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結局、俺は一緒に温泉に入った全員と一線を超える事になった。
どうしてそうなると思わなくもない。
「と言うか、シオンたちは良いの?」
「良いも何も、私たちもアベルさんのこと好きですから」
アレ? そうなの?
ユリィとケイと違って、シオンたちは俺との関係は様子見だと思ったんだけど。
「ユリィたちと一緒です。私たちも、気が付いた時にはアベルさんを好きになっていました」
「自分の気持ちに気付いた時点で、告白してしまえば良かったんだけどね。なかなか伝えられずにモヤモヤしていたのを、レイ様に・・・・・・」
ああ、今回の件はレイが仕組んだ訳ね。
「私もキミに興味があったからね。ちょうど良いと思ったんだよ」
「興味ですか・・・・・・。と言うか、レイはこれからどうするつもりなの?」
「勿論、私もキミと一緒に行くよ。晴れて私も、キミの婚約者の1人になったのだしね」
そうですか・・・・・・。
親類の人たちとかは良いのかって聞いたら、そもそも親兄弟なんて当然だけどとっくに死んでいるし、前に結婚して子供を産んだのも1000年は前の事で、その子孫も今の王族になる訳だから、何一つ問題ないとの事。
「それにしても、今更異性に興味を持つなんて思いもしなかったよ」
「それは光栄と言うべきなのかな・・・・・・」
この1000年間、異性として魅力を感じる相手に出会った事がなかったらしい。それが、俺に興味を持ったと言うのだから、光栄なのだろうけど、だからと言ってイキナリ既成事実から入るのは止めて欲しい。
欲望に、性欲に負けて完全に理性を失った俺が言ってもて思わなくもないけど、言い訳をさせてもらえば、あんなふうに迫られて、拒むなんて出来ると思う?
正直、あの状況で拒めるなら、ヘタレとか草食系とか以前に不能の烙印を押されるだろうよ。
と言うか、レイなんか酒に媚薬まで入れていたらしいし、一線を越えないなんてはじめから不可能なように仕組まれていたみたい。
まあそれも、ユリィたちとなんか正式に婚約までしているのに、一向にそういう関係になろうとしなかった俺が全面的に悪いのも判っているけどね・・・・・・。
言い訳をさせてもらえば、正直、そうなった後に歯止めが効く自信がなかったんだよ。
実際問題、もうこれからは抑えがきくとは思えない。
いったん踏み越えてしまったら、もう踏みとどまることはできないと確信している。
事実、昨日と同じように、遺跡の調査が終わった後に温泉に来た俺たちは、今日もまたそういう事になったし、間違いなく、明日以降も同じことを続けると思う。
「それにしても、どうしてエイルとウラヌスまで一緒に?」
「この二人には必要だと思ったからね」
必要か、いったい何が必要だと思ったのか謎なんだけども、不思議なことに2人とも素直に受け入れたんだよね。
と言うか、きのせいじゃなければ何処となく積極的だった気がする。
「あの、アベルさんは大丈夫なのですか?」
「どう見ても問題ないと思うけど。昨日今日と、1人で20人以上を相手にしているのに、まだまだ全然元気なんだから」
その言い方はどうかと思うんだけどねキリア・・・・・・。
まあ否定はできないけどね、しかも、1人当たり3回戦までしているからね。彼女たちからしてもどれだけなんだと思うのも当然だよね。1人じゃあとてもじゃないけど受けとも切れないって、戦々恐々としている可能性もあるし。
「確かにまだまだ元気だから、キリアが受け止めてくれるかい?」
「いやムリ。ぼくはもう限界だから」
まあ、連日3回戦までを初めてで経験しているんだから、これ以上ムリはさせられないよね。
「これは、早急に転生者の中の、アベルが気になっている子たちも巻き込まないと、私たちの体がもたないね」
「確かにそうですね」
ミランダにアレッサ、キミたちはいったい何を言っているのかな?
ここで突っ込みを入れると逆効果な気がするのでスルー。とりあえず、2人にはもう少し付き合ってもらうことにする。
「どうやら、孫が生まれるのも時間の問題みたいですね」
「否定はしません・・・・・・」
避妊もしてないから、そう遠くなく子供ができるのは確定だと思う。
その前に、正式に結婚する事になるけどね。さすがに、子供ができた後で結婚て訳にもいかないから。
「それで、式はいつ頃になるのかしら?」
「とりあえず、すべての国を回った後になると思います」
まだすべての種族の国を回ってないからね。結婚式をやるならばまずはすべての国を回って、挨拶を終えてからにした方が良い。
「あまりシオンちゃんに無理はさせないでね」
「それは当然」
「本当かしら」
このやり取りに深い意味はない。ないったらない。ただ、シオンたちが気絶してしまったことが何度かあるだけだ。
後、途中でクレハが温泉に入りに来たことがあって、彼女が顔を真っ赤にして逃げていたことがある。
そのあとで顔を合わせるのが気まずいたらなかったよ・・・・・・。
それと、2日目の最後にノインがやって来て、ごく自然に加わった。本人曰く。
「除け者にしないで」
との事で、彼女の生い立ちからどうかと思ったんだけど、本人はもう自分の生まれの事も気にしていないそうだ。
「内の人は少し複雑みたいですけど、私はシオンちゃんがアベルさんと一緒に成って良かったと思うわ。だからこそ、2人とも無理はしない様にしてね」
「状況的に、ムリをするなと言うのも難しいですけどね」
成程。鬼王としては俺に一言いいたい事があるらしいけど、シオンのしごきを受けているのでそんな余裕すらないと。
ご愁傷さま、そう言えば、キリアのあの暑苦しい兄たちにもいずれ伝わるよな。そうするとアレは俺の者まで追いかけてくる気がするけど、その時はまあ、肉体的に話し合わせてもらおうかな。当人たちもそれを望むだろうし。
さて、それはともかく、今日は遺跡の調査はお休みだ。
では何をするかと言えば観光。それに、アシュラの名産品の購入に食べ歩きだ。
寿司の名店とか、天ぷらの老舗。何万年という歴史を誇る和菓子の銘菓。どれも楽しみだ。
「まずは土産を見て回ろうか」
「それなら良いお店があります。各国からの大使が、自国へのお土産にこの国の最高の品を用意できる様に、最高の品を取り揃えているんです」
要するに、アシュラの国営店らしい。
王族御用達の最高の品を取り揃えているので、この店に品物が置かれること自体、アシュラにおいてステータスになるそうだ。
そりゃあそうだよね。醤油にしろ味噌にしろ、その店に置いてあると言う事は、王族御用達のアシュラで最高品質のモノの証なんだから。
と言うか、そんな店があるのは非常に助かる。最高の醤油に味噌。ミリンなどの各種調味料をその店で全部そろえられるんだから。
米やお茶、それに酒もだよ。
この国の欲しいモノが全部そろっているとか夢のようだよ。
「ああ、だけどシラヌイとかはないよ」
「そうなんですか?」
「元々、シラヌイは私が個人的に造らせている酒だからね」
なんとシラヌイは、レイが個人的に造らせている酒だそうだ。しかも、専用の田んぼまでもっていて、その年に収穫された米の品質が納得できる水準でなければ、そもそも酒造りをしないと言う拘り用なのだと。
「米もシラヌイ用以外に、自分で食べる用のモノもつくらせているけど、それもこの店においておる物を上回る品質だと自負しているよ。実際、ケイトウナギを食べた時に、サクラが持ってきた米も、実はソレだしね」
なんと、あの時の米が実はレイが造らせているモノだったらしい。
「頼まれて王家にも多少卸しているんだよ。他にも色々ね。まあ、それらの品は、これから一緒なんだから、キミたちにも回すよ」
それは助かる。シラヌイやあの米だけでも、レイのオリジナルブランドの品質の高さは明らかだ。恐らく、間違いなくその全てが此処に置かれているモノと同等か、それ以上だろう。
「この饅頭は美味しいな。サクラさんのつくる物と変わらないぞ」
「実はその饅頭は、母上のお弟子さんがつくられているんです。和菓子作りの神髄を全て叩き込んだと豪語していました」
つまり、この国で最高の和菓子職人がサクラさんの弟子と?
いや、その弟子がサクラさんの教えを超えて、更なる高みに至れているのかどうか次第で、最高の職人はサクラさんと言う事になる。
どうなんだろうねソレ?
「それは面白いな。それじゃあ、次はその職人の所に行こう。その人の腕がサクラさんを超えているか確認してみたい」
「成程。それは面白い」
その職人としては最悪の展開だろうけど、こうして、アシュラ観光の次の行き先が決まった。




