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レジェンドクラスの到着しないまま、じりじりと戦力は疲弊しながらも辛うじて防衛線を維持しながら、六日目を迎えた。
明日が最終日。明日の内にレジェンドクラスが来てくれなければ、この国が失われる事が確定する。
総司令部としては、レジェンドクラスの増援が来なかった場合でもなんとか国を護るために、出来る限りの増援要請を出して戦力を確保しようとしたようだけども、残念ながら思う様に戦力は集まらず。辛うじて戦線の崩壊を数日引き延ばす事が出来ただけだ。
そして、肝心の活性化の方は相変わらず一向に終焉の兆しが見えない。
あと数日の間に終わってくれれば全て収まるのだけど、そうそう都合よくも行かないようだ。
ローレラントでは既に国が失われる事を前提に国民の避難も始められている。
こうしてみると、どれだけの力を持っていても数の暴力の前には太刀打ちできないとも思えてくる。
実際は違うのは判っている。
別にレジェンドクラスの増援が来なくても、ヒュペリオンを使えば簡単に状況を覆せるのを知りながら、それでも俺は使おうとしない。
ひょっとしたら最後の最後で使ってしまうかも知れないけど、それでも今の所は使うつもりは無いのに変わりはない。
まあ、結局は戦線を維持できる間に活性化が終われば何の問題も無いのだ。
可能性は限りなく低いが、魔物を殲滅しまくっていればそのうち兆候が始まるかも知れない。
そんな訳で、今日もこれから魔物の殲滅に励むとしよう。
現状までに既にマリージアの時とは比較にならない魔物を殲滅しているのだけど、最終的な一体どれほどの討伐報酬になるのだろう?
ぶっちゃけ、国が無事に守りきれたとしても、俺とミランダの討伐報酬だけで財政破綻する事になりかねないと思わなくもないのだけど・・・。
まあ、その辺りの事は気にするだけ無駄だろう。
時間になったので、魔域内部へと転移して殲滅を開始する。
状況が決するまで後数日。どちらにしろもう終わりが見えているので、今日からはこれまでよりも少しだけ無理をするつもりだ。
魔晶石による魔力回復回数のギリギリまで戦わせてもらう。
これで一日当たりの討伐数は飛躍的に増大する。
どれだけ倒せるかは判らないが、これでもなお、活性化に終焉の兆しすら見れないようなら、国を放棄して殲滅戦略級兵器を撃ち込みまくって手当たり次第に殲滅し続けたとしても、それで終わりが見えるかすらも怪しくなってくる。
本当に、面倒なのでさっさと終わって欲しいんだけど・・・。
心の底からそう願いながら、辺りを埋め尽くすザコを広域殲滅魔法で一掃しながら、Sクラスの魔物を結界を破壊する強力な魔法とアイン・ソフ・オウルの二段構えの攻撃で確実に打ち落としていく。
今の所はこれが一番効率がいい。
超広域殲滅魔法であるディス・フレイムは魔力の消費が激しすぎるので、Sクラスの魔物が周辺を埋め尽くしているような状況でもない限り、逆に効率が半端ではないレベルで悪い。
そんな訳で、俺自身を囮とするために固定砲台状態で殲滅を続けているのだけども、早々何時までも想い同笠にさせてくれるほど甘くはない。
転移魔法を使える魔物が転移戦法で一気に距離を詰めて近接戦闘を仕掛けて来るし、或いは強力な一撃だけを残して即座に転移して距離を取り、再び転移してのヒット・アンド・アウェーの攻撃を仕掛けてくる。
特にヒット・アンド・アウェーの攻撃は厄介にも程がある。
攻撃に対してどう対応するか判断する時間がほぼゼロに近い上、強力過ぎる攻撃を相殺する魔法のを展開する時間も無く。更に、強力過ぎる上に射程もシャレにならない程の距離に及ぶので避けるという選択肢が取れない。つまるところ防御障壁で受けるしか対応のしようがないのだ。
これは本気でシャレにならない。
圧倒的な破壊力の一撃は展開した防御障壁を次々と破壊していき、これまでにない命の危機を感じさせる。更に、攻撃を受けている間は身動きが取れないのも致命的だ。
何度も喰らい続けていれば、こちらは何も出来ないまま相手にいい様に翻弄されるだけの状況に陥ってしまう。
だからこそ、転移魔法を使う魔物は使われる前に確実に仕留めていく必要がある。
戦場の全ての情報を完全に把握し、その名で優先順位が高い順に的確に、最適な処理を行っていく。
予測演算によって未来すらもある程度見通し、それを逆に覆し続ける作業はどれだけの処理能力をもってしても追いつかない程の情報量だ。
頭に激痛が走り、集中力が乱れそうになるのを気合で押さえ付け、そんなモノは無かった事に無理やりする。
マリージアの時とは比べ物にならない程の死戦だ。
あの時も常に命の危険に曝されていたが、今ほどの脅威ではなかった。
全力を尽くしてもまだ足りない。持てる全ての力以上の力を常に出し続けていなければ次の瞬間には跡形も無く消え去っている。
苦戦の理由は言うまでも無く次から次へと繰り返される転移魔法だ。自分が使う分にはこれ程有効な手段はないが、当然、相手に使われればこれ以上ない脅威になる。
ではどうする事も出来ないかというとそうではない。
相手の転移攻撃を防ぐ方法が無い訳じゃない。
魔域の中心部の様に、転移魔法そのものが使えない場所は確かに存在する。
それ以前に、転移魔法の使い手は城などの重要施設に何時でも転移できるのでは防犯も何もない。
そんな訳で城などの重要施設には転移妨害の魔法がかけられている。その中にはたとえどれだけの実力があろうとも転移する事は出来ない。
それと同じ転移阻害魔法を展開すれば、魔物の転移戦法を無力化する事が出来る。
だが、実際にそれを使えるかというとこれも全くの別問題だ。
まず魔法の展開式が戦闘中に常時展開し続けるにはあまりにも複雑すぎる。
次に、当然ながら展開中は自分も転移魔法を使えないので、何かあった時にすぐに転移゛使えないのも致命的だ。
更に展開中は実は一部他の魔法にも影響が出る。影響といってもごくわずかなモノで、何時もならば何の問題も無い程度なのだけども、命懸けの状況ではそのほんのわずかな差が致命傷になりかねない。
つまり、結局は魔物が転移魔法を使う前に殲滅してしまうしか対処法が無いのだ。
だけど、魔物の中でも転移魔法を使えるモノなど限られている。
正確には、レジェンドクラスの魔物ならともかく、Sクラスの魔物で転移魔法が使えるのなど数える程しかない。活性化中でも、こんなにギリギリの対応を迫られるほど多くの数が溢れ出て来るなど本来ならありえないハズだ。
どれだけ魔物を討伐しても一向に終わる気配を見せない異常な活性化の長期化といい。明らかにおかしいと判っていながらどうする事も出来ないのがもどかしい。
実際、仮に異常が起きていたとしてもそれは侵攻してくる異界での事なので、十万年前の転生者であったとしてもどうする事も出来ない事態だと思うが・・・。
イヤ、彼らの場合はゲーム知識がなくてもどうにかしてしまう気もしなくも無いか・・・。
考えるのは止めておこう。というか、考えるだけ無駄だ。
「っちぃぃぃぃ!! 」
それ以前に余計な事を考えている余裕がない。
予測演算で未来を含む戦場の全てを把握するとはいえ、それも精々直径十キロ程度の範囲が限界だ。数百キロ先から転移による奇襲を仕掛けてくる魔物を事前に察知する事は出来ない。
だから、どれだけ奮戦しても敵の転移攻撃を完全に防ぐ事は出来ない訳だ。
そして、狙ったように確実に俺が避けられない様に必殺の一撃を放ってくる。
的確にこちらの弱みに付け込んでくる高位の魔物の狡猾さに舌打ちしつつ、俺はアイテム・ボックスから剣を取り出し、剣が耐えきれるギリギリのラインので魔力と闘気で強化し、放たれている攻撃ごと魔物を一閃で切り裂く。
そのまま転移で次の魔物の所へと転移すると同時に一撃で斬り倒し。そこから魔物が密集している所へと自らを弾丸として突っ込み、尽く殲滅する。
本来なら生身での魔物との戦いは距離を置いて魔法や闘気を使った砲撃がメインなのだが、安全性を度外視するのならば剣などによる近接戦闘の方が有効な一面もある。
特に転移魔法を使う相手に対してはそれが謙虚な事が判明した。剣による近接戦に切り替えた事で状況がかなり楽になったのだから、もっと早くそうしていれば良かったと本気で思う。
近接攻撃は魔法などの砲撃と違って、防御障壁の破壊と魔物への攻撃を二つに分ける必要がない。防御障壁を破ったらそのまま魔物本体に斬りかかればいい。
このワン動作の有無が、その間に転移で逃げられるかどうかという決定的な違いになって戻ってくる。
確実に、より迅速に転移を使う魔物を殲滅する必要があるこの状況では、近接戦闘の優位性は計り知れないほど高かった。
有象無象の雑魚を魔法で殲滅しながら、転移魔法を使うES+ランクの魔物、ラグナ・ブレイカーを横薙ぎに斬り裂き仕留め、同時に回収しながら俺もまだまだだと本気で思う。
要するに実戦経験が圧倒的に不足しているのだ。
だから、本当の意味で状況に応じた最適に行動がとれていない。
俺にもっと経験や知識があったならば、いくら転移魔法による奇襲を仕掛けてくる魔物が際限なく溢れて来るとはいえ、もう少し楽に戦えていたのだ。
もっとも、多少楽になったといっても相手もすぐに対応して来るのもほぼ間違いないだろうが・・・。
しかし本当に成んだこの状況は?
こちらの戦力を的確に読み取ってそれに対応するかのように魔物が送り込まれてくる。
先頭の長期化による疲労も確かにあるだろうが、それよりもこちらの動きに合わせて的確に戦術を取るかの様に魔物が送り込まれて来るのが問題だ。
明らかに、時が経てば経つほどに状況が悪化している。
どれだけ魔物を殲滅しようが一向に魔域の活性化が終わる気配がないのと合わせて、どう考えても異常事態どころの騒ぎではない、もっと最悪な事態が発生しているのではないかと思える。
それこそ本当に、十万年前の転生者がヒュペリオンなどを残した理由。カグヤの封印が解かれようとしているなどの本当の意味で最悪の事態が始まっているのではないかと思えてしまう。
というか本気で勘弁して欲しい。
もし本当にそんな事態に陥っていたのなら、それこそ何も出来ずに滅びるしかない未来しか見えない。
侵攻してくる魔物を迎え撃つ?
絶対に無理だ。
今ですら精一杯なのだ、活性化の比ではない魔物の侵攻の前には、ヒュペリオンですら対抗しきれないのは火を見るより明らかだ。
十万年の月日でカグヤの機能が低下してしまったのが原因なら、カグヤに辿り着ければ修理などで機能を回復させることも出来るかも知れないので、出来ればそうであって欲しいのだけど、現状ではカグヤに行く手段はあってもまだ行くのは自殺行為だろう。
とは言え、状況はそんな事を言っていられるほど生易しいモノではないかも知れない。
これは早急にカグヤに辿り着けるだけの力を身に付けないといけないかも知れない。
或いは、四人のレジェンドクラスに協力を要請出来れば楽なのだけど、それはそれで特大の厄介事になる気がする。
気が遠くなる様な面倒事の気配に頭を抱えたくなるのを何とか抑えて、俺は戦況を変えるためにディス・フレイムでの一掃を敢行するために魔物を誘導して行く。




