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「悪いけど、転生者たちにやる気がないなら出て行くように伝えてくれる」

「それって・・・・・・」

「やる気がないならココから出て行ってもらうって事だよ」


 俺の言葉にレーゼ少年たちは顔を引きつらせる。

 だけど反論はしない。多分だけど、彼らも今のままじゃダメだと思っているからだ。

 だけど、どうしたら良いのか分からない。分からないけれどもどうにかしないといけないと思っていた。

 

 それでも、俺がいきなりこんな強硬策に出るとは思いもしなかったんだろう。

 俺も本当はこんな強引な手に出たくはなかった。

 だけども、いつまでも甘えたままの転生者たちを放置しておくわけにはいかない。

 現状俺たちは、世界最高戦力として活動している状態だ。当然、これからもその活動は最も激しい戦いの最前列になる。

 ハッキリ言ってこれ以上戦う覚悟のない者が居ても、足手まといでしかない。

 それも、世界の命運、正確にはこの世界に生きる人類の命運が係った戦いを前にしてすら、ヤル気を起こさないのならこれから先、彼らが戦場に立つ事はもうないと言って良い。

 戦う気がないのなら、俺たちの元に居る必要はない。

 現実問題として、戦い気もないメンバーなど居ても害にしかならないのたから。

 戦闘に参加しなくてもサポート要員として、ココで役に立つ事も本来なら可能であったのに、彼らは今回の件で彼らはそれすらも自ら放棄したのだ。

 実際、同じ転生者であるからこそ、10万年前の転生者たちが残した遺産を効率よく整備できるなどの特典があるとはいえ、Sクラスにも至っていないのではできる事などほぼ皆無なのだし。


「戦えないならサポート要員としてって事じゃなかったのか?」

「今の彼らに、サポート要員として仕事をする気概が見えるのなら、俺もこんな事は言わないよ」


 ザッシュの問いを一蹴すると、反論はない。戦いたくないのなら戦い以外でできる事を見付ければ良い。 彼らを迎え入れる時に俺はそう伝えたはずだ。 

 それなのに彼らは、実戦の恐怖に心が折れてしまって、既に戦うこと自体を拒んでいるにも拘らず、見せ掛けの修行を続けてまだやれるんだと自分たちを偽っているばかりで、現実を見ようとすらしていない。


「次の戦いには俺は参加できない。キミたちだけで戦いに挑まないといけない。だからこそ、全員ができる事を出来る限り努力しなければいけないのに、それをしないままでいるんだから、これ以上は放置できないよ。と言うか、この状況でまだ真剣になれないんじゃ話にならないよ」

「それはボクもそう思いますけど・・・・・・」

「私たちも含めて、これまで自分たちが本当の意味で、戦いの中心に居た事がなかったから・・・・・・」

「正直、イキナリ俺たちだけで、人類の未来を賭けた戦いに臨めなんて言われても、はいそうですかって納得も出来ないし、覚悟だって決められるもんじゃないよ・・・・・・」


 まさかここでザッシュたちからまで不安や不満が漏れて来るとはね・・・・・・。

 レーゼ少年だけは、自分に本当にやれるのかって不安はあっても、不満はないみたいだけど・・・・・・。


「正直、これまでに魔域の活性化の戦いとかを何度も経験していながら、そんなセリフが出て来ること自体が驚きなんだけどね。これまでの戦いの全てが人類の存亡を賭けた決戦だったって事を理解してなかったの?」

「それは判っているさ。だけど、度の戦いでも俺たちのできる事なんてたかが知れていたから」

「戦場の主役はアベルたちで、私たちはその他大勢の様なモノだったから」

「命懸けの戦いに参加しているのに、その他大勢なんてありえないんだけどね・・・・・・」


 今のやり取りから解ってしまった。ザッシュたちはこれまで本当の意味で戦いに向き合ってきていなかったんだ。

 たとえ死んでも生き返る事が出来る。ゲームの様に安全性が確保されていた事も原因のひとつだろう。

 ザッシュたちはこれまで本当の意味で真剣に戦ってきてすらいなかったかだ・・・・・・。

 むしろ、未だに真剣にこの世界で生きていないとすら言える・・・・・・。

 ハッキリと判ってしまった、多くの転生者たちが、この世界をVRMMOのゲームのように思っているんだ。

 ザッシュたちですら心のどこかでゲームで遊んでいるような感覚でこの世界で生きている。

 最悪としか言いようがないけれども、それでも今、知れたのは幸いだろう。

 もし、知らないままでいたならば取り返しのつかない事になっていただろう。

 

 それにしても、前世に読んだ転生物の小説なんかで、ゲームの世界に転生した転生者が、此処はゲームの世界だと思い込んで、現実だと理解しないまま生きていくなんて良くあるパターンだったけど、まさか自分ん以外の転生者がそうな感じだったとは・・・・・・。


 全員が全員じゃないのは判っているけど、これは早急になんとかしないと・・・・・・。


「ザッシュさんたちも覚悟が足りませんよ。この世界はゲームじゃないんですから、シッカリと現実を見据えないと取り返しのつかない事になりますよ」

「覚悟が足らないか、確かにそうかも・・・・・・」

「でもゲームじゃないって、流石にそれくらいは判っているわよ」


 レーゼ少年の忠告に苦笑気味のザッシュたちの様子に、思わず俺とレーゼ少年の溜息が重なる。


「アベルさん。もう少し時間を下さい。みんなでもう一度よく話し合ってみます。それでもダメならば、此処を去ってもらうしかないと思います」

「キミがみんなの反発を一斉に浴びる事になると思うけど、それでも良いのかい?」

「はい。これ以上アベルさんに頼る訳には居ませんから。これが、まずボクにできる事です」


 レーゼ少年をシッカリと俺の目を見据えてそう宣言する。 


「ボクもアベルさんと同じように自分のしたい様にする事にします。例え、他の人からどう思われても」

「そうか、やっぱりキミは強いな」

「いいえ、これから強くなるんですよ」


 そう微笑むと、レーゼ少年はザッシュたちを連れて転生者たちのところへ向かって行った。

 どうしようかと思ったけれども、レーゼ少年に任せれば大丈夫だろう。

 多分、結果として離れて行く転生者が出る事は避けられないだろう。

 問題はどれだけの転生者が自分たちの置かれている状況を本当の意味で自覚してくれるか・・・・・・。


「レーゼ少年はどうするかな? どうやら本当に俺にできる事は何もないみたいだけど」


 こうなった原因は俺にもある。俺が持った他の転生者たちを頼って力を借りようとしていればこうはならなかったかも知れない。

 自分1人で何もかもやってしまおうとするのは悪い癖だ。


「後は信じるだけか」


 或いは、だからこそカグヤの10万年前の転生者たちは今回の試練を課したのかも知れない。

 俺には何ひとつできる事はなく、ただ仲間を、仲間の転生者たちを信じるしかないこの試練を。

 勿論、レーゼ少年たちにカツを入れる意味もあったのだろうけれども、同時にこの試練で俺も試されているんだろう。


 カグヤの10万年前の転生者たちがどこまで本気で俺たちを試しているのかは判らないけれども・・・・・・。


 地上の遺跡で対面した10万年前の転生者のホログラムからは狂気を感じる事はなかった。

 だけども、カグヤの10万年前の転生者たちからは明確な狂気を感じた。

 世界を解放する為に必要に必要ならば、本当に人類を滅ぼす事すらも厭わない狂気。

 目的以外の全てが目に入らなくなってしまった盲目さが彼らにはあった。


それは、ある意味で実戦の恐怖から目を逸らしてしまっている転生者たちと同じ、現実からの逃避ではないだろうか? 


 彼らに何があったのか、この世界の真実を俺はまだ知らない。だからこそ、無責任に言えるだけの事かも知れないけれども、彼らの狂気も単に逃避でしかない気がする。

 彼らは、この世界の現実から目を背けるために狂気に逃れてしまった、そう思えてしまう。

 それは、過去の狂気に飲まれた転生者たちも同じだと思う。


 多分、彼らは真実も現実も知らないからこそ言える戯言だと言うだろうけど、それでも、狂ってしまった彼らは、戦いの恐怖から逃げようとしているみんなと変わらないのではないかと思う。


 だからこそ、レーゼ少年たちには負けて欲しくない。

 どうか、キミたちは現実から逃げ出さないで立ち向かって欲しい。

 真実から、世界から目を逸らさないで前を見据えて生きていく事を選んでほしい。

 偉そうな事を言っても、俺自身がそれを出来ているか判らないけど・・・・・・。

 だからこそ、一緒にそう生きれるように歩んで行けたらと思う。

 一方的に切り捨てようとした俺が言える事じゃないかも知れないけれども、どうか、キミたちが俺と一緒にこの世界で正しく生きれる事を願う。



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