371
風邪で更新が遅れました。
「アベルさんは考え過ぎですね」
「私たちの生き方は私たち自身が決めるモノ。アベルが背負うべきモノじゃない」
どうしようかと悩んでいたら、アレッサとエイルに呆れられた。
それこそ本当に、何を見当違いな事を悩んでいるんだと心の底から呆れられたよ。
何故に? 俺としては真剣に悩むしかない案件なんだけど。
「確かにアベルは私を目覚めさせた。そして、アベルたちの在り方が、私を兵器として扱わないアベルたちの想いが私を人に生まれ変わらせてくれた。だけど、その変化は私自身のモノであって、アベルがその責任を負う必要はない」
「確かに、ヴァルキュリアシリーズとベルセルクシリーズを起こすのは、これから先の戦いのための戦力としての意味が大きくなるでしょう。でも、それはそれであって、私たちが彼女たちを兵器として扱わなければそれだけで良いハズです」
それは確かにそうかも知れないけど・・・・・・。
「アベルさん。ミミール様たちは何もかも1人で抱え込んでしまうアナタを窘めたのだと思いますよ」
「そうかも知れないね・・・・・・」
エイルの姉妹を人として扱う事なんて、もうはじめから決定事項だったのだから、その結果として彼女たちが何を思い、どのように変わっていったとしても、それは彼女たち自身の問題だ。
はじめから俺が口出しするような事なんてなかったんだ・・・・・・。
「やれやれ、空回りしていただけとは情けないな」
「ユリィさんたちもそこを心配したんだと思いますよ」
返す言葉もないね。
「アベルさんの心配も判らなくはないんですけどね。状況が状況ですから、目覚めたエイルさんの姉妹が、周りから兵器として見られる可能性もありますし」
「だけど、周りが私たちをどう見るかなんて関係ない。私たちをアベルたちがどう接してくれるか」
成程ね。確かに俺たちがどうするか次第なんだよね。でも、それを言うなら少し不安要素があるんだよ。
「それなら、折を見て何人かずつ目覚めさせてみるのも良いかもね。ところで、転生者のみんなの様子は?」
俺が尋ねると2人とも何とも言えない顔になる。
そう。現状で明らかになった不安要素は転生者のことなんだよ。
「あまり良くはありません。活性化の戦いで戦死した80人の転生者の内、20人は持ち直しましたが、残りの60人はいまだに心に深い傷を負ったままです。このままでは実戦に戻ることはできないかと」
「それはさすがにね。この調子で転生者がドロップアウトしていったら、戦える転生者がいなくなってしまうよ」
別にそれ自体はまだ深刻な問題じゃないんだけどね。
転生者の中から戦いの厳しさに着いて来れなくなるのが出て来る事は想定していた。
問題はそんな彼らの鬱積した思いがどこに向かうか。自分たちは何故無理矢理転生させられて、戦いを強制させられなければならないのか?
そんな思いが強い怒りとなって、さらに戦いの恐怖から逃げ出した自分を正当化する為の理由を求めて行きつく先が、エイルたちの存在になる可能性がある。
ヴァルキュリアシリーズやベルセルクシリーズ彼女たちはこの世界を護るための存在として造り出されたのだから、造り出された存在意義に従って彼女たちが戦えば良い。
戦え。戦え。戦え・・・・・・と。
戦いから逃げ出した自分たちの事を余所に、彼女たちに戦を強いる事で自分たちの心を落ち着かせようとする。
そもそも彼女たちはこの世界を護るために造られた存在なのだから、10万年前から残されたモノを全て目覚めさせて、更に足らなければ生産すれば良い。
そう。この世界を護るための戦力は初めから用意されているのだから、そもそも自分たちがムリに戦う必要はない。
そう自分たちを正当化する為に、彼女たちをあえて兵器として扱い現実から逃避する。
まだそうなると決まった訳樹ない。だけども、これから先、転生者の中から戦えない者が増えて行けばそうなる可能性はどんどん高くなっていく。
その意味で、エイルの姉妹。彼女たちにとっての最大の問題は転生者だと言っても良い。
そして、実際のところ彼女たちが生み出された理由がそれである可能性もまたある・・・・・・。
かつての戦いの中で心が折れてしまった転生者たちが、戦えない自分たちを正当化する為に彼女たちを生み出した。
その可能性も、決してない訳じゃあない。
現状での活性化の戦いの過酷さを見れば、10万年前の戦いはどれだけ過酷だったのか・・・・・・。
地獄などと言う言葉では生温い。と言うより、死んでもなお生き返って戦う事を強制される現状の戦いの時点で既に地獄に等しいだろう。
活性化の戦いには人を人としている事を許さない。
今回の戦いで強く感じた事だけども、それはこれから先更に如実になって行くハズ。
だから、正直俺自身、戦いに飲み込まれて彼女たちを兵器として扱ってしまうんじゃないかとも思っている。
実際、今回の戦いでは俺自身がただ魔物を殲滅する為だけの兵器となっていた。
そうならなければ生き残れないし、大切な者を護れもしなかった。
だけども、自分が単に殺戮のためだけの兵器として存在していた事を自覚するのは、余り感じの良い事ではない。
正直、自分の中に楔として撃ち込まれた何かを感じている。
それが、この世界の戦いへの忌避なのか、それとも俺自身が戦いを恐れ始めているのかは判らない。
判らないけれども、今回の戦いで心に深い傷を負って、もう戦えなくなったであろう転生者たちと同じように、俺にも何かしらの変化があった事は確か。
イヤ、それは俺だけじゃないだろう。あの戦いを経て何も変われずにいられるハズがないのだから・・・・・・。
結局、戦えなくなってしまったかどうかに係わらず。今回の活性化の戦いに参加した者は、1人残らず自分の内に何らかの変化を生じさせているハズ。
「アベルさん。転生者だから戦わなければならない理由はないと思っている貴方が、そんな事を言っても」
「本当に心配なのは別の事だってまる判り」
考え込んでいたらアレッサとエイルに呆れられながら説明するように言われてしまった。
はい。すいません。完全に2人の事を忘れていたよ。
うん。説明するからそのジト目は止めてね。
「成程。そんな心配をしていたのですね」
「理解した。今回の戦いがあったからこそ、アベルは躊躇している」
俺の不安を話すと2人も納得したように頷く。だけども、同時にヤッパリ呆れられている気がする。
「戦いに囚われて自分も兵器として扱ってしまうかも知れない。確かにそれはないとは言い切れませんね。私自身。今回の戦いでは色々と思い知らされましたから」
「だけどアベルはアベル。キミはただ自分の思うが儘に在れば良い」
「エイル。それだけじゃ言いたい事が伝わりませんよ。でも、私もそう思います」
あのー。何故にそんなににこやかで嬉しそうなのでしょうか?
出来ればご説明願います。
「確かにアベルさんが心配する気持ちも判ります。ですが、私は今こうして、その心配を本気でする事が出来るアベルさんなら、決してそんな間違いはしないと思います」
「それにアベルには私たちが居る。間違いを犯しそうになったらそれを指摘して正してくれる仲間がいる。だからアベルは間違えないし、私たちも間違えない」
「それは・・・・・・」
「だからアベルさんはもっと私たちの事を信頼して、頼ってくださいね」
「私たちはアベルに守られるだけでいるつもりはないから」
確かにね。言われてみればその通りだよ。俺が間違いを犯そうとしたら周りのみんなが止めてくれる。
なんでそんな当たり前の事を忘れていたんだろう。
「本当にいつも一人で抱え込んでしまうのは、アベルさんの悪い癖ですよ。でも、今回は私たちに話してくれて良かったですし。嬉しかったです」
「アベルはもっと私たちを頼るべき。多分、ユリィたちも話をしていた時にどうするべきか相談して、頼って欲しかったハズ。それなのにアベルは結局1人で悩んでしまった。後でユリィたちに謝るべき」
「ああ、確かにそうかも・・・・・・」
「本当にアベルさんは鈍感過ぎますね」
そう言われても返す言葉がないね。
どうしてユリィたちの気持ちに気付かなかったんだろう・・・・・・。
ついでに、誰かに相談しようともしないで1人で考え込んでしまった俺のことを、アスカ氏やレイたちは本気で呆れているんだろうな。
と言うか、アスカ氏やレイたちが本当に注意したかったのは1人で考え込んでばかりで、周りに頼ろうとしない俺の態度だよ。
彼が本当に言いたかったのは、俺ばかりに責任を押し付けて悪いではなくて、自分1人で抱え込もうとしないでもっと周りを頼れって事だったんだよ。
それならそうとハッキリ言ってくれれば良かったのにって思わなくもないけど。多分、ハッキリ言ってもムダだと思われたんだよね。
うん。と言うかこれまでになんでも同じ注意を受けている気がするよ。気がするじゃなくて間違いなくこれで何度目だって話だね・・・・・・。
「困ったな、これで同じ注意を受けるの何度目だろ」
「さあ? それに多分。阿部さんの事ですからまた同じ事を注意されると思いますけど」
「その時はまた私たちがアベルの間違いを正してあげるから」
「その時は本当にお願いするよ。聞き分けがないようなら殴ってでも良いからさ」
本当に、こればかりはどうしようもない俺の短所だよね。
そんな俺を根気よく諫めてくれる仲間には本当に感謝だよ。
仲間が居なかったら今頃、俺は自分の短所に押し潰されていたよね。
心の底から仲間に感謝して、今度は俺が仲間の間違いを正せる様にならないとって思うよ。
間違っても、その為に仲間の間違いを求める様な事はしないけどね。
そうはしないと心に決めて行こう。そうしないと何処までも自分が汚くなってしまいそうな気がするから。
自分がどうあるのかをしっかり見据えないと、本当にどこまでも人は意地汚くなってしまうからね。
俺は、少なくても自分がそう言うタイプの人間だって事来は理解しているつもりだよ。
だからこそ、そうならないために頑張らないと。




