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 異界から溢れ出てきた魔物を片っ端から殲滅していく。

 ただし、間違っても楔となるエリアマスターを刺激しないように気をつけないといけない。

 基本的には異界とこの世界を繋ぐための楔となるエリアマスターは魔域の中心部。次元の穴のゲートそのものに近いので動かない。二つの世界を繋げ続けるために動けないと言っても良い。

 活性化中なら尚更だ。絶えず魔物が溢れて来るゲートを維持するために身動きすら取れない。

 だからこそ、下手にエリアマスターを刺激するのは予想外の事態を引き起こしかねないので大変危険だ。


 そんな訳で、そんな大変デリケートなエリアマスターを刺激しないように気をつけながら、溢れ出て来る魔物を片っ端から殲滅しては回収している訳だけども、それもそろそろ終わりそうだ。

 流石にもう魔力が持たないし、どうやら目障りな俺をどうにかする為にそこに中から魔物が集まってきているようだ。何か、これは他の魔域から転移魔法で駆け付けた魔物すらいるっぽい。

 そんな事が起こるのかと思わず突っ込みたい。

 まあ、別に転移魔法は人類しか使えない訳じゃない。魔法が使える魔物に使えない道理も無いけども、流石にそれはあんまりだろう。

 まあ、実際に予想もつかないような事が当たり前に起きると知れただけでもよしとしよう。

 これはつまり、あまり変な事はするなとの忠告のようなモノなのかも知れない。

 それに、今回はたまたま上手くいったけど、次回からはこんなに上手くいく事はないだろう。俺が固定砲台として魔物を集めようとしても、ある程度は集まっても今回みたいに一網打尽に出来る程は集まらないで、俺を無視して他を狙う魔物が結構出て来るだろう。

 それならそれでいい。

 今日だけでかなりの数の魔物を殲滅できたし、ひょっとしたら活性化の終焉に向けて何か兆候が出始めるかも知れない。

 そんな訳でさっさと撤収。

 まだそれなりに余力は残っているけど、この程度は誤差の範囲だろう。毎回、ギリギリ余力が残っているところまで戦わないといけない理由も無い。十分な成果も出したし、余力が残っているなら戦え何て言われる筋合いも無い。

 とりあえず、さっさと転移魔法の使える場所まで後退する。

 魔域の中心部、異界とのゲートの近くは転移魔法が使えない。間違いなくゲートの影響だろう。むしろ次元の穴の近くで転移が出来る方がおかしいだろうから、これは問題ないのだけど、ピンチになった時にすぐに逃げられないのはかなりの問題だ。

 やはりあまり中心部には近付かない方が良いだろう。


 逃がすかと襲い来る魔物を迎撃して転移可能な所までこれたのでさっさと逃げる。

 防衛都市に戻って危険がなくなったのを確認して防御障壁を解除して大きく息を吐く。 

 気が付いたら転移可能な所まで逃げるので結構消耗している。今日は余裕を持って帰るつもりだったのに結構ギリギリだ。

 やはり無茶はするものじゃない。

 中心部に行くのはもう止めておこう。


「はい、お疲れ。それにしても随分とんでもないことしてたわね」


 そんな事を考えているとミランダに出迎えられる。

 因みに彼女は俺が戦うよりも先に戦場に出ていて、とっくに今日の分を終えている。

 まあ、魔域の活性化は一日中続くのだから、貴重な戦力を同時に使うような無駄の事をするハズがない。俺とミランダは戦場に出る時間は重ならないように調整されていて、魔物を殲滅する貴重な戦力として組み込まれている。


「とんでもない事とはどれの事かな? 俺自身、今日はずいぶん無茶をしたと思うよ」

「まずはあの魔法よ。二回使っていたけど、あんな常軌を逸した魔法視た事も無いわ」


 どうやらディス・フレイムの事が気になっているようだ。


「だろうね。俺も初めて使ったよアストラル系、広域殲滅魔法ディス・フレイム。ちょっと想像を絶する魔法だったよ」


 十万年前の転生者が残した魔法で、今では失われていた魔法でもある。

 何かゲームをしていた前世によく使っていた魔法で、こちらに来てみたらゲームオリジナルの魔法みたいだったとか書かれていた。

 ついでに、別に秘匿するつもりも無いけど間違いなくそのうち使い手が居なくなって失われるだろうから示しておくと、気が向いたら使ってみれば程度の感覚で残しておくとも書かれていた。

 実際、俺以外では四人のレジェンドクラスくらいしか使えない様な魔法だから、失われていたのも頷けるのだけども、想像を絶する程に強力な半面癖が強すぎて使いづらい魔法だ。

 ゲームなら終盤に覚える大魔法、むしろありきたりな魔法な気もするが、現実になる勝つ使い勝手が悪い。そんな魔法の代表格のようなモノだ。

 確かに威力は想像を絶するほどに強大だ。範囲魔法の特性上、相手の防御障壁を貫くための一撃を必要としない利点も大きい。

 アイン・ソフ・オウルなどの様に事前に防御障壁を砕く魔法を放っていなければ、障壁に阻まれて無効化される事が無いのは、確かに戦略上大きな利点だ。だけど、それだけならば他の範囲魔法でも同じだ。

 重力崩壊による抹消魔法など、範囲内に居る対象を防御障壁ごと問答無用で殲滅する魔法はそれなりに存在する。ただ、それらの魔法は跡形も無く消し去るため魔石などの素材もすべて失われるけれども、ディス・フレイムの場合は命を刈り取る魔法の為無傷の素材が残る利点がある。

 強力な魔物の素材を大量に手に入れてそれをもとに様々なアイテムを造り上げる。ある種のゲームでは定番だから、魔法としての利用価値は判るのだけど、それにしてもこれはないだろうと思う。

 俺も本を読んで存在を知って興味本位で覚えて使ってみようとして、失敗した時には逆に腹を抱えて笑ったものだ。

 まあ、冷静に考えればすぐに判る。十万年前の転生者たちはジエンドクラス。それもΩランクなんて怪物だ。俺とは比べ物にならない、破格対象にすらならない実力を持っていた。そんな彼らが使っていた魔法が簡単に使える訳がない。現に、今回も俺の魔力のほぼ全てを賭けてようやく発動出来たくらいだ。ぶっちゃけどんだけだよと言いたいくらい燃費が悪い。

 マリージアの時は使わなかったんじゃない、魔力量が足らなくて使えなかったのだ。

 アレから半年近くかけてひたすらに魔力量を増大させて、辛うじて全魔力を賭けて一回は使えるようになったという無茶ぶり。 

 しかも、当然ながら範囲魔法だから、今回の様に魔法の範囲内に魔物が集まっっていないと費用対効果が極端に悪い。

 今回は本当に偶然に偶然が重なって費用対効果をはるかに上回る成果を上げられたけれども、本来ならば

普通に各個撃破していった方がはるかに効率がいい。

 その上、当然ながら敵味方の識別なんて出来るハズもなく、範囲内に居る対象を残らず殲滅するので、俺みたいに一人で戦うのでなければ使い様がない。

 ついでに転移魔法を使う相手には逃げられる可能性が高いので、確実に範囲内の魔物を殲滅できる必殺の魔法と言う訳でも実はない。

 で発動した後、魔力が空の状態じゃあ転移で戻ってきた魔物に成す術もないと、こうして上げて行けばきりがないほどに欠点や制約のある魔法だ。

 要するに、俺程度の雑魚が使うには荷が重すぎる魔法とも言える。


「多分、最低でもレジェンドクラス上位でなければ使いようがない魔法だね。まあ、もう二度と使う事も無いと確信できるほどに際物の魔法だったよ」

「それはそれは・・・」


 魔法の詳細に流石のミランダも引いている。

 ていうか、本気で残るハズがない魔法だよ。最低でも上位のレジェンドクラスでなければ使いこなせない魔法てっどんだけだよ?

 今ネーゼリアに居る四人のレジェンドクラスもVXランクまでで、上位のXYランクは存在しない、ていうか歴史的にもXYランクまで登り詰めた実力者なんて三前年以上出ていない。

 要するに、俺と同じように辛うじて者はいても使えても使いこなせる者は一人もいないのだ。

 そんな魔法が継承されている訳も無いので、消えたのも当然だ。

 魔晶石での魔力の回復もあるんだから使えない事はないだろなんて意見が出るようなら、問答無用でケリを入れて黙らせる。そもそも魔晶石での回復は回復中無防備になる上に、しすぎれば体が耐え切れなくなって爆散する劇薬だ。そんな命懸けの手段に頼らないと使えない魔法を使っていられるか。


「俺はもう使わないし、ひょっとしたら興味を持ったレジェンドクラスの誰かが使ってみようと思うかも知れないけど、それだって一度使ったらお蔵入り確定だろうから、また忘れ去られるの確定の魔法だよ」


 いや、ひょっとしたらレジェンドクラスの誰かが気に入って、使いこなせるようにXYランクを目指す可能性もあるんだけどね。

 その辺りは読めないし、どうでもいいから放置。

 むしろ、使いこなす様な人が出てきたら面白いかも知れない。何百年後か何千年後か知らないけど、


 まあ、とりあえずはどうでも良い事だ。

 ミランダと話しながらギルドに向かいながら、この二週間の事を振り返る。

 この二週間で最も劇的な出来事はユリィとケイがSクラスに成った事だ。

 実際、そろそろランクアップしてもおかしくない頃だったのだけど、激しい実戦の中で経験を積み、一気に魔力と闘気の総量が膨れ上がり、めでたくS-にランクアップした。

 だけど、これは時期的には余りよろしくない。

 ランクアップしたとはいえ、じゃあこれからはSクラスとして魔域の中で戦っていけるねなんて甘いモノじゃない。そんな事をしたら確実に死ぬ。

 そんな訳で、ランクアップした事は本人たちには伝えてあるが、外には一切漏らしていない。

 というか、現状既に二日に一度のペースで装機竜人に乗って戦っているので、Sクラスと同じだけの戦いをしているのだから伝える必要も無い。

 それに、Sクラスに成った事で二人は装機竜人を稼働できる時間も増え、戦果も十分に挙げられている。

 元々Sクラス用の機体であるあの装機竜人はAランクの彼女たちでは使いこなせないので、出力を百分の一以下に抑えてある。よってエネルギーが有り余っているので通常のきいたよりもはるかに長い時間実戦投入できるのだけども、これまでは操縦する側の魔力が持たなかった。それがSクラスに成った事で魔力の心配がなくなり、思う存分稼働させられると言う訳だ。

 因みに、当然だけど機体のリミッターを外す様な真似は絶対にしない。Sクラスに成ったばかりでレジェンドクラスと同等の動きに耐えられる? 同じように戦える?

 無理に決まっている。自殺行為以外の何物でもないので、絶対にリミッターは外さないように厳禁している。

 とりあえず二人は当面このままで、魔域の活性化が終わったの掃討戦で生身で適当なSクラスの魔物を殲滅してもらって、晴れてSクラスの仲間入りしてもらうのが一番だ。

 そんな事情もあってか、Sクラスに成った時のに二人の反応は微妙だった。

 ある朝、起きたら今までとは比べ物にならない程魔力と闘気が膨れ上がっていて、どうしたんだろうと疑問に思っていたら、俺に「おめでとう、キミたちもこれで晴れてSクラスだね」と言われて、自分たちがSクラスの実力を手に入れたのを知ったのだから感動のしようもないのも当たり前かも知れないけれども、

 ホントに、ゲームの様に魔物を倒せば経験値が得られて、一定の経験値でレベルアップして強くなっていくのならば、むしろ逆に自分が努力の末に強くなったと実感できるかもしれないけれども、現実のある日起きたら何時の間にか強くなっていましたでは感動のしようもないだろう。

 いやまあ、実際そんなモノだけどね、そうそう自分が強くなったと、努力が実を結んだと実感できる機会なんてない物だ。

 いや、二人の場合は、実際に戦えば自分がどれだけ強くなったか実感するから、その時にさり気なく感動したかもしれないけど・・・。


「そろそろ面倒だから、さっさと終わって欲しいんだけどね」


 そんな事を考えているとつい、本音が漏れてしまった。

 というか、本気でそろそろめんどくさい。何時まで不毛な殲滅戦を続けないといけないんだと本気で思う。それよりも、早くクレストに戻って食い倒れからの観光に戻りたい。

 ぶっちゃけ俺、働き過ぎというか戦い過ぎだろ。少しは平穏な日常を楽しませてもらいたいものだ。

 いや、十万年前の転生者に聞かれたら、ふざけるなと大ブーイングを受けるのも、彼らに比べたらはるかにマシなのも判っているんだけどね。とは言っても、そもそも彼らは比較対象に成らないだろ。


「それは私も同感だけど、こっちの都合でどうにかなってくれるものでもないからね」


 思わず漏れた独り言に同意したという事は、彼女もそろそろめんどくさくなってきているのだ。

 実際、戦う以外は食べてエネルギーを補給して回復の為に休むしかすることの無い状況だ。流石に二週間も続くといい加減飽きてくる。

 少なくても一国の命運がかかった戦いの中で、娯楽も何もないのは判るのだけども、実際の所、俺たちがこの国の為に命懸けで必死に戦う義理も無い訳で、手抜きは一切していないけれども、国の存亡を賭けた戦いだからとシリアスに、必死になる理由が一切ないのだ。

 そんな訳で、俺たちは周りの空気と馴染めずにかなりめんどくさくなってきている。

 言い訳をさせてもらうと、これは別に俺たちだけの話じゃない。他の魔域の活性化と言う非常時に集まったこの国以外の出身の冒険種たちも基本的には同じだ。

 危機感が足りないと言えばそうかも知れないが、少なくても、彼らだって命を賭けて戦い続けているのには一切変わりはないのだから、国が失われているかも知れないとシリアスになっている自国の人たちに対して、まあ、その時はその時だしと考えているからといって文句を言われる筋合いは全くない。

 共に命を賭けて戦っているのに変わりはないのだし、死と隣り合わせの戦にを続けているのも変わらないのだから、覚悟や危機感が足らないなんて言うのは単なる言い掛かりに過ぎないのだから・・・。

 まあ、命懸けで戦ってはいても俺やミランダの様に、防衛線を維持できなくなって本当にこの国が失われる段階に成ったら、アッサリと逃げるつもりでいるのは確かだから、多少は覚悟や危機感が足りないのは事実かも知れないけど、

 まあ、それも今の所は無用の心配だ。少なくても俺とミランダが居る限りは防衛線が崩れる心配はない。

 とは言え、既に全体的に疲労が蓄積し始めているのは事実。

 二週間は短いようで長い。時に命を賭けた死闘を続ける機関としては十分過ぎる程に長い。

 実際、メリアたちにも明らかに疲労が、精神的な疲弊が目に見えるようになって来ている。

 死と隣り合わせの極限状態の戦場に二週間もいるのだから当然だ。しかも、装機竜人を駆っての限界を超えた戦いすらこなしているのだから、その消耗の激しさはマリージアの時の比ではない。

 そして、精神的に消耗はそれだけ死の危険性を増大させていく。

 これは比喩でもなんでもなく、精神的な疲弊はそのまま集中力の欠如につながり、適切に状況判断を阻害し、飛躍的に戦死者を増幅させる要因となる。

 現に、先も要った気もするが、ここのところの戦死者数が飛躍的に伸び始めている。

 俺たちがいる限り防衛線は破られないにしても、このままでは本気でシャレに成らないレベルの深刻な被害が出る事になる。

 そうならない為にも、一刻も早く活性化が終結するのがベストなんだが、終結させるための明確な手段がない以上は俺たちにはどうする事も出来ない。

 こっちに都合でどうにかならないというのはまさにその通りで、だからこそ、余計に苛立ちがつのる。

 苛立ちを抑えるには、活性化中の唯一の娯楽である食事で満たすしか、ぶっちゃけやけ食いで気を静めるしかないのだけども、

 自分で狩り尽して回収してきたSクラスの魔物、最高の食材が最高の料理人に調理されて仕上げられた最高の料理を思う存分食べ尽して、エネルギー補給とストレス発散をしているのだけども、どうもこのところストレスの方が大きくなってしまって、完全に発散できなくてイライラしてくる。

 因みに、戦いで魔物を殲滅するのはストレスの発生源であって、八つ当たりでストレスの発散は出来ないのが更に悩み所。

 ここで魔物相手に少しでもストレスをぶつけられたらまだマシなんだけどね。


「それに、私はともかくあの子たちはそろそろ戦えなくなるだろうし」

「戦えなくなる? どういう事だ?」

「月のモノよ。私は問題ないけど、あの子たちは始まったら戦い続けるのは無理でしょ」


 平然と返してくるミランダに思わず少し赤くなってしまう。

 だけど、冷静に考えてみれば確かにその通りだ。そろそろ月のモノが始まってもおかしくないかも知れない。


「ああそうか、すっかり忘れていたけど、確かにまだ無理だよな」

「そう言う事」


 所謂月のモノの最中は当然ながら集中力が低下する。そんな中で戦うなんてまず不可能だ。だから女性で戦闘職についている人は基本的に薬で月のモノを止めるか、魔法で月のモノの影響を抑えるかのどちらかをしている。

 で、実際の所ほとんどの人が魔法による症状の緩和を選んでいる。正確には常時展開型の体調維持・管理魔法を使って、体の不調などが起きないようにしたり病気にかからない様にしているのだけども、この魔法は、副作用なども一切ないし、魔法のコントロールなどの練習や魔力量の増幅などの役にも立つので、一般に普及して広く使われているのだけど、魔域の活性化のような非常時には使っている余裕がない。

 何故なんて疑問を挟む余地も無い。

 常時展開型という事は、常に魔法を一つ展開し続けているという事だ。魔力の消費自体はさして問題にならないが、魔法の展開枠が一つ埋まってしまうのはかなり大きな問題になるし、慣れていないと常時展開し続けるのにどうしても集中力の一部が割かれてしまうのも非常に大きな問題になる。

 極限まで目の前の戦いに集中しなければ生き残れない戦いで、魔法の展開の為に集中しきれないのがどれ程危険か、自殺行為そのものといってすら過言ではない。

 で、まあ言う間でもなく、メリアたちはこの魔法の常時展開に慣れていない。正確にはアレッサとユリィにケイの三人を除いた六人は、この魔法による体調維持・管理を始めたばかり、俺に弟子入りしてから始めたばかりなのでまだ慣れていない。

 まあ常時展開に慣れて完全に使いこなせるように、意識しなくても完全にコントロールできるようになるには相当な時間がかかるので仕方がないのだけど、そんな訳でメリアたち六人は魔域の活性化中は魔法の展開を切っているのだ。

 そうなると当然ながら月のモノが始まればその影響をもろに受ける。

 そうなると戦いどころではないし、だからといって魔法を使えば戦えるかと言えばそんな事も無い。という訳で少なくともメリアたち六人は始まってしまったら休んでもらうしかない。


「となると、ここは全員休んでもらった方が良いかな」


 アレッサたち三人は大丈夫でも、一緒に休んでもらった方が良い気がする。

 実際、彼女たちも既にかなり疲労が蓄積されてきているのは明白なので、これまで九人で戦って来たのが三人に変わる変化が、一気に負担を増大させて取り返しのつかない事態の引き金にもなりかねない。


「それが妥当ね。シッカリ弟子の事も見れている様で少しは安心したわ」

「ほとんどそちらに丸投げしている自覚はあるから、何とも言えないんだけどね」


 現状、活性化に対抗するのに、魔物の殲滅にかかりっきりで弟子の面倒はミランダに任せっきりに近い状態になっている。正直、全員が女性なので男の俺ではどうしても上手くフォローできない部分があるので仕方がない気もするが、任せっ放しなのもどうだろうと本気で思う。


「まあそこは仕方ないと思うよ。キミの場合は年齢は関係ないなんて言ったけど、それでも、十二歳の男の子に年上の女の子のケアをするのは無理だと流石な思うし」


 というか本気でどうしていいのかまるで分らない。他人との付き合い自体が希薄だった前世の知識なんて何の役にも立たないし、そもそも家族以外の女の人とどう付き合えばいいのかがまるで分らない。そんな俺が極限状態の彼女たちのケアをしろと?

 無理に決まっている。むしろ逆効果にしかならない気がビシビシする。


「そう言ってもらえると助かるよ」

「まあ、キミの場合ばもっと女の子の気持ちを理解できるようになるというか、まずはもう少し他人に興味を持った方が良いと本気で思うけどね」


 うわぁ、バレてるよ。そりゃあバレるよな。

 いや、言い訳させてもらうと全く他人に興味が無い訳じゃない。ある意味でミランダと同じ、興味を持った対象以外には一切関心を示さないタイプの人間なのだ。

 だけどこれは、ミランダのように長く生きているのならともかく、俺のような若造の場合は人間関係の構築や相手の感情、どう思っているのかを察するのに大きく影響する。

 ぶっちゃけ他人がどう思っていても関係ない。他人の事などどうでもいいタイプの人間だと思われかねないし、実際にそうなりかねない。

 だから、少しは他人にも興味を持つようにとの忠告なのだけど、


「努力はしてみるよ」

 

 こんな返答しか返しようがない。

 我ながら困ったモノだと思うし、呆れられるのも仕方ないのだけども、そんなにあからさまにガッカリしたようにしないで欲しい。


「やれやれ、これは前途多難ね」


 その通りだと思うけど、そんなにあからさまに溜息を付かなくてもいいだろう。

 思わず逆に憮然としそうに成っていると、視線の先に見知った姿が見えた。


「あれはケイ。こんな所で何をしているんだ?」


 視線の先に居たのはケイ。

 どうしてこんな所、病院なんかに居るんだと本気で不思議に思う。


「まさか、誰かケガしたなんて事はないよな?」

「それこそありえないし、もし万が一ケガをしたとしても、私が即座に回復させるから病院なんて用はないわ」

「だよな」


 そうするとどうしてケイが居るのかまるで分らない。

 疑問に思いながらもとりあえず行ってみると、負傷した人たちを回復しているケイの姿があった。


「これは驚いたわね」

「あっアベル、ミランダさん」


 思わずと言った風に漏らしたミランダの呟きに、俺たちのことに気が付いてケイは治療を終えると駆けよってくる。


「こんな所で何をしているんだ?」

 

 思わず聞くまでも無い質問をしてしまった。


「日に日に負傷者の数も増えてきているし、魔力に余裕もあるから治療を」


 うん。それは解るよ。そう言えばケイも回復・治癒系の魔法を使えたんだった。

 でも、出来るからといって自分からこうして率先してやるとは思わなかった。

 彼女はドワーフでもヒューマンに特に悪い感情を持っていないのは知っているけれども、これまで特に自分から係わりを持とうとはしていなかったハズだ。


「彼女のお陰で犠牲者を大幅に減らす事が出来ました。どれだけ感謝してもしたりませんよ」

「そんな大したことではないですよ」


 この病院の医者だろう男の言葉に特に誇るでもなく平然と、当たり前の様に返す姿に思わず見惚れてしまう。


「ミランダ、魔力は?」

「当然余裕」


 そして、そんな彼女の姿に自然と負傷者の治療に動いていた。



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