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『アベル。キミ以外の転生者たちには試練を受けてもらう。それを無事に乗り越えられたのなら、ムリに魔物の侵攻の脅威を増して、滅亡と隣り合わせの窮地の中無理矢理力を付けさせる必要もないだろう』
「それは・・・・・・」
『否とは言わせないよ。今の状況はキミたち自身が招いた事でもあるんだからね』
それは確かに・・・・・・。
それにしても転生者への試練か、いったい何をさせるつもりだ?
『今から1カ月後。妖法の国カイラスで魔物の侵攻を起こす。それをキミたち転生者だけで食い止めてもらう。それがキミたちに課す試練だ』
『魔物の規模はSクラスが100万にレジェンドクラスが6000。ジエンドクラスは出さない。その魔物の全てをキミたちだけで殲滅しきってもらう』
『ボクたちが残した遺産もある。キミたちだけでも戦い切れる数のハズだ。この前の活性化の戦いを切り抜けられたキミたちなら、大丈夫だろう』
確かに、転生者だけで倒しきれない数じゃない。
もっとも、ヤマタノオロチ・スサノオの様なジエンドクラスに近い魔物が現れたならその限りでもないけど、流石にそんな凶悪な魔物は出しても最後最後に1匹程度だろう。
これで終わりだと思ったら最後に最大の難敵が現れる。うん。やりそうだね。
『この試練の結果に、人類の命運が掛かっていると言っても過言じゃない』
『キミたちの背中に、この世界の全人類の存亡がかかっているんだよ』
『その事を自覚した上で、試練までの1ヶ月を過ごす事だね』
「判りました。ボクたちにどこまで出来るか判りませんけど、全力でその試練を超えてみせます」
試練を課す意図を理解したのだろう。レーゼ少年は力強く宣言する。
それは良いのだけども、問題はほかの転生者のうちどれだけの人数が試練の意図、意味を理解しているか。
理解しないままでは試練を受ける意味もないのだけども、俺が口を出すべきかどうか・・・・・・。
今回の試練の意図は、彼ら自身が自分で気付くべきだ。むしろ、気付かないといけない。
人に言われてようやく判るようじゃダメなんだ。
まあ、その辺りはレーゼ少年たちに任せるか。
どうやらザッシュたちも意図に気が付いているみたいだし、彼らに任せれば大丈夫だろう。
むしろ、今回の事については俺は口を出すべきじゃないと思う。
どうも俺の存在が、他の転生者たちの成長の妨げになっている一面もある気がするんだよね。
別に俺の責任じゃないと思うけどね。
『なら、1カ月後のキミたちの勇姿を期待しているよ。それまで、魔物の侵攻はある程度抑えておくから』
「コレでとりあえずは此処に来た目的の1つは果たせたわね」
そう。これで目的の1つは達成した。正確には、1カ月後の試練次第にはなるけれども、場合によっては人類を滅ぼしてしまおうと言う10万年前の転生者たちの凶行を一先ず止める事は出来た。
後はこの世界の真実だ。
真の戦いとは一体何なのか?
その答えを聞く時が来た。
「それなら、もうひとつの目的を果たしたい。貴方たちが地上から隠蔽したこの世界の真実を話してもらいたい」
『確かにキミとしては聞きたいだろうけど、残念ながらキミたちが知るにはまだ早いよ』
全ての真実をと思ったのにまたストップがかけられる。
何故にそうなる?
レムシータに連れられてとは言えカグヤに至ったんだから全てを教えて欲しいモノだけど。
『確かにキミ個人は、全ての真実を知る資格が既にある。だけどそれはキミだけだ。他の転生者たちにはまだその資格がない』
『キミ1人になら真実を告げても良いのだけどね』
『だけどそれは止めた方が良いと思う。それはまたキミ1人だけに重責を背負わせる事になるからね』
『この世界の住人として、真実を知りたいと思う者たちも来ているけど、キミたちにもまだ話す事は出来ない。まだその時ではないんだ』
「確かにね。まだ貴方たちは真実に至るべきじゃない。知れば引き返せなくなってしまうから」
「俺も同感だな」
レムシータもアスカ氏も俺たちが真実を知るにはまだはやいと同意する。
それにしてもまだ時ではないってどういう事だ?
転生者ではないこの世界の住人が知るにはまだ早いと?
いったいどういう事なんだか・・・・・・。
『1カ月後の試練を無事に乗り越えられたなら、キミたちが真実に至るのもそう遠くは無いハズだ。その時が来るのを楽しみにしているよ』
そう言い残すと、10万年前の転生者たちのホログラムは姿を消す。
なにか、一方的に好きな事を言われただけって気がする・・・・・・。
「消えたか、どうやらこれ以上ココに留まっても無意味そうだな」
「そうですか?」
「そりゃあそうだろう。このカグヤは10万年前の転生者たちそのものでもあるんだ。だとしたらいくら調べても情報は一切出てこないさ」
確かに、ココでいくら調べても何の情報も得られないだろうな。
一番知りたかったことが結局判らないままだけども、とりあえず目的は果たせたんだから良しとするかね。
まあ、実際にどうなるかはレーゼ少年たち次第だけど・・・・・・。
なんか一部の転生者の中にもの凄い気まずい空気が流れているんだけど大丈夫かね?
まあ、何時までもここに居ても仕方がなさそうだし、まずは地上に戻るとしますかね、
「平和だな」
カグヤから戻って1週間。
魔物の侵攻も沈静化し、言葉通り平和な日々が続いている。
まあ、平和なのは俺だけだけど。
レーゼ少年たちは試練に向けて、それこそ死ぬ気で修行を重ねている。
コーチはレイたち、レーゼ少年たちが彼女たちに修行を付けて欲しいと願い出た。
俺やアスカ氏、レムシータなどの転生者ではなく、彼女たちに鍛えてもらう方が良いと判断したみたいだ。
その理由は何となくわかる。判るけど大丈夫なのかね?
毎日のようにミミールが死屍累々の地獄絵図を造り出しているんだけども、1月間、このまま彼女のペースについて行けるのかな?
なんて思っていたら。
「これまでのお前た自分にカツを入れるためにも、このくらいが丁度いいんです」
とレーゼ少年に断言されたよ。
ただ、問題なのはこの修行に参加している転生者が、全体の3分の1程度に過ぎない事、
残りのメンバーも修行事態は続けているんだけども、その内容はカグヤに行く前と比べて緩くなっている者まで居る。
どうやら、彼らはまだ試練の真意を理解していないみたいだ。
或いは、理解しているからこそなのかも知れないけど、それならばどうして此処に留まっているんだと聞きたくなる。
彼らも今回の、彼らに課せられた試練の重要さは理解しているハズだ。
それに、10万年前の転生者たちの真意も・・・・・・。
彼らは、自分たちの手で全てを終わらせるつもりなんだ。
その為の準備は既に終わっているんだろう。
そして、目的のために必要と判断すればどんな事でも躊躇わない。
彼らは、真の戦い直前に人類を絶滅させる事が、目的を達成する為に必要だと考えている。それが最も効果的だと考えている。
だとすれば、彼らは場合によっては自分たちの手で人類を滅ぼす事すら躊躇わないだろう。
全ての人類と共に俺たち、この時代の転生者を殺す事すら平然とやるだろう。
そう、彼らは実ははじめから俺たちの事を必要としていない。俺たちに真の戦いを任せるつもりなんて始めから無い。
全てを自分たちで終わらせるつもりだ。
それが嫌ならば、俺たちは彼らを超える力を持つしかない・・・・・・。
そう。彼らは自分たちを止めたければ、俺たちよりも強くなる事だなと言っているんだ。
その事を、彼らは理解しているのだろうか?
理解しているのなら、どうしてそんな風にしていられる?
やる気がないのなら、戦いたくないのなら此処から出て行けばいい。
「方や死屍累々。方や気の抜けた修行とも言えない自己満足。何時までもこのままにしては置けないかな」
転生者たちの修行の様子を見て、口を出すつもりはなかったけどそうもいかないかなと思う。
やる気がないのなら早々にこのパーティーから出て行ってもらおう。
「転生者だからって特別扱いしていられる状況じゃなくなったからな」
ここを出て行ってもどこにも居場所がない?
知った事じゃない。それならどうして此処に自分の居場所をつくろうと努力しない。
転生者だからと言って何時までも甘えていて貰っても困るんだよ。
彼らから恨まれようが関係ない。今のまま甘えられても迷惑だからね。
或いは、もっと早くこの決断をするべきだったかな・・・・・・。




