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「いや見事であった。其方の武勇は装機人に乗っても変わる事がないのだな」


 上機嫌の王に俺は思わず苦笑する。

 調子に乗って問題を起こし始めていた、頭痛の種の竜騎士団の鼻っ柱をたたき折れたのだ。これからは素直に命令にも従うだろうし、王にしては万々歳だろう。

一応いっておけば、竜騎士団の全てが調子に乗っていた訳ではない。自惚れて、傲慢になっていたのはほんの一部だ。だが、一部とはいえ王名にすら素直に従おうとしない愚か者が出てきていたのが問題なのだ。特に竜騎士団は上位貴族によって結成されている。力を持つ貴族が王家を蔑ろにする様な態度を取るのは、国として致命傷になりかねないのだ。

 その程度の事も判らないような奴が貴族なのかと思うが、まあ、何度も同じ事を言うが、バカは一定数が必ずいるし、何処にでもいる上に全滅させる事も出来ないのだ。

 どれだけ優れた統治をしいていても、国の中枢にバカが入り込むのを完全に防ぐ事は出来ないのだから仕方がない。要するに、防げないのならばいかに早く、被害が出る前にバカ共を排除するかが肝心なのだ。

 今回の件で、少なくても竜騎士団の中のバカ共を完全に黙らせる事が出来たのだから、王が上機嫌になるのも当然だろう。


「お褒め頂いて恐縮ですが、あれは私の実力ではなくて機体の性能です。下位機種の装機人を相手にまけるなどありえませんよ」


 本気で負けるなんて万が一にもありえない。それ程の、俺にとっても予想外過ぎる程の常軌を逸した性能だった。

 頼むから勘弁してくれと嘆くほどの性能だ。

 あの機体は、俺の専用機にしようと選んだ物だが、十万年前の転生者が使っていた専用機ではなく、ごく普通の量産機だ。

 チート転生者達が自分たちの専用機として趣味全開で造り上げた機体は、別場所に封印されているらしく、あそこには一般機が並んでいるだけだった。

 だから、油断してしまったといっても言い訳にもならない。


「それもそうであったな。装機竜人の性能、聞きしに勝るモノであったわ」

「いえ、そうではなく、あの機体は現在の機体とは根本的に、比べ物にならない程の圧倒的な性能を誇っているのです」


 普通の装機竜人と比べて高い性能を持っている程度だったら問題にもならなかった。

 アレは比較にならないレベルの性能を持っている。それこそ、全くの別物と言っても過言ではない程だ。


「確かに私が知る機体と比べても圧倒的な動きではあったが、それ程の差があるのか?」


 傍らに控えていた竜騎士団長が、俺の言葉に疑問を挟む。

 彼にとっては当然の疑問だろう。職業柄、実際に装機竜人を目にしたこともあるらしく、その時の機体と比べて動きが圧倒的に優れていたのは判っても、全くの別物と言うほどの性能差があるのかと疑問に思わないハズがない。

 勿論、彼にしても発掘品の装機竜人が、現在よりもはるかに優れた技術を持った十万年前に造られた、今の物よりも優れた機体であることは知ってい。それても、比べ物にならない程の、全くの別物と言われる程の隔絶した性能の差がおるとまでは思いもしないだろう。


「あの機体は間違いなくSクラスが乗る事を前提にした機体です。そして、間違いなくレジェンドクラスの魔物に対抗するために用意された兵器です。今の機体とは前提そのものが全く違います」


 俺の説明にその場にいた全員が言葉を失う。

 当然だろう。普通ならば信じられるような話じゃない。世迷言や戯言と一蹴されておかしくない内容だ。

 以前にも説明したが、装機竜や装機人はA・Bランクが乗る事を前提にし、彼らでもSクラスの魔物と対抗できる強力な兵器だ。

 装機竜人はその上位機であり、装機竜や装機人では太刀打ちできないESランクまでの魔物と対抗できる性能を誇る。

 だがあの機体、十万年前に一般機として使われていたグングニール・タイプと呼ばれる装機竜人は、Sクラスが動かすのを前提に、レジェンドクラスの魔物、流石に最低ランクのEXランクの魔物だとは思うが、ともかくレベルの違う怪物を相手に対するために造られている。

 多分、十万年前はSクラスが今のA・Bランクと同じ扱いだったのだろう。つまり、Sクラスが十万人以上はいたのだろうが、その彼らが、装機竜人を駆ってレジェンドクラスの魔物の相手をしなければならない程、当時はレジェンドクラスの、或いは更に上のジエンドクラスの魔物が溢れていたのだろう。

 カグヤが造られる前の戦況は、今とは比べ物にならない程に激しい、苛烈なモノだったことは知っていたが、まさかこんな想像を絶する代物が平然と使われていたとは思わなかった。

 いやまあ、十万年前にチート転生者達が現れる前から、まだ魔物の侵攻もそれほど深刻化していなかったとはいえ、カグヤがない同じ状況下で辛うじて持ちこたえていたのだから、転生者たち以外のこの世界の住人の実力も、今とは比べ物にならない程高かったのも当たり前なのだけれども、当時の事を少し甘くも過ぎていたかも知れない。

 当時普通に使われていた一般機に過ぎないこのグングニール・タイプも、今では封印されて当然の超オーバースペックだ。扱いに気をつけないと、これもまた、余裕で世界のパワーバランスを崩す、と言うか本気で崩壊させる。


「もし、竜騎士団で運用するのならば、出力を抑えるリミットを設定しておかなければ、機体性能に耐えきれずに操縦者が死ぬ事になってしまいますし、暴走して味方にまで被害を及ぼす可能性もあります。取り扱い、運用には細心の注意が必要になります」

「それ程のモノか・・・」

 

 続けた俺の説明に竜騎士団長は頬を引きつらせる。

 だが、まだ彼の認識は甘い。


「そうですね。実際に竜騎士団で運用するならば、出力は百分の一程度に抑える必要があるハズです。それ以上では操縦者が耐えられないでしょうから」

「百分の一・・・」


 流石にそこまで出力を抑えなければ使えないなどとは思いもしなかったのだろう、呆然とした全員の声が重なる。

 いや本当に、まさか今の機体の百倍以上の性能とか何なの?

 俺の方が呆然としたわ。


「その状態でも、間違いなく現行機をはるかに上回る性能を発揮します」

「なんと、かつては今よりもはるかに優れた文明を誇っていたと聞いてはいたが、実際に目の当たりにすると、あまりの違いに愕然とするの」


 深い溜息をつきながら、王は厄介な事になりそうだと頭を振る。


「我が国を含め、この機体が各国に渡るのは既に確定しているが、実際その機体を研究して技術を向上させることは可能かね?」


 流石に問題点が良く判っている。名君として君臨するだけの事はある。

 ベルゼリア第八十九代国王アーリアル・フィル・リーズ・ベルゼリアは、呆然としていたのからすぐに立ち直ると、為政者の目でこちらに確信をついてくる。

 何か、同席している姉が、メリルが爛々と目を輝かせているが、とりあえず無視で、


「多少の技術向上は見込めるでしょうが、余りにも技術レベルが隔絶し過ぎていますので、どのようにしてあれほどの性能を生み出しているのか、そのほとんど全てが解析すらできないと思われます」


 途端にメリルががっかりするが、そうそう簡単に解析されて使われるようになってもらっては困る。

 あまりに急激すぎる技術革新は、社会全体を揺るがす混乱しか生まない。

 それこそ、害悪にしかならないのだ。

 変革や革新は状況を見極めて、確実に少しづつ浸透させていかなければ、反発を生み、大きな争いと犠牲を生み出す事になる。

 地球で何度となく起きた革命などがいい例だろう。国を変えるために多大な犠牲を出し、更に方後も変革が上手く出来ず、或いは国を上手くまとめ上げられずに混乱が続き、国自体が瓦解しかねない状況に陥る事すら、地球の歴史では珍しくなかった。

 そして、言うまでも無くそんな犠牲と混乱を伴う様な変革や革新は、この世界では絶対に避けなければならない最悪の事態だ。

 それは政治体制とかの話だろうと思うかも知れないが、技術についてもまったく同じ事だ。

 地球において、二十世紀後半から二十一世紀前半にかけて、僅か数十年の間に飛躍的な技術力の発展とそれに伴う開発によって、深刻な環境破壊が発生し、世界的な大問題に発展したのもその一例だ。

 或いは、中世ヨーロッパの大航海時代、航海技術の飛躍的な発展と、火薬によって新たに生み出された銃と大砲が、世界中を植民地として征服する原動力になった例などが上げられるだろうか?

 急激な技術革新は、確実に現実を見ないバカを生むし、既にいるバカ共を刺激するのも明白だ。

 人間同士で争っている余裕などないのに、その程度の現実すら理解できない。欲に目が眩んだ救いようのないバカをこれ以上増やして、国の存亡にすら係わりかねない厄介事にならない様に、この情報にすらも十分に気をつけないといけない。


「そうか、であれば最悪の事態は避けられそうだな。しかし、其方が一番思っているだろうが、十万年前の発掘品はどれもこれも厄介すぎるようだな」

「確かに」


 と言うか、今更ながらこれまでにもいくらでも転生者はいただろうに、まだ十万年前の遺跡が数多く未発見のまま残っている理由がまさにそれだろう。

 どれもこれも余りにも異常過ぎる性能をしていて、逆に厄介事と面倒事しか呼ばないのだ。ハッキリ言って手に余ると痛感させられるから、一度遺跡の探索をして発掘品を手に入れたら、もう二度と遺跡に行こうとは思わないのだ。

 俺も同意見だ。絶対にこれ以上の面倒はゴメンこうむる。


「しかし、本当に発掘品の権利がアベル殿のみにあって幸いでしたな。その分、彼には面倒が増えますが」

「確かにその通りであるな」

 

 心の底から安堵した最小の言葉に王をはじめ全員が同意しているのに若干イラッとするが、確かにその通りだ。これがもし、アスタートにも所有権があった場合、最悪、そのまま戦争にすらなっていたかも知れないのだから、どれだけ面倒でも、俺が全ての権利を持っているのは幸いだ。

 流石に言ってはいないが、多分ここにいる全員が気付いているだろう。俺が発掘したモノが、余裕で世界を征服も破壊も可能な代物だと、

 五人目のレジェンドクラス候補などという称号に続いて、世界全てを敵に回しても余裕で勝てる程の力を手に入れた訳だ。俺としてはそんなもの全く望んでいないのだが、遺跡探索をすると決めたのは俺なので、完全な自業自得だ。 


「とりあえず陛下はマリージアとアスタートの両国と情報を共有して、協力体制を整えておいて下さい。そうすれば後は私の方で対応します」


 なのでまあ、自分で何とかするしかない。とりあえず、ヒューマンの国の中では大国に当たる三国と連携できるのは救いだ。既に引き入れられているので、三国ともに俺に協力するしかない。

 まあ、装機竜人をどうするかは既に決まっている。

 ベルゼリア、マリージア、アスタートの三国と、ユリィとケイを通してエルフの国ユグドラシルとドワーフの国レイザラムなどのいくつかの国に渡したら、自分たち用の機体を除いて他は全てSクラスに譲ってしまえば良い。

 趣味人のSクラスが自分たちよりもはるかに優れた技術の粋を集めて造られた装機竜人に興味を持つのは当然だし、何としても手に入れたいと思うのも当然だ。

 彼らはその性能を存分に体感し、思う存分楽しんだ後、全身全霊をかけて機体の解明に乗り出すだろう。

 その技術を解明しようと躍起になって、昼夜を問わず研究に没頭するだろう。

 それでいくつかの技術やテクノロジーを解明し、飛躍的に魔工学や錬金術を発達させもするだろうが、その程度は許容範囲内の全く問題ないレベルだ。

 肝心なのは、国に一切関係なく、縛られないフリーのSクラスの手に装機竜人が渡る事だ。

 彼らの手に渡れば、それでもどうにかしようなどと考えるバカは出てこないし、仮に出てきたとしてもどうにでもなる。

 魔物の侵攻が規模を増しつつある中で、Sクラスの力が増すのは世界の安定の為にも望ましい事だし、誰からも文句をつけられるいわれはない。

 場合によっては、レジェンドクラスも興味を持つかもしれないけど、その時は素直にお譲りすればいいだけだ。

 装機竜に装機人を含む機体開発に修理は、Sクラスによって全てが支えられているのだから、その技術向上の為の研究材料としてもらうといえば、誰も文句は言えない。

 実際にそうなる訳だし、Sクラスにしても、自分が乗る趣味全開の専用機ならともかく、それ以外の機体に余り危険に技術は使わないのが常識なのだから、彼らが下手に社会を混乱させるような技術革新を無造作に公表する心配もまずない。


 本当に、手遅れになる前に機体性能が予想を遥かに超える。常軌を逸したものだと判って良かった。

 これから個性豊かなSクラスと会っていくのかと思うと、ミランダの件もあって気が滅入ってくるが、とりあえず装機竜人についてはどうにかなりそうだ。

 

 それにしても、本当に発掘品は余りにも常軌を逸し過ぎていて厄介事と面倒事しか呼ばない。

 ほぼ確定だが、かつて遺跡を発掘したほかの転生者達も、今の俺と同じ苦労を味わっていたのか・・・。

 そう思うとなんだか微妙な気分になってくる・・・。



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