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 アシャ視点です。

 本当にこの戦いは何時まで続くんだろう?

 アベルと一緒に旅をする事になってからは驚きの連続だった。

 アベル・ユーリア・レイベスト。ヒューマンでありながらレジェンドクラスに至り、今やジエンドクラスにまで至ったいなる世界からの転生者の1人。

 だけど彼はほかの転生者たちとはまるで違う。

 ううん。アベル以外にもアスカさんみたいな、6万年前からコールドスリープで今の時代にやって来るような信じられない人も確かにいる。

 だけど、そんなアスカさんと比べてもアベルは規格外。信じられない存在だと思う

 初めて出会った時には、アスカ氏とアベルには想像を絶する程の力の差があった。それを1年足らずでアッサリと埋めてしまった。

 多分、今のアベルはアスカさんよりも強い。

 初めて会った特はただのSクラスの1人に過ぎなかったのに・・・・・・。


 そんなアベルと一緒に旅を続けて来た私たちは、鳳凰様にお会いする為にアグニに来た。

 そして、私は鳳凰様から加護を頂きジエンドクラス候補になり、そしてアグニでは魔域の活性化が始まろうとしていた。

 万全の態勢を整えての戦い。

 この世界の最高戦力が揃って、これ以上ない程に万全を期して挑んだ活性化の戦い。

 前回のゲヘナでの戦いよりも激しい魔物の侵攻は覚悟していたけれども、それでも負ける事はないと誰もが確信していた。


 だけども、それが間違いだったとすぐに思い知らされる事になった。

 数え切れない程のジエンドクラス、レジェンドクラスの魔物が溢れ出してくる。

 圧倒的な力を持つジエンドクラスの魔物は現れた瞬間、何もさせずに滅ぼしてしまはなければ危険。 

 アグニが滅ぶ程度の被害で済めばどれだけ良いか・・・・・・。

 ボク自身、専用機となった10万年前の転生者たちの遺産である装機竜人カリスを駆ってジエンドクラスの魔物と戦っているけど、実際に戦ってその恐ろしさが実感できる。

 相対するとそれだけで死の恐怖がボクの体を駆け巡る。

 ほんの少しのミスがそのまま死に繋がる極限の戦い。装機竜人の力で互角に戦えて入るけれども、本来なら相手になるハズもない遥か格上の魔物と相対する緊張。

 心臓が激しく脈打って全身が悲鳴を上げそうになる。

 こんな戦いを、ボクは後どれくらい続けられるんだろう?



「随分と疲れているみたいだねアシャ」

「そう言うキミはまだ余裕そうだねユリィ」

「私は多少は慣れたから」


 ボクとしてはこんな極限の戦いに慣れたくないと思うんだけども、慣れなきゃやっていけないんだろうなと諦めたように思ったりもする。


「全然羨ましくないのはなんでかな?」

「それは仕方がないかもね。でも、多分アナタもすぐに慣れる事になるよ」


 断言されても慣れると思えないんだよね。違うね。全然嬉しくないんだ。


「ボクもこの戦いの内になれるのかな? 正直、指一本動かすのもしんどいくらい疲れているんだけど」

「その手度ならまだまだ序の口よ。これからもっとひどくなっていくから」

「どういう事? 慣れるんじゃないの? もっとひどくなるの?」

「慣れるよ。慣れるからもっとひどくなっていくんだよ」


 ユリィに続いて現れたケイに何か不吉な事を言われたんだけど・・・・・・。

 今更の様に鳳凰様の加護を受けてジエンドクラス候補に至った事を後悔してきた。

 後悔した所でもう遅いんだけどね・・・・・・。


「それより、休める時間は限られているんだから、今の内にシッカリとエネルギー補給しておかないと」

「それはそうなんだけど、正直食欲が湧かないんだよ」


 ムリにでも食べなきゃいけないのは判っているんだけどね。全身がボロボロで何か食べるどころじゃないよ今は。


「そういう時には甘いモノ。サクラさんの特性御菓子でもいく?」

「それなら行けるかも」

「私も食べたい」


 そんな訳で3人でお茶にする事になった。

 正直、ユリィとケイの心遣いが嬉しい。

 あまり重いものだと体が受け付けないかも知れないから、まずは水ようかんみたいな軽い口当たりの御菓子を食べる。

 うん。美味しい。どうして鬼人の王妃であるサクラさんがこんなに御菓子作りが上手いのか、本気で不思議でならない。

 ボクの母上も料理はするけど、本当に極稀にで、当然だけども基本的には王宮の料理人に任せているし。

 ああ、そう言えばアベルも料理をするね。それも本職のプロ顔負けの腕前。


「美味しい。少しは元気が出て来たかも」

「正直私もまいってきていたから、こうやって美味しい御菓子を食べられると助かるよ」

「こんなに厳しい戦いは初めてだからね」


 御菓子を食べて少し落ち着いたボクに合わせる様に、2人も弱音を吐き始める。

 多分、ボクに合わせてくれたっていうのもあるだろうけど、2人としても間違いのない本音だと思う。


「確かにね。ボク自身、死んでないのが不思議なくらいだし」

「キリアとディアナが2回。クリスとシャクティも1回死んだからね」

「後、転生者のザッシュ。彼が8回死んで、もう心が折れそうだって言ってた」


 そう、今回の戦いでは既に複数回死んだ人もかなりの数いる。

 その中でもザッシュの8回は飛び抜けているけど、同時に彼の心が折れそうだって言葉も良く分かる。

 ボク自身、このまま戦い続けて死んでしまったら心が折れてしまいそうだし・・・・・・。

 それに、アベルが生き返らせてくれるって判っていても、キリアたちが死ぬところを見た時には心が震えあがった。大切な、ずっと一緒に居る友人が死ぬのを見るのは、耐えがたい衝撃だった。

 多分、ボクはこの戦いで本当の意味での死の恐怖を理解したんだと思う。


 そして、同時にアベルたち転生者たちがこの世界での自分たちの在り方に不満を持っている理由も理解できた。

 何故、転生者はこの世界で戦いを強制されるのか?

 アベルたちが不満に思い、疑問に感じている事。

 それについてボクはこれまで深く考えた事がなかった。 

 フレイムシードの王族に生まれたボクにとって、民と国を護るために戦うのは当然だったから。だからむしろ、どうしてアベルたちが不満に思っているのか判らなかった。

 だけど今なら判る。彼らは別にこの世界で大切な者を護るために戦うこと自体を不満に思っているんじゃない。

 ただ、転生者として生まれた時点で戦う事が決められているのが許せないだけ。

 転生者は必ず戦う事から逃げ出せない家柄に生まれる。

 まるで、転生者には戦力としての価値しかないとでも言う様に・・・・・・。

 まるでこの世界は、転生者に戦い以外を何一つ求めていないとでも言う様に・・・・・・。

 その事実に、ボクはようやく気が付いた。

 そして、ようやくボクは何故、アベルたち転生者がこの世界に居る事を疑問に思った。

 彼らは何故、この世界に居るのだろう?

 それは決して彼ら自身が望んだからじゃない。

 この世界に、異世界から転生者を迎え入れるシステムがあるからこそ彼らは異なる世界に生まれ変わったんだ。それも、前世の記憶を残して。

 その理由を鳳凰様たちは知っている。

 そして、10万年前の転生者たちも同じく知っていて、その真実の全てをカグヤに残しているみたいだ。

 だからこそ、アベルはカグヤに至ろうとしている。

 この世界を護るために必要と言うのもあるけれども、どうして自分たちがこの世界に呼ばれたのか、生まれたのかを知ろうとしている。

 正直、知る事にどんな意味があるのかボクには判らない。だけども、知らなければ前に進めない事があるのも理解している。

 そして、ボクもアベルたち転生者の事をもっと知りたいと思っている。

 ううん。正確に言えばアベルの事をもっと知りたい。

 アベルがどうしてこの世界に生まれたのかを知りたいと願うのなら、ボクもその真実を共に知りたいと思う。

 だから、


「心が折れそうか、たしかにボクもそう感じてしまうけど、だけど、こんな所で挫けるつもりはないよ」

「元気が出てきたアシャ」

「元気が出て来たって言うより。自分のやるべき事を思い出したって感じかな?」


 ケイの言う通りだね。ボクが何をしたいのかを思い出したよ。

 自分が何をしたいかを忘れてしまうなんて情けない限りだけどね。

 だけど、これでまだ戦えるって思ったら。


『魔域の鎮静化を確認。どうやら活性化の戦いも終わりみたいだよ』


 アベルの声でアナウンスが入る。


「えっ? 終わったの?」

「今のアナウンスが間違いじゃなければ多分・・・・・・」


 いくらアベルでもこんな冗談は言わないと思うけど、流石に信じられないからアベルの元に直接確認しに行く事にする。


「アベルっ、本当に活性化が終わったの?」

「ああ、御覧の通りどうやら間違いないみたいだよ。俺としても何がどうなっているのか良く判らないんだけどね」


 本当に戦いが終わったと確認して、安心しきってシートに体を預けているアベルに促されて、魔域の様子を確認すると、そこには魔物の姿がまったく見えない静かな、普通ならありえないハズの魔域の姿が広がっている。


「魔域内部の魔素も完全に消失しきっている。多分、しばらくは魔物が現れる事すらないんじゃないかな」

「それってゲヘナの時と同じ・・・・・・」


 確か、ゲヘナの時も活性化が終わった後に同じ様な現象が起きたハズ。

 でも、あの時は戦いが終わる前に最後の、大きな戦いが、死闘があったハズだけど・・・・・・。


「何があったの?」

「俺にも良く判らないよ。ただ、最後にこれまでにない魔力反応と共に、漆黒の球体から魔物が現れたのは確かだね。それを倒したら活性化が終わった感じかな」

「本当に終わったんだ・・・・・・」


 なんだかあまりにもアッサリと終わってしまって釈然としない感じがするけれども、アグニを襲った脅威が晴れた事は間違いない。


「そうか、ボクたちは無事にこの国を護れたんだね」

「ああ、護り切ったんだ」


 だからこそ、自分の国を護りきった事実を今はただ誇ろうと思う。


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