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 状況の変化は余りにも唐突に起きた。

 間違いなくマリージアの時と同じ異常。

 それは同時に、これさえ乗り切ればようやく終わりの見えなかった戦いに終止符が打たれるという事だけれども、それも生き残れなければ意味はない。

 マリージアの時は辛うじて生き延びる事が出来た。

 だけど、今回はその時とは比較にならない程、厳しい戦いを強いられ続けている。そんな状況で起きたこの異変が、前回と同等の脅威であるとは到底思えない。間違いなく、前回とは、マリージアの時とは比べ物にならない程の地獄が待ち受けているだろう。

 果たして、その中で生き延びる事が出来るかどうか・・・?

 言い様の無い不安と恐怖が全身を支配する。

 今迄も何時死んでもおかしくない、ほんのわずかなミスや判断の遅れが命取りになる、死と隣り合わせの戦いだった。だけど、これから先ば今迄とは次元が違う。むしろ、どれだけ死力を尽くしても生き残れる可能性が見付からない。そんな戦いを強いられる事になる。


「ふっ」


 状況の変化を指を咥えてみている余裕はない。

 状況の変化とともに溢れ出した魔物の群、その中で最も脅威が高い集団の中心に転移し、ディス・フレイムで一掃する。

 事ここに至って躊躇している余裕はない。後、魔晶石による回復が出来るのは十回が限度だろう。その間に全てを終わらせられなければ、確実な死が待っているだけだ。

 前回の情報から、ほぼ間違いなく、今この魔域の内部は完全に遮断された空間になっている。外部からの侵入も内部からの脱出も共に不可能。あらゆる手段を用いても一切の観測すらできない。

 今、この魔域内部は完全な折になっているのだ。

 だけど、それも考えてみればおかしな話だ。完全に隔絶しているという事は、異界から溢れ出す魔物も魔域の外には出られないという事。

 何をどうすれば、そんな異常な、おかしな事になる?

 異界からの侵攻と言う、魔域と魔物の在り方を考えればこれ程おかしな事はない。

 或いは、終焉まで魔域内部に魔物を溢れかえらせて、ようやく終わったと気が緩んだ所に一気に開放して致命的な損害を与えようとしている?

 明らかに戦力を立てて魔物を送り込んでいるのだから、それも可能性としてはあるかも知れない。だけど、それもどう考えても矛盾している。どれだけ魔域が功広大でも、その内部に留められる魔物の数には限りがある。それに、異変の終わりとともに魔物が溢れだしてくると判っているのならいくらでも対応する手段はある。

 戦略級兵器を異変の終わりと共に一斉射すれば、それだけで確実に膨大な数の魔物を殲滅できる。むしろ、この状況は人間側にこそ有利なのだ。

 そう考えると、ぶっちゃけ、この状況はむしろ魔域内部に居る存在を確実に抹殺するために仕掛けられているとしか思えない。

 もっとハッキリ言えば、俺を殺すために用意された領域に思えて仕方がない。

 むしろ、そうでないのならどうして前回に引き続き俺が戦っている時に起きる?

 何か、世界その物から明確な殺意を向けられている気がしてならない。・・・この場合は異界からか、


 どちらにしろ、今やる事は変わらない。

 持っていて剣を十メートルを超える巨大な剣に持ち替える。腕力で振るっている訳でもないので、どれだけ巨大で重くても振り回される事はない。今重要なのは、近接戦闘の一撃で多くの敵を同時に屠れる殲滅力だ。

 魔力と闘気で極限まで強化すると同時に振るい、ただの一撃で数十近い魔物を切り裂く。

 舞う様に剣を振るい、突撃するように突きを放ち、音速の百倍を超える速度で縦横無尽に戦場を駆けながら、或いは転移で自在に戦場を変えながら、ただひたすらに魔物を屠り続けていく。

 剣を振るい、広域殲滅魔法で全てを無に帰し、闘気を乗せた飛斬の乱舞で辺りの全てを切り裂き尽す。

 外界の完全に隔絶した故に、被害を出さない為に敵の攻撃をあえて受ける必要もなくなった。それでも、圧倒的な物量を持って向かい来る苛烈な攻撃の全てを避け、無効化する事が出来るハズもなく、確実に防御障壁をこれまでにない速度で削っていく。

 ただひたすらに敵を殲滅するために攻撃を続け、敵を屠ると共に攻撃を避ける最適な軌道で戦場を駆け続け、凄まじい息酔いで削れていく防御障壁を新しく展開し続ける。

 どれか一つでも最適な行動をとれなければもミスをすればその瞬間に確実な死が襲う。


 Sクラスの魔物が無限を思わせるほどに溢れているのを確実に殲滅していっているからこそ、辛うじて防御障壁で防ぎきれている。

 同じく、最適なルートで戦場を駆け、攻撃を出来る限り避け、無効化し続けているからこそ、辛うじて防御障壁を維持し続けられている。

 この二つを僅かなミスも無く完璧にこなせているからこそ、辛うじて破られる速度よりも早く新たに防御障壁を展開出来ている。

 もし、全ての防御障壁が破られたなら、その瞬間に俺は完全に消滅する。その恐怖と絶望が少しづつ判断を鈍らせようとするのを無理矢理押さえ付ける。

 恐怖も絶望も不要。同時に怒りも憎しみも必要ない。戦いに際して何も感じる必要はない。ただ敵を倒す事だけに集中して他の一切を捨て去る。ただ機械的に魔物を殲滅する為だけに存在する一つの在り方。 

 そうなれなければ待つのは確実な死だけた。

 次々に斬り裂かれる魔物後に辺りが赤く染め上げられ、自由落下で大地に墜ちるよりも早く広域魔法によって跡形も無く消え去る。 

 素材を回収している暇も余裕も一切ないし、そもそも回収しようにも戦闘の余波で尽く消し炭になっていく。

 マリージアの時と違って、全てが終わった後に回収できる魔物が残っているかすら疑問だ。

 現状、既に魔域にはかつての面影の欠片すら残っていない。

 一か月近くに及んだ活性化と、激戦の影響によって完全な荒れ地になり果てている。

 無数のクレーターには魔物のし甲斐が折り重なり、血の池が出来ている。池はそのまま極寒の冷気によって凍り付き。或いは飛び散った血すらも瞬時に凍り付き、深紅のダイヤモンドダストを生み出す。

 そして、次の瞬間には圧倒的な破壊の力が全てを跡形も無く消し去る。

 今、この戦場は地獄をそのまま再現したというに相応しい様相を示している。

 全てを氷で閉ざす極寒の世界に、全てを無に返す絶対的な破壊の奔流が荒れ狂っている。


 視線の片隅にブリザード・ワイパーンとブリザード・ワイパーン・ロードの群がこちらにブレスを放とうとしているのを確認する。

 全てを凍り付かせ跡形も無く破壊する奔流が放たれた瞬間、ワイパーンの背後に転移すると同時に、巨大な剣の一振りで一掃する。

 同時に爆発が俺を襲う。

 一瞬、何が起きたのか理解できなかったが、即座に転移でその場を離れると同時に元いた場所を再び圧倒的な破壊の奔流が支配するのを目の当たりにして、何が起きたのかを知る。

 だけど、そこまでの事が出来るのかと戦慄せざるおえない。

 今のはある意味で極めて単純な攻撃だ。圧倒的な破壊力の魔法を転移で俺のすぐ傍に出現させた。ブリザード・ワイパーンそのものが囮だったのだ。あのブレスを避けると同時に殲滅するために背後に転移すると読まれていた。

 だからこそ、気が付く間もなく攻撃に晒される事になった。

 こちらの動きを読むどころか誘導して、確実に打ち倒すための戦略の元に魔物たちが動いている。


「くそっ」


 どうやら、冗談ではなく本気で俺を殺す為だけに全てを費やすつもりのようだ。そう考えて挑まなければ確実に飲み込まれて殺される。

 魔法のみを好きな場所に転移する。そんな事が出来るとは思いもしなかった。早速試してみたいが、そんな実験をしている暇はない。

 あとどれくらいでこの異常が終わるかも判らない。あとどれだけの時間戦い続ければいいのか判らない状況で、しかも逃げられない中で全力で戦い続けなければいけない。もし、異常が終わり、活性化が終焉を迎えるよりも早く魔力と闘気が尽きれば、確実に死ぬと判っているのだから始末に悪い。

 それでも、躊躇していればそれだけで死ぬのも目に見えている。

 魔法の砲火を集中してザコの魔物を殲滅し空いた空間を一気に駆け抜ける。或いはこちらの思惑も既に悟られている可能性もあるが、そんな事を気にしている暇はない。何をするつもりか悟られたとしても、対応される前に全て終わらせてしまえば良い。

 魔力を惜しまず一気に全方位に砲火を撃ち出し続ける。無造作に撃ちだしているように見えて、艦実に、最も効率よく戦果を挙げられる様にターゲットとなる魔物に狙いを付けて放ち続ける。

 そうやって目的の位置まで辿り着くと同時に、空になった魔力を魔晶石で回復し、回復した魔力を全て使い切ってディス・フレイムを放つ。

 即座に再び魔晶石で魔力を回復すると転移でその場を離れ、一万メートル上空から一生前までいた場所が閃光に包まれるのを確認すると同時に、その閃光ごと重力崩壊の中に引きずり込む。


 一度に数万を超える魔物を殲滅しても尚、一向に数が減る気配が見えない。

 まるで活性化によって溢れ出す魔物の全てを相手にしているような錯覚を覚える。

 まるで空間全てを埋め尽くすかのような砲火に常に晒され続け、僅かな隙間を縫うように避けて行くのもすべて無効の思惑通りに動かされているだけなのかも知れない。

 だとしても、その思惑の更に上を行けば良い。デメンション・シールドを展開。同時にシールドをその場に残して転移。次元断裂の塊に向けて攻撃を続ける魔物を一派機残らず殲滅する。

 別に何か特別な事をする訳じゃない。展開時に仕掛けた時限爆弾が動き出す。

 あの次元断裂の障壁は、自らに向けて放たれた攻撃をそのまま内部にため込み続ける様に設定してある。

 次元の隙間を超えて障壁で覆われた内部に全ての攻撃が集められるように仕向けているのだ。

 そして、ある一定時間が過ぎれば次元断裂の障壁は消滅すると同時に、内部に溜め込まれ続けたエネルギーは一気に開放される。勿論、ただ解放されるだけではなく、魔物に対してのみそのエネルギーが向かう様に設定してある。

 ディメンション・パンドラ。俺が編み出したオリジナル魔法だ。

 扱いは極めて難しいが極めて強力で、効率的な魔法でもある。ただし、そうそう何度も使える魔法でもない。

 ディメンション系の、次元断裂系の魔法はどれも扱いが非常に難しい。その難点の集大成の様な魔法なのだから当然だが・・・。


「フレイム・ワールド」


 広域殲滅型灼熱魔法フレイム・ワールド。

 全てを凍り付かせるかのような極寒の地が、一転して灼熱の業火に焼き尽くされる業火に支配される。そして展開した魔法をそのままに、一気に魔物の群へ向かって突進する。

 フレイム・ワールドはディス・フレイムなど他の広域殲滅魔法と違い、ある程度の時間展開し続ける事が出来る。その分威力の面では若干落ち、Sクラスの魔物を倒せる程の威力はないが、Aランクまでの魔物ならば確実に仕留められるし、範囲内に入ったSクラスの魔物の防御障壁を破る事は出来る。 

 そして、防御障壁さえ破れれば、Sクラスの魔物も確実に仕留めて行く事が出来る。

 ただひたすらに範囲内に入った魔物を全て殲滅していくけれども、同時に凄まじい勢いで魔力が消費されていく。それでもディス・フレイムよりも確実で効率的だろう。

 地上に小型の太陽が現れたに等しいので、魔域の様子も一気に変化していく。数千度を超える高温に魔域内部の全てが焼き尽くされ、あらゆる生命を拒絶する灼熱の地獄へと変貌していく。

 氷属性の魔物が絶対零度のブレスや魔法を数え切れない程に放つが、その尽くを灼熱の業火が消し去っていく。


 だけど、その状況も何時までも続く訳じゃあない。

 魔力が尽きる前にフレイム・ワールドを解くと共に魔晶石で魔力を回復する。

 焼き尽くす劫火がなくなった事によって、魔域内部は再び極寒の冷気に閉ざされようとするが、急激な温度変化に大気が荒れ狂い。数え切れない程の竜巻を生み出し、同時な一部では真空地帯すらも造り出し、上昇気流とダウンバーストがぶつかり合い信じられない衝撃波となって辺りを荒れ狂う。

 もしも、ここが外界と隔絶した場所でなければその被害はどれだけの広範囲に、どれ程の規模にまで及んだかと背筋が寒くなるような状況が造り出される。

 フレイム・ワールド。禁断魔法は伊達では無い訳だ。


 この魔法は、十万年前に一度だけ使われて、その後二度と使われる事なく存在ごと抹消された魔法の一つだ。

 要するにゲーム時代の魔法で、現実になると使えない所の騒ぎではない非情に恐ろしい魔法の一つ。

 まあ、ゲームではお馴染みのメテオ。隕石を落とす魔法やアースクエイク。地震を引き起こす魔法など現実で実際に使ったらどれだけの災害を引き起こすか判りきっているのだから、使えるハズもないのもむしろ転生物ではお約束だけども、このフレイム・ワールドのヤバさも、隕石落とし魔法に匹敵するレベルだ。

 特に厄介なのが、この魔法がある程度の持続型であるところだろう。今を魔域内部の閉ざされた空間だけだからこの程度で済んでいるが、もしも開け放たれた空間で使ったならばどれだけの範囲に被害が及ぶか想像もつかない。


 だが、今はこの禁断魔法の凶悪な爪跡が都合がいい。

 荒れ狂う暴風と気圧の嵐はは魔物を翻弄し、その動きを止めている。その隙に出来る限りを打ち倒す。


 転移と共にディス・フレイムを放ち一掃。同時に魔晶石で魔力を回復し、アイン・ソフ・オウルのシャワーを放つ。

 更にディメンション・ブラストを放ち、次元断裂の砲撃によって荒れ狂う空間ごと全てを薙ぎ払う。

 今のこの好機を逃す手はない。俺は転移と次元断裂魔法を組み合わせて一気に魔物を殲滅していく。

 ディメンション・ブラストにディメンション・フレイム。

 荒れ狂う大気ごと魔物を事如き次元断裂によって引き裂き、存在を崩壊させていく。

 このディメンション系魔法も、実は禁呪一歩手前の極めて危険なモノだ。重力崩壊系の魔法もそうだが、一歩間違えれば、制御を誤ればどれだけの惨事を生み出すともしれない。

 最悪、世界そのものを虚無に帰してしまいかねない。

 本来なら、そう容易く使っていい魔法でもないのだが、今はそんな事を気にしている余裕すらも無い。

 気が付けば当たりの魔物を一掃され、荒れ狂っていた大気も静かになっている。

 だが、まだ終わりじゃない。魔域内部の全ての魔物を殲滅できた訳ではないし、活性化もまだ終わってはいない。まだまだ魔物は溢れ出て来る。


 後どれだけ続く?

 俺はゲートとエリアマスターの様子を確認する。

 前回は、この二つの魔力が急激に小さくなると当時に異変も終息に向かって動き出した。

 見た所ではまだ変化はない。

 魔晶石による回復はあと三回が限界。このペースだと後一時間も持たないだろう。つまり、それまでに事態が収束に向かわなければ確実に死ぬしかない。

 だから、どうしてこんな命を賭けた死線に挑まなければいけない?

 この世の不条理を心の底から嘆きたいところだが、そんな事をしている余裕はない。


「ちっ、喰らうかっ!!」

 

 周りに魔物の姿が見えなくなったのもほんの一瞬だけの事、次の瞬間にはて回魔法を使える魔物が、他の魔物も引き連れて次々と転移して来る。

 転移と共に放たれた砲火が空間を支配し、確実に俺の防御障壁を削っていく。

 一方的にやられるつもりは無い。当然応戦するが、こちらが殲滅するよりも集まってくる速度の方がはるかに早い。気が付けば、辺りを完全に魔物に覆われて身動きすら満足に取れない程になっている。

 魔力の残りを気にしている場合じゃない。

 俺は転移魔法で攻撃魔法を俺を囲む魔物の外から放ち、囲いを外側から削っていくと共に、残りの魔力を使い果たし、即座に魔晶石で魔力を回復を行う。

 そして、ディス・フレイムで周りの魔物を全て一掃する。

 そしてまた魔力を回復する。

 余りにも短期間に魔晶石を使い過ぎた反動で、体が引き裂かれるような悲鳴を上げる。これではもう一回使えるかどうかも怪しい。

 この魔力が尽きるまでに終わらなければ、それまでと考えていいだろう。

 

 そうなると、これまでの様に魔力をモノを言わせた広域殲滅は出来ない。

 無茶でも近接戦を主体にした各個撃破を基本に戦っていくしかない。

 手にしていた俺の伸長の七倍近くはある巨大に剣は、何時の間にかボロボロに崩れ落ちている。

 自分の持つ剣がどうなっているかすら気付かなかったとは・・・。

 自傷気味に苦笑いすると共に崩れた剣の残骸を投げ捨て、身長とほぼ同じ長さの剣二振りを取り出し強化する。

 この二振りの剣でどこまで戦えるか・・・。

 考えている余裕も時間も無い。

 新たに魔物が集まるよりも早く駆け抜ける。こうなったら、魔物の集結を許した時点で俺の負けだ。

 終結を許せば、広域殲滅魔法で一気に殲滅できない今の俺では、魔物の攻撃を凌ぎきれない。

 防御障壁の展開速度をはるかに上回る速さで破られ、生身に直撃を受けて跡形も無く消し飛ばされるか、防御障壁を破られ過ぎて魔力が無くなってしまうか、どちらにしても確実に終わりだ。

 なら、残された道は魔物の集結よりも早く殲滅し続けるだけ・・・。

 ただひたすらに魔物を切り裂き続ける。

 音速の百倍程度の速度しか出せないのが歯痒い。光速とは言わないまでも、せめてこの十倍の速さが出せればとも思うが、無いもの強請りをしたところで何ら事態は改善しない。

 

 永遠にも思える一瞬をただひたすらに剣を振るう。

 どれだけの魔物を切り裂いたかも判らない。時間の感覚すらもあやふやになってくる。極限を更に超えた状態に陥っているのだろう。思考はこれまでにないほどにクリアに研ぎ澄まされていく。

 ただ魔物を殲滅する為だけの存在として、最も効率よく動けるように自分自身すらも造り替えて行く。

 だが、そこまでしても魔物の脅威を全て払いきれない。


 ゲートとエリアマスターの魔力が急速に小さくなっていく。

 同時に辺りを更なる異変が支配する。

 ようやくこの異常事態の、そして魔域の活性化の終わりが始まろうとしている。

 だけど間に合わない。

 全てが終わるよりも辺り一面を覆い尽くす魔物の猛攻に成す術も無く討たれる方が早い。

 ここまで来て、あと一歩のところで届かない。死から逃れられない。


 だからといって諦めるつもりは無い。

 残りの魔力の全てを賭けて防御障壁を展開。同時に魔晶石で魔力を回復する。

 引き裂くような激痛だけではすまずに、実際に全身がズタズタになり、全身から血を流しながらも辛うじて魔力の回復に成功する。

 後は、転移に必要な魔力だけを残してディス・フレイムを放つだけ。

 全身を襲う激痛と、急激に失われていく血液に朦朧とする意識になんとかつなぎ合わせて、防御障壁が全て砕かれるよりも早く、なんとかディス・フレイムを放つ。

 俺の周辺を覆い尽くしていた魔物が全て消え去ると同時に、異変も終わりを迎える。

 本当に辛うじて生き延びられたな・・・。

 これも神か何かに演出されている結果だとか言わないよな・・・。

 朦朧とする意識の中で、そんな事を僅かに考えながら、俺は転移で魔域をあとにした。



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