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「えーと、つまり彼女は?」
「300万年前の転生者で、同時に彼女が造り出した遺跡。遺産そのものでもあるね」
そう言われて当然だけど困惑するみんな。
うん。仕方がないよね。理解しろって言う方がムリだよ。
あの後、いきなりついて行くと言うので困惑する俺たちを余所に、レムシータはとんでもない行動に移った。
何をどうしたのかを知らないけど、直径100キロはあったセラヒィムは姿を消し。後にはホログラムではなく実態を持ったレムシータだけが残っていたんだよ。
何を言っているのか判らないって?
うん。俺も自分で自分が何を言っているのか判らないよ・・・・・・。
とりあえず、直径100キロに及ぶ巨大な鏡であったセラヒィムそのものが今のレムシータの体そのものと言って良いのだろう。
「300万年前のアグニの女王ですか」
「転生者はアベルさんの様に、王族や貴族となる事をイヤがる方が多いと思ったのですが、以外と王になられる方も多いのでしょうか?」
「これまでに何千億人、何兆人この世界に転生者が生まれたのか判らないけど、数を考えればそれなりの数が王となっていてもおかしくはないでしょ」
「確かに、周りが放っておかないでしょうし」
アレッサ、それは俺もお馴染み体に見ているけど、俺は間違っても王になんかなるつもりはないからね。
そんな面倒な事は絶対にゴメンだから。
王になるくらいなら逃げだすから。それか引き籠る。
「私も別に王になる気なんてなかったんだけどね。気が付いたら成らざるおえなくなっていて・・・・・・。だから気を付けた方が良いよ。その気がなくてもな割にさせられる可能性もあるから」
「気を付けます」
レムシータはアシャに言っているハズなんだけども、俺への教訓に聞こえるのは気の所為かな?
「それより。レムシータさんとやらは何所までやるつもりなのかな?」
「ああ、キミが6万年をコールドスリープしたっていう転生者ね。そうね。今のところはキミと同じかしら。私自身が積極的に動くつもりはないわ。それに、私の造り出したセラヒィムは真の戦いの中でその力を発揮する事はないのだし」
「それはどういう事なんだ?」
「簡単な事よ。セラヒィムは真の戦いの終わった後。本当にこの世界を解放する為に必要となる」
それはつまり。大前提としてセラヒィムは兵器ではないと言う事?
戦いのために用意されたモノではないと?
「全てが終わった後、私は何故この世界を解放できなかったのか考えたわ。そしてその答えとして解放できる因子が整っていない事に気付いた。この世界は新たに生まれ変われるだけの準備が整っていなかったのよ」
「それは確かに、魔物との戦いから解放されればそれだけで良いなんて訳にはいかないよな」
「だからこそ、私はこの世界を解放する為に必要な物を用意した。それこそがセラヒィムよ」
「世界の解放に必要な因子・・・・・・」
それはある意味で当然の事だった。
世界の解放には、変革には相応の対価、或いは必要な因子がある。
それらを用意しないまま無理矢理世界を解放し、変革してしまった先になるのは何か?
それは単なる崩壊でしかないだろう。世界を滅ぼす為の解放にしかなりえない。
「考えてみれば当然の話よね。だからこそ、同じ様に世界の解放に必要な因子を残そうとした転生者は私以外にもいるハズよ」
「変えるためだけに必要ではなく、変えた後に必要ですか」
「或いは、その方面から考えて行けばキミたちの知りたい事も判るかもね」
成程ね。確かにそれで世界の真実に至れる可能性もあるかも知れない。
「それにしても、まさかこんな形でこのパーティー最強から陥落するとは思いもしなかったな」
「アレ? アスカって今のアベルよりまだ強いの?」
「ギリギリな。まさかこんなに早く追いつかれるとは思わなかった」
アスカ氏とレイが加入と共に最強の座に君臨するレムシータにそんな感想を漏らす。
と言うか俺ってアスカ氏と同じくらいの強さになっていたの?
全くもってしてそんな実感はないんだけどね。
「アスカって言ったっけ? キミはジエンドクラスを越えられていないみたいだね」
「その発言は、やっぱりΩランクを超えているのか・・・・・・」
「真の戦いに臨むだけならともかく、世界の解放を望むのなら必要不可欠だからね」
それと、判っていたけどレムシータの力はやっぱりΩランクを超えていた。
確実に俺たちジエンドクラスの6人がかりで挑んでもカケラも勝算がないくらい、実力がかけ離れている事は判っていたけどね。
「ジエンドクラスのさらに先か、鳳凰様たちの頂だよね。本当に人の身で至れるんだ」
「流石に私たちがそこまで至れるとは思わぬがな」
ミミール達は自分たちを遥かに超える頂に居るレムシータに興味津々の様子。
と言うか、何で貴方たちはまだここに居るのかな?
活性化の戦いも終わって、それを祝う祝勝会も終わったんだから、そろそろ帰っても良いハズなんだけどね。
まあ、ミミールなんかは俺の遺跡調査に興味津々なのは判ているんだけどね。
何か面白い物でもないかと期待しているんだと思う。
と言うか、どうも最近は地球産のゲームにハマっている模様。テレビゲームとかはこの世界にも色々とあるんだけども、地球の、日本のゲームはストーリーやシステムとかが変わっていてそれが面白いらしい。
日本だとテンプレな展開でも、こっちだとどうしてそうなるんだってあり得ない様な展開だったりするからね。その違いが楽しいらしいよ。
まあ、そんな地球のゲームに向いていたミミールの今日もが完全にレムシータに移ってロックオンされているけどね。
「と言うか、戦力不足についての問題が一気に解消されたね」
「それ程なのですか?」
「うん? 何の話かな?」
「先日、このアグニで活性化の戦いが起きたのだけど、世界中の戦力を集結させて辛うじて切り抜けられたってレベルの、本当にギリギリの戦いだったからね。このままじゃあ次の活性化の戦いは危ないから、早急に戦力の増強が必要だって話だたんだけど、貴方が現れたので問題なくなったと言う事」
もしも、次の活性化の戦いが倍以上の規模で起きたとしても、レムシータが居る時点で余裕だろう。そう確信できるくらいの圧倒的な力を感じる。
「そこまであてにされても困るんだけど?」
「とは言え、現状転生者のジエンドクラスが俺とアベルしかいないし」
「アレ? レイたちは転生者じゃないの?」
「違うよ」
どうやら一緒に居るんだしレイたちも転生者だと勘違いしたみたいだ。
「アレ? それじゃあアシャは?」
「ボクも転生者じゃないですよ」
「そうなの? 遺跡に一緒に来てたし、私と同じ転生者の王族だと思った」
「今のところ、ザッシュ以外に王族の転生者は居ませんよ」
騎士系の貴族家にはいくらでも居るんだけどね。何故か王族に転生者が居ない。
「ザッシュて?」
「俺です」
手を挙げたザッシュをジロジロと見たレムシータは溜息を付く。
「何でまだSクラスなのよ。アベルより年上でしょう?」
「あの、俺は真の戦いの事とか知らなくて、出来れば命懸けの戦いとかから離れて好き勝手に生きたいと思ってたもので」
「つまり、本格的に強くなるために鍛え始めたのがつい最近と?」
「はい」
ザッシュの言い分に呆れた様子のレムシータだけど、ある意味で仕方がないと思うよ
「信じられない。なんでそうなるの?」
「なんでって言われれば、10万年前の転生者たちが情報を秘匿し過ぎたから? ヒューマンの国じゃあ10万年周期の戦いがある事すら忘れられていたし」
アレは本気でシャレにならない状況だったよね。下手をしたらヒューマンは真の戦いが始まった事すら知らないまま全滅って事にもなりかねなかった訳だし。
それに、ヒューマン以外の種族には10万年周期の戦いの事は伝わっては居たけど、実際の危機感はかなり低かった。
と言うより、まだ前哨戦以前の段階でジエンドクラスの魔物が万単位で現れるなんて想定もしていなかった。
実際、10万年前の転生者たちの遺産がなかったら、ゲヘナの時も今回も勝つ事は不可能だった。
まあ、それも仕方がないって言えば仕方がないんだけどね。
カグヤの封印が正常に機能している内は、ジエンドクラスの力なんて完全に必要ないんだし。
実際、俺が旅に出た数年前は、レジェンドクラスが4人いるだけで世界を守るには十分な戦力だった。それがいきなりジエンドクラスが10人以上いないと無理な状況になるなんてどうかしている。
「それに、魔物の侵攻の脅威が増すのが速すぎるんだよね。数年前はレジェンドクラス4人で世界の守りは万全だったのに」
「今じゃあレジェンドクラスじゃ力不足ですからね」
「なにそれ? そんな事になっているの?」
レムシータの目が点になっている。300万年前に10万年周期の真の戦いを経験した彼女から見ても、やっぱり今の状況は異常なんだろう。
レジェンドクラスの魔物が出始めて来たと思ったら、次はジエンドクラスの魔物だし。しかも数匹くらいだったのがあっと言う間に万の単位とか、何とか倒しきれたのが奇跡でしかないよ。
ホントに、何がどうなっているんだろう?




