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「と言う訳で、しばらくの間よろしくね」


 心の底から楽しそうなミランダに、諦めたように頷くメリアたち。

 どうしてそうなったと心の底から思っているだろう。俺もそう思うけれども、残念ながら彼女を止める事はできない。 

 言った通り、仲間としてこれからずっと一緒な訳ではなく、発掘品の空中戦艦と装機竜人の研究や、俺について観察したりして、満足したら終わりなので、出来れば早く満足してどこにでも行って欲しい所だ。 

 大使団の一件によって、空中戦艦や装機竜人の交渉は一時中止となったので、さっさとその高い技術を知りたいミランダがしばらく同行するのはむしろ当然なので、誰も不審な思ってすらいないが、こちらはその可能性を忘れていたと大絶叫だ。


「ミランダも、同行するのだから悪戯や悪ふざけはしないと言ってくれているから、そんなに心配しなくても大丈夫だよ」


 昨日の事を思い出してげっそりしているメンバーをフォローする。

 昨日のは間違いなく彼女の地だが、流石の彼女も、時と場合を選ばず、誰彼構わずにああしている訳でもないらしい。

 元々、ある程度は慣れているユリィとケイはともかく、他の六人は精々一か月前にB-にランクアップしたばかりなのだから、少しは手加減してもらわないとついて行けないとクギを刺したところ、相手は選ぶから大丈夫と笑われた。


「そうそう。昨日のはアベルとキミたちの事を知るためだからね。人となりも知れたし、キミたちにはもうあんな悪ふざけはしないよ」


 ミランダの言葉には有無も言わさぬ説得力がある。

 奔放な態度で相手の懐深くまで入り込んで、本人すらも気付いていない事まで全てを丸裸にしてしまう。昨日の彼女のやり方がまさにそれだ。


「キミたちの事も良く判ったしね。久しぶりに、中々面白い旅になりそうだよ」

「どうやら彼女のお眼鏡にかなったようだからね。噂によればそれだけでもすごい事だよ」


 数少ないヒューマンのES+ランクであるミランダは、付き合う人間を極端に選ぶ。彼女のお眼鏡にかなわなければ完全に居ないものとして扱われるとすら聞く。

 そんな彼女のお眼鏡にかなう人間も少なく、Sクラスの中でも特に変わり者と言われているのを昨日、あの後に調べて知った。

 よりにもよって、初めて会う他のSクラスがどうしてそんな人なんだと思わなくもないが、奔放過ぎるのと、付き合うかどうかを決めるための悪ふざけが余りに過ぎるのを除けば、ごく付き合いやすい人ではないかとも思っている。

 あくまで、そんな気がするだけだけども・・・。


 因みに、ミランダ曰く、私が来たからには他のSクラスが会いに来ることもしばらくはないとの事。

 あまり何人も一気に来られても困ったのは確かだが、Sクラス避けにすらなる彼女は一体何なのだろうと本気で思う。


「それは光栄です。あの、これからどうぞよろしくお願いします」

「そんなに硬くならなくていいよ。私はキミたちの事が気に入ったんだからね。気軽に接してくれていいよ」


 ガチガチに緊張しているメリアに、気さくに笑いかけるが、言った本人もすぐには無理だと判っているのだろう、特に気にした様子もなく話を続ける。


「それで? あのバカ共の始末が終わって、発掘品についての交渉も一時棚上げになったから、この街に留まる理由もないし、早々に旅を再開するって話だけど、次は一体どこに行くの?」

「ベルゼリアだよ。国を出てすぐの里帰りだけど、ちょうどいい機会だからね」


 色々と話しておかなければいけない事があるので、ちょうどいいタイミングだ。

 あまり繋がりを見せずにい続けると、母国との不仲を勘ぐって、バカな真似をしてくる輩が必ず出て来るので、牽制の為にもある程度の親密さはアピールしておかないといけない。

 国に仕えるつもりが一切ないので、囲い込まれる前に国を出たが、別にベルゼリアが嫌いな訳じゃない。

 家族中も良好だし、国の支配体制もかなり良好な国で、魔物の被害も少ない。為政者の手腕の見事さには感心するほどだ。

 俺が国を出た後に、父たちからその辺りは国王などに伝えられているので、ベルゼリア内には特に問題はないのだけど、さっきも言った様にバカな国が勘違いして変な事を仕出かす可能性もあるので、早いところ芽は摘んでおくに限る。

 

 そんな目的をメリアたちに説明しながら、ヒュペリオンで一気にベルゼリアに向かう。

 最大速度が音速の百倍。時速十万キロを超えるヒュペリオンはアスタートからベルゼリアまで、一瞬で駆け抜ける。

 因みに、今はミランダを含む全員が俺と同じブリッジにいて、俺の操艦を視たり、信じられない高速で動く景色に圧倒されたりしている。

 そんな訳で、全員そろっているので手早く、ベルゼリアに戻る理由を説明しておいた訳だ。


「どれだけ自由に生きているように見えても、柵からは逃れられない。まあこれは諦めるしかないわよね」

「なるほど、大変なんですね・・・」


 俺の話に、訳知り顔でまとめたミランダに、思わず突っ込みたくなるのをグッと堪える。

 まあ、言葉通り、どれだけ自由に生きているように見えても、彼女にもどうにもならない柵があるのだろう。その詳細を知るまで、彼女と親しくなるかも判らないので、ここでこれ以上、話を掘り下げても仕方がないだろう。


「今回の帰国の目的も、要するにバカ共対策だから、キミたちには退屈だろうけど。キミたちの方にまで何か話が及ぶ心配はないから、今回は心配しないで、骨休みでもしていればいいよ」


 ミランダのおかげもあって、一気にバカ共の殲滅も出来たが、それでもバカは何処にでもいるし、全滅させられるモノでもない。面倒でも定期的な駆除をしておかないと、後で更に面倒な事になるのだから仕方がない。

 これって俺がやるべき事か? 

 と本気で思わなくもないが、今の所、バカ共の一番の標的になるのが俺なのだから、自衛のために駆除しなければならないのだから、仕方がないと諦めるしかないだろう。


「まあ、キミたちもいずれは通る道なんだから、先達の手並みを参考にして勉強するのも良いかも知れないよ?」

「ああ、確かにそうかも知れないな」


 どうしてそんなに楽しそうなのだとも思うが、内容には同意するしかない。

 ユリィとケイは既にその覚悟を決めているが、メリアたちはまだ覚悟がしきれていない。その意味では、そろそろ現実を見て勉強するいい機会だろう。


「あの、アベルさんは本気で、私たちがSクラスになれると思っているのですか?」


 まったく判らないとポカンとしているメリアたちに対して、判っていても信じられないといったアレッサが尋ねてくる。確かに、その疑問はもっともだろう。普通ならば信じられるモノじゃない。

 だけど、そろそろ受け止めてもらわないといけない。


「勿論なるさ。俺の弟子なんだから当然だし、キミたちには元々、それだけの素質があったんだからな」


 何年後になるかは判らないが、彼女たちは全員が確実にSクラスになる。

 これは確かに信じられない事だ。ユリィとケイはともかく、同じ孤児院出身の五人が全員、Sクラスになれる才能を持ち、自分の才能に見切りをつけて冒険者を止めたハズのアレッサまでがSクラスになるだけの才能を持っているのだ。

 本来ならばありえない。

 何か作為的なモノすら感じる。仕組まれでもいない限り起こるハズもない事態ですらある。

 その意味では、むしろ信じられなくて当然だろう。

 ゲーム修正の、チートトレーニング法と言えども、才能が無い者を強くすることは出来ないのだから。


「普通、こんなに才能に溢れた者ばかり集まる事なんてありえないからね。信じられないのも無理はないけど、私が視た所でも、キミたちは間違いなくSクラスになるよ。そして、そうなるとキミの柵と苦労も果てしなく増える訳だ」

「それは解っているから、言わないでくれ・・・」


 メリアたちがSクラスになってからの苦労について、理解していないほどバカではない。

 判ってはいるのだけども、今更どうしようもないので、見て見ぬ振りをしているのだ。

 今から考えておいたところで、実際にどうにかなる問題でもないし、それならその時になるまで気にしないでいた方がマシだ。

 本気で、まさか弟子に取った全員がSクラスに成り得るだけの才能を持っているなんて夢にも思わなかった。

 どうしてこうなったと思うが、これで確実に数年後には大騒ぎになるのが確定した。

 当然だろう。弟子を取ったら確実にSクラスにまで育て上げるなどとなったら、どんな騒ぎになるかなんて目に見えている。

 それなら、これから才能の無い奴を弟子成して、誰でも強く出来る訳じゃないと証明してしまえば良いだろうと思うかも知れないが、弟子にすれば、少なくてもある程度の実力が備わるまでは一緒に旅をしなければいけない。その上、既にBランクまで上がっているメリアたちとは別れていないのに、後から弟子に取ったのにそこそこ程度で放り出したのでは不審に思われる。

 これから、獣人や竜人の国からのお目付け役が来て、更にメンバーが増えるのも決まっているし、適当に見繕って弟子にして育て上げたふりをするような真似は止めておいた方が良いに決まっている。


 結局、数年後にはSクラス育成者などと持ち上げられ、更に弟子の育成を強要され、押し付け弟子が殺到するのも判っていながら、今の所は打つべき手がないのだ。


「それでまたバカ共が集まってくるだろうけど、現状の情勢を考えれば、強者が多く輩出されるに越した事はないからね。諦めて頑張りな」

「えっと、どういう事でしょうか・・・?」


 さて、バカ共が湧いてくるのか、現状の状況か、どちらが解らなくて尋ねたのか? 

 そんな事を考えている間に、ミランダがメリアに説明していく。


 ようするに、弟子を確実にSクラスまで育て上げられるとなれば、我も我もと弟子入り志願者が続室するのも、王族や貴族などから子弟を弟子にと押し付けられてくるのも目に見えているが、それ以外にもヒューマンの戦力が上がったのをいい事に、またバカ共が、俺に弟子を育成させてヒューマンのSクラスを大量に排出し、その力を持って世界統一をなどと言い出すバカ共が必ず現れるという事だ。

 もう一つは、マリージアでの魔域の活性化に象徴するように、近年、魔物の侵攻が激しさを増している。これが一時的なモノに過ぎないのか、それとも何か異変が起きる前兆なのかは判らないが、少なくても戦力の増強は、Sクラス以上の力を整えておくべきなのは確かだと、


 それにしても、やはり魔物の侵攻は激しさを増しているのか・・・。

 この世界に転生者が現れるのは、何らかの事態に際して用意されたようになので、俺がこの世界に転生したのにも何かしらの要因があるだろうと思っていたが、考えられる中で最悪の事態だった訳だ。

 まあ、転生者の中には、世界を滅亡の危機に陥れたアホすらもいるのだから、そうならないだけでもマシだという事だろうか、


「そうなんですか、魔物の脅威が増していたんですね。それでアベルさんやミランダさんのような絶対的な強者が必要なのですね」

「そう言う事なんだけど、何かキミ、勘違いしていない? まさかと思うけど、私が彼と同じレベルの化け物だとか思ってない?」


 何か酷い事を言われたが、納得したようなシャリアの言葉に突っ込んだミランダの気持ちも判る。

 彼女にしてみたら、俺と同類呼ばわりは冗談ではないだろう。


「えっ? でも、同じES+ランクなのですから・・・」

「違うから、全く違うから、確かに私たちはランクの上では同じES+ランクだけど、その実力は天と地ほども違うから」


 エイシャの疑問に被せ気味で否定する。


「活性化の始まりに彼が倒したワイパーン・オブ・インフェルノが率いるワイパーンの群、その程度を瞬殺するのならば確かに私も出来るわ、でも、活性化中に彼が見せた戦い、数千、数万のSクラスの魔物を相手に何時間も戦い続ける様な真似はどうやっても無理よ。あれは明らかなSクラスの、ES+ランクの限界を超えているの、いい、彼が千年ぶりのレジェンドクラス候補と言われているのは、十二歳の若さでES+ランクにまで上り詰めたからじゃ無くて、活性化中に見せたその常軌を逸した戦闘力からなのよ。彼の力は明らかにES+ランクの限界を遥かに超えている。それこそ既にレジェンドクラスの実力さえあるのではないかと思わせる程にね。だからこそ、千年ぶりのレジェンドクラス候補と言われるの、判った? 彼の力はそんな常軌を逸したものなの、私はそんな力はないから、一緒にされたら困るからね」


 何もそこまで一気にまくしたてなくてもいいだろうに、そこまで、一緒にされるのが嫌だったか?


「そうだったんですか・・・、すいません、良く判らなくて・・・」


 余りの剣幕に、ユリィとケイすらも若干引いている。

 まあ確かに、イヤかもしれないなと思わなくもないが、流石に若干落ち込む。

 自由奔放。傍若無人の権化のような彼女にそこまで言われるのは・・・。


「判ってもらえればいいのよ。彼は、アベルは別物、規格外だから、その事をよく覚えておいた方が良いわよ。貴方たちの為にもね」


 そう言われると言い返せない。

 確かに、俺は別物だという事は理解しておくに越した事はない。

 そもそも転生者で、前世の、ネーゼリアとは別の世界の、地球の知識を持っている時点で普通ではない、

 十万年前のの想像を絶するチートとも、ある意味で同じなのだからそれこそ普通の訳がない。


「まあ、Sクラスは世界中で五百人しかいないと言っても、実際は、引退した者や、前の俺みたいに公表しいないのも含めれば、数千人はいるからな。それに比べて、レジェンドクラスは本当に四人しかいないんだから、その候補となれば桁違いなのも当然てね。と、話はここまで、故郷ベルゼリアに到着だ」


 自分で自分を慰めるためにもフォローを入れておく。

 ついでに、ベルゼリア王都ベルレールに到着だ。加速状態から一気に止まったのに反動ひとつない。完璧な慣性システムだ。 


「ようこそ、我が故郷へ。歓迎するよ」


 二ヶ月足らずで戻ってきた母国に仲間を迎えながら、出来れば何事もなく、ただ顔見せと必要ないくつかを済ませるだけで終わって欲しいモノだと真剣に願う。

 ・・・これまでからすると、無理っぽいけどね。



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