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「少しゆっくりと寛ぎたいね」
正直ここのところ心の休まる暇もなかったので少しくらいゆったりと寛ぎたい。
できれば1週間くらい温泉にでもつかりながら美味しいモノを食べてゆったりと過ごしたいよ。
「それなら天上の湯がお勧め」
「あっそれ良いかも、私たちも少しゆっくりしたいし」
ミルカがカイラスの湯治に有名らしいスポットを上げるとユリィたちもノリノリで賛成する。
うん。やっぱり俺だけじゃなくてみんなもゆっくりと休みたいと思っていたみたいだね。
そんな余裕があるのかとか言われそうだけど、とりあえず魔物の侵攻については落ち着いた訳だし、後は残りの10万年前の遺跡を回りながら戦力の強化に努めるのが基本。
10万年前以上前の遺跡への対応っていう問題もあるけどね・・・・・・。
それに、戦力については俺1人でどうこうなる問題じゃないし、この前の戦いを前にしてレーゼ少年たちがレジェンドクラスに至った事で、他の転生者たちも刺激を受けたみたいで、今は転生者全員がこれまでにない勢いで力を付けているので問題もないと思う。
実際、この勢いなら1年後には100人近くレジェンドクラスに至っているんじゃないかと思う。
そんな事より今は温泉だ。
温泉に入って心と体をリフレッシュさせて、美味しいモノを食べて英気を養う。
うん。なんて魅力的なんだろう。
「その天上の湯と言うのは?」
「カイラスの最高峰アリストルの中腹にある湯治場の事。中腹と言っても標高8000メートルを超える場所で、まるで天空に浮かんでいるかのような景色からそう呼ばれているの」
それはまた楽しみだ。
地球じゃあ標高8000メートルの温泉なんて、仮にあったとしてもとてもじゃないけど楽しめないだろうけど、この世界だと話は別だからね。
と言うか、標高8000メートルってエベレストの頂上くらいの高さだよね?
うん。そんな所で温泉に入るなんで自殺行為以外のなにものでもないよね。地球じゃあ。
「それは楽しみだ。できればすぐにでも行きたいね」
「さすがにそれはムリでしょ」
まあね。というか今すぐに行ったんじゃあ色々とまだやらないといけない事も残っているから、温泉につかったらまたすぐに戻ってこないといけないからね。
ゆっくりと休むためにもやるべき事は全部終わらせてから行くべきだよ。
それと各方面にもしっかりと連絡しておかないとね。特に次に行く予定の国とかさ。そういうのを怠ると本気で面倒な事になるからね。
「それじゃあ、5日でやる事を全部終わらせて、その後1週間くらいそこで湯治とシャレこもうか」
「それなら問題ないと思う。けど多分、家の家族とかも来ると思う」
うん? 両親ではなくて家族と言う事は、王に王妃だけじゃなくて、兄弟とかも来ると言う事かな?
確か、ミルカには次期国王候補の兄と、妹が2人いるって聞いたけど、その3人も来るって事かな?
「ああ、妹ちゃんたちね」
「むしろ、良く我慢しているよね」
「あの2人、ミルカのこと大好きだからね」
何やら思い出したかの様にユリィたちが笑い合って、それにミルカが少し膨れているけど、まあ、聞いただけで理由は判るよ。
うん。ミルカの妹はシスコンなのか。
お姉ちゃん子ってヤツかな。
「アベルも大変だね」
「あの2人がアベルとミルカの事、簡単に認めるとは思えないからね」
「そうかな、逆にあの2人も一緒について来るんじゃないかと思うけど?」
「それってあの2人もアベルの事・・・・・・」
「可能性はあるかも」
何か不穏な事を話し合っている様なのは気の所為かな?
うーむ。ミルカの妹2人か、なにか面倒な事になりそうな気がして来たね・・・・・・。
なんて事を思いながら5日でやるべき事を全部済ませて、天上の湯へ行く当日、予想通りと言うか、目の前にはミルカの家族御一行。この国の王族が揃っている。
「一応聞いておくけど、仕事は大丈夫なの?」
「一通りすべて終わらせてあるから、緊急の案件でもない限りは大丈夫さ」
「私たちもたまにはゆっくりと休みたいですからね」
まあその気持ちは判るし、特に問題がないのならば王と王妃が一緒でも特に問題はないんだけどね。
そのアタリはもう今更なので慣れたともいう。
問題は、初対面の3人。
20歳くらいに見える青年が、次期国王のミルカの兄、ラークス・ウル・カイラスだろう。
2メートル近い長身で、穏やかな印象を受ける好青年だ。兄妹なだけあって身長の差以外はミルカに似ている。
それよりも問題なのはさっきからじっと俺のことを凝視している2人。
ミルカの妹のライラ・ミル・カイラスとラウラ・ウル・カイラスの双子の姉妹。
双子だけあって2人の容姿は見事なくらい同じで、正直見分けがつかないくらいなのだけど、とりあえずいえるのは2人とも、ミルカを大人にしたような容姿をしている。
うん。妹のハズなんだけど、2人はどう見てもミルカの姉にしか見えないね。
その理由はまあ、言うまでもなく身長だね。2人は180センチ近い長身だよ。確か2人はミルカより5歳くらい年下で、つまり俺と同じくらいの年齢だったはずなんだけど、とてもそうは見えないね。
長身なだけじゃなくてスタイルも抜群で、ボン・キュッ・ボンと出る所で出て引くべきところは完璧に引き締まっているし。完璧なモデル体型だね。
「あの人がお姉様が選んだ」
「ジエンドクラスに至った方と言う事ですけど」
その二人が俺を凝視しながら何やら囁き合っているけど、悪いけどそのくらいの音量重じゃ秘密話にはならないよ。
まあ、判っててヒソヒソと話しているんだろうけどね。
「ライラもラウラも久しぶりね。会いに来てくれたら良かったのに、全然姿を見せないんだから寂しかったわよ」
「「ごめんなさいお姉様」」
俺に注目していた2人なんだけども、ミルカが声をかけると即座に反応する。
そしてそのままミルカの元に駆け寄ると小柄なミルカを抱き上げて2人で抱き締める。そして2人してミルカの左右の頬に自分の頬を擦り付ける。
そんな2人に対してミルカはなされるがままで受け入れている。
うん。多分コレが通常運転なんだね。
「「本当はすぐにでも会いに行きたかったんですけど、お兄様に止められてしまって」」
「それ仕方がないだろう。ミルカたちがこの国に来た理由を考えればね」
イヤ、別にカグヤの10万年前の転生たちからの試練。魔物の脅威を食い止める件がなくても来たんだけどね。
この様子だと、確かにあの試練の時に会いに来られたら困ったかも知れないね。
それと、ミルカが何も言わずに受け入れているから俺も突っ込まないけど、2人ともお尻をなでなでするのはどうかと思うよ?
「2人ともそろそろ降ろして、このままじゃ天上の湯に行けないよ」
「「判りましたお姉様」」
2人ともミルカの言う事には素直に従うみたいだけど、離れる前に2人して頬にキスしていたんだけど。
「本当に2人とも相変わらずだね。それに、ミルカも相変わらず2人に甘い」
「しょうがないでしょ、2人に泣かれたら困るし」
「いや、流石にもう2人も泣きはしないんじゃないかな・・・・・・?」
そう言いながらも自信なさげなラークスにミルは溜息を付く。
なんだろう、もう完全に諦めたって感じの雰囲気なんだけど?
「あの2人はミルカの事が大好きでね。コレで出に一緒に寝ようっとして断られたり、一緒に出掛けようって誘って断られたりする度に号泣してね。泣き止むのに1時間以上かかったりするんだよ」
「あの時は大変だった・・・・・・」
「私たちで旅に出る時も色々とね・・・・・・」
何やら思い出したらしいユリィたちが沈痛な面持ちで説明してくる。
うん。どうやらあの2人のシスコンはちょっとシャレにならないレベルみたいだね。
「「お姉様と一緒に温泉なんて楽しみです。御体は私たちがシッカリと洗わせていただきますから」」
「はいはい」
言うだけ無駄と諦めた感じのミルカが印象的って言うか、2人のシスコンには若干だけど百合の気配まである気がするのは気の所為かな?
なにか、この2人が居る時点で、既にゆっくりと寛げない湯治になりそうなんだけど・・・・・・。
勘弁して欲しいな・・・・・・。




