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遺跡は直径10キロほどの球体だった。
ただし、魔域で見つかったモノの様に真っ黒でもないし、入口もなかったりなんて事もない。
ごく自然に入り口あって中に入る事が出来た。因みに、入口のロックは戦国時代、織田領内に進攻した今川軍を討ち払った合戦の名は?
とにかく、遺跡の中に入る事は出来たんだけども、問題はどんなモノなのかがまったく判らない事。遺跡に入ったらあったのは1000平方メートル。高さ300メートルはある巨大な空間だけ。そこからどこかへ行くための通路やドアなどは見当たらない。
本当に、ただ謎の空間があるだけの遺跡。
だけど、まあどうすれば良いのかはハッキリしている。空間の中央にそれらしく物体がある。
この遺跡の操作パネルを思わせる装置。そこに行けば何かしらの反応があるだろう。
そう思って行ってみると。
『ようこそ。遥か未来の転生者たちよ。我は汝らを歓迎する』
当然のようにホログラムが映し出される。
それは、20歳前後の鬼人の男。2メートル近い偉丈夫で、精悍な顔つきをした美丈夫でもある。闇の様に漆黒の髪を腰の長さまで伸ばし、それをひとつに纏めている。
『我はセツナ・カシム・アシュラ。かつての鬼人国の王である。そして、この世界の10万年周期の戦いに挑みし者でもある』
それは知っている。100万年前の遺跡である時点で、この遺跡が10万年周期の戦いに挑んだ転生者が残した物なのは決まっているんだから。
『其方らが何時の時代の転生者であるかは判らん。しかし、其方らが我と同じ、10万年周期の戦いに挑む者であるのなら、我が残したこのアマノムラクモは其方らの大きな力となるであろう。ただし、それは其方らが、我と同じようにこの世界の在り方を変えようと、戦いの連鎖を断ち切ろうとしている場合はとなる』
それはつまり、100万年の転生者たちも、10万年前の転生者たちと同じ事をしようとして失敗したと言う事か?
『何の事かと思うか? それとも成程と思うか? いずれにしろ、先ずは昔話に付き合ってもらう。正確にはこの世界の歴史を其方らに語ろう』
歴史、この世界の戦いの歴史の事か?
『この世界は魔物による侵攻の脅威に晒され続けている。しかし、その一方でこの世界が真に滅びの脅威に晒される事は、10万年に1度しかない。真の戦い以外では、どれだけ強大な力を持つ魔物が現れようと、7柱の創造主が守護するこの世界を滅ぼす事など叶わぬからだ』
それは確かに事実だよね。実質問題として、俺たちと魔物の戦いなんてただの前座に過ぎないとも言える訳だし。
『にも拘らず。我ら転生者がこの世界を護るために現れるのには、何か意味があるのだろうと我は考え、そしてこの世界の真実に辿り着く事が出来た』
実際、ただこの世界を護るためだけにと考えるのは不自然なんだよね。この世界の在り方を知れば知る程、俺たち転生者は何故存在するのかと疑問になってくる。
『まず、この世界の真の戦い。10万年周期で引き起こされる戦いは、我が知り得ただけでも幾万、幾十万回と続けられている。そう、この世界の戦いは何千億年も、或いはそれすらも上回る果てしない時の中を永遠と繰り返されているのだ』
俺の想定よりもはるかに桁が違う。
『そして、その果てしない戦いの中で、我ら鬼人族を含むこの星の人類は、幾度となく滅び去り、そして幾度となく創造主らによって、神によって生み出されてきている。そう、この世界には幾度となく滅び去った先史文明の痕跡が確かに存在するのだ。我はそれらからこの事実を知るに至った』
これも俺の想像を超えている。
でも、考えてみれば当然の事か、数千億年を超えるであろうと気の中の戦い、その中で人類が生き残り続けて来たと考える方がおかしい。
俺のヒューマンをはじめとする人類種15の種族は、幾度となく滅び去り、そして再び生み出され続けて来たんだ。
『我が知り得ただけでも、500万年前と1200万年前に人類種は全て滅びている。そして、真の戦いが終わった後に、創造主らによって新たに生み出されている』
100万年前で500万年前に1200万年前なら、今からだと600万年前と1300万年前の2度、少なくても人類種は滅んでいるのか・・・・・・。実際の所、人類種が滅びた回数はそれどころじゃすまないんだろうけど・・・・・・。
いったいどれだけの回数滅びたんだろう・・・・・・。
そして、創造主たちに新たに生み出された。
だけど、疑問なのは創造主たる者たちに、それをする理由があるのかと言う事。
どうして人類種の創造主たる真皇たちは、人類を幾度となく滅びに至る戦いに駆り立て、そして再生させ続けるのか?
『無論。それには意味がある。永遠と繰り返される10万年周期の戦いにも意味があるのだ。我はその理由を知り。それ故に全てを終わらせる事を決めた』
戦いの意味か、いったいどんな理由があるのか想像も付かないな。
『だが、こうして其方らが我の話を聞いているのがすべてを物語っている。我は、我らは失敗したのだ。結局我らでは真にこの世界を解放し、革新させる事は出来なかった』
それは初めから判っている。10万年前の転生者たちと同じように、彼が真の目的を果たせなかった事は。
『そして、すべてが終わった後に我は初めて知った。果て無き時の中で、われと同じようにこの世界を開放し、革新させようとした者が、これまでに幾度となく居た事を。そう、我ら転生者はこれまでに幾度となく真の戦いを終わらせようとし、そして失敗してきていたのだ』
この可能性は、こうして話を聞くうちに考え始めていた。
何千億年を超えて続く戦い、何十万回と続けられる戦いの中で、全てを終わらせようと考えたものが、絶望と狂気にさいなまれて、この世界そのものを滅ぼしてしまおうという意味ではなく、純粋にこの世界を救おうとしたものがこれまでに幾度となくいたとしておかしくはない。
『或いは、もっと早く彼らの存在を、残された遺産のことを知っていれば、われらの行動の結果も変わっていたかも知れん。だからこそ、我はこのアマノムラクモを残す。我が見つけた遥か昔に、われと同じ三つを志した者たちが残した遺産。それに我らが力を合わせて作り上げたこのアマノムラクモを』
100万年前の転生者たちが、更に以前の転生者たちの残した希望を受け継いで造り出したモノか。
『このアマノムラクモの元となりしアマツミツルギは、500万年前の転生者たちが、人類種の絶滅に立ち会いし転生者たちが残した希望。かの者たちは、自らが果たせなかった真の戦いの終焉への想いと力を、ミツルギに残した。それを受け取った我らは、アマツミツルギに我らの想いと力を、真の戦いを終わらせるために我らがもちいた全てを集結させ。このアマノムラクモを完成させた』
人類種の滅び、或いはその後の新たな人類種の誕生に立ち会った転生者たちが残した遺産。彼らの想いと願いか・・・・・・。
それは一体どんなモノだったんだろう?
そして、100万年前の転生者たちはどんな思いでそれを受け取ったんだろう?
『アマノムラクモは、この世界を真に救おうとした者たちの想いと力を繋ぎ合わせたもの。次へと託す願い。故に、我が言葉を聞きし転生者よ。其方らが我らと同じ志を持つ者であるのなら、このアマノムラクモを使い本懐を遂げてくれ。もし、我らと志を共にしないものであるのなら、その時が来るまでこのアマノムラクモは此処に封じ続けてくれ』
真の戦いを終わらせる。それ以外には使い道のないものなのだろう。恐らく、あえてそういう風に造ったんだ。このアマノムラクモを。
『そして我は、これよりこの世界に残りし、かつての転生者たちが残した遺産が存在せぬか探しに行く。500万年前転生者たちと同じように、真の戦いを終わらせる事を次へと託して遺産を残していった者が他にもいるかも知れぬ故』
その可能性も確かにある。
この世界に絶望して、全てを滅ぼしてしまう為の遺産を残した者たちが複数いる様に、この世界を救うための希望を残した転生者も各時代に居たかも知れない。
『或いは、これまでに我らがしたように思いを繋げた事も幾度となくあったのかも知れぬ。その上で目的を果たせずに終わる。そんな事が幾度となく繰り返されてきたのかも知れぬ。結局、真の戦いを終わらせる事など不可能であるのかも知れぬ。それでも、我はこの世界に、我ら転生者が存在する利用はその為だと、真の戦いを終わらせるためにあるのだと確信している。だからこそ、我はこれまでに残されてきた希望と願いがまだ残されているのなら、我らの手でそれらを繋ぎ合わせ、次へと託そうと思う』
何かとんでもなく重いものを背負わされる事になりそうな気がする。
『それらを見付け出し、繋ぎ合わせる事が出来たのなら、その情報もアマノムラクモに残そう。それらを受け取り、想いを繋ぎ合わせるかどうかは其方ら次第だ。だが、其方らが真に我らと同じ志を持つ者なら、どうか繋がる願いと希望を受け取って欲しい』
本当に重いものを差負わされそうだ。
『そして、どうか我らの悲願を達成し。この世界を真に解放してくれる事を願う』
出来れば俺もそうしたいとは思う。だけど、遥か彼方から繋ぎ合わされてきた思いを受け取る程の覚悟と決意が、本当に俺にあるんだろうか?
これは、本当に俺が受け取って良いものなんだろうか?




