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「それでは今回の遺跡は」
「これまでとは全く違う。希望と願いを託した遺跡だったよ」
アマノムラクモの事を話すと、当然だけどもみんな驚いたみたいだ。
「それにしても、何千億年、或いは数兆年に至るかも知れない程の歳月を争い続けていたのですね」
「そして、その中で私たちは幾度となく滅びていたのですね」
「そして、そんな戦いの歴史に終止符を打とうとした方々が、これまでに幾度となく現れていた」
アマノムラクモで知り得た事は包み隠さず伝える事にした。
勿論、衝撃的な内容である事も判っている。だけど、だからこそみんなが知らなければいけないと思ったから。
だから、今回の事はサクラさんをはじめとする鬼人の王族だけでなく、他の種族の王族にも伝えるつもりだ。
この事実は、この世界に生きる人間種全体がシッカリと受け止めるべき事だと思う。
「しかし、何のためにそんな長い時を争い続けているのかがまるで判らない」
「確かにそうですね。これまで幾度となく争いを止めようとした方々が居るのですから、むしろ、私たちと魔物は本来なら争い合う必要はないのかも知れないのですから」
流石と言うか、その可能性にまで思い至ったかアレッサ。
その可能性に思い至っていた何人か以外はみんなビックリしているけど、実際。10万年前の転生者たちが真の戦いを終わらせようとしていた事からも、魔物とは絶対に敵対するしかない存在ではない可能性もある。
互いに殺し合うしかない存在同士であるのなら、戦いを止める手段なんてどちらか一方を殺し尽すしかないのだから。
「まあ、今はまだいくら考えても答えは出ないけどね」
「確かにそうですね」
高位次元生命体である神の事も、創造主である真皇たちの事も、魔物たちの世界の事も真実は何ひとつ、今の段階では判らない。
なので考えるだけだだ。いずれカグヤに至る時が来ればすべては判るのだから。
それよりも今考えるべき事は。
「それよりも今は魔域の状況に気を付けるべきだよね」
「はい。アベルさんの言う様に、確かに魔域に異変がみられる様ですから」
レジェンドクラスま魔物が現れたり、Sクラスでも上位の魔物が群をなしていたりと、明らかに今のアシュラの魔域の状況はおかしい。
本来なら、シオンの試練の影響から、しばらくは魔物の活動が抑えられるハズなのに、むしろ活性化の前兆かと思わせる程に活発化している。
「既に調査をはじめ、警戒を強めていますが、現状では活性化の予兆とは思えません」
「でも、何も起こらないとも思えない」
「はい。ですから、魔素を弱めている訳ですから」
当然、明らかな異変に対してただ警戒を強め、何時でも戦える様に備えるだけで何もしていないなんて事はない。ヒュペリオンの魔素吸収魔力変換機能とかを使って、魔域内の魔素を弱めて、魔域の活動を押さえ付けるなどの対策を既に始めている。
「うん。それにしてもまさかアレほどまでに魔素の濃度が高まっていたなんてね」
「それもこちらに察知されぬように巧妙に隠蔽されてですから」
実際に魔域内の魔素を吸収し始めて判った事なんだけども、通常ではありえない程の魔素が魔域中枢部に存在した。
それこそ、ヒュペリオンでは魔力に変換しきれない程の魔素が中心部に隠蔽されていた事実は、魔域の意思とでも言うべきものが何かしらを画策している証拠だった。
実際。何をしようとしているのかまでは判らないけれども、警戒を続けるに越した事はない。それと、戦力の増強もだ。場合によってはアスカ氏も呼んでおくべきかも知れない。
レイが居る時点で、余程の事が起きても問題はないハズだけども、万が一に備えた万全の対策を取っておくべきだろう。
「まあ、何が起こるにしてもまだ時間はあるみたいだけどね」
「ですが、魔域の意思がココまで明らかに事を起こそうとすること自体が異常です。それ故に何が起こるか判りません」
そうなんだよね。この10万年の中で、魔域の意思明確に何かを成そうと行動を起こす事は度々あったらしいけれども、そのどれもがとんでもない事態を巻き起こしたらしいしね。
ぶっちゃけ、魔域の活性化と同規模の脅威であるとみて良いらしい。
そうなると、こちらとしてもベルハウゼルなども何時でも使えるようにしておくなどの、万全の準備をしておかないと危険なんだよね。
ホント、次から次へとなんでこうも事が立て続けに起こるかね・・・・・・。
少しは休養が欲しいんだけど。
「とりあえず、アスカ氏にも連絡して、何か起きた時にはすぐに来てもらえるようにしておこうか」
「アスカ氏の力まで必要とする事態には、出来ればなって欲しくないのですが」
こればっかりはどうなるか判らないからね。
下手したらΩランクの魔物が複数現れるなんて、本気でシャレにも何にもならない事態に陥る可能性だってあるし。
「まあ、今はできる事をやるしかないからね。それに、今から何が起こるか不安になっていても仕方がないし」
「そうそう。やるべき事をこなして悠然と待ち受ければいいんだよ。そうすればどうとでもなるよ」
「貴方らしいですねキリア」
確かにね。でも俺もキリアの意見に賛成だ。
どうなるか判らない事を悩んでいても仕方がない。万全の備えをして後は事が起こるのを待つだけで良い。
どの道、どうやっても起こさない様には出来ないのだから、ならば規模を出来る限り抑えるように裏工作しておくだけ。
魔素をどれだけ削れるか判らないから、どれだけ効果があるかも判らないんだけどね。
あと、魔素を吸収した影響で事態が動くのが速くなる可能性がある。
魔域の意思が何をするつもりなのか知らないけど、魔素が失われてしまったらそれも瓦解してしまうからね。
こちらが魔素を削っている事に気付けば、魔素がなくなってしまう前に行動に移すのは当然な訳だよ。結果として、万全の状態ではなくても、不発に終わってしまうよりは断然いいからね。
「とりあえず。今日中に何かが起こるって事はないだろうし。気晴らしに温泉に行こうよ」
「それ良い。後アベルが今日執って来たのをつまみに一献」
「鮭とアユでね」
鮭はそのまま刺身でまず一品。それと普通の寿司ではなくて押し寿司系をひとつどうだろう。要するにマスの押し寿司と同じ物だけど、間違いなく今まで食べたモノとは比較にならないくらい美味しい。使う米もレイの自慢の一品だし。鍋とかも良いんだけど、温泉に浸かりながらだとね。
アユはやはり塩焼きは欠かせないだろう。それに酢で締めて刺身に。
つまみはそんなもので良いかな。温泉に浸かりながらだから気楽につまめるものじゃないといけないし。
今度来る時までに慣れ寿司を作っておくのも良いかも知れないけど、流石に今すぐどうこうできるものじゃないしね。
「それじゃあ温泉にでも行こうか」
「温泉ですか」
何時の間にか、エイルとウラヌスの2人が俺の傍らにいる。
本気で何時の間に?
全く気配がなかったんだが。転移できたのだとしても、その場合は魔法の発動の気配を察知できるハズなんだけど。
と言うか、仮に転移できたとしても、どうやって俺たちが温泉に行こうとしているのを察知したんだ?
それと、どうでも良いけどこの2人は本気で温泉好きになった。
ふらっと2人で温泉に行って、丸々1日入っている事もあるくらいだから。
「それなら、今日は私がマスターのお背中をお流します」
「別にそんな事する必要はないんだよウラヌス」
「私ではご不満ですか」
「そんな事はないけど」
「ならば、私に流させてください」
なんだろう。これは断れそうにないんだけど・・・・・・。
と言うか、流石に女の子に背中を現れるのとか恥ずかしかったりするんだけど・・・・・・。
今更だね。そもそも、ウラヌスともすでに一線を越えちゃっているんだし。
「正直、どうしてキミたちがそんなに積極的なのか判らないんだけどね」
「そうですね。私にも良く判りません。ですが、アナタと共にありたいと感じているのは確かです」
「多分。私たちたけでなく、これから目覚める私たちの姉妹たちも、同じ様に感じるハズです」
いや流石にそんな事は・・・・・・。
どうしてさもありなんて頷いているのかなみんな?
「とりあえず温泉に行こう。今日はどこの温泉かな?」
「今日はケラクの湯です」
シオンは行く先を告げると同時に転移。
うん。これももう慣れたね。で、着いたのは標高5000メートルはある山の中腹。そこには300メートルはある広大な温泉が広がっていた。
「これはスゴイな」
「見晴らしも良いし、場所が良ければ人が殺到してもおかしくないんだけどね」
とレイが続けるには、どうやらこの温泉はとにかく立地が悪いみたいだ。人里離れた山奥。それもいくつも連なる山脈の一番奥にあるモノだから、此処に切るためには永遠いくつも山を超えてこなければいけないらしい。
うん。そりゃあ確かに人は来ないね。転移魔法が使えれば一瞬だけど。
「私もレイ様に連れられて訪れるまでは、此処に温泉がある事すら知りませんでしたから」
「それはそうさ。何を隠そう。この温泉は私が趣味で造ったものだし」
あっ成程。発見したとか樹なくて、この場所に温泉を造ったのね・・・・・・。
成程。つまりこの大きさもレイの趣味と言う事だね。
うん。ある意味納得だよ。
「それでは早速入りましょう。お背中をお流ししますねマスター」
だから、そんなに急が何ても良いよねウラヌス。
と言うか、なんでみんなしてこっちをおもしろそうに見ているのかな?
誰か助けでじゃなくて、ウラヌスを止めてくれても良いんじゃないかな?
えっ? 止める理由がない。そうですか・・・・・・。
判ったよ。背中を洗ってもらうから。だからウラヌス少し待とうか?
洗ってもらうのは背中だけだから、前を洗おうとしない様に。




