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「貴方たちのおかげでこうして自由を取り戻せました。改めてお礼を言わせていただきます。本当にありがとうございました」

「気にする事はないよ。助けたのは単なる偶然だし、まあ、こうして無事に解決したのは本当に良かった」


 深々と頭を下げる男に、俺はあえて気軽に応える。

 目の前にいるのは、ケネスに奴隷として使われていたメンバー。冒険者ギルドで会った六人だ。

 頭を下げている男は、俺たちの前にケネスたちを告発しようとして、逆に奴隷に墜とされた冒険者でルーク・アルヴァクスと言う二十五歳でB+ランクの実力者だ。


「はい。あの時、私がもっと慎重に行動していれば貴方たちの手を煩わす事も無く、解決できていたハズなのに、自分の不甲斐なさを痛感します」


 何やら随分とネガティブになっているが、気にしないでおこう。

 彼がこの街に来たのは二年前の事、当時、二十三歳でC+ランクにまでなり、B-へのランクアップもまじかと言われていた彼は少し自惚れていて、違法に奴隷な墜とされている人たちの事を知った時に、何も考えずに正面から不正を正そうとしてしまったのだ。

 それは称賛されるべき行為ではあるが、少し考えれば無謀な自殺行為でしかないのもすぐに判る。

 結局、逆に冤罪をきせられて奴隷にされ、誰一人助けられないまま、自分の命も危険に曝されていたのだから、反省して落ち込むのは当然かもしれないが、

 或いは、実際に自分も同じく奴隷に墜とされ、その悲惨な現実を目の当たりにしたからこそ、自分の迂闊さから、開放する機会を失ったのが許せないのかも知れない。


「それについては、キミが一番よく痛感しているだろうから、俺からは何も言わない。解決したことについてなら、今回は完全にミランダの掌の上だからね。感謝するならミランダにする事だ」


 実際、今回は完全にミランダに踊らされただけだ。今と似っては、あそこで原罪魔法を使ったのも、ミランダに誘導されてのような気がするし、もしあそこで使わなくても、必ず、事実を明るみにするように仕向けられたはずだ。

 全てミランダの思いのままで、全部踊らされていただけ等と被害妄想の冤罪だと思うかも知れないが、もしそうだったらどれだけ楽だったか、被害妄想でも冤罪でもないから、これからの事を思うと戦々恐々とするしかないんだよ、ホント・・・。

 彼女がこの街で行われている犯罪を知ったのはつい最近、俺が次の目的地にエクズシスを選んでからだろう。もし、もっと早くから知っていたのなら、知った時点で乗り込んで叩き潰していたハズだ。

 一体どんな情報網をもってすれば、そんな短期間に街ぐるみの犯罪の詳細を掴めるのか、甚だ疑問ではあるが、まあ、知った瞬間から、彼女の中で完膚なきまでに叩き潰すのは決定していただろう。

 で俺たちを利用したと・・・。徹底的に叩きのめすのに都合が良かったからだろうが、それなら予め教えておいてくれてもと思わなくもない。

 が全てがミランダの思い通りでも、今回については俺たちも全く文句はない。

 腸が煮え繰り返るほどに怒り狂ったのは俺たちも同じだ。愚劣に暴挙を繰り返していた狂人どもを一人残らず極刑に処せたのだから文句はない。


 とは言え、ミランダが容易く調べ上げられた犯罪を、それも直轄地で行われているそれを数十年も見逃してきたエクズシス帝国政府の責任は重いし、人道に反する醜悪な犯罪の源泉となっていたこのサンドニアの街の混乱もしばらくは収まらないだろう。

 街の名家を始め、行政などの街の中枢にいた者すべてが犯罪に加担していたのだ。一人残らず逮捕され、処断されたのは判っていても、もしかしたらという疑心暗鬼は収まらないだろうし、そもそも街の運用を担っていた者が尽くいなくなったのだから、中央から急遽派遣された者たちが変わりを担っているとはいえ

これまで通り何も問題なくとはいかない。


 まあ、それはあくまでもこの国の問題。この街に住む人たちの問題であって、俺たちにはもう関係の無い話だ。

 関係があるとすれば、まだ街が落ち着かないので、デートが未だに出来ていない事くらいだろう。

 もう、この街でデートをするのは諦めて王都でするかと今は画策している。せっかくの機会を逃すつもりは無いし、インド風この国の服で着飾った姿を見逃すつもりも無い。

 いや、それも後に置いといていいだろう。

 今はマジメな話だ。


「私たちからもお礼を言わせてください。本当にありがとうございました。貴方たちのおかげで命も、人としての尊厳も守れました」

「それについては良かったよ。私としても許せるものではなかったからね。徹底的に叩き潰させてもらったよ」


 ミランダも表には見せないが、内心は複雑だろう。

 ケネスに性奴隷にさせられようとしていた彼女、俺が興味を持った強い意志を持つ少女ニーナ・リリーアーナは、確かにその強い意志で己の命と尊厳を守り通す事が出来だ。

 だけど、それはごく限られた。例外的なケースだ。

 奴隷に墜とされた人たちの中には、当然彼女と同じように戦闘奴隷として死ぬまで戦い続けるのが嫌なら性行為の同意をしろと脅迫され、生と死の二者択一を迫られて屈してしまった人も、性奴隷に墜とされた人も多くいる。

 正直、そちらについてはどうしようもない。俺たちではどうする事も出来ないのだ。

 犯行が明らかになって解放され、今まで自分たちを蹂躙していた相手が極刑に処せられたからと言って、それまでに彼女たちが負わされた心の傷が癒えはしない。

 場合によっては、精神魔法で心の傷を消し去ることも出来るが、そんな事をしても意味はないのは判っている。この件については、完全に俺たちの出番はないのだ。心理学などそもそも専門外だし、メンタル・ケアの専門家に任せるしかない。

 それに、数十年に渡って行われ続けていた犯罪であり、数千人に及ぶ被害者がいる今回の事件は、被害者のこれからの社会復帰についても深刻な問題となる。

 初めの頃に奴隷に墜とされた人の多くはもう死んでしまっているが、中には二十年以上も奴隷として酷使され続けてきた人までいる。そんな人たちにどう償い、これからの生活を保障していくか、これもまた深刻な問題だ。

 許されざる犯罪の被害者の心のケアと、これからの生活の保障。この二つの対応を誤れば、この国はミランダの手で潰されるかも知れない。いや、確実に潰される。ついでに俺も加担するだろう。


 そんな滅亡フラグとなる怒りが収まらない問題はまだ残ってはいるが、とりあえずは加担していた全員の処罰が決定し、空いた穴を埋めて街の機能も正常に戻り、一応の終わりを見せたからこそ、被害者である彼らが俺たちのもとを訪れている訳だが、 

 ここに居る彼らは、これからについて特に問題も無いし、心配も無い。

 戦闘奴隷となっていた彼らは、これからは普通に冒険者として暮らしていけばいいからだ。奴隷として戦わされていた時に巻き上げられていた報酬も返金されるし、これまでに貯めていた資産も戻る。

 その上、全員が冒険者として一流と呼ばれるD-ランク以上なのだから、心配するまでも無い。


「それで、キミたちはこれからどうする? 冒険者として暮らしていくのか?」


 或いは冒険者を続けなくても、どこかの街で静かに暮らしていくには十分な資金があるのだから、隠居して穏やかに暮らすのも良いかも知れない。


「はい。そのつもりです。正直、戦いはもういいと思わなくもないのですが、今回の件で世の中の不条理、理不尽に対抗するには力が必要だと痛感しました。引退してのんびり暮らすのにも憧れますが、また今回のような事に巻き込まれないとも限りません、ですから、巻き込まれたとしても切り抜けられる力を身に付けたいと思います」


 この場合の力破綻に戦うための力、武力だけじゃない。ランクが上がると共に増す義務に付随する権力、人や国との繋がりなどの人脈。名声と共に上がる社会的地位など様々だ。

 俺の場合は、マリージアでの魔域の活性化以降それらを不動のものとしているし、ミランダの方も言うまでもない。

 だからこそ、今回俺たちが犯罪の事実を知った時点で、相手は揉み消す事も冤罪で逆に嵌める事も不可能だった。だが、彼らにはそれが足りなかった。だからこそ奴隷に墜とされたのだと痛感しているからこそ、もう二度と同じ目に合わない為にも、それらの力を手にするのを望んでいるのだ。


「全員同じ気持ちか?」

「はい」


 尋ねるまでも無かったな。六人全員が口をそろえて応え、頷く。

 その瞳には本気の強い意志が宿っている。それにどこまでも純粋で、怒りや憎しみに濁った色すらしていないのに思わず感心する。

 あのバカ共、ケネスたち彼らを貶めていた犯罪者共とは大違いだ。

 最後まで自分だけでも助かろうと無駄な足掻きを続ける姿は、愚劣や醜悪を通り越してみるに堪えない所ではなかった。本気で、この場で跡形も無く消し去ってやろうかと真剣に考えたほどだ。

 

 本気で気に入ったかも知れないなと、俺は改めと彼らを見渡す。

 B+ランクのルークに、元々は冒険者でもなかったのに、性奴隷に成らない為に懸命に努力し、C-にまで上り詰めたニーナ。

 三年前、恋人をケネスに暴行された上殺され、その罪を擦り付けられて奴隷にさせられ、以降、復讐の為に力を付け続けて来たという二十歳のマーク。

 新天地を求めやって来たこの街で新たに始めた事業が成功し、幸せに暮らしていた所を、余所者が成り上がるのを不快に思った町の有力者に、違法薬物の密売の罪をきせられ、家族揃って奴隷にさせられたミリアルドとルイン。

 そして、かつてこの街で無実の罪で奴隷に、性奴隷にさせられた女性が生まされた子どもであり、自身も性奴隷にさせられるのを拒み、戦い続けて来た。生まれた時からこの街の、許されざる犯罪の犠牲になってきた少女ノイン。

 僅か十四歳の少女までが、自分の身に起きた事に対して、憎しみや怒りに支配されずにキチンと向き合っている。その姿は高潔で、救いようのないバカの醜態を見せられた俺には何よりも輝いて見える。

 

「そうか、それなら俺がしばらく鍛えてやろう。弟子に成るかどうかは別として、とりあえず純粋な力をお前たちに授けてやる」


 だから、自然と俺はそう提案していた。




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