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そんな訳で来たよローレラント。
ミランダの転移魔法で行けたのだけど、ここはあえてヒュペリオンで来た。まあ、一瞬か二時間かの差でしかないのだけど、ここはなんか意地だ。
首都ローレライに着いた俺たちを早速国の使者がお出迎え、すぐに詳しい状況説明となる訳だけど、
「ES+ランク冒険者アベル・ユーリア・レイベスト及びミランダ・アルマーク。救援要請を受けて駆け付けた。それで状況は?」
どうしてか俺がする事になった。
因みにメリアたちも俺の弟子として参加するが、そちらの指示も俺が全て仕切る事になっている。
他の八人はともかく、ノインはまだ魔域の活性化は荷が重すぎるだろうから、その辺りも含めて戦い方を決めなければいけない。
自分だけでなくほかのメンバーの事も気を使わないといけないのは何かと大変だ。
「ようこそ。駆け付けていただいて心から感謝します。では、早速こちらに」
案内されたのは空港内部の指令室。
各地から急遽駆け付けた冒険者などに状況を説明し、そのまま防衛都市に向かってもらう為に一番都合がいい場所に情報収集拠点として設置されていると、まあ、理に適っている。
「現在既に活性化は始まっており、防衛都市を起点とした迎撃戦が開始されています」
説明と共にモニターにリアル・タイムの映像が映し出される。
実際に戦闘が行われている映像に、衛星から撮影された魔域内部の映像。
うん。当然だけど通常時の比ではない程魔物が溢れかえっているな。
こうして映像から確認できるだけでも数百のSクラスの魔物が溢れている。何時もならありえない事態、間違いなく魔域の活性化が発生している。
出来れば誤報であって欲しかったんだけど、そんな都合のいい事があるハズもなく、望みはアッサリ敗れた。
「現在のところは魔物の迎撃、および防衛線の維持は問題なく出来ていますが、魔域内部への逆侵攻までは手が回っていません。出来るだけ早期に活性化を終わらせるためにも、お二人には魔域内部での迎撃をお願いします」
「了解。それで、何所を拠点にすればいいのかな?」
説明された内容は、まんま想通りのモノだった。状況が解りやすいのは良いが、もう少し頑張れないのかとも思う。いや、とりあえず防衛線を維持できているのだからそれ以上は酷か、いや、だとしても、予兆はもっと早くからあったハズなのだから、救援要請を出すならもっと早くにして来い。
マリージアでの例からしても、予兆が出始めてから実際に活性化が本格化するまで一・二週間はあるハズだ。
それなら、俺がこの国に行く人を決める前、エクズシスを出る前辺りには既に魔域の活性化が始まり出していたハズ。それなら今回の件は絶対に俺のせいじゃない。
・・・そこまで考えてから、ふとある事に気が付いた。アレ? ひょっとしてとも思うがとりあえず疑問は口に出さずにおく。
それに、状況が切迫している原因は間違いなく俺にもある。肝心のSランクが集まらないのだ。理由は俺が発掘した装機竜人の研究、分析で引きこもっているから。超絶自由人のSクラスの面々は、自分の趣味を優先してほとんどが現在引きこもり中。結構やばい事態になっていたりする・・・。
「はい。こちらの防衛都市サイサリスを拠点としていただきます。ホテルなどの手配はこちらで行っておりますので、着きましたらすぐに冒険者ギルドに向かってください」
「了解。それじゃあ行こうか」
相手側も出来ればすぐに向かっていって、戦線に参加して欲しい所だろうから、説明が終わったらすぐにヒュペリオンに戻って出発する。
なんとも慌ただしいが、状況はそれだけ切迫している訳だし、俺としても早く終わらせてゆったり観光に戻りたいので、無駄な時間を取られるよりもよほどいい。
「行き先は当然だけど、戦線を支える最重要拠点で最前線。激戦は必至と、とりあえずキミたちはノインのフォローをしながら防衛線に参加、場合によっては装機竜人を駆って前線に出る可能性もあるから覚悟しておくように」
「私たちも魔域内部で戦うのですか?」
「状況次第ではね。キミたちもSクラスと同等の戦力に成り得るのだから、戦況によってはこれまでとは比べ物にならない激戦に身を置く事になるよ。ノインはお留守番だけど」
まあ、その程度で済めばまだマシだろう。前回のマリージアの時は最後で何かおかしな事象が発生した。
多分、今回も間違いなく同じ様な事が起こるのだろうけど、果たしてそれだけで済むだろうか?
本気で面倒な事が確実に起こるであろうフラグ満載だ。
「そんな、私も戦います」
「別に戦うなとは言ってないよ。だけど、キミはまだ装機竜人の操縦訓練もしていないからな。対Sクラス戦は無理だよ」
日本のロボット・アニメでは初心者がいきなり乗り込んで戦うのはむしろお約束だったけど、実際にそんな事が出来るかといえば無理に決まっている。
というか、元々B-以上の実力者じゃなければ動かすことも出来ないし、動かせても自在に操れなければ魔物の餌食になって一瞬でボコボコニされて終わりだ。
ノインの場合はB-に上がって間もなく、同レベルの魔物との戦闘にもまだ慣れ切っていないので、なおさら無理に決まっている。
・・・メリアたちの場合は、ランクアップ前からパワードスーツ装備やフルエンチェントでB-以上の魔物と戦わせて慣れさせていたから問題なかったけど、ノインの場合は正式に弟子にするか判らなかったし、魔物との戦闘ではそこまでのスパルタをしていなかった。
「ぶっちゃけ、魔域の活性化はキミが思っているよりもはるかに厳しいから、生き残る事だけに専念していればいいよ」
「今のキミじゃ生き残るのだけに集中しても生き残れるか判らないくらい厳しいから、覚悟して臨む事。今回ばかりは私たちも手助けする余裕もないし」
俺とミランダの規格外さを知っているからこそ、そんな俺たちでも余裕がないと断言する魔域の活性化の恐ろしさを改めて実感して、ノインは無言で頷く。
言葉も出ないようだが、別に脅かし過ぎではない。ネーゼリアで最悪の凶事は伊達ではないのだ。
「いきなりこんな一大事に巻き込まれる事になったのは悪いと思うけどね。俺の責任ではないとだけ言っておく」
これだけは譲れない。まさか魔域の活性化の発生まで俺の責任だとか言われ出したらどうしようもない。
「むしろミランダが画策した事だから。なあ、ミランダ。キミさ、ローレラントで魔域の活性がが始まっているの随分前から知っていただろ?」
「ん? 何の事かな?」
思いっきり笑っているぞ。どうやらとぼけるつもりも無いようだ。
「俺が北の雪山にでも行こうかと言ったら他の国を無視してローレラントを名指ししたのはキミだろう。北域の国は他にもいくつもある。それらを除外してローレラントだけを行き先に示したのは、魔域の活性化が始まってるのを知っていたからだろ?」
「正解。だけどまだまだ甘いね。行き先を決める段階で気付かないと」
「誰がそんな訳の判らん事を画策しているかもと予想する」
確かに俺も甘かったかも知れないが、そんな事をやらかそうとしているなんて予想しろなんて無茶どころの暴論じゃない。
「キミね。それ自分を信じるなんてバカだよと言ってるのと同じなんだけど」
自分の言葉はまず疑ってかかれと宣言してるも同じなんだけど、判ってるのかねこの人。
判ってるんだろうね。
俺は自分の予想が当たっていた事に大きな、これまでにない深い溜息をついた。
何もかも完全にミランダの掌の上と・・・。
「そんなつもりは無いよ。まあ、そう取られても仕方ないかも知れないけど、これくらいは見抜けないとね。逆に私を手玉に取るくらい成長して欲しいモノだね」
それは無理だろと思わず突っ込みたくなる。
そもそも年季が違い過ぎるし、俺がミランダの域にまで達した時には彼女は更に上を行っているに決まっている。一生追いつけない追いかけっこのようなモノだ。
純粋な戦闘力ならともかく、ミランダを手玉に取れるような日が来るとは到底思えないんだが・・・。
「随分と無茶を言うね。キミを手玉に取れるようになれって? メリアたちが悲鳴を上げてやめてくださいと泣き付く姿が見えるけどね」
「ああ、それは確かにそうなるかもね」
「笑い事じゃありません!!」
楽しそうなミランダにメリアたち八人が声を揃えて突っ込んだ。ノインは状況が良く判らないようにオロオロしているが、あまりよろしくない話になっているのは理解しているようだ。
「ていうか、俺まだ十二歳なんだけど、要求が無茶過ぎるって」
キミの二十分の一も生きていないんだけどもとは言わないし思いもしない。
事実だとしてもそれは命取りだ。世の中には決して口にしてはいけない事、考えてもいけない事が確かにある。
「キミの場合、年齢は関係ないと思うけど? まあ、別に私もすぐにでもなれなんて言わないわよ。何十年化すれば自然となってるでしょ」
私の相手をしていながらそのくらいの成長もしない訳ないしと副音声が聞こえる気がするのは気のせいかな? どうも、ミランダとの付き合いも思ったよりもずっと長くなりそうだ。
しかし、これから先、何十年と彼女の掌の上で踊らされて、おもちゃにされるのは勘弁して欲しい所なんだがけどね・・・、嫌なら、早く逆にミランダを軽くあしらえるくらい図太くなるしかないと、はい、解りますよ。がんばるしかないね。
「まあ、キミにとっては数十年なんてあっと言う間さ、精々頑張ってみると良いよ」
随分と意味深な事を言ってくれる。
判っているさ。現時点で既に俺の寿命は千年を超えている。これからどこまで伸びるか判らないが、レジェンドクラスにランクアップすればそれこそ数千年を当たり前に生きる。
それは、ある意味では手ない孤独と隣り合わせの命を生きる事を宿命づけられていると言う事。
ミランダ自身も千年以上の時を生きる事を定められているので、同じ定めを背負って生きて行く俺に対しての助言だろう。彼女自身、二百五十年の歳月の中で少なからぬ別れを繰り返してきたのだろう。その経験からの言葉だとハッキリ判る。
メリアたちもSクラスまで確実にランクアップする。だが、Sクラスのどのランクまで上がれるかは全く分からない。それでも六百年は確実に生きるだろうが、どうやっても俺よりも先に死ぬのは避けられない。
親しくなった者との別れを数限りなく繰り返していく。それは長い時を生きる者の宿命だ。
だからこそ、無限に思える程の時を生きて行く方法を見つけ出し、身に付けなければいけない。直接ではなくて暗に指摘しているのが彼女らしい。
「とりあえず。今回の魔域の活性化を生きて切り抜けられなければ後の話も何もないんだけどね」
「それを言うかい・・・」
心遣いに対する感謝としては無粋だと判っているが、事実は事実だ。マリージアでも死ぬ思いをしたし、魔域の活性化はそうそう簡単に切り抜けられるようなモノじゃない。
「ミランダには今回の悪戯とは呼べない、過ぎた悪ふざけの理由もシッカリ聞かなきゃならないし、死ぬつもりは一切ないけどね」
これは本当に聞いておかないといけない。今回の件は単なるいたずらで済ませられる範囲を超えているどころじゃない。キチンと理由を説明してもらわないと納得できない。
とはいえ、死ぬつもりが無ければ生き残れるほど甘いモノでも無い。無事に乗り切る為には相当な無茶をする羽目になるのも確定だ。
「大丈夫。何事も思い一つよ」
これは単なる気休めではなく純然たる事実としてだろう。
魔法の源となる魔力は精神エネルギー、言ってしまえば想いの力そのものが具現化したもの。魔力の強化には想いの力を強く具体的にする事も含まれているので、ミランダの言っている事はあながち間違いじゃない、だけじゃなくてもっと深い意味もある気がする。
まあ、その辺りを確かめるためにも死ねないんだけどね・・・。
「死ぬつもりは無いし、死なせるつもりも無いから頑張るけどね」
前世は二十歳までしか生きれなくて、今度は若干十二歳で戦死なんてゴメンこうむるし、どうやっても戦死者が出るのは避けられないにしても、弟子を死なせるつもりは一切ない。
贔屓と言いたければ好きにすればいい。俺は自分の好きな様に生きるだけで、それに文句を言われる筋合いは一切ない。
傲慢だろうが、強欲だろうが何とでも言えば良い。
誰に何と言われようがそんなモノに何の意味が、価値がある?
自分の生きたいように生きるのが常識の治外たる超絶自由人のSクラスの生き方だ。
ミランダなんてそれこそいい例だろうし、今回、自分の趣味を優先して魔域の活性化に駆け付けなかったSクラスにしたって同じだ。
流石に彼女たちほどに思うが儘に生きれるとは思えないが、弟子を死なせたくないと贔屓するくらいは自由だ。
「その意気その意気、キミの人生なんだから思うが儘に、自由にワガママに生きればいいんだよ」
「好きに生きるにしても、ミランダの場合は度を過ぎてると本気で思うけどね」
「まあね」
思わず返した言葉にミランダを含む全員が同意するとは・・・。
否定すらせずにアッサリと頷くミランダに呆れるしかない。
俺たちは顔を見合わせて苦笑し合いながら、見えて来た防衛都市と激戦の様子に、これからの戦いに気を引き締めた。




