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「これは・・・」


 判ってはいたが、目の前の光景は圧巻の一言で、思わず圧倒されてしまう。

 ドックに収められて数十隻に及ぶ飛空艇。イヤ、空中戦艦と呼ぶべきか。それに、搭載機となる数百に上る装機竜人。SFのロボットアニメの宇宙港を思わせる光景が広がっている。


「スゴイ・・・」


 思わず漏らしたのは誰だろう? 全員かも知れないし、それも当然だろう。

 空中戦艦は一つ二百メートルを超える大きさを誇る。

 それがざっと数えただけで四十二隻。それ程の艦船を収められるこの工場の広さにも圧倒される。

 これほどの数が収納されているのを見ると、この施設は単に生産だけを目的にした造船所ではなく、整備や運用も含めた複合ドックだったのだろう。

 民間の工場ではなく、完全な軍事拠点。だからこそ、余りの過剰戦力過ぎると閉鎖されたのだろう。

 巨大に魔道砲の砲門が整然と並ぶ艦艇は、飛空艇ではなく正しく空中戦艦だ。実際、この戦艦がどれ程の戦力を有しているのか非常に興味がある。

 そして、各艦の横に整然と並べられているのが、搭載機となる装機竜人だ。

 空を駆ける艦艇に搭載されるのだから、陸戦用の装機人では話にならない。飛空戦用の装機竜か、あらゆる戦局に対応可能な装機竜人が搭載されるのは当然して、全てが装機竜人なのは拘りか、 

 それに、この装機竜人は見たところ、人形のままでもかなりの速さで空を駆けられる。

 

 ・・・自分で作り上げた専用機を思うが儘に操りたいと思っていたのに、こうして目の前にあるとやっぱりすぐにでも乗りたいと思ってしまう。

 太古の遺産、現代の物よりもはるかに高性能な兵器と言うのが曲者だ。その性能を自分で確かめてみたいとウズウズしてしまう。


 とりあえず、ここが艦載機までを含む生産・運営拠点だったのなら、間違いなく装機竜人などの生産設備も万全に整っているハズなので、空中戦艦の乗り心地や装機竜人の性能を確かめたら、早速、自分用の専用機制作に取り掛からせてもらおう。


「おっ、あった。アレだアレ」


 辺りを見回すと、遺跡の案内の為に残されただろう端末があったので、早速起動する。


「どうしたんですか? その端末が何か?」

「この遺跡の詳細なデータだよ。並べられている艦の詳細も載っている。これによると・・・」


 どれも圧倒的な性能を誇るが、その中で更に、群を抜いて圧倒的な性能の艦が一隻だけある。チート転生者自身もかつて使っていた宇宙戦艦が一隻だけ混じっている。


「これだな。ヒュペリオン。太陽神。“高みを行く者”か」


 他の艦船に比べてひときわ大きく、純白に黄金の装飾に彩られた船体は、荘厳で圧倒されるほどの美しさを誇っている。太陽神の名を冠する。高みを行く者の名に相応しい艦だ。


「アベルさんこの船は?」

「宇宙戦艦ヒュペリオン。カグヤへと至る事すら可能な遺産だよ」


 アレッサの質問に興奮を抑えきれずに答える。

 こんなにも簡単にカグヤへの道が開かれるなんて夢にも思わなかった。

 既に、全ての疑問に答えを出す為の大手にまで至ったのだ。このままカグヤに乗り込みたい気持ちが抑えきれないが、何とか思いとどまる。


 駄目だ。こんな方法で行ったんじゃあ意味がない。絶対にダメだ。


 逸る気持ちを落ち着かせて、これではダメだと言い聞かせる。

 そうだ。こんな方法で行ったのでは何の意味もない。ただ、かつての転生者が残した遺産に頼り切り、自分で何をするでもなくカグヤに至った所で、そんなモノには何の意味も価値もない。

 自分自身の力と努力で辿り着くからこそ意味があるんだ。おんぶにだっこでは何にもならない。

 せっかく転生して、第二の人生を歩む異世界なのだ。存分に楽しまなければもったいない。


「それじゃあ、この船で早速カグヤに行くの?」

「イヤ、そのつもりは無いよ。今はまだ時期尚早だ。まだ何も、やるべき事を無していないのに行っても仕方がない」


 だから、ケイの疑問に自然に応える事が出来だ。

 俺にはまだ、この世界でいくらでもやるべき事がある。山の様にあるのだ。それを放り出して行ってもしょうがない。


「いずれは行くんだ?」

「それは勿論。太古の超越者たちが残した人類史上最高の遺産。人工惑星カグヤ。いずれは必ず辿り着きたいと願っていたのだから」


 カグヤに行かないなど考えられない。ただ、まだその時じゃないだけだ。


「カグヤか、あの月が人の造った物だなんて信じられないんだけど・・・」


 アリアはついて行けないと困惑しているが、それが正しい反応だろう。

 現状、ネーゼリアでは宇宙開発は行われていない。衛星などの打ち上げなどは行われているが、人が宇宙に行く事はまずない。


 ・・・出来ないからではなく、危険すぎるからだけれども、

 Sクラス以上の魔物は、平気で大気圏を突破して宇宙に出るし、真空の中で平然と生きて行ける。

 宇宙空間は、実はSクラス以上の魔物がうようよいる危険地帯なのだ。

 普通に、地上以外にも魔域があるらしいからだけれども、宇宙には地球よりも遥かに危険が多く渦巻いている。

 下手に宇宙に出ると、Sクラス以上の魔物が次から次に集まってくる非常事態になりかねないので、触らぬ神に祟りなしで、あえて宇宙に上がって刺激するような事はしない様にしているのだ。


 そんな情勢なので、基本的に宇宙の事を言われてもピンと来ないのだ普通の反応になる。

 まして、いきなり月が人の造った物だと言われて、ハイそうですかと信じる方がどうかしている。


「まあ、それが当たり前だよな。でもそれも、実際に行ってみればハッキリするから、その時を楽しみにしていると良い」


 と言うかぶっちゃけ、魔域の活性化中と同等とまではいかなくても、宇宙が地上よりも危険地帯であることに変わりはないので、今のままでは、まだ力不足だ。いずれ行く時には、当然、全員がSクラスにランクアップしている。


「それは楽しみかも知れないけど、私たち何処に行こうとしてるんだろう?」


 この場合の何処は、場所ではなくて自分たちがどうなってしまうのか? なのは判りきっているので、秘境にもあえてスルーさせてもらう。

 不安になるのも全て俺のなのは判りきっているけれども、残念ながら、今後とも自重する気はないので許してくれ。


「諦めるしかないわよアリア。アベルクンに会った時から、私たちの平穏な日常は消えてなくなったんだから。気にしてたらきりがないわよ」

「そうだね。ありがとうメリア。心配してくれてありがとね」


 何かまた酷い事を言われている気がするが、事実なので言い返せない。


「ふふ、まあ、千年ぶりのレジェンドクラス候補のアベルが想像を絶するのは当たり前だし、そのアベルの弟子になった以上、私たちも同じように普通の人から見れば想像を絶する、常軌を逸した存在になるのは確定と言う事だよ」


 だから、酷い事を言われ過ぎな気がする。流石にケイのセリフには反論させてもらいたい。

 メリアたちはともかく、ユリィとケイは元々数年後にはSクラスになるのが確定していたのだし、始めから俺と同じ常軌を逸した規格外の存在予備軍だったハズだ。

 俺と知り合ったからおかしくなったかの様に濡れ衣を着せるのは止めて欲しい。


「随分な言われようだけど、俺の弟子として付いてこれているのだから、元々、キミたち全員に資質があったという事だ。人のせいにするのは止めてもらおう」

「あはっ、怒った? まあ、少し冗談が過ぎたかもね。でも、これはキミがシッカリと向き合ってくれないからだよ。特に、彼女たちなんてヤキモキしているんだから、自業自得だね」

 

 憮然として言い返したら、ユリィに笑われてしまった。しかしなんだ自業自得って?

 全員が激しく同意して頷いているから、確かにそうなのかも知れないけど・・・。


「・・・まあ、とりあえず、調査を続けよう。もう防犯機能も切れているから、みんなも好きに見て回って構わないぞ」


 とりあえず、地雷の気がするのでそうそうに話題を逸らす。

 イヤ、別に卑怯ではない。そもそも、始めから遺跡の調査をしていたのだから、話を元に戻しただけだ。


「・・・そうですね。危険がないのなら私たちももっとシッカリと見て回りたいです。けど、アベルさんはどうするのですか?」


 明らかに話題を逸らしたのは不満のようだけど、現在とは比べ物にならない程に高い技術の結晶である戦艦に、壮麗な装機竜人。整然として無駄のないドックに、工場の備品であるのは間違いないけれども、何に使うのか見当もつかない機材の数々。他にも一体どんなものがあるのか、さっきから気になって仕方がなかったのも確かで、見て回れるのならば見て回りたいのも偽りのない本心だろう。


「俺はこの艦を、ヒュペリオンを調べるよ。これからは俺たちの母艦として使わせてもらうからな。構造をしっかり把握しておかないと」

「えっ? この船使うの?」

「当然だろう。せっかく手に入れたのに、使わないでどうする」

 

 自分たちが使う事になるとは思ってもみなかったとアリアはア驚いたけど、逆に、せっかく見付けたのに使わない手はないだろう。


「それはそうだけど、凄く目立ちそう・・・」


 それは確かにそう思うが、それこそ今更だろう。それに、中途半端に目立つよりも、これ以上ない程に目立った方が逆に厄介事も少なくなる。

 死なば諸共ではないが、目立たずに静かに生きるのは確実に不可能だと思い知らされたのだから、どれだけ目立っても、厄介事を少しでも抑えられるならそちらの方が何倍も良い。

 初めから解っているのだろう、アリアを慰めるアレッサがそれこそ今更よと言っているのはスルーで、


「まあ、俺の弟子になった時点でどうしようもなく目立つのは決まっていたんだから、その辺は諦めてくれ、それじゃ、みんな好きにしていいから」


 余りこの場に留まり続けているのは危険だと判断して、さっさとヒュペリオンの中に入る。

 後ろから突き刺さる視線が痛い気がするが、気のせいに決まっている。


「なんなんだ、いったい・・・?」


 船内に入って誰もいなくなると思わず深い溜息が漏れてしまう。

 本当に、何が何だかまるで分らない。

 メリアたちと俺との関係は、単なる師弟よりは親密だろう。他の師弟関係がどんななのか知らないので、確かな事は言えないけれども、シッカリとした信頼関係と友情を築けているのは確かだ。

 だけど、それ以上の感情についてはハッキリ言って分からない。

 彼女たちが、俺の事を異性として好きでいてくれているなんて己惚れるつもりは無いし、

 俺自身、彼女たちの事をどう思っているのかまだ判らないでいる・・・。


 ・・・大切に思っているのは間違いない。

 だけど、異性として、大切にパートナーとしての女性として好きなのかは判らない。

 そもそも、俺は誰かを心から愛する事が出来るのだろうか?

 彼女たちに対して、自分でも驚くほどの独占欲を感じているのは確かだけど、それがどんに感情から出て来るのかも判らない。

 前世においてロボット工学一筋だった俺は、心理学などかじりもしなかったし、その分野においては生まれ変わっても相変わらず疎いままにのは自覚している。

 だから、自分の事なのに自分の事がまるで分らない。


「まあ、今ウダウダ考えても何も判りはしないか・・・」


 結論の先延ばしよりも、逃げただけの気もするが、判らないモノは判らないのだから仕方ない。

 俺は早々に考えるのを止めてブリッジに行く事にする。


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