0,3
月日は流れて、俺が前世の記憶を取り戻してから早7年。
12歳になった俺は、晴れて冒険者として世界に旅立とうとしている。
この7年間、思えば実にたくさんの事があったよ。
特に、10万年前の転生者が残した古文書に書かれた事から、ココがゲームの世界だと思ってステータスオープンとか言ってみたりした黒歴史は本気で永遠に封印してしまいたいよ。
それと、記憶を取り戻してからしばらくの間は、家族に随分と心配をかけてしまっていた。
記憶を取り戻してからの俺の様子がおかしいのに気付いていながら、何も言わずに黙って見守ってくれていたのだから本当に感謝だ。
前世でも家族仲は悪くなかったけど、転生しても良い家族に恵まれたのは本当に幸運だと思う。
それと、そんなレイベスト家なのだけども、無事に長男が正式に跡継ぎに決まった。
前にも言った通り、魔物と戦い続け、国と民を護り続ける責務を背負った騎士として代々国に仕える武系貴族家は長子後継が基本的ではなく、実力重視。と言うか実力こそがものを言う継承順位になっているのだけども、家の場合は特に揉めもせずに、継ぎたい奴が継げばいいとの事で、俺は元から冒険者として世界を旅してみたいと思っている事を伝え、姉のメリルは装機竜人などの巨大ロボットの研究にしか興味がない、ある意味俺と同タイプの人物だったので、魔工学や錬金術の道に進む積もりで、騎士には興味がないとの事。残った長男のベルンは、元々騎士として国と民を護るつもりだったので、アッサリと後継者が決まったりした訳だ。
そんな訳で、兄弟それぞれの進む道が決まった訳だけど、その為に必要な修行は家族揃って行う事にした。
冒険者として世界を旅して周るにしろ、騎士として国を護るために戦うにしろ、装機竜人の開発や研究に従事するにしろ、どうやったって力は必要不可欠だからもある。
て言うか、夢を叶えるためには何気に姉のメリルが一番頑張って力を手に入れないといけない鬼畜使用。
両親にしても、武系の貴族家である以上はいざという時の為に相当の実力を持っていた方が良いに決まっている。
そんな訳で、俺は古代の古文書に書かれていた修行法をみんなで試してみようと、家族全員で修業に励む事にした訳だ。
そして、修行を始めて7年。
気が付けば何かトンデモナイ事になってしまっていた。
・・・・・・我がレイベスト家は、1万年の歴史を持つ貴族家だ。1万年の長きに亘って、祖国であるベルゼリア王国に仕え続けて来た武系貴族。
とは言え、代々Cランク程度までが限界で、Bランク以上の実力者が出る事はなく、よって竜騎士になる事も一度も無かった家だったんだけども、気が付いたら家族全員がAランク以上になっていたよ。
具体的には、父と兄と姉の3人がA+ランクに、母もAランクに、俺に至ったは何とSクラス。それね最上位ランクのES+ランクになってるし・・・・・・。
これには本気で驚いたと言うか、後になって、そこまで強くなってから問題に気が付いた。
これ絶対に国に目を付けられるよ。と言うかなんとしても絶対に取り込もうと躍起になって動かれるの確定だよと、何時の間にかシャレにならない強さを手に入れてしまってから気が付いた。
他の家族のみんなみたいに、Aランク程度ならまだ良い。
いや、こっちもこっちで結構な大問題だったんだけど・・・・・・。
何せ、1万年もCランクまでしか輩出できなかった凡庸な一族が、何時の間にか揃ってAランクにまで至っているのだから騒ぎにならないハズがない。
本気で一部で大騒ぎ、と言うか、不法な薬物投与やナノマシンなどの移植などによる人体改造などをしたに決まっているとか一部のバカに決めつけられて、不正を暴くとか勝手に意気込んだその一部のバカによって断罪させられかけたりとか、後になって思い起こしてみればバカバカしいにも程がある騒ぎに巻き込まれる羽目になった。
結果は勿論、こちらの完全勝利で終わったけど。
と言うかそもそも、薬物投与とかそんな不正行為じゃあ、Aランクの人知を超えた力を手に入れるなんて不可能だ。
だって、生身の体で余裕で戦車数両を圧倒する戦闘力だよ。そんな力が薬物投与とか程度の人体改造程度で得られるんなら、それこそ国の方が国防の為に普通に実施している。
実際にはそんな事をしても得られる、向上させられる力はたかが知れている上に、人道的にも許される事ではないのでそもそも研究自体がされていない技術だ。
そんな禁じられた技術を、高々下級貴族に過ぎないレイベスト家が、独自に研究してAランクの力を得られるまでに発達させた?
普通に考えてありえないって誰でも気が付く。
その程度の事も判らなかった一部のバカは、散々こちらに苦労を置けた挙句に盛大に自爆した。
本気で自業自得だ。
まあ、そんな騒ぎがあった後、父と成人を迎えて正式にレイベリス家の次期当主に収まった兄が二人揃って竜騎士団に配属となり、更に実戦で手柄も立てて行き、トントン拍子で準男爵から侯爵にまで爵位が上がる事になった。
これはある意味で一番面倒だったかも知れない。
1万年も下級貴族として平凡に暮らしてきたのが、いきなり中位貴族を飛び越えて上位貴族の仲間入り。そうなるとまずは済む屋敷が問題になってくる。
代々居を構えていたのは当然ながら下級貴族たちの屋敷が建ち並ぶ所謂下級貴族街。
王家の血を引く公爵家に次ぐ侯爵の位を授かっておきながら、そんな所に屋敷を構えたままでいられるハズがない。
可及的速やかに、上位貴族たちの屋敷が建ち並ぶ、上位貴族街に引っ越さなければならなくなった訳だけども、当然だけども引っ越しにはお金がかかる。
それも日本じゃ視た事もない様な貴族の大豪邸を買わなければいけないんだ。
正直、元の下級貴族街にある屋敷だって、300坪はある豪邸だったのだけども、そんな元の屋敷が霞んで見える新居を目の当たりにした時には、本当に真っ白になった。
これいくらするんだろうと本気で不安になったし・・・・・・。
しかも、屋敷だけじゃなくて中を飾る調度品なんかも、新たに購入しないといけない。しかも、当然ながら今まで使っていたのよりも何ランクも上の高級品を。
本義で爵位が上がったせいで財政破綻するんじゃないかと心配になって、少しでも足しになればと、修行の中で倒した魔物の素材を換金して手に入れたお金を両親に差し出そうとしたんだけども、モノの見事に断られた。
それどころか、実際にシャレにならない程の金額を一括で支払って見せたのだから驚いた。
なんでも、代々蓄えてきた貯蓄から支払ったらしい。
成程、1万年かけて蓄えて来た貯蓄かと思ったが、それでも、100億リーゼ。日本円で1000億円以上の大金が家にあった事にはかなり驚いた。
それから、使用人も新たに雇わなくてはいけなくなった。
10人程度の家臣で事足りた準男爵家と違って、侯爵ともなると相応の人材を雇い入れないといけない。
執事やメイド、それに庭師や門番なども相応の数を揃えないといけなくなるのだそうだ。
最低でもそれらだけでも100人は雇うのが常識との事。
ぽっと出の新米侯爵家だからと言って、それらの人員を集められない、雇えないでは話にならないとの事で、急いで人材確保した訳だけども、信用できる人を集めるのにどれだけ苦労した事か・・・・・・。
ついでに言うと、兄と姉の婚約者も既に決まっている。
と言うか兄の方は既に結婚した。相手は公爵家の御令嬢。
完全な政略結婚だけども、むしろ当然だろう。Aランク以上の力を得た貴族家が新たに現れたのだ。確実に繋ぎ止めるためと、次代以降にもその才能が受け継がれるようにと考えるのが常識。
ついでに、家の両親にも、側室とかの話が合ったんだけどもソッチの方は無かった事になった。
父だけでなくて、母にも話が来ていたのとか、色々とこの世界に着いて思う所もあったけど、その辺りは触れないようにしておくのが吉だと思う。
そんな訳で、何かとあった激動の7年間を経て、晴れて一人で旅立っても問題のない年に、12歳になった訳だ。
日本でだったら、小学校を出て中学校に上がったばかり、義務教育の途中で、独り立ちするような年齢じゃあないのだけども、ネーゼリアの成人は15歳。
因みに、普通に義務教育も存在して、日本の小学校と同じ六歳から十二歳までに一般教育を受け、その後に希望進路ごとに十五歳までそれぞれの専門学校で学ぶ事になる。
それで、成人と共にそれぞれの道に進むのが一般的だけども、家庭の事情などで成人まで学んでいる余裕のない子たちもいるし、実際に働きながら技術や知識を習得していきたいと考える子もいる訳で、そんな子たちは一般教育である六年間の義務教育を終えた時点で働き出したりする。
まあだから、俺も12歳で冒険者として旅に出る事が出来る訳だけども、これにはある意味で本当に助かった。
何が助かったって、後3年も実はもうSクラスになっているのを隠していくなんて無理だからだ。
なんだ隔しているのかだって?
当然だろう。もしバレたりしたらそれこそ何が何でも俺を国に引き込もうと国が躍起になって動いてくる。
そんな事になったら、俺の人生プランは初めから頓挫してしまう。
実際、若干12歳で既にA+ランクの実力を持っている時点でもうギリギリなのだ。実は、俺にも婚約者話が来ているのを流心から聞いているし、このまま後3年も居たら、例え既にSクラスになっているのがバレなくても、国な取り込まれてしまう。
別にこの国、生まれた国であるベルゼリアが嫌いな訳じゃないのだけども、とりあえず俺は自由に、好きな様に生きて行きたいので、厄介事にならない内にとっとと国を出てしまう予定。
後、気が付いたかもしれないし、どうでも良い事なんだけども、自分の事を俺と言う事にした。
はじめは普通にボクとか言ってたんだけども、年齢的にそろそろ俺と評しても良い年頃だし、なによりも外見的な問題でそう呼ぶしかなくなってきた。
いや、激しい修行の果てにガチガチのムキムキになった訳じゃないよ?
むしろその逆で、どう見ても女の子にしか見えない外見になってしまったんだよね。
普通に男の子の格好をした女の子と間違われる。て言うか、初対面の人はほぼ100%間違える。
しかも、どう見ても美少女。自分でも鏡に映った姿に不意打ちでドキッとしてしまったりする事もあったりするんだから、どうしようもないレベル。
そんなのもあって、口調を少し乱暴にしてみたりとか、自分でも意味がないかなと思わないでもない努力をして、女の子に間違われない様にしている訳。、
と言うか、そうしないと男が後から後から言い寄ってきて堪ったものじゃないんだよ・・・・・・。
これからの旅でも、間違いなくソッチの苦労をする羽目になりそうなのが憂鬱なんだけどね。
そんな事言ってても仕方がないし、それじゃあ、未知なる世界を見て回る冒険の旅を始めるとするかな。