表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/398

30

ほぼ説明回です

「十万年前の遺跡からの発掘品ですか・・・」


 俺の説明に頭痛を堪えるようにして、何とかそれだけ絞り出したのは見事だろう。

 遺跡の調査も、艦や機体のチェックも終わった俺たちは、早速ヒュペリオンでリスリルの街に戻った訳だが、突然現れた巨大戦艦に、当然ながら大混乱の大慌て、


「こちらに接近中の艦艇に問う、貴艦の所属と氏名を明らかにせよ、応答がない場合は敵対行動とみなし、直ちに撃墜する」


 空港の管制室から緊迫した声が聞こえたのもむしろ当然だろう。

 データベースに該当するモノがない、所属不明の戦艦が突然現れたのだ。警戒しない方がおかしい。


「こちらヒュペリオン艦長、ES+ランク冒険者アベル・ユーリア・レイベルト。こちらに敵対の意思はない、着陸許可を願う」


 ぶっちゃけ、別に空港に着陸できなくても問題ないのだけれども、この後一々面倒な事態にならない様に、ここでさっさと説明やら何やらを済ませておいた方が良いだろう。


 ES+ランクの看板は絶大で、そのまますぐ着陸許可がおり、艦を指定されたポイントに着けると、そのまま事情の説明を求められて、説明が終わった反応が先程のアレなのは当然だろう。


「確認なのですが、アベル殿が使われているヒュペリオンと言う艦以外にも、四十一隻の飛空艇と搭載機となる、四百機を超える装機竜人があったのですね?」

「ああ、魔域内部に埋もれていた遺跡からは、あの艦以外も多くの遺産を発見できた」

「・・・そうですか」

 

 俺が発見した遺跡からの発掘品の中身に、どうすればいいのか判らないと頭を抱えている。

 気持ちは判る。四十隻もの空中戦艦に四百機以上の装機竜人。それだけの戦力が手に入ればどれ程の事が出来るか?

 国に仕える身ではそう思わずにはいられないだろう。

 そもそも、飛空船を一隻造るのにかかる費用を考えれば、ただで手に入る機会がみすみすなくなったのは余りにも惜しすぎるだろう。

 それに四百機以上もの装機竜人。

 装機竜人は完全に装機竜や装機人の上位機であり、その力も装機竜や装機人とは比較にならないほど高い。装機竜や装機人がSSSランクの魔物までしか相手に出来にいのに対して、装機竜人はES+ランクの魔物にまで対抗できるのが良い証拠だろう。

 だが、圧倒的力を持つ機体は、残念な事に絶対数が少ない。アスタートは三機を有しているが、これは多い方で、マリージアの様に一機も持たない国も珍しくない。

 確か、今ある装機竜人の総数は千機に満たなかったはずだ。

 千機もあれば十分だし、それだけあるのに、なんで一機も持たない国があるんだ? と思うだろうが、まず、うち五百機以上はSクラスの専用機だ。

 Sクラスになって装機竜や装機人が造れるようになった者は、最終的に自分の専用機として装機竜人を造る。これは完全に趣味だろうが、俺もそうするつもりなのでどうこう言える立場にない。

 一人で複数機持っているのも少なくないので、千機のうち半数以上は国に係わりない、Sクラスの所有物になる。更に、国の所有する装機竜人も、その大半がヒューマン以外の、エルフやドワーフなどの国が保有しているという背景もある。

 ようするに、元々少ない装機竜人の内の、更にごくわずかしかヒューマンの国に配備されている物がないので、一機も持てない国が出るほどの貴重品になるのだ。

 それが一気に四百機以上。どんな手を使ってでも手に入れたいと思うのは当然だろう。

 今回の発掘品は、それ程の価値がある物なのだ。

 残念ながら、今のところ発見した空中戦艦や装機竜人を手放すつもりは、どこかの国に売るつもりは一切ないが・・・。


 と、まずは今回の発掘品の所有権について説明しておくべきだろう。

 基本的な事になるが、未発見の遺跡から発見された財宝などは、当然ながら第一発見者に所有権がある。ただし、その遺跡が誰かの所有地にあったり、どこかの国の領地であった場合は、事前に遺跡探索の許可を受けていない場合、発見された財宝の所有権は地権者や国のものになる。

 なので、未発見の遺跡の情報を得た場合には、まずその遺跡がある場所が、現在誰の所有地になっているのかを確かめ、国の直轄地なら国と、貴族の領地なら領主と遺跡探索の許可をもらうと共に、見つかった財宝の取り分に対する交渉を事前にしなくてはいけないのだ。


 だが俺は今回、それらの事前交渉を一切していない。そうなると、見付けた物は全てアスタートの物になるのかと言えば、そうではない。

 そもそも、遺跡があったのは魔域の中だ。そして、当然ながら魔域内部はどこの国の領地でもない。地権者のいない、誰のモノでもない土地なので、そこにある遺跡から見つかったモノには口がはさめないのだ。

 本来なら喉から手が出るほど欲しいのに、アスタート側には所有権を主張する事が出来ない。どうしようもなくもどかしいのだろうが、俺としては初めから解っていた事だ。始めから解っていたからこそ、事前に遺跡の事を話して、アスタートに先に調査される危険を冒さなかったのだ。

 もっとも、仮にアスタートが先に遺跡を見付けて調査したとしても、工場区には決して辿り着けなかったのは確実なので、何も得る事なく、防犯機能に手痛い損害を受けて退却する羽目になっていたのは確実だが、その場合は、それでも遺跡自体を先に見付けたのは我が国だと、見付けたモノに対してある程度の所有権を主張して来ただろう。

 それが解っていたから、何も言わずに遺跡に向かったのだけども・・・。


 ハッキリ言って、今回はその選択をしておいて正解だった。

 見つかったモノがシャレにならな過ぎて、もし、万が一にもアスタートに所有権を主張されていたら、本気でシャレにならない事態になっていた。

 面倒とか、厄介事なんてレベルじゃない。それこそ、社会情勢やパワーバランスがひっくり返る事になりかねなかった。

 危険物どころの話じゃない。いつ爆発してもおかしくない核爆弾と一緒だ。

 特にヒュペリオン。あれはシャレにならない程度で済むレベルじゃない。

 あれはヤバイ。本気で、いったい何を考えてあんな物を造ったんだと絶叫したくなるレベルの代物だ。


 宇宙戦艦ヒュペリオン。十万年前のチート転生者達が、趣味全開で造り上げたこの艦は、動力源としてΩランクの魔物の魔石を使った、カグヤと同じ魔素吸収し魔力に返還する永久機関型の魔導炉を持ち、魔石による魔力の回復を行わずに半永久的に稼動できる上、対ジエンドクラス様に造られた強力な兵装を多数装備している。

 ぶっちゃけ、今の俺など比べ物にならない程の圧倒的な戦力を有した戦闘艦だ。

 正直な話、造った後で彼らすらやりすぎたと思ったからこそ、自分たちがいなくなった後の混乱を未然に防ぐために、自分たちが使っていた艦でありながら封印したのだと示されていた。

 実際、もしもこの艦が封印されずにいたのならば、世界の歴史はこの艦を中心に大きく変わっていただろう。

 チート転生者たちが去り、ジエンドクラスの実力者がいなくなった後、もしもヒュペリオンが残されていたのならば、それは手にした者が世界の覇権を握る覇者の象徴になっていただろう。

 確実にそうなっていたと断言できるだけの、常軌を逸したなどの表現では生温い、異常過ぎる圧倒的な力がヒュペリオンにはある。

 例えば、俺がもし世界征服をしようと気まぐれに思ったならば、容易く叶える事が出来る非常識な戦艦。

 それがヒュペリオンだ。

 だからこそ封印されていた訳だけど、正直、封印じゃなくて破壊してしまった方が良かったんじゃないかと思う。それ程、危険極まりない代物だ。

 多分、カグヤに何か異常が発生した場合など、想定できる限りで最悪の事態が発生した時に備えて残されたのだろうが、つまるところ、そんな非常事態も非常事態の、最悪の状況に陥らない限り、ヒュペリオンがある限り、ネーゼリアの安全は保障された事になる。

 同時に、もしもこの事がばれたら、ヒュペリオンの真価が明らかになったら、それだけで世界は、社会は大混乱に陥るのも目に見えている。

 だから、ハッキリ言って異常過ぎるヒュペリオンの情報は、当然ながらトップシークレットだ。 

 メリアたちにすら詳細は一切明かしていないし、俺が太古の遺産を手にしたのを知れば、真っ先に連絡してきて詳細を知りたがるに決まっている、姉のメリルにも教えるつもりは無い。


 更に、ヒュペリオン程ではないが、他の空中戦艦も十分にやばい、動力はレジェンドクラスの魔物の魔石を使った魔導炉で、当然ながら、現在の戦艦とは比べ物にならない程の圧倒的な性能を誇る。

 搭載機の装機竜人も同様で、ざっと確認しただけでも、今使われている機体とは比較にならない性能だ。


 そんな危険物が四十艦に四百機以上、特大の火種どころの騒ぎじゃない。

 ヒューマン至上主義のバカ共がまたぞろ騒ぎ出して、戦争だ世界統一だとアホくさい混乱が起きるだけならまだしも、実際に各種族間の不信を生む事態すら引き起こしかねない。

 扱いを間違えれば、簡単に数億単位の犠牲を出しかねないのだから、冷静に考えれば、この発掘品はどうしようもないほどの厄介事だ。

 まったく、どうして遺跡に行く前に気付かなかったかなの今更思うが、遺跡に行かないなんて選択がなかったのも事実なのだから、遅かれ早かれ同じ事になっていたか・・・。


「とりあえず、発掘品は俺の方で詳しく調べさせてもらうつもりだ。その後どうするかはまだ未定だが、しばらくは売り出すつもりは無い」

「そんなっ・・・」


 どうやって発掘品を少しでも多く、より安く手に入れるかを考えていたのだろう、俺がしばらくはどの国にも売るつもりは無いと聞いて、声を荒げかけるが辛うじて自制してみせる。

 気持ちは判るが、俺としても慎重に動かなければいけないのだ。


「正直、モノかモノだけに俺としても慎重にならざるおえないからな。発掘された事を知ればどこの国も欲しがるに決まっているけど、下手をするとそれが原因で各国の関係が険悪になって、最悪、戦争にすらなりかねない」

「それは・・・、確かにその通りですね・・・」


 ウソではないが理由の全てではない、離せる範囲の理由だけをサラリと言えば、不審な思う事も無く素直に信じてくれる。

 実際、少しでも多く手に入れたいのは確かだが、自分たちの国ばかりが余りに多く確保し過ぎれば、他の国々との間に確執を生むのは判っているハズだ。

 その意味では、発掘品の権利を持たない今の状況は幸運だったとすら言える。それを理解しているのだろう。俺の言葉に素直に応じる。


 と言うか、実際さっさと調べておかないと大変な事になりかねない、

 やばいのは空中戦艦や装機竜人だけじゃないのだ。

 ヒュペリオンの中を見て回って気が付いたのだが、館内にシャレにならないレベルの魔道具が山の様に残されている。

 流石に、チート転生者たちが使っていた戦艦だからだと思いたいが、下手をしたら装機竜人よりもはるかに凶悪なんじゃないかと言う様な魔道具やマジック・アイテムがゴロゴロしている。

 それでまあ、色々な物があるのを見て分かったのは、今とは比べ物にならない程に優れた魔工学と錬金術を誇っていた当時の魔道具やマジック・アイテムは普通の物でも、今の物とは比べ物にならない、シャレにならないレベルの代物だという事だ。

 全部の艦を隅から隅まで調べ上げて、危険な魔道具やマジック・アイテムがないか確認してからじゃないと、危険すぎて誰かに譲るのは無理だ。 

 欲しがる国も、Sクラスの趣味人も、これから殺到して来るのは間違いないが、こっちだって渡せるか確認できなきゃ、渡せる訳がない。

 まあ、空中戦艦ひとつで数兆リーゼ、装機竜人一機で百億リーゼにはなるのは確実なのだ、労力に見合うどころか、降って湧いたような桁外れの金額を得るのは確実だけど、正直、これ以上お金が増えても使い道がないんだか・・・。


 それに、俺自身や弟子のメリアたちやユリィにケイが使うのは問題ないが、絶対によこせと言ってくるメリルに渡すのは難しい、家族、姉弟なのだから本当は問題ないのだけれども、姉だけに渡して、父や兄に渡さない訳にはいかないし、そうすると、レイベリス家だけで三機もの装機竜人を持つ事になり、俺の実家が余りにも力を持ちすぎる事になるし、パワーバランスを思いっきり壊す事になってしまう。

 本当はレイルとかにも渡したい所なのだが、そうそう気楽には出来ない。

 数が問題なら、他の遺跡も調べて、発掘してしまえば良いだろうとか言われそうだが、そんな簡単な華字じゃない、そもそも、爆弾をこれ以上増やしてどうするという話だし、これ以上の厄介事は本気でゴメンなので、俺としても、もう他の未発見の遺跡に行くつもりは無い。

 

 自分の工房が欲しいからと、深く考えずに遺跡調査などしたのだから、自業自得と言えばその通りだが、これからの事を考えると頭が痛い。

 ヒュペリオンには搭載機の装機竜人の運用の為の整備・修理設備が整っているので、あの遺跡の工場区から、必要な機材を少し持ち込めば、自分用の専用機を造るための工房として使えるけれども、実際に自分の機体を造れるようになるのはいつになる事やら・・・。

 今回は、完全に自分の蒔いた種の厄介事なので、文句も言えないが、本気で勘弁してくれと心から思う。

 諦めたつもりだが、俺の平穏な日常は何処にある・・・。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ