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「ほう。これはスゴイ」


 干し菓子をひとつ食べて、その出来栄えに思わず感嘆の声を上げる。

 素材の旨味を完全に出し切り、その上で更に和三盆などの風味を素材の味をさらに引き立て、昇華する絶妙の配分で合わせてある。

 数ある和菓子の中で、干し菓子とはあまり縁がなかったんだけども、これは本当に美味しい。

 果実を使いながら、純粋にそのまま生で食べるよりも素材の味を引き出しているモノなんて、存在するとは思いもしなかった。


「本当に、どうやったらこんなに果実の味を引き出せるのかしら」

「しかも、干してあるのに歯応えや舌触りに何ひとつ嫌なモノがないなんて」


 干し柿や干しブドウ、それにプルーンなどはどうしても生のモノと比べて食感が悪い。

 それなのに、今食べたモノは生と比べてむしろ食感が良くなっているように思える。俺が食べたのはリンゴの干し菓子だったけれども、リンゴのシッキシャキし食感をそのままに水分を抜いて甘みを増す技法は、どうすればそんな神業が可能なのかと本気で疑問に思う程だ。

 また、イチジクを使った干し菓子も素晴らしい。俺は生のままのイチジクは少し苦手なのだけども、この干し菓子にしたイチジクは最高だ。それこそいくらでも食べられる。


「このイチジクはケーキの具材にもってこいだね」

「わあっ。確かに美味しそう」


 つくるとしたらイチジクのタルトがまず良いだろう。ついでにこれを使ったアイスも良いかも知れない。多分、シャーベットにするよりもアイスにした方が美味しい。


「まさか干し菓子だけでこんなに衝撃を受けるとは思わなかった」

「意外だね。キミたちはまだこの店に来ていなかったのかい?」

「不覚にも、言い訳じゃないですけどこれまでそれなりに忙しかったので」


 ここ数日は完全に欲望に塗れて忙しかったんだけどね。

 と言うか、国賓待遇で滞在しているので、色々と国の行事とかにも参加したりしなければいけない事もあるし、イキナリ街の散策に出る訳にもいかなかったりもするので、これまで、街に繰り出せずにいたんだけどね。

 まあ、今の俺の立場は鬼人の姫君の婚約者でもある訳だし、色々とやる事もある訳だよ。

 本当に、気ままな冒険者の立場が跡形もなく消し飛んでいるよ・・・・・・。

 まあ、15人の姫君と婚約していても、今のところは俺が王になる可能性はないのが救いだけどね。


「まあ、今はこの国の全員が、キミの事に注目しているし、迂闊に動けないのも確かだからね」

「それも困るんですけどね。俺としては、気楽に街を出歩きたいんですけど」


 特にこの国には、行きたい場所が多いので本当に困る。

 と言うか、なんで俺なんかに注目するかね?

 イヤ、自分でも注目される要素が山済みなのは判っているけどね。


「その辺りの苦労は私にも経験があるよ。特に、レジェンドクラスに至った直後辺りはね。ついでに言うと、今もまた注目されてるけど」

「それはそうでしょうね」


 なんと言ってもレイは今やジエンドクラスに至っている訳だから、注目されないハズがない。


「もっとも、私はもう注目されようが気にも留めないけどね。ああそれと、この店に来たなら、この栗大福を食べないと」

「話をいきなり変えないでください。でも、レイのお勧めですか」


 もの凄く気になる。話をぶった切られたけど、そんな事よりも目の前の栗大福がもの凄く気になる。

 と言うか、確かにレイクラスになるともう、人の評価とか注目なんて気にも留めないだろうし。


「それは私もお勧めですよ。母上をしてこの味には到達できないと断言する1品ですから」

「サクラさんの和菓子を超える1品か、それは楽しみだ」


 本気でどれ程のものなのか期待が膨らむ。早速ひとつ。

 口にした瞬間、口の中に栗餡が、いや、栗のクリームが口の中一杯に広がる。

 なんだコレは!!!  餡なのか?

 なんて口当たりのなめらかなんだ。スゴイ。確かにこれは最高の1品だ。

 歯が要らないんじゃないかと思うくらいにやわらかで、それでいて濃厚な栗の風味がこれでもかとばかりに感じられる。純粋な和菓子、生クリームなどは一切使われていないの、これは和菓子と洋菓子の良い所を最高の高みでかね合わせたかのように感じられる。


「美味しい」

「気に入ったみたいだね。だけどまだまだ、ソコにこのお茶を休みなくね」


 差し出されたお茶を言われるままに飲んで、更なる衝撃に襲われる。

 確かに、この栗大福はこの落お茶と一緒に味わう事で真に完成される。

 なんて完成度なんだろう。うん。俺もお菓子作りにはそれなりの自信があったけど、これは比較にならないよ。


「これはシッカリと確保しないといけないね」

「まあそうなるのは当然だけど、いったいどれくらい買うつもりなのかな?」

「とりあえず、今の栗大福を10万個。それから、干し菓子を全部5万個ずつ。他のお菓子も全部3万個ずつは欲しいですね」

「あのね。流石にそんな数はムリだよ」

「すぐにとは言いませんよ。アシュラに居る間に揃えてもらえればいいんですから」


 滞在期間も後1ヶ月くらいはあるだろうし、その間に頑張って造ってもらえれば良い訳だ。


「1ヶ月かけてもムリな量だよ。気に入ったのなら、ちょくちょく買いに来ればいいんだから、せめてその10分の1の量にするんだね」

「10分の1ですか」


 むむ、和菓子はそれでもいいけど、干し菓子の方は色々と使い道もありそうだし、出来ればもっと欲しいくらいなんだけど。

 とは言えアレだけの干し菓子だ。つくるのに相当の手間暇をかけているに違いない。実質問題として1ヶ月で全種類5万個もつくれるかどうか疑問だ。


「キミも欲しい物は何が何でも手に入れるタイプみたいだけど。ココは我慢してもらうよ」

「判りました」

「うん。素直でよろしい。いい子にはご褒美だよ」


 もう良い子なんて言われる年じゃないんだけどと言いたいけど、確かにレイにしたら俺なんか子どもどころか赤ん坊みたいなものだ。

 実際、レイにしたら300年生きてるミランダだって幼子みたいなものだろうし・・・・・・。

 気にしたら負けだと納得しておこうと思ったら、転移で移動させられていた。


「此処は?」

「私のとっておきの寿司屋だよ」


 成程。寿司ですか。アシュラの寿司。しかもレイがとっておきと太鼓判を押す店。


「レイ様のとっておきですか」

「そう。私が求める最高の寿司を用意させるために造った店よ」

「ああ成程」


 つまりこの店はレイの店なんだね。レイが無尽蔵のお金を注ぎ込んで、最高の食材と最高の職人を揃えたお店と言う訳だ。

 ついでに、レイに雇われていると判っているのだから、元々アシュラで一番の寿司職人であっただろう職人が、更に腕御磨き続けているのは確実な訳で、確かにこの店はアシュラで一番の寿司店だよ。


「お待ちしておりましたレイ様」


 店に入ると従業員全員が頭を下げて出迎えてくる。

 と言うか、この店の人って全員がA+ランク以上の実力者だよね。特に、職人と思分ける4人なんて、ES+ランクの実力があると思うんだけど?

 ひょっとしてこの店に働いているのってレイの元弟子だったりする?

 

「さて、この店に来たら寿司の前にまず鉄火丼を食べてもらわないとね」

「既にご用意してあります」


 既に用意万全との事なので、先ずはレイの言う通りに鉄火丼を頂く。


「鉄火丼は私の好物でね。マグロの食べ方としてはこれに勝るモノはないと思っているんだよ」


 そう言うレイの前に置かれたのは、赤身に中トロ、大トロのそれぞれがづけにされた鉄火丼。


「本日は、カグヅチ・マグロを使用しています」

「それは楽しみだね」

「カグヅチ・マグロを用意できる寿司屋なんて、そうそう無いのですが」


 因みにカグヅチ・マグロはES+ランクの魔物。アシュラでも早々狩られる魔物じゃないハズ。

 この店の店員て、レイが満足する魚を手に入れるために、魔域内で死闘を繰り広げているんじゃないかな?


「うん。相変わらず良い腕だね」

「お褒めに預かり、光栄の極みであります」


 レイが満足しているのにホッとする店員一同。なんて言うか、可哀想で見ていられなくなりそうなんだけど。


「本当に美味しい」

「凄いですね。マグロの味を本当に余すところなく引き出しています」


 ただ、この鉄火丼の味は本当に見事だ。

 正直、同じマグロを使てもここまでの味を引き出せる自信はない。

 マグロは勿論、醤油も米もワサビも、使われている食材の全てが最高の物だけど、それだけじゃない。最高の食材の持つ旨みを本当に余す事無く引き出し、更に高め合わせているからこその味わいなんだ。

 それぞれの食材が調和して、互いの味を高め合うように最高の配分が成されている。

 正しくプロの技だよコレは。


「続きまして、炙り鉄火です」

「これまた見事だね」


 次いで出されたのはづけにしたマグロを炙った鉄火丼。醤油とマグロの油の焦げた香ばしい匂いが食欲をそそる。


「これも良い。本当に腕を上げたね。しかし、これは酒が欲しくなるよ」

「当然、シラヌイの冷酒も用意してございます」


 レイは満面の笑みを浮かべて炙り鉄火丼を頬張り、すかさず冷酒を流し込む。

 その様子に辛抱堪らず俺たちも続く。

 声にならない。声にならない美味しさだよコレは。ただ漬けにした物よりも更に旨味が増したマグロの旨みが、これでもかと口の中一杯に広がって、それを辛口のシラヌイがさらに引き立てる。


「どうやら気に入ったみたいだね。でも、まだまだこんなモノじゃないよ。今日はこの店の味を存分に堪能してもらうからね」

 

 言葉もなく美味しさを堪能している俺たちの様子に、レイは実に満足そう。

 はい。今日は思いっ切りこの店の味を堪能させていただきます



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