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どうしてだか知らないけど、ミルカの妹のライラとラウラは仲間になると同時に、俺の婚約者として内定した。
俺は承知した覚えがないんだけども、いつの間にか確定していた。
そんでもって、当然のように既成事実を迫られることになった。
いや、既成事実をつくってはいないからね。会ったばかりでお互いの事を良く知りもしないのにそんな関係になるつもりはないって押し通したよ。
その攻防でせっかくの湯治なのに全然気を休められなかったんだけどね。
まあ、既に2人が俺の新たな婚約者に加わったのは覆しようがないみたいだしいずれそう言う関係になるだろうけどね。
「それはともかく、2人は俺がシッカリ指導するから。ミルカは転生者たちの指導を任せるよ」
「アベルの直接指導とか不安で仕方がないけど、2人にはちょうど良いかもね」
「「ミルカお姉様。不安とはどういう事です?」」
「アベルの修行は常軌を逸しているから。私も何度死ぬかと思ったことか」
「それはチョット大袈裟過ぎないかな?」
「「「「「「「全然大袈裟じゃないから」」」」」」」
俺としてはそんな事ないと思うんだけども、総がかりで否定されてしまった。
このやり取りもいい加減しつこいとも思うけど、意見が平行線をたどって決着がつかないんだよね。
「でも確かに、ライラとラウラの2人にはアベルが直接指導した方が良いかも」
「はじめが肝心って事?」
「内の非常識さに慣れるには良い方法だと思うけど」
なんだろうね。どうも思いっ切りディスられてる気がするよ。
これも何と言うか何時もの事なんだけどね・・・・・・。
「ともかく、2人の実力をまず見せてもらうから」
「「実力ですか?」」
「うん。実戦で力を見せてもらうよ」
実戦と言っても模擬戦だけどね。
2人ともミルカから修行法を聞いて1年前にはSクラスになっているらしいけど、いったいどれくらい戦えるのかな?
「これで終わりかな?」
「まだまだです・・・・・・」
「まだやれます・・・・・・」
2人ともまだ闘志は残っているようだけども、疲労は色濃くて既にフラフラだ。
魔力と闘気の残りもあと僅かだろう。本当にギリギリに追い詰められた状況で何が出来る?
この状況でどう動けるかで、彼女たち2人の力を見極める事が出来る。
ライラとラウラの2人の実力については、今のところまあまあ。
正直に言えば、戦い方が綺麗すぎる所があるのが欠点。
正直、この世界の戦いに綺麗も汚いもない。勝つ事がすべて。勝利のためにはどんな事でもするのが基本なんだけども。
この2人はどうも正面から正々堂々と敵を撃ち破る戦い方をしている。
まあ、実際に勝てるのならそれでいいんだけどね。
奇襲や騙し討ちみたいな戦法をあまり好まないみたいなのは直した方が良いと思う。
魔物の方も普通にそういった戦略を駆使して来るからね。正面から挑むだけだと足元をすくわれてしまう事だってある。
まあそれについては後で当人たちと話せばいい。
今は2人がどう出るか?
俺の方から攻撃を仕掛けないのは判っているので、ゆっくりと時間をかけて疲労によって乱れてしまった集中を取り戻していく。
鋭く、何処までも鋭く俺に対して全神経を集中させて行く。それがまるで刃の様な、牙の様な闘志と殺気となっていく。
そして、集中力が最高に高まった瞬間に2人は動く。
最後の一手に選んだのは、残りの魔力と闘気の全てを込めた刃。
黄金に輝く刃を手に正面から俺に向かってくる。
最後の選択としては悪くない。
だけども、あくまで正面から向かって来るのであれば残念だけども届かない。その程度の事が判らないハズがないんだけどね。
二重螺旋を描きながらこちらへと真っ直ぐに向かってくる2人は、残り後100メートルと言うところで刃を構える手とは反対の手をこちらへと向ける。
そして放たれる強力な魔法。
成程、そう来るか。
既に魔力が尽きている状況で魔法を使えたのは魔晶石によるものだ。
魔晶石の魔力を取り込むのではなくて、そのまま魔法に変換して放つ。かなり高度な技術が必要だけども有効な手だ。
なによりも、最後の最後で搦め手を使って来るか!!
つまり今までの戦いも全て、最後の勝負に賭けるために正面からの戦いに拘っているように見せかけていたと言う事だ。
成程。良い判断だ。そして、ならばこれで終わらないだろう。
まずは放たれた魔法を無効化する。防御障壁で防いでも良いけど、多分それを狙って放たれた一手だ。
なら、魔法で相殺してどう出るかを見るかな。
ライラとラウラの2人が放った魔法と全く同じ威力の魔法で迎撃して相殺する。
その瞬間、閃光が一面を染め上げる。
成程。この魔法は元々目くらましが目的だった訳か。だけど、そもそもSクラス以上の戦いじゃあ視覚情報の重要性なんてさしてない。
特にレジェンドクラス以上になると完全に予測演算による未来予知を前提に戦う事になる訳だから、目くらましなんてされても俺には、2人がどう動くか全て知る事が出来るんだけどね。
だけどそれじゃあ面白くないな。
あえて予測演算を解いて、2人がどう出るかを確かめる事にする。
それでも、展開している探知魔法で2人の位置がまる判りなのは変わらないんだけどね。
2人は二重螺旋の動きのままにこちらに突き進んで来ると左右から同時に攻撃を仕掛けてくる。
タイミングは合格。攻撃の鋭さも十分。コレでぶつかり合う瞬間に魔晶石の魔力を刃に込めて威力を増幅させれば、或いは防御障壁を破る事も出来るかも知れない。
だけど、それは俺が素直に攻撃を防御障壁で受けたならの話だ。
避けてしまえば必殺の一撃も意味はない。勿論、2人もそのくらいの事は初めから理解しているだろうけどね。
だからこそ、2人も避けられた事に動じないで、むしろ当然のように次の一撃を繰り出してくる。
続け様に放たれる息の合った連撃。
その全てを避けながら、成程と感心する。2人で連携した攻撃を繰り返しながら、段々と俺が避けられない方向へと誘導している。
全てを計算して、最後の一撃へと至る道筋を辿っている。
これは、最後まで付き合うのが筋だね。
2人が紡ぐ最後の一撃が俺に届き得るかどうか、確かめようじゃないか。
更に幾度かの攻撃が繰り出され、それを俺が避けて行く事で、俺と2人の位置関係が完璧な状態に至る。
2人で同時に攻撃を繰り出す事で転移以外の方法では回避不能。
その攻撃を繰り出す。
瞬間。魔晶石から魔力を繰り出して刃の力を爆発的に増幅させる。
さて、ここで受けても良い。だけど2人はまだ俺が転移で避けられる事を理解しているハズだ。
その上で、転移した俺に対して追撃するまでを想定しているのか否か?
それを確かめないといけない。
さあ、どうする?
その切っ先が防御障壁に届く寸前で転移によって避ける。
転移先は敢えて2人のすぐ近く。
実戦を想定してならば転移で攻撃を避けると同時に反撃を繰り出すのが基本。その上で2人は俺がこの一に転移する事を予測していたかも確かめる。
結果は期待以上だ。
ライラとラウラの2人は俺が転移で避けて反撃を仕掛ける位置に現れると想定していた。
その上で、先程の一撃を上回る本当の意味手の最後の一撃。必殺の一撃を繰り出してくる。
2人は攻撃を互いの攻撃を干渉させ、反発と共鳴を繰り返す事で更に爆発的に力を増幅させる。
見事な一撃だ。素直に称賛するに値する。
後は、その本当に2人の全てを賭けた最高の一撃が、俺の防御障壁を貫けるだけの力を発揮し得るかどうか。
だからもう避けない。
ライラとラウラ。2人の頑張りは確かに見事だけども、斬るんだけども実力の差があり過ぎて本来なら回避不能のハズのこの攻撃も、俺にとっては容易く避けられるモノでしかない。
だけど、そんな事は2人もはじめから解っている。
そもそも初めから勝負にすらならない程の実力差がある事を理解した上で挑んでいるのだから。
はじめからそんな事は百も承知の上の模擬戦でありながら、それでもなおせめて一太刀と諦めずに望んできた事こそ賞賛に値する。
「これで終わりだね」
そして、その一太刀は防御障壁を砕くには至らなかったけれども俺に対して十分に迫る事が出来ていた。
「「届かなかった・・・・・・」」
「当然だよ。だけど良く頑張ったよ」
どうやら、この2人は鍛えがいがありそうだね。




