す。

 それによると、カグヤを造り出しこの世界を救った十万年前の偉大なる超越者たちが残した古文書に示されていた遺跡。彼らの残した遺産が眠る遺跡は元々いつかは必ず目指したいと思っていたけれども、ついでに自分の専用機をつくるための工房をどうにか手に入れられないかとも考えていたのだと、それで、装機竜人の運用する空中戦艦の生産工場兼ドックに目を付けて行ってみたはいいモノの、十万年前の技術や常識は現在とは比べ物にならない程危険すぎるシロモノだったと・・・。

 正直、発掘した品々の性能を把握した時には目の前が真っ暗になったという。 

 

 確かに、私が知るSクラス専用機としてレジェンドクラス級の力を発揮する装機竜人が四百を超える数もあるというだけでも極めて危険すぎる。

 まあSクラスの研究材料として収まったから良いものの、場合によっては相当数の犠牲を出す大きな混乱にまで発展していたかも知れない。

 その上、一緒に発掘した空中戦艦。それも彼らが使っているヒュペリオンの性能はシャレや冗談で済むレベルを超えるにも限度がある品物で、全世界を敵に回しても余裕で勝てるんだそうだ・・・。

 話を聞いた時には思わず聞き返した。

 そんなはずがあるかと本気で思ったけれども、なんとヒュペリオンにはジエンドクラスの魔物すら殲滅できる戦闘力があるという。


 ジエンドクラス。そんなのそれこそお伽噺の中だけの存在でしかない。

 十万年前までは純粋な脅威としてこの世界を席巻していた事実は確かに伝承に伝わっている。

 かつてカグヤを造り出した超越者たちはその頂きに、全てを超越するΩランクにあったと伝説にはある。

 だけど、そんなのはそれこそ本当に物語の中の話と同じ。

 カグヤの封印によってジエンドクラスの魔物が現れる事はなくなり、レジェンドクラスの魔物が現れるのも数千年に一度程度。

 かつては数百年おきに現れた事もあったと聞くけれども、その程度の頻度でしか現れる事はない。


 建国から続く歴史書の中に綴られた事柄から、カグヤによって世界は守られ、十万年前とは比べ物にならない程に今の世界を守る戦力は低下したのは事実だと知ってはいる。

 そして、それが当然の結露である事、世界のバランスを保つために、今の世界を守るのに必要な力を維持しているのだとも理解している。

 だからこそ、ヒュペリオンという存在の持つ危険性を、全てを破壊しかねない脅威である事も理解できてしまう。

 本当に、なんて恐ろしい物を発掘したのか・・・。

 と言うか、十万年前の超越者たちはどうしてそんな危険物を残したのか・・・。


「まあ、万が一の時の為の保険を手に入れられたのは良かったけどね」

「万が一って何ですか・・・?」


 そんな常軌を逸した危険物が必要になる事態なんて想像もつかないんだけど・・・。

 そう言うと、十万年も動き続けているカグヤが機能不全を起こすなどの異常事態が発生した時に備えて、カグヤまで辿り着ける手段を持っておくに貸した事はないし、もし本当に、そんな事態に陥ったりしたならば、今までとは比べ物にならない程の魔物の侵攻が起きるのだから、その時の為の備えも必要だとの事。

 そう言われれば確かにその通りで、そんな異常事態が起きるかとも思うけれども、実際に魔域の活性化に十分過ぎる程の異常が起きているのだから、それが予兆である可能性も確かに否定できない。


「まあ、とは言ってもあくまでも可能性、万が一に備えての話だし、そんなすぐにどうこうなるなんて事もあり得ないけどね」

「それについては、本気でそう願うね」


 何か、半年で二回も魔域の活性化と対して、しかも異常な終焉に立ち会うなんてありえない確率を引き当てたからか、どうにもネガティブな思考に囚われている気がするけれども、これまでの彼の運の悪さを考えるとどうしてもそう考えてしまうのも判るかも知れない。

 私としても、そんな災厄は絶対に起きて欲しくないのだけど・・・。


「せっかくの料理がマズくなる。この話はこれでおしまい。それに、俺は絶対にしばらくは休暇を楽しむんだから、フラグを立てるような事はなしで」


 話をぶった切る事を宣言して焼きたてのピザをビールで流し込む。

 私としても楽しい話ではないのですぐに同意する。 

 確かに、しばらくは何事も無く穏やかに過ごせると良いのだけど・・・。

 私としても初めてのヒューマンの国を思いっきり楽しんでみたいし、



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