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さて、ジエンドクラスの魔物の大軍と戦う事になった魔域の異変から2週間。アシュラの遺跡調査も無事に終わり、鬼人の転生者たちの修行も順調で、何人かは後少しでSクラスに至るのも確定。ついでに、シオンが修行を見ていた鬼王らも何時レジェンドクラスに至ってもおかしくないまでに力を付けている。
そんな訳で、アシュラでの用事も無事に終わり、次の国に旅立とうと言う訳なんだけど。
「そろそろこのヒュペリオンでは小さくないかな? あのベルハウゼルとやらを使ったらいいのではないかな?」
「いや、アレを普通に使うのはどうかと」
確かに人数も増えたし、ヒュペリオンでは手狭になってきているんだけど、だからと言ってベルハウゼルを母艦代わりに使うのはどうかと思うんだよレイ。
あんな空中要塞。移動要塞で世界を回るなんてさ・・・・・・。
「これからは戦いも厳しさを増すのは判りきっているのだから、戦力は整えられるだけ整えておいた方が無難だと思うけれど」
「確かに、レイ様の仰る通りですね」
イヤ確かに正論だけども、そこで追随しないでよシオン。
まずはベルハウゼルの大きさをを考えてみようよ。30万の人口で、魔域の活性化なんかの非常時にはその倍以上の人員を収容できる防衛都市を上回る大きさなんだよ? 流石に各国の王都ほどの大きさはないけどね。
そんなので移動するってどうなの?
そもそも、移動先でどこに収容するつもり?
ヒュペリオンなら空港や、空軍基地に置いておけるけど、ベルハウゼルは絶対にムリでしょ。
「そんなもの、使わない時はアベルのアイテムボックスにしまっておけば良いだけでしょ」
「そうですね。どの道行き先の国についてからは、王宮に泊まるに決まっているのですし」
それはそうかも知れないけど・・・・・・。
と言うか、既に俺がすべての種族の姫君と婚約した事になるから、行った先で城に泊まらないって選択肢がありえないんだよね。
「だけど、ベルハウゼルを俺たちが勝手に使うのもどうかと思うんだけど」
「それこそ問題ないですね。むしろ、アベルの元で私たちが使う方が都合が良いかと」
魔人だけで使うのはむしろカンベンして欲しいのが本音だからとルシリス。
「実質、これからの事を考えても発掘品はアベルがまず使う事が前提になりますし」
「俺じゃなくて、俺たちのハズなんだけど?」
「その辺は流石に覚悟しているよ」
「それでも、私たちはアベルのオマケと言う事で」
各種族のお姫様で、自分たちもジエンドクラス候補なのにオマケと来たよ。
俺の予想だと、キミたちもいずれはベルハウゼルと同等の空中(正確には宇宙)要塞を指揮して戦う事になると思うけどね。
「まあ確かに、ヒュペリオンじゃあもう手狭なのは確かだからね。キミたちが良いって言うのなら良いけどね。因みに次はフレイムシードの国アグニに行く訳だけど、キミはベルハウゼルで自分の国に戻るので良いんだねアシャ」
「勿論だよ。みんなビックリするだろうね」
ビックリどころか、驚天動地の大騒ぎになると思うけどね。
まあ、アシャが良いっていうのならば俺としても問題ない。国に行った後にどうなるか判らないけど、どうなったとしても責任はアシャに獲ってもらおう。
「アシャの国も楽しみなんだよな」
「そう言えば、キミの前世の世界にも、ボクたちの国に似た国があったんだっけ?」
「料理とか着物とかで、文化的なところや政治的なところは似ているとは思えないけどね」
文化的な面ではそれなりに似たところもあるかも知れないけど、政治的には似ても似つかないだろうね。
まあ清の時代とかだとどうかは知らないけどね。と言っても、俺も清の政治体制とか詳しく知ってる訳じゃないし比べられないけど。
「もう行かれるのですね。次にお会いする時には孫の顔を見られると良いのですけど」
「大丈夫ですよ母上。次はどうか判りませんが、そう遠からずに子を成す事になりますから」
見送りに来たサクラさんの言葉は無視しようと思ったのだけども、シオンが当然のように返していた。
いやまあ、やる事をやっているんだから当然そうなるんだけどね・・・・・・。
俺としてはその前にまだ回ってない国の訪問を済ませてしまいたいよ。
初訪問の前に子供が出来たとか結婚式をしますとかは良くないよねホント・・・・・・。
成してしまったのは決して俺の意思が弱いからじゃないとだけ言っておく。
と言うか、あの状況でもしも成さないなんて事が出来るなら、それはもうヘタレとかじゃなくて不能だと思う。
まあそれは置いておいて、ともかくベルハウゼルに乗り込んでアグニに向かう。
巨大なベルハウゼルだけどもその速さは折り紙付き。ヒュペリオンにすら劣らないのでアグニにはすぐに着く。
「そう言えばアグニに行くのも久しぶりかも」
「そうなんですか? と言うかどうしてそこでお酒を取り出すのですかレイ様」
アグニへの短い旅路が始まったと思ったら、さっっそく一杯やろうとし始めるレイに突っ込むシオン。
つまみとして取り出したウナギの白焼きやアンキモらが実に美味しそうだけどソコは置いておこう。ソコを意識するとレイに酒宴に引き込まれそうだし。
アグニには3・4時間もしないで着く。今から酒宴なんか始めたら、付いた時には泥酔状態になりかねない。初訪問で、しかもアシャとそう言う関係になっているのに泥酔状態で訪れる訳には絶対に行かないよ。
「そうですよ。そんなにかからずにアグニには着くんだから。お茶でもしながら旅を楽しむとしましょうよ」
「お茶ね」
若干不服そうだったレイだけど、俺が取り出したお茶と茶菓子を見て瞳を輝かせる。
それはサクラさん特製の茶菓子と、そのサクラさんの弟子でサクラさんを超え音菓子職人の最高傑作と言わリめられる特製の一品。
「ああ、これ久しぶりかも」
「私も3年ぶりくらいですね」
レイもシオンも嬉しそうにするそのお菓子は、見た目はただ葛を丸めてだけ。葛饅頭の様に中に餡が入っている様にも見えない。
だけども、ひとくち口に含めばその瞬間。至福の甘露が口の中一杯に広がる。この至福の甘露はユグドラシルの樹の実の蜜漬けにも引けを取らない。
それに何より素晴らしいのはその食感。ぷにぷにと柔らかく、それでいて心地よい歯応えがあってしかもべたべたと歯にくっつくような事は全くない。のど越しも実にさわやか。
うん。至福。
「本当にコレは相変わらず素晴らしいね」
「頼んでいた分が全部間に合ってなによりでしたよ」
もっとも、頼んでいた分もどう考えてもすぐに底をつくから、すぐにでも追加の注文をするし新作が出たらすぐにでも買いに行くけどね。
「レイもこのお菓子は好きなんですね」
「当然でしょ。本当なら私のお抱えにしたいくらいなんだけど、サクラが離さなくてね」
うん? サクラさんから独立して自分の店を構えているハズだけど?
「そうじゃなくてね。サクラとしてはこのまま菓子作りで負けたままなのが嫌みたいで、今でも勝負を挑んでいるの。だから、負けたままで何処かに行かれるのは我慢できないみたいね」
「母上にとって菓子作りはあくまでも、数多い趣味のひとつでしかないハズだったんですが」
どうしてそこまでと頭が痛そうなシオン。
俺としても、何がそこまでサクラさんを菓子作りに駆り立てるのかが不思議でならない。まあ、今のサクラさんならその内、歴史上で至高と評される菓子職人になりそうな気がするけどね。
それに対して弟子の方はどこまで行けるかな?
今は優位に立っているとはいえ、サクラさんには時間の余裕があるからね。この先、何百年と修練を重ねたサクラさんの作り出す和菓子が、いったいどんな領域にまで辿り着くのか想像もできないよ。
「まあ本人の好きな様にさせておけば良いんじゃないかな」
「そうね。誰の迷惑にもなっていないのだし。うん。それよりも確かにお茶にするのも良いわね。心が落ち着くし」
確かに、こうしてのんびりとお茶を楽しんでいると心が落ち着く。茶の湯とかの作法を気にしなくて済むのも助かる。アレは前世で一度だけ経験したけど肩がこるからね。
「それにお酒にしなかったのも正解よね。アグニに着いたら最高のもてなしが待っているのだし」
「間違いなく火神全席が待っていると思います」
とはアシャ。どうでも良いけど、アシャにしろキリアにしろ、ボクっ子で普段は言葉遣いもやや崩れている2人も、レイに対しては当然シッカリした言葉遣いになる。
まあ、間違いなくその内にレイによって強制されて元に戻ると思うけどね。
因みに、火神全席とは満漢全席の様なモノらしい。それも西太后の時代のそれよりも更に豪華で洗練されたモノのみたい。もっとも、満漢全席の完全なレシピは失われていて、当時の料理を完全に再現しきれてはいないとも言われるので、正確に比べられるかは判らないんだけどね。
それにしても、火神全席か。アグニは中華風の国だし、フカヒレの姿煮とか干しアワビのステーキとかもあるのかね。
因みに干しアワビとかの乾物は、つくられてから時間が経てば経つほど味に深みが出ると言われているんだけど、この世界だと魔法で早期塾生が簡単にできるから、ワインとかと同じで100年物とかがゴロゴロしているんだよね。
「それは楽しみだけど、いったいアグニではどんな事が待ち受けているのかな」
「ボクとしても、何事もなく無事にとは思ってないよ。でももう覚悟は決めてるからね」
そうですか、それならアシャと同じように俺も覚悟を決めるとしよう。




