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魔物の侵攻の脅威。カグヤによって引き起こされている異常事態を止めるためには、早急にカグヤに行くしかない。
行かなければ死ぬしかないのだと言う現実を突き付ける事で、結局は転生者全員を連れて行く事が出来た。
なんと言うか、本当に転生者は現実が見えていないのが多いと実感した。
それはともかく。
「コレが宇宙」
漆黒の空間に散りばめられた星々の輝き。眼下には蒼いネーゼリアが見える。
当然だけども前世で宇宙に行った事なんてないので、初めての宇宙から見る光景に感動する。
ただし、この世界の宇宙は魔域を超える危険地帯だ。
が、現状脅威は一切ない。何故ならばレムシータがベルハウゼルを動かしているからだ。
うん。予想はしていたけど俺が動かしている時とは比較にならない程の圧倒的な力を発揮しているよ。
間違いなく、アグニの活性化をこれ1つで戦い抜けたと断言できるくらいの圧倒的な性能だね。コレが本来の姿なのかと心の底から恐怖を覚えるよ。
Ωランクの魔物が数百単位で襲って来ても瞬殺。しかも傷一つ付けずにだよ。
アイン・ソフ・オウルとかのアストラル魔法で倒したみたいに素材は丸々全部確保できている。
先頭時間よりも素材の回収に時間がかかっているとか本当に何なんだろう・・・・・・。
まあ、カグヤを造り出すのに必要な素材を集めるにはこれくらいの戦力が必要不可欠だったんだろうと無理矢理納得する事にする。
だけど、納得しようとして別の疑問も浮かんでくる。
そもそも、10万年周期の真の戦いにおいて、封印システムを造り出す為にはΩランクを超える力が必要不可欠なんじゃないかと。
それなら、10万年周期の真の戦いには必ずΩランクを超える者が現れると言う事だろうか?
それならどうして、その事が記録に残っていない?
伝承にすら全く残されていない理由はなんだ?
それに・・・・・・。
「本当に宇宙にはジエンドクラスの魔物が溢れているですね」
「そうだね。そして、こうして自分の目で確認すると、その異常さがハッキリと判るよ」
或いは数万を超えるジエンドクラスの魔物が宇宙には居るにも拘らず。ネーゼリアが今まで無事であったこと自体がおかしい。
宇宙の魔物は、人がネーゼリアから宇宙に上がれば過剰に反応するが、滅ぼすべき対象であるハズのネーゼリアそのものには何の反応も示さない。
ずっとその事に違和感を感じていたけれども、実際の目の当たりにして確信した。これではまるで、宇宙に居る魔物はカグヤの防衛機能みたいじゃないか・・・・・・。
まるで実力のないものが無闇にカグヤに辿り着く事を妨げるために、カグヤに至る実力を示す為の試練として用意されているようだ。
「実力を示せばもう襲ってこないのか・・・・・・」
「ああ、俺も6万年前に来た時に疑問に思ったが、真実を知ると納得だな。あの魔物たちはカグヤの制御かにある訳だ」
アスカ氏の言葉には苦いモノがある。
この世界にティム・モンスターは居ない。その前提が根本から崩れ落ちた訳だ。
イヤ、魔物が世界を滅ぼす脅威であり、決して相いれない敵対者だと言う前提そのものが瓦解したと言っても良い。
「これまでの常識が全部、音を立てて崩れ落ちてしまって、いったい何が何だかわからないよ」
「今、全てを知っているのはレムシータだけだろう。イヤ、レムシータですら10万年前の転生者たちの真意までは判らないか」
「それが一番の問題だよね」
本当に、10万年前の転生者たちが何を考えているのか、何をしようとしているのか、それによってこれからの行動も大きく変わって来ると思う。
俺は今まで、10万年前の転生者たちの意思を継いで、この世界を解放する為に戦う事になるだろうと思ってきた。
だけど、今はその気持ちが揺らいでいる。
全てはカグヤで10万年前の転生者たちの真意を確かめてから。それは判っているのだけども、既に俺の中に10万年前の転生者たちへの不振。イヤ、そもそも、10万年周期の真の戦いそのものへの不信が芽生えている。
レムシータがあくまでも真の戦いを終わらせて、世界を解放しようとしているその意思がなければ、俺は既に疑心暗鬼に囚われていたと思う。
「随分と不安そうだね」
「むしろ、この状況で何を信じろと言うのか疑問ですよ」
魔物の侵攻が封印システムで管理されているのらば、そもそも魔物の脅威は人の手による自作自演とすら言える。
これまで命懸けで戦って来た意味が、根本から崩れ落ちた気がする。
「10万年周期の真の戦いが繰り返される世界では、次の、10万年後の戦いのために備えていなければならない。脅威のない平和を享受する事で、戦う力と術を失う訳にはいかない。確かに世界を存続させるためには必要なんだけどな」
「正確には、人類が存続する為にはですね・・・・・・」
恐らく、魔物の脅威を封印システムで制御するようになったのは、魔物の侵攻を完全に止めて、平和を享受した人類が、10万年後の真の戦いで成す術もなく滅びたからだろう。
それも幾度となく・・・・・・。
「この世界の人類が、幾度となく滅んだのは知っていたが、まさかそれが平和な世界のためだったとはな」
「平和な世界を享受した人類は、10万年後には必ず滅びる。だからこそ、人類が生き延びるためには魔物の脅威に晒され続ける事で、常に鍛え続ける必要がある。理屈としては理解できるんですけどね」
理解は出来ても納得はしきれない。それは多分、俺がまだ、10万年周期の真の戦いについて何も知らないからだけじゃないだろう。
現に、アスカ氏も戸惑っている。
「そんなに悩まなくても、答えはすぐに出るよ」
「確かに、カグヤに着けば判る事をアレコレと考えていても仕方がないのは判っているんだけどね・・・・・・」
考えずにはいられないんだよ。
俺は今までいったい何の為に戦って来たのか?
本当に、この世界は転生者に何を指せようとしているのかって・・・・・・。
なんてモヤモヤしている内にカグヤに辿り着いた。
正確にはカグヤの軌道上にだけどね。
前世、地球の衛星である月は地球の4分の1の大きさがあった。
地久の100倍の大きさのネーゼリアの衛星、正確には人工衛星であるカグヤは、流石にネーゼリアの4分の1なんて途方もない大きさはない。
それでも、地球よりもはるかに大きな星である事は確か。
本当に、とんでもない大きさの人工天体だよ。
そして、地上から見るカグヤの姿は自然な星にしか見えない。地球から見上げる月の姿によく似ていたけれども、実際には全く違う姿をしているのが、近付いてみて初めて判る。
その表面は一面銀色に輝く装甲に覆われている。
巨大な宇宙港があり、要塞主砲などの訪問が各所に配置されている事も確認できる。
その姿は、紛れ寝なく惑星型の宇宙要塞。それも戦闘要塞のモノだ。
ネーゼリアから見えた姿は偽装されたものだった訳だ。
ホログラムでも展開しているのかな?
それにしても、俺たちでも全く見破れない完全な偽装か。
「接続したわ。早速行きましょう」
なんて考えている内にカグヤとの接続が終わる。
流石と言うか、当然と言うかカグヤにはベルハウゼル級の要塞を収容するドックも無数にある。
だけど、カグヤって戦う為に造られたんじゃなくて、封印のために造られたモノだよね?
何故にそんな過剰戦力を搭載した戦闘要塞みたいなのかな?
疑問を感じながらもレムシータの後を追ってカグヤに降り立つ。
「コレがカグヤ・・・・・・」
この世界での目的にしていたカグヤへと辿り着いたのに、全然感慨深くもない。
なんとも言えない気分だよ。
「とりあえず中央指令室に行こう。俺はそこで情報を得た」
カグヤの事を知るアスカ氏がまずは中央指令室に向かおうと扇動する。
中央指令室。このカグヤの中枢。そこにいったいどんな真実が待っているんだろう?




