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さて、皆とのデートも無事に終わり、それぞれに似合う服を選ぶと言う苦行も何とか乗り切った所で、早速、遺跡探索の開始である。
デートをしながらも、皆には内緒で遺跡の調査を済ませ、内部で必要になる物も調べているし、調査にみんなを連れて行っても問題ないのも確認済みである。
最終日の集団デートもどきの時に、一緒に遺跡探索に必要な物を揃えるのも済ましているので、後は実際に遺跡に向かうだけだ。
メリアたちは魔域に入るのは初めてなので少し緊張しているようだが、アレッサとユリィとケイは初の遺跡探索にワクワクしているようだ。
「未発見の遺跡なんて、そうそう見付かるハズがないからね。トレジャーハントなんて少なくても、ここ三千年は聞いた事ないよ」
「これから行く所は、魔域の中だから見付からなかったんだよね。そう考えると、未発見の遺跡なんてここと同じように、後は魔域の中くらいにしか残ってないだろうし、私たちの国の魔域にも残っていたら楽しそうなんだけど」
確かに、普通そうそう未発見の遺跡などあるハズがない。エルフやドワーフの国など、フューマンの国に比べ物にならない程歴史も古いのだし、かつて滅んだ文明の遺跡自体が少ないだろう。
ヒューマンの国は、数千年単位で興亡を繰り返す事が珍しくない、数万年続く国も多くあるが、今現在ある国の中で、最も歴史の古い国も建国から四万年程度に過ぎない。
それに比べて、エルフなどの他種族の国は、実は、ユリィたちに聞いて初めて知ったのだが十万年以上前から存在し続けている。
ようするに、今よりもはるかに魔物の侵攻が厳しかったカグヤが造られる前の記録も残っているし、超絶チート転生者達がいかにして戦い、カグヤを造り出して世界に平穏を齎したかも伝承されているのだ。
勿論、余りにも古すぎる記録なので失われている箇所もあるが、既に記録そのものがない、忘れ去られた過去になっているヒューマンの国々とは大違いである。
と話がそれたが、長い歴史を持つ国であるが故に、他種族の国には前文明の遺跡と言う物が少ない。
まあ、そうでなくても、トレジャーハントなど難しい事に変わりはない。
地球と違って、既に人が住んでいない廃墟となっている遺跡には、当然魔物が徘徊している可能性があるし、そもそも、魔物の侵攻に耐えられなくなって遺棄された可能性もあるので、そうすると、遺跡の多くは危険な魔物が闊歩する危険地帯に存在する事になる。調査には常に危険が付きまとい、調査の途中で魔物の大軍に襲われて撤退しなければいけない様な事だって珍しくはない。
場合によっては、調査隊が壊滅的な被害を受けて調査が中断する事すらある。危険度が地球の考古学の発掘などとはケタ違いなのだ。
まあ、ぶっちゃけ地球とは比べ物にならない程の歴史があるネーゼリアでは、過去に遺跡探査がやり尽されていて、未発見の遺跡自体がまずないのも前に言った通りだけれども、
「これによると、エルフやドワーフのの国にも週万年前に使われていて、カグヤが造られた後に破棄された遺跡はあるけれども、まだ未発見かまでは判らないよ」
流石に、ユリィもケイも、自国の遺跡の全てを把握している訳ではないので、この本に載っている遺跡が未発見が、既に探索済みなのかは判らないとの事。まあ、自国に連絡して調べればすぐに解るのだけれども、しばらくは国に戻るつもりも無いので後の楽しみで良いとの事だ。
「とりあえず、そろそろ行こうか。何やかんやで結構時間が過ぎてしまったし」
一週間ほどの準備で遺跡へ行く予定が、既にアスタートに入って十日が過ぎている。
デートでたっぷり時間を使ったのが理由だが、それに不満は全くないが、そろそろ本来の目的を済ませるべきだ。
・・・デート期間中、特にトラブルもなく快適に過ごせたので良かったが、
そんな幸運が何時までも続くとは思えないし、出来るなら厄介事が起きる前に遺跡の発掘を終わらせて次の国に行きたいので、さっさと行くとしよう。・・・当然、何事もなくこの国を出れるとは夢にも思っていないが・・・。
魔域内はネーゼリアでも最も危険に場所だが、誰も怖がっていないのは俺がいるからなのか、まあ、手に負えない魔物は俺が瞬殺するが、十分戦える魔物は彼女たちに任せる。
今回の一件で、メリアたちも自分たちが既にB-にランクアップしているのに気付くだろう。
実は、メリアたちは六人とも、マリージアを発つ時にはB-にランクアップしていたのだ。
だったら伝えておけよとか、どうして本人が気づかないんだとか、突っ込みが入りそうだが、キミたちももうB-になっているから、これからはパワードスーツなしでBランクの魔物と戦おうといきなり言っても、はいそうですかとはなかなかいかないし、感覚的に気付くのはなかなか難しいのだ。
本人たちも、自分の魔力と闘気の総量が飛躍的に伸びたのは気付いているが、B-になったのかは判らないだろう。
それに、彼女たちはパワードスーツを身に付けたり、俺のフル・エンチェントを受けた状況で既にBランクの魔物との戦いを繰り返している。結果、その恐ろしさを身に染みて理解しているのだ。
いくら俺が大丈夫だと言っても、じゃあやってみますといきなり生身で戦おうとは夢にも思わないだろう。
それじゃダメだろと突っ込まれそうだが、むしろそれで良い。戦う者に必要なのは、無謀な有機ではなくて、臆病な程の慎重さだ。慎重であればこそ、本当に必要な時には大胆に行動することも出来る。
宣言通りにリスリルの街を出て、飛空魔法で魔域に一直線に向かう。
この飛空魔法も、高位ランカーには必要不可欠な魔法で、B-以上でこの魔法が使えない者は一人もいない。命綱の様な魔法だ。 当然ユリィとケイも使えるし、メリアたちのアスタートに来てからようやく全員使えるようになった。
メリアたちがB-にランクアップしたことを伝えなかった理由の一つが、この魔法をまだ覚えきれていなかったからと言うのもある。
それ程に重要な魔法なのだ。
ついでに、ならばさっさと教えておけよと言う突っ込みに対しては、完全にマスターして使いこなせるようになるのにかなりの時間がかかる魔法で、習得に時間がかかっただけで、当然、弟子にした時から教えていたのを伝えておこう。
飛行魔法を使い自在に空を駆けながら、同時に防御障壁を常に展開し続ける。
複数の魔法を同時に使うのではなく、完全に使いこなす。B-ランク以上に絶対に必要不可欠な技能。
ユリィとケイは当然として、メリアたちも習得出来るに至ったのは感慨深い。弟子の成長がハッキリと確認できるのは、師として何とも言えず嬉しいモノだと実感した。
弟子を育てる喜びを知る事になったのだけど、今からそんなものを知ってしまってどうするのだろうとも思う。まあ、これから先の人生で育てていく事になるだろう弟子の数を思えば、早い内に育成の楽しみと喜びを知れた方が良いのも確かだろうけれども、
俺の飛行魔法は、最大で音速の百倍近い速度を出す事が出来るが、メリアたちはまだ時速二百キロ程度が精一杯だ。それでも魔域のすぐ傍まで数時間もすればつく事が出来る。
俺が飛空魔法をかけて運んでもいいのだけれども、これも一つの訓練だ。
途中、一回だけ休憩を挟んで、昼前には魔域との境界に着いたので、入る前にまずは昼ご飯にする。
ここまで自分の魔法で飛んできて、メリアたちの魔力も多少は消耗しているし、魔域に入れば後は緊張の連続だ。今の内にシッカリとエネルギー補給をしておいた方が良い。
ランチはホテルに用意してもらったサンドイッチやホットドッグなど、お国柄か、サンドイッチの具は薄切りのハムを何枚も挟んだものや、カツサンドのようなもの、ローストした様々な肉を挟んだものと肉がメインだ。思いっきりガッツリ系のラインナップだが、冒険者にはちょうどいい。
広範囲の結界を張り、魔物の侵入や攻撃を完全に遮断して、まずはアイテム・ボックスからテーブルと椅子を出して並べ、ランチ用のサンドイッチやホットドッグ、サラダやスープ、飲み物などを並べていく。
シッカリとカロリーを取っておかないといけないが、勿論栄養バランスも大切だ。ちゃんと野菜もシッカリと食べないといけない。その辺りは手を抜くつもりは無い。
「キミと一緒に過ごすようになって、この光景にも慣れたけど、本当にキミは食べる事に手を抜かないよね。魔域の手前でこんなシッカリとした食卓を用意するんだから」
実感呆れたように言いながらユリィは席に着く。呆れたように言いながらも、それがポーズなのは見え見えだ。本人も隠すつもりも無いらしい。
メリアたちや、アレッサは今ではすっかり慣れているが、最初は唖然としていた。
朝夕の食事はともかく、外で魔物の討伐の間に取る昼食や間食などは手早く、簡単に済ませていたのだ。俺の弟子になってからはガッツリ、シッカリと食べているが、最初は面白いほど戸惑っていた。
「私たちも食事には拘る方だけど、キミほどじゃないからね。まあ、ランクの差的なものがあるから、私たちもSクラスに成ったら同じ事をしてる可能性も高いけど」
ケイにしてみれば、Sクラスの冒険者が食事に拘るのは当然で、特に驚くほどの事でもないのだろう。
知り合いに何時でも何処でも食事に拘る誰かがいるのかも知れない。
高位ランク、それもSクラスとなれば食への拘りが強いのが多いとの事なので、別に俺が珍しい訳ではないし、ユリィとケイの場合、Sクラスどころか、レジェンドクラスと知り合いでもおかしくはないので、そちらと比較して、特におかしくないと思っているのかも知れない。
ついでに、自分たちも実力的に可能になったならば、間違いなく同じ事をすると確信しているとだろう。
食の楽しみを自ら放棄するほど愚かなことはないので、是非とも頑張って欲しいモノだ。
まあ、彼女たちがSクラスになる時も、その後しばらくも間違いなく俺と一緒に居るので、彼女たちが自分で食に拘るのは俺と別れて、別々に旅をするようになってからだが、果たして何時の事やら、少なくても数十年は一緒に居ると思うし、百年近く後の事だろうか?
「食への拘りは人生を豊かにするからね。これは譲れないよ。さて、それじゃあさっさく食べようか」
揃っていただきますを言って食べ始める。
結界の外に魔物が集まって攻撃してきているが気にしない。A・Bランク程度の魔物の攻撃など、いくら集まってどれだけ続いてもピクリともしない。ES+の魔物の攻撃すら耐えられる強度の結界だ。
勿論、そんなのが出て来たなら攻撃される前に瞬殺するが、魔域内部ならともかく、外にまで出て来る事なんてそうそうない。
騒音もきっちり遮断してあるので、うるさくもなく快適に食事が楽しめる。
うん。美味い。挟まれてハムも絶品だが、ハムの旨みに負けないシッカリとした味わいのパンがまた見事だ。肉の旨みをしっかりと受け止めて、最大限引き出している。こうして本物を食べると、サンドイッチもただ適当は藩に具材を挟めばいいだけのお手軽料理じゃない事が良く判る。
挟む具材とパンの相性。パンや具材の厚さ、味付けにまで細心の注意がされている。ただ作るだけならば簡単だけど、同時に細心の手間暇と最高の食材を持って作り上げれば、至上の美味になる。実に興味深い、奥深い料理だ。
地球ではトランプをしながら片手間に食べれるようにと考案されたモノだったハズだけど・・・。
こちらではどんな経緯で考案されたのか、そう言えば知らないし、どうして地球と同じサンドイッチと呼ばれているのかも謎だ。考案者の名前のハズなのだから、同じ名前の人が作ったと?
いや、普通に転生してきた誰かが広めたと考える方が妥当だろうか?
「美味しいです。やっぱりピクニックは良いですね」
「いや、ピクニックじゃないでしょ。似たようなものになってる気もするけど・・・」
「すっかり慣れてしまったけれども、私たち、この状況に慣れてしまって良いのかしらと疑問に思うわ」
完全に食事を楽しんでいるシャリアに、メリアとリリアは苦笑しているが、彼女たちだった十分に楽しんではいる。
まあ、自分たちがどこまで強くなれるかも判らないし、俺のやり方に慣れてしまうのも不安なのかも知れない。
俺からすれば、そんな不安は意味がないのだけれども、彼女たちにはまだ判らないだろう。
「気にしても無駄ですよ。アベルさんがこうして私たちを同じ食卓に着かせているんです。きっと、いずれ私たちも同じようにするだけのレベルにまで吐き上げるのが確定なんでしょう」
アレッサが俺を見ながら諦めたように言うが、まったくもってその通り。このくらいは普通に出来るようになるのは確定事項だ。
なので、スパイシーなチリ・ドッグを頬張りながら頷き返しておく。
それにしても、いい具合にちょうどいい程度の魔物が集まってくれたものだ。
結界の外をチラッと見てそう思う。これなら、メリアたちへの試験にもちょうどいい。
ランチが終わった後のハードコースを知ったらどんな反応をするかな。
是非とも頑張って欲しいモノだ。
試験とは、勿論、遺跡の調査に連れて行けるかの最終試験だ。
事前に調べたところでは、今のメリアたちの実力なら問題なく遺跡の調査が出来る。だけど、実際の所、実力があってもそれを実際に発揮できなくては意味がない。
なので、シッカリと厳しくいかせてもらう。
「ご馳走様でした。それじゃあ行こうか」
百人前はあったのをキレイに間食して、アイテム・ボックスに片付けていく。使った食器は水魔法で洗ってから風魔法で水滴を飛ばせばオッケー。一瞬で綺麗になる。
家事に追われる主婦の方には悪いが、魔法の力は万能で絶大である。
「それじゃあ、早速遺跡に行こうか、みんな場所は覚えているね? 俺は先に行って待っているから、みんなも頑張ってきてくれ」
「はい?」
満面の笑顔の俺に、八人全員の疑問の声が重なった。
うん。まあ、当然だろう。




