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 活性化が始まって二週間。未だに終焉に向かう様子はなく、魔域内部での激戦を続けている。

 これまでに倒したSクラスの魔物がそろそろ十万を超えそうだ。

 二回目になって少しは慣れたかと聞かれれば、断じて慣れない。

 そもそも、どれだけ強くなったところで俺は戦いには向かないと思う。好戦的な性格をしている訳でもなく、元々は平和主義の日本人の俺は、どうやっても戦いには向いてない気質なのだ。

 別に逃げるための言い訳をしているわけじゃない。

 こうしていつ死ぬかも判らない戦場に身を置いているとつくづく思うのだ。ああ、やっぱり俺は戦いには向いてないよなと・・・。

 現状、向いていようがが向いていまいが戦える以上は戦うしかないのだけど・・・。

 今回の一件で唯一収穫と呼べるものがあるとすれば、イマイチ距離が開いていたノインとの関係が目に見えて良くなった事くらいだろう。

 ともに命を賭けて戦う事で絆が出来たか、いずれにしても良い事だ。

 彼女はその特殊な生い立ち故にどうしても人として歪だ。

 俺自身、人の事を言えるほどまともな人間か甚だ不安ではあるが、彼女が今のままでは良くない事くらいは判る。

 どうにかしたいと思っていたが、あまり多くの人といきなり係わらせるのも逆効果なのは目に見えていた。少しづつ人に慣れて行ってもらうしか、心の奥深くに刷り込まれてしまった対人恐怖症と人間不信を和らげて行くしかないだろう。

 とは言っても、心理学やカウンセリングの知識などあるハズもなく、俺には何も出来ないのも判っていただけに、こうして短期間で距離が縮められたのは、少しでもその心の傷により添えられたのは何よりだと思う。


 もうすぐそんな事を考えている暇も無くなるけどね。

 十分後には今日も再び魔域内部での戦闘が始まる。

 既にメリアたちも確実で装機竜人を駆り、魔域内部での戦いに参加しているが、相当数の魔物の討伐を果たしているのに状況に何の変化も見られない。

 ・・・これが普通だとは判っている。

 マリージアの時みたいにあんなに急激に事態が動く方が異常なんだ。

 そうそう何度も異常事態ばかり起きてもらっても困る。それを考えれば通常通りに推移している現状は何の問題も無いのだけども、何時までこの戦いが続くのかも判らない状況はストレスが溜まる。

 何時終わるとも知れない戦いを続ける事で蓄積される精神的な圧迫。ある意味でこれが魔域の活性化で最も恐ろしい相手だ。

 精神的に追い込まれれば正常な判断が次第にできなくなり、やがてミスを犯すキッカケになる。そして一つのミスがそのまま致命傷になる死線が続いているのだ。

 先頭の長期かによって精神的に追い詰められ始めるこれからが、戦死者が飛躍的に増大して更に戦いが厳しくなり始めるタイミングでもある。

 判っていた所で、俺に出来る事なんて何もないが・・・。


 実際、俺にやれるのはできるだけ多くのSクラスの魔物を殲滅する事だけだ。

 そうすれば活性化の終焉も多少は早まるハズだ。

 現実問題として他に出来る事は一切ない。戦場から戻った時には魔力と闘気を使い果たしていてできる事などほとんどないし、俺の戦いの性質上味方を巻き込まない為に単独戦闘が基本になる。部隊を指揮して戦場全体の動きを把握するような戦いはしないし、するつもりも無い。

 第一、戦況全体を見極めて戦い全体の指示を出すのはあくまでもこの国のトップの、王族から選出された総司令官の役割だ。俺が口を挟むような事柄じゃないし、そもそもそんなスキルはない。

 これからの戦況について助言や意見を求められても答えようがない。

 俺の役割はただ戦うだけ。魔物を倒し戦線が崩壊しないよう多少のサポートをする程度だ。


 それでどうにか出来ないようならば俺の知った事ではない。戦線を維持できなくなれば物理的にこの国は消滅する。ただそれだけの事だ。

 そうなった時には俺は仲間を連れてこの国を出るだけ、その場合の全ての責任は、戦線を維持できなかった総指揮官にある。

 俺はこの国の生まれではない。だからこの国の戦闘指揮に係わるつもりは無いし、元からそれは得剣行為だ。だからこそ、指揮を間違えたにしろ、単に兵力が足りなかったにしろ、負けた時の責任は全て指揮官の元に集約される。

 その国の全てを背負った重圧の中で、レイルは良く戦線を維持していたが、この国の指揮官は果たしてどこまでやれるだろうか?

 彼次第で状況は決まる。

 ・・・いや、正確には違う。

 ヒュペリオンを投入すれば状況は一変する。

 ジエンドクラスの戦闘能力を誇るヒュペリオンならば、活性化中の無尽蔵に湧き出す魔物を残らず殲滅する事すら可能だ。俺がヒュペリオンを導入すれば、それだけで状況は一変する。

 判っていても俺は実行しようとは思わない。ミランダも、メリアたちですらヒュペリオンを使おうとは提案してこない。

 それが世界のパワーバランスを崩す最悪の一手だと理解していいるからだ。

 ヒュペリオンの力をもってすればこの世界で最悪の脅威である魔域の活性化すらも無力化できる。その事実が知れ渡れば現在のパワーバランスの元で成り立っている社会システムは呆気なく瓦解する。

 

 単に、魔物の脅威から解放されるなどという甘いモノでは無い。

 それこそ人間の社会そのモノを根底から破壊し尽す大惨事となる。

 それが解っていて使うバカはいない。十万年前にも同じ結論に至ったからこそ封印されたのだから、封印するよりも破壊しておけよと言いたくなるほどの危険物だけど・・・。

 

 だから、少なくても魔物の侵攻が今のこの世界の戦力では対抗できないレベルにまで増すような事態が起きない限りはヒュペリオンをを戦闘に投入するつもりは無い。 

 現状では、一緒に発掘した量産型の空中戦艦を投入するまでも無い。

 

 戦いが合わないと言うなら、自分の命がかかった命懸けの戦いを続けるのが嫌なら、さっさとヒュペリオンなりを投入して身の安全を図ればいいだけなんだけども、出来ずにいるのは俺が甘いからか・・・。

 甘いという事はないか、今も激しい攻防で多くの命が失われているのを止める手段を持ちながら、無数の救える命を見殺しにしてヒュペリオンを出さずにいるのだから。


 或いは人殺しと非難されるかも知れない。

 人の命を何だと思っているとなじられるかも知れない。

 

 だけど、魔物の脅威に対抗するのを前提に成り立っている今の社会システムは、実際にその脅威がなくなってしまえば呆気なく瓦解してしまう。

 しかも、一度ヒュペリオンに頼った社会に成ってしまえば、ヒュペリオンが失われればあっと言う間に瓦解してしまう。

 そうなった時に失われる命の数は、ここでヒュペリオンによって助けられる命の比ではない。

 本当に人類が絶滅しかねない状況に陥りかねないのだから、そう簡単に出す訳にはいかない。


 出撃の時間だ。今はそんな事を考えるよりもより多くの魔物を倒す方が先だ。

 遠見で転移先の様子を確認した上で、防御障壁を展開し魔域内部へと転移する。

 転移と同時に俺に向かって放たれて来る攻撃の全てを魔法で相殺すると同時に千メートル上空へと転移し、攻撃してきた魔物を確認すると共にマイクロブラックホールを撃ち出し、相殺されてなお荒れ狂っている攻撃の余波諸共、一体の全てを虚無に帰す。

 再び集中する魔法にブレスなどの尽くを、今度は防御障壁で受け、代わりに攻撃してきた相手を確実に愛ン・ソフ・オウルで抹殺する。

 固定砲台度して敵の攻撃を受けながらの戦いは本来なら絶対にやるべきではないのだけども、魔物を俺に集中させるにはいい手でもある。

 マリージアの時とは違って、魔晶石も十分にあり、魔力に余力があるからこそ出来る方法だけども、攻撃を受けるたびに砕かれていく防御障壁を次々と展開し直していく作業は、どうやっても心臓に良いものじゃあない。

 それじゃあやるなよとも思うが、一番効率がいいのだから仕方がない。

 一点に留まって砲火の応酬を続ける俺の元に次から次絵と魔物が集まってくる。明らかに倒す数よりも集まる数の方がはるかに多いけれども、これで良い。

 数えるのもバカバカしい数の魔物が集まって来たのを確認しながら、残りの魔力の全てを賭けて防御障壁を展開。同時に魔晶石から魔力を補給し、魔物の群の中心に転移すると共に、今まで構築していた魔法を解き放つ。

 広域殲滅型アストラル魔法ディス・フレイム。魔晶石から補給された魔力の全てで放った魔法によって、集まっていた全ての魔物が死滅する。

 虚無に呑まれてできた巨大なクレーターに、数え切れない程の魔物が墜ちて行くのを見ながら、すぐにまた魔力を回復させる。

 魔晶石からの回復は回数制限がある。こんなハイペースは自殺行為以外の何物でもないのだけれども、おかげで既に一万以上のSクラスの魔物を殲滅出来ているハズだ。

 今まで通りにやっていてもきりがないので、一気にケリをつけるためにした無茶だが、かなりの効果があったようだ。

 数え切れない程の魔物が溢れているのは変わらないけれども、探知できる限りの範囲にSクラスは存在しない。

 活性化と共に溢れ出てきていたSクラスの魔物を殲滅できたのだ。

 勿論、すぐにゲートから溢れ出て来るに決まっているけれども、ゲートの位置は判っているのだから、出てきたところを殲滅してしまえば良いだけだ。

 これで一気に戦況は傾く。

 

 すぐに魔物の湧き出す中心部。異界と繋がるゲートの元に向かうべく、雑魚を一掃しながら空を駆けて行くが、すぐに異変が起き始めたのに気付く。

 魔域中心部に強力な次元異常が発生し、次の瞬間には万を超えるSクラスの魔物が現れる。


「はっ・・・?」


 思わず集中が乱れて声が漏れる。

 余りにも唐突な出来事に一瞬判断が遅れる。

 その隙に動き出す魔物の群にしまったとすぐに動くが遅い。それでも何もしないよりはマシだと即座に最も効果が高い場所に転移して、即座にディス・フレイムを放つ。

 魔法の構築も急ごしらえで魔力量にモノを言わせて無理矢理放った魔法だけれども、何とか思った通りの効果を発揮してかなりの数の魔物を殲滅する。

 しかし、ほんの一瞬の判断の遅れが災いして、現れた全ての魔物を殲滅効果範囲内に入れる事は出来なかった。

 結局、千を超えるSクラスの魔物が残ってしまっている上、既にかなり離れてしまっているのも多く、これから倒しに行くのは無理だ。

 せっかく無茶をして状況を変えたつもりが、一瞬のミスで無駄になってしまった。

 イヤ、無駄とまではいかないか、それでもかなりの数のSクラスを殲滅できたことに変わりはない。戦況が有利になっったのは確かなはずだ。

 さて、とりあえず俺はここに残っている残りのSクラスの魔物を殲滅して、後はゲートから湧いてきた魔物を掃討していくとするか。

 また魔力の回復をしながら、俺はこれからどうするかをとりあえず決めた。



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